ファーストコミュ:アチャ・東郷

西暦2059年4月15日(火) 12:19

「呼んだのは僕らですよ!」


「お客様に指導しにきてもらって、そのお客様の知名度が思ったより高いことに驚いて、それで勝手に荒らしに負けて、お客様の前で不幸になる女の子とかの姿を見せて、お客様を嫌な気分にさせて、荒らしの害をお客様にまで及ばせて、それで平気な人間は此処に居るんですか? 居ないでしょう!」


「一緒に仕事ができて良かったって、一緒に仕事をしていて楽しかったって、関わった全員が最後に言える関わり合いでありたい!」


「本気でやりましょうよ!」










 アチャ・東郷の想定外は3つあった。

 1つ目は、前日の紅白戦が夜明け前まで長引いたこと。

 2つ目は、YOSHIのため、チームのため、ファンのため、"ムーブメントの心臓"にあたるアカウントを急いで作らないといけないと思ってしまったこと。

 3つ目は、そうしてアカウントを作成した結果、とんだ大騒ぎになってしまい、ずっと色んな人とミーティングをすることになってしまったことだ。


 東郷は昼から善幸にポシビリティ・デュエルを習い、そのまま夜にポシビリティ・デュエルのイベントに出て、ここで一気にレベルを上げる予定だった。


 なので午前中の仕事を手早く片付け、1時間か2時間は寝ておこうとした……のだが、チームメンバーが突然100万、1000万、1億とフォロワーを獲得していく大事件が起きてしまえば、のんびり寝ていられる暇もない。

 ミーティングのお時間というわけだ。


 1億。

 1億である。

 しかも、稼働中のアクティブユーザーアカウントの1億である。

 「昔フォローしてくれてたけど今は動いてないアカウントが数千万あるんだよね」とかの1億とは違う、1億の中でも特にヤバい方の1億だ。


 急激な注目度の上昇は、配信者Vliverにとって最大のチャンスであり最大の危機であると言われる。


 『登録者数100万人到達最速』だとか、『初動注目度歴代トップクラス』だとか、『埋もれていた転載が歴史的なバズりを』だとか、そういう風に急に人気が伸びたことを報じられた者達は、例外なくその熱量に人生を振り回されてきたという。


 ある者は乗りこなし。

 ある者は活かしきり。

 ある者はチャンスを活かせず。

 ある者は上がった注目度ゆえ荒らしに群がられ。

 ある者は注目されている内に毎日配信しようとして喉を壊し。

 ある者は承認欲求の基準が狂い、自滅し、そのまま界隈から消えていった。


 アチャ・東郷は、この"大きな流れ"をチームの内側から理性的に制御できる人材として、エヴリィカ上層部から期待と嘆願の言葉をかけられる存在であった。


 上層部からの最優先命令は1つ。

 『誰かが気に病んで辞めてしまわないように、メンバーが仲間にしか見せない顔を注意深く見守っておいてやってくれ』。

 エヴリィカ上層部は、この事態の良し悪し両面を見ているようだが、特にリスクを重く見ているようであった。


 それは推測としては、妥当な不安だろう。

 古今東西、急に注目されて承認欲求をこじらせて身を持ち崩したプロゲーマーなど珍しくもない。


「……ふぅ」


 ミーティングをあらかた終えた東郷は、疲れ切った体に鞭打ち、風成善幸の部屋へと向かっていた。

 この時代の配信は、小さなデバイス1つあればいい。

 男同士の配信をやる日には、友達の男の部屋に遊びに行くノリで相手の部屋を訪問して、そのままコラボ相手の部屋で配信をしてしまうのが、いつもの東郷のコラボ・スタイルだった。


 そして、配信終わりに体力が残っていれば、コラボ相手と美味い飯を食いに行く。

 それが東郷のコラボ・スタイルである。


「限界越えそうになったらカフェイン大量にキメるか……」


 東郷の眠気は相当なものになっていた。

 瞼は鉄のように重い。

 体には気怠さが満ちる。

 階段を見ると死にたい気持ちが湧いて来る。

 フルダイブ式ゲームにログインすれば多少はマシに動くだろうが、それでもプレイ中に寝落ちしてしまう可能性は無くもないだろう。


 だが、それでも、東郷は「ミーティングなんてしないで寝てしまおう」だなんてことは思わなかった。


 東郷は2つのことを考えている。

 メリットと、リスクだ。


 まずはメリット。

 当然ながら、炎上でもなんでもない事案で注目度が高まることは、ありとあらゆるVliver事務所にとって福音である。


 アカウントをフォローした人間全員がマイティ・フォースの配信を見るわけがないだろうし、そもそも普段から配信を見る習慣を付けていない人間は、1回2回配信を見たところで配信に定着しない。

 人間の生き方は、習慣ベースだ。

 "めちゃくちゃ面白くてニュースにも取り上げられたVliver"が流行って、流行っていた時期と変わらない面白さをずっと継続して提供していても、数カ月後には同時接続者数が1/10になっていることなどザラである。

 配信が習慣になっていない人間のアカウントフォローは、実際のところ配信への直接的影響力はファンと比べればかなりプラスが少ないものなのだ。


 だが、それでも、情報拡散力の面で見れば効果は絶大だ。


 1億フォロワーは大きい。

 仮に全体の1%が配信を見に来るだけでも100万人。

 0.1%でも10万人。

 0.01%でも1万人。

 甲子園球場や東京ドームでも5万人を収容できないことを考えれば、このアカウントが持つ潜在的動員能力の凄まじさ、それが突如界隈に登場した衝撃は、黒船来航にたとえられて然るべきである。


 これは、現在のVliver戦国時代を動かしかねない、巨人の規格であると言える。

 YOSHIは一瞬にして、今後数年のVliver界隈の中心になっていく可能性が高い存在に見られるようになった、というわけである。


 今後、このアカウントで動画配信を告知するだけで、それは一億人のリアルタイムラインに流れることが確定している。

 それはおそらく、数百万円の宣伝広告よりも効果が高いものになるはずだ。

 マイティ・フォースとコラボしたいVliverや、マイティ・フォースに宣伝の仕事を任せたい企業は、今や星の数ほど居ることだろう。




 そして、リスク。

 これは東郷がミーティングでOh社長に直談判し、手が空いているエヴリィカの事務員とモデレーターを総動員して対処することを確約してもらっていた。。

 今日休むはずだったエヴリィカモデレーター10人も緊急出勤を了承してくれたため、それも動員する予定である。


 YOSHIのアカウントをフォローしたのは1億。

 この中で、『YOSHIは好きだがVliverは嫌いな者』、『Vliverが注目を浴びることが気に食わない者』、『話題になったものを荒らして注目を浴びたい者』、『自分の人生が不幸だから他人が楽しそうにしているのが気に食わない者』、その他諸々の人間が、一斉に動画に殺到したらどうなるだろうか。


 1億人の0.01%で十分だ。

 1万人の荒らしでも多すぎる。

 事実、配信荒らし対策用のSNS特定ワード検知APIシステムは、既にマイティ・フォースの配信を荒らすことを仲間内で宣言している人間の存在を検知していた。


 元より、2020年代に配信荒らしが用いてYouTube運営や各事務所を苛立たせた、各サーバー経由の荒らしの自作Python田代砲などは、理論的には秒間1000アクセスを可能とする。

 1000万再生が選ばれし者の偉業だった時代に、仮に荒らしが1万人居れば、上限で秒間1000万のアクションが行われてしまう可能性があった計算である。


 とはいえ、2020年代でも、2059年でも、1万人の荒らしなど必要ない。

 個人勢なら1人で潰せる。

 企業勢でも配信1回までなら数人で潰せる。

 連携した荒らしが100人居れば、大手以外の企業なら音を上げるところは出て来るだろう。


 その果てに法的に対処される可能性を飲み込んだ上で、彼らは実行している。

 自分の人生よりも、自分が気に入らないものに嫌がらせをする方が大事だからだ。


 原作者・炎鏡は、そういった人間の醜悪を憎み、それが無くならない世界を憎み、されどそれが世界の当たり前であるという自身の認知から逃げられなかった。

 すなわち、これこそが"そう"だ。

 原作者の『世界斯く在るべし』という心が世界に残した、原作者にも忌み嫌われる世界の醜悪。誰かの『好き』の敵となるもの。

 風がぶつかる、黒き壁だ。


 当然ながら、エヴリィカの動きは早かった。

 YOSHIのフォロワー1億人の悪い影響が出る前に、荒らしが動き出す前に、既に東郷の訴えを聞き対策を完了させている。


 勝負は、最初だ。

 "最初のマイティ・フォース配信"がSNSアカウントにおける最初の告知となり、フォローをした人達はその配信に一気に殺到するだろう。

 当然、荒らしも。


 そこで、殺す。


 エヴリィカスタッフの全員がそう考えていた。


 エヴリィカの今費やせる総力をもってして、荒らしコメントの削除や有害アカウントのキックを行い、かつその過程で入力したもの・入力失敗したもののログを保存。

 Vliver事務所の連名と動画サイトの被害報告を添えて、荒らし全員に対して法的対処を実行。したことの責任を取らせる、という姿勢である。


 こうして初手でを誘き寄せて一網打尽にし、最も騒ぎになりやすい初動を乗り切る。

 どうせまた新しい荒らしは来るが、そちらは来る度に殺せばいい。

 悪意ある人間に対する殺意に満ちた防御姿勢だ。


 荒らしのリストはエヴリィカVliver全体で共有、コメント禁止や閲覧禁止を設定。法的対処が完遂するまで他の配信も守る。

 求められれば他Vliver事務所にもリストを提供し、他事務所が荒らされる前にも事前に対応、過去にリストの人物が他事務所も荒らしていた場合、法的対処の罪が重くなる、という追撃も撃つ。

 証拠不十分であれば、状況を見て秘密裏に社長が動き、容疑ある者の内心を探って致命的な隠し事を暴きに行くことさえあるという。


 この容赦の無さと、緻密な人生の詰ませ方と、一度でもアウトなことをやったことがある人間に対する絶殺の姿勢ゆえに、エヴリィカ社長・大奥は部下からも「あの人より性格が悪い人間は居ない」と恐れられているのである。


 この時代のVliver事務所は、複数事務所の連名でネット犯罪に対応が可能な体制が出来ていて、荒らしで構成された反社会的組織には屈することはなく、中継サーバーを噛ませてアクセスIPを偽装した荒らしだろうと容赦なく人生を終わらせ、海の向こうから来ている荒らしだろうと容赦なく裁く。


 原作者の推しが、過去に海の向こうからの荒らしによって潰され、そのまま引退したことがあるからだ。


 「カスはどんな時代でも居て、カスは他人が好きなものを損なわせるためなら人生を懸ける」と思っているのも原作者で、「だけど近未来ならそういうカスをちゃんと裁ける仕組みもあるはずだ」と信じたかったのもまた、原作者である。

 その祈りは、何かきっかけがあれば噴出する。

 噴出して、『好き』を守る何かになる。

 何かきっかけがあれば、それでいい。


 1時間ほど前、ミーティング中、東郷は声を張り上げた。

 張り上げるつもりはなかった。

 自然と、声を張り上げてしまった。

 胸の奥からこみ上げるような感情が、東郷の声に熱を宿らせていた。

 それは、善幸との関わりが産んだ想いの噴出だった。



『これじゃ対応として全然足りてない!』


『そりゃ大抵の事務所よりは対応人数多いですよ! 見れば分かります! でも、今回の事態に対応するには全然足りてない! これでも七割無難に終わらせられますが、三割最悪の事態になります!』


『呼んだのは僕らですよ!』


『彼は、呼ばれて教えに来てくれただけです!』


『らしくないことをして、慣れないことをして、やったことないことに挑戦して、全部僕らのためです! アカウント作ったのだってそうだ!』


『まだ燃えてないし、これからも燃やしちゃいけない。荒らされる予防のために何かしなくちゃいけない。そしてそれは1人がどうこうしたってどうにかなるもんじゃない、組織一丸で戦わないといけないんですよ!』


『お客様に指導しにきてもらって、そのお客様の知名度が思ったより高いことに驚いて、それで勝手に荒らしに負けて、お客様の前で不幸になる女の子とかの姿を見せて、お客様を嫌な気分にさせて、荒らしの害をお客様にまで及ばせて、それで平気な人間は此処に居るんですか? 居ないでしょう!』


『僕は、"エヴリィカはYOSHIを呼んだりしなければよかったのにねぇ"とか荒らしが得意げに語ったりする未来は絶対に嫌なんですよ! YOSHIを呼んだことを後悔するなんて嫌だ! YOSHIが呼ばれたことを後悔するようになるのも嫌だ!』


『一緒に仕事ができて良かったって、一緒に仕事をしていて楽しかったって、関わった全員が最後に言える関わり合いでありたい!』


『本気でやりましょうよ!』


『配信も荒らしの対処も僕らの本業でしょうが! YOSHIはこの分野のことは何も知らない! 彼はなんでもかんでも解決してくれそうな顔をしてますけど、できないことはできないんです!』


『炎上からも延焼からも、彼を守らないといけないのは僕達なんですよ!』


『スタジオの壁の伝統、憶えてるでしょう。スタジオが出来たら、皆で壁にサインやイラストを落書きしていく伝統。あいつももうあそこに名前を書いてるんです。もうとっくに仲間なんですよ。もしも"ちょっとだけ手を抜いた"せいで、まかり間違って、この事案の対処をミスって、YOSHIにクソデカい迷惑がかかったりしたら……』


『……彼を悪意から守ってやらなかった僕らは、これから一体どんな顔であそこに刻まれたYOSHIの名前を見れば良いんですか!?』



 本気の言葉は人を動かす。

 東郷が熱の入った言葉を述べなくとも、この事務所は常日頃から様々な問題に真摯な対応を繰り返してきた事務所であるため、何の問題もなく荒らしの類を処理していたかもしれない。

 けれども、東郷が訴えかけたことで、この案件に関わる人間が全員本気でことにあたったため、荒らしが目的を達成できる可能性が限りなく0に近付いたことは、確かなことであった。


 なればこそ。

 アチャ・東郷も、本気の言葉を述べた責任を背負っていかなければならない。


「……んー」


 マイティ・フォースのアカウントで最初に配信告知されるのは、であることが決まった。

 その後に、昨日撮影されたYOSHIといのりの練習風景を編集したものの公開が告知される。

 その後に、明日の朝のまうの配信が告知される、そういう予定になった。


 元々、東郷は今日の夜に配信する予定だったのだ。

 結果としてそれが、タイミング的にチームアカウントで最初に告知される配信になっただけ。

 しかもそれが、1億のフォロワー達がピンポイントで見たいポシビリティ・デュエルのイベント参加配信なのである。

 運が良いのか、悪いのか。アチャ・東郷の次の配信は間違いなく、彼の人生で最も注目される日になるはずだ。


 最大で1億人、最小でも数万人、配信を見に来る人が増えるのであれば。という、Vliverにとって最大最高の心理的アドバンテージも消え失せるだろう。


 自然な応援のコメントが残るか分からない。

 荒らしとは異なる、配信者にとって見たくない類の反応が満ちる可能性もある。

 『いつも皆が笑ってくれていた定番のギャグ』を何気なく東郷が披露して、コメント欄が一斉に「今の何が面白いの?」と反応する可能性さえもある。


 そして、それだけではなく。

 "最初に告知された配信を試しに見てみようか"という気持ちで集まった人間が、東郷の配信を見て『へぇー面白いな配信!』とくれさえすれば、それが仲間の助けになるはずだ。

 いのりやまうに今後どのくらいのブーストがかかるかは、トップバッターの東郷にかかっていると言っていい。

 その後の同事務所のVliver達にどのくらいのブーストがかかるかも、東郷にかかっている。

 逆に、東郷がつまらない配信者だと思われてしまえば、この千載一遇のチャンスは手指の合間をすり抜けて行くということだ。


 それは、途方もなく重い重責だった。


 原作者の認知が源流に在る、この世界に生きる配信者である限り、注目された者は誰もが懸命に戦わねばならない。


 期待と、悪意と。


 先のミーティングにて「無理はしなくていい。体調不良と嘘をついて配信を中止にしてもいいんだ」と言ってきた、事務所の上層部に。


『やれます』


 アチャ・東郷はそう言い切った。


 東郷の責任は重大だった。

 他人が課した責任ではない。

 東郷が自分で自分に課した責任が重大だった。


 東郷の内に、不安で床が抜けてしまったかのような感覚が芽生える。

 自分がどこを歩いているかも定かではない。

 寝不足ゆえの精神的な不安定さも拍車をかける。

 やれるのか。

 やれないのか。

 自分自身に問いかけても、『やるしかないだろ』と責任感が己自身を叱咤する。


「……それでも」


 トップバッターの重責、失敗した時の責任を、まうやいのりに丸投げするなど……と、東郷は強く、強く、思っている。


 アチャ・東郷の根幹にあるものは、『女性というものに対する複雑な感情』と、そして───自分が何もしないままという、不信の気質であった。






 アチャ・東郷は、信じない男だった。

 正確に言えば、信じられない男だった。


 他人の言葉を信じられないわけではない。

 他人の気持ちを信じられないわけでもない。

 他人の善性や友情だって信じられる。

 決して、人間不信というわけではない。


 けれど、「絶対に成功させてくるよ!」と言っている仲間の人格を信じながらも、成功を信じず、失敗した時のことを考えている男だった。


 友達が「絶対返すからその漫画貸して」と言ってきた時、中々返して来なくても、後になって"パクるつもりだった"友達にやんわりとそのことを指摘し、「ごめん忘れてたわ」という言葉に「いいよいいよ」と返し、元から信じていなかったから嫌いにもならないという人間だった。


 FPSのゲームをやっている時、全員がソロの対戦だと平気なのに、誰かとチームを組んで戦うことになった途端、「あいつら上手くやれるのか?」と思って失敗する前提で立ち回り、チャットで仲間が失敗したことを謝ってきたら「ほらやっぱりな」と思ってしまうゲーマーだった。


 リスナーや民衆が基本的に悪い人ではないと思いつつも、心のどこかでリスナーや民衆に対して"隙を見せればすぐ燃やしてくる獣"だと思っていて、だからリスナーに対して弱みを見せて愚痴るということもまずすることはなく、ふざけた道化を演じていつも接している。


 何もせず良い未来が来ると信じられなかった。

 だから、最悪の予想をして常に備えている。


 他人に期待していない。

 だから、他人が失敗しても許せる。


 自分に優れた可能性があると思っていない。

 なので、思い上がらず冷静に戦うことができる。


 そして。

 それを育んだものは間違いなく、、この世界の在り方にあった。

 ここは楽園ではない。

 理想郷ではない。

 当たり前に悪がある、当たり前の地球。

 なればこそ、基本的に色んなことを信じない性格である方が、色んな物事を小器用にクレバーに乗り越えていけるのだろう。


 アチャ・東郷は、ハリウッド映画の登場人物が「この世界を創った神とやらはクソ野郎さ」と言うようなノリで、「この世界を創った奴は悪い奴じゃないんだろうけど面倒臭い奴なんだろうなあ」と、子供の頃からぼんやり思っていた。

 子供の頃からずっと、彼は"察する力"だけは強かったから。


 東郷は、自分を、他人を、そして『可能性』を、信じられない男だった。


 風成善幸とは、正反対に。


 彼が他人の可能性を信じ期待する言葉を口にする度に、その隣に立つ東郷は、太陽の光に焼かれる蝋翼の男の気持ちを味わっていた。


「到着到着」


 そうして、東郷は善幸の部屋前に到着した。


 『アルタミラの洞穴』はエヴリィカのVliverの多くが住んでいるが、男性と女性で区画が分けられており、男性の部屋同士はかなり気軽に移動できる距離にある。

 とは、いえ。

 "東郷が来るなら、部屋の位置がひと目で分かるように、それまで部屋のドア開けとくか"という思考で部屋のドアを開けておく男を、東郷は生まれて初めて見た。

 開きっぱなしのドアがキイキイ泣いている。


 昭和の団地住まいの小学生が友達を待っている時のようなオープン・スタイル。防犯意識というものがまるでない。善幸のズレっぷりがなんだかおかしくて、東郷は思わず笑みをこぼしてしまった。


「おっじゃマジックのおじゃまします~」


「ふぉぅぐふぉぅふぁ」


「なんて?」


 そして、ドアを閉めて部屋の中に入った瞬間、メロンパンの山の前で右手にメロンパン、左手にメロンパン、口にメロンパンという状態の善幸を見て、とうとう耐えきれず、東郷は吹き出してしまった。


 不思議と、先程まで感じていた疲労が、いくらか吹っ飛ぶような心地があった。


「おっまえっ……本当に食事にこだわりねーやつだな! 他のパンも買えよ!」


「ごくん」


 じっ、と善幸の目が東郷を見つめる。


 どこまでも見透かすような目だ。


 背筋をタコの足先がなぞるような感覚が、東郷にぞわりとした悪寒を与える。


「東郷、お前大丈夫か?」


「……まーなんとか?」


 東郷は、ニッと笑って誤魔化した。

 だが、誤魔化せない。

 善幸は東郷を見つめ、何かを考えている。

 この男の前で、疲労を隠し切ることは難しい。


「待て。今予定を組み替えてる」


「おう、悪いな。僕の都合で……」


「個人の都合に合わせられないチームなんざどの道破綻する。気にするな。それより……」


 善幸がメロンパンを手渡す。

 "まず栄養を取れ"という意図があるらしい。

 東郷は苦笑して、受け取ったメロンパンを齧った。


「東郷。懸念があるなら早めに言え」


 そして、齧る動きが止まる。


「懸念、な」


「今日のお前は珍しいな。よく顔に出てる」


「寝不足なもんでね」


「今のお前の会話を見て違和感を持たないリスナーは居ないだろうな。キレが無さすぎる。お前を見守ってきたファンほど心配になる元気の無さだ」


「そうか? そうかもなぁ」


「仕事か。お前もよく頑張っている。お前の仕事と努力に具体的な結果を伴わせるのが俺の仕事だ」


「……へへ、せんきゅ」


「俺は、配信の世界の者達が抱える懸念を知らない。俺にとっての未知にあたる、東郷達が普段戦っているものも知らない。だが、お前達がどれほどのエネルギーを費やして戦っているかは、見れば分かる。俺達は戦っている種目と戦場が違うだけなんだと、ゆっくりと分かってきた」


「相手の強さがオーラとして見えてるタイプの漫画キャラか何か?」


「そういうのじゃあないが……全力で生きているやつは、見れば分かるってだけの話だ。お前はよく頑張っている。俺が保証する」


 原作者の気質ゆえ世界に残った悪意があって。

 善幸を世界の悪意から守りたかったがために休めなかった東郷が居て。

 東郷が何をしていたかを教えてもらえないまま、東郷がどのくらい疲れているかを見抜いて、そこから東郷がどれだけ頑張っているかを見抜き、善幸は思ったことを言葉にする。


 善幸のそれが、嬉しかったからか。

 東郷は1人で抱え込むつもりだった懊悩の欠片を、少しだけ、言葉にして漏らしてしまった。


「懸念、っていうかまぁ……」


 漏らした言葉は多くない。

 1億事案直後の配信におけるちょっとした不安、苦悩、そしてここからどうするかという考えの開示を、分かりにくく語っただけだ。

 いくつかの言葉の後に、東郷は一言、そっとつぶやく。


「なんかほら、さ。久しぶりに僕も配信者としての最大の難関にぶち当たってるみたいな? 感じだ。に面白いと思ってもらえないなら、配信続ける資格がない……みたいな」


 それは1つの真理ではあったが。誰でも言えて、誰かが必ず言う真理であり、同時に、誰かが否定しなければならない真理であった。

 普段の東郷がぽろっとこぼすような言葉ではない。


 配信を面白くしようと思い詰めるあまり、配信は面白くなければならないという意図の言葉を配信で漏らした結果、面白くない配信のファンが過敏に反応して炎上しかける……なんて、素人でも想像しやすい炎上経緯の1つである。

 頭が良い人間ならば、気を付けて避ける炎上事案だろう。

 配信でなかったためセーフだが、実に東郷らしくない失言であった。


 寝不足の仲間が不安と共にこぼした言葉を受け、善幸は少し考えて、考えて、考えて、30分前に妹に言われた「兄さんは上手いこと言おうとか考えないで自然な方がいいよぅー」という言葉が脳裏に蘇る。

 妹の時間差ラジコン操作が、兄の思考をちょっといい方向に持っていった。


「東郷。参考にならないと思ったら聞き流せ」


「『聞き流せ』って最初に言ってから話し始めるやつは僕初めて見たぞ……へい、カモン」


「余計なことを考えて失敗するよりは、1つのことだけ考えて失敗する方がいい。前者は考えすぎての自滅が多いが、後者は挑戦した結果としての反省点を見つけられることも多いからだ」


「……む」


 善幸が何を言いたいのか、分からない東郷ではなかった。


「今夜のポシビリティ・デュエルのイベントに参加する件だが。考えることが多くなりすぎているなら、一度全てを投げ捨てて、勝つことだけを考えるのもいいんじゃないかと、俺は思う」


 それは配信者ではなく競技者の理屈であったが、今の東郷に誰かが提案すべき理屈でもあった。

 少なくとも、その視点は欠けていてはならない。


「勝つために1つのことに集中する純粋な思考を選ぶことも、時には大切だ」


「時にはとか言うけど、ヨッシーはいつもそうじゃねえか?」


「俺は……余計なことを考えていたり、余計なことを憶えていると、すぐに何もかも人並み以下になりそうな自分を知ってるだけだ。お前ほど色々考えて生きるってことができないだけなんだ」


 善幸のその言葉に、東郷は何故か、複雑に渦巻く感情のようなものを感じたような気がしたが、寝不足の頭はその情報を処理できず、会話の流れの中ですっぱりと忘却してしまった。


「現に、俺がお前の立場なら、俺はとっくに新規勢のことなんて考えるのを辞めてる。頭が良さそうな誰かにあれやこれやを全部任せて、俺は目の前の戦いにだけ集中してると思う」


「うわ……それっぽ……」


 "俺にリーダーは向いていない"とまうに任せた時の善幸のことを思い出し、東郷は少し愉快そうに笑った。


「つまりな東郷。俺はお前ほど1億人を重要だと思っていない。お前が特別面白い配信をする必要もないと思っている。1億人のフォロワーとかいうやつらは、ぶっちゃけどうでもいいと思っている」


「どうでもよくはないだろ!?」


 東郷は驚き、思わず上擦った大声を出してしまった。


「お前が普段通りの配信をして、お前の良さが分からんで離れていく1億人なんて奴らは、お前の仲間としては、どうでもいいと思っている」


「……なっ」


 次の驚きに、言葉が詰まった。


「勝手に来た奴らを自分の配信に引き留めるためにあれこれしないといけない、ってのが俺にはそもそもよく分からん。配信者はリスナーの数が命、ってのはまあ分かるんだが……東郷が普段以上の配信をして、引き留める価値ってのはどのくらいあるんだ? そいつは東郷のことが『好き』になって見続けてるのか?」


 Vliverの世界に踏み込んで数日の素人ながら、自分が見てきたものを取っ掛かりに、善幸は自分が思ったことを吐き出していく。


 それは、人気者になりたいVliverにとっては論外の理屈で、ずっとVliverを続けていきたい者にとっては正しく聞こえる理屈。そんな言葉だった。


「東郷。ありのままのお前を愛せない人間など、お前のリスナーには要らん。邪魔なだけだ。とっとと追い出せ」


「───」


 とんでもないことを言い出した善幸に、東郷はびっくりして目を丸くする。


 エヴリィカのVliverプロデュースを主業務にしているプランナーが聞けば、卒倒してしまいそうな意見であった。


「お前のリスナーは、お前のことが好きなやつだけでいい。お前の配信が肌に合わなかった人間も、別の所で本当に好きになれるVliverを探しに行く権利がある。人間が自分の器以上の大きさで愛されることなんてないんだ。自分の可能性を極めろ」


 善幸の意見は、エヴリィカに来る前の彼が到底言いそうにないもので、かつ、善幸のこれまでの在り方に沿ったものであった。


「ヨッシーお前……強火になってきたな……」


「なんだ? 強火? 料理が焦げるぞ」


「そっちじゃねえ。なんかこう……活動方針に迷ってるVliverにリスナーが強い言葉で勇気付けようとしてる時、今のお前みたいな口調になるんだ」


「……そうなのか?」


「ヨッシーらしい意見だな、とは思ったよ」


 感嘆と呆れの混じった溜め息が、東郷の口から吐き出された。


「でもなヨッシー。ここで、僕が上手くやれば、後に配信する伊井野ちゃんや不寝屋ちゃんの方にも興味を持ってくれる人が増えるはずだ。事務所全体にもいい影響が出る。事務所や仲間の今後を僕が背負ってるんだ、だから……」


「お前が何故そこまで背負っている? 事務所の影響だの、仲間に流れる新規視聴者だの、そんなものを背負う必要はない」


「必要無いって、お前……」


「無い。必要無い。そういうものを背負う必要があるとすれば指導者である俺だけだ。そんなものでお前の思考の純度が下がるなら、考えない方がいいとさえ思う」


 迷いなく言い切る善幸に、東郷の中にあった迷いが揺らがされ、徐々に形を失っていく。


 どの考え方、どの意見が正しいか、それは人によって判断が変わっていくものだ。

 今ここにある善幸と東郷の意見の相違さえ、勝てば良い競技者と、人気を取れればいい配信者で、重んじているものが違うだけ。

 東郷が間違っていて、善幸がそれを正している、などという単純な話で片付けられるものではない。


 ただ、背負うものが増えていき、次の配信をどう面白くすればいいのか思い悩んでいた東郷にとって、善幸のこの言葉がよく響いたことは、純然たる事実であった。


「お前の……YOSHIのこれまでが結実したみたいな、でっかい数字なんだぞ。このチャンスは、ヨッシーからの借り物なんだ。それがブーストかけてくれてるんだ、僕が台無しにするわけには……よく考えてやんねえと……」


「降って湧いた泡銭あぶくぜにに踊らされるな。それは他人が流行りに乗って向けてきた期待であって、お前自身の可能性とは全く関係がない。他人が期待してようが、期待してなかろうが、お前自身は変わらない」


「あ……泡銭……!?」


 東郷は驚きつつも、納得していた。


 こいつはこういうやつだ、という納得があった。


「もし、後から来た1億人がお前を否定して。元から居たお前のリスナーが皆、お前を肯定したならば。お前は胸を張って新参の1億人を否定しろ。戦え。後から来た奴に媚びて今のお前が失われるくらいなら、戦ってしまった方がいい」


「───っ」


 アチャ・東郷は、信じない男だった。

 正確に言えば、信じられない男だった。

 だから、自分を信じ、東郷の可能性を信じ、揺るぎない心で言葉を発する善幸がいつも眩しく見えている。

 善幸は東郷の可能性を感じ、それを信じているからこそ、こんなにもありのままのアチャ・東郷を肯定していられるのだ。


「そのくらいの向き合い方でいいと、俺は思う。……お前は配信者だから、お前にはお前の考えがあるだろうとも思ってるけどな」


 それは、1億人を集めた当人である善幸だけが言える、他の誰が言っても受け入れられない、東郷の気持ちを楽にしてくれる言葉だった。

 気にするなと。

 無駄にしていいと。

 1億人はどうでもいい扱いでいいんだと。

 そして。


「第一、そもそもそんな人生に一回こっきりの一大事みたいな扱いじゃなくてもいいんじゃないか。また別のことで新しいアカウント必要になった時、また1億人集めて、そこで東郷がまた配信のトップバッターをやればいい。仮に1回目で失敗しても、流石に2回目なら成功させられるだろう?」


「!?」


 "また集めりゃいいんじゃないか"、と。


 そういうことを、善幸は言った。


「できんのかよ、ヨッシー」


「99%できん。俺もこの流れが相当に運に恵まれたものだという自覚はある。他人の気まぐれに左右され、自力で再現できない事案であるなら、俺がどんなに努力したとしても再現は難しいだろう。だが、できるまでやり、叶うまで繰り返すさ」


 できる、できない、ではなく。

 "仲間のためにできるまでやろう"という挑戦の生き方が、仲間の心の救いになることもある。


 東郷は、『YOSHIならまた1億人集められるだろう』とは思わなかったが、『善幸は自分のために何度でも挑戦してくれるだろう』と思えたことで、少しだけ心の重荷が外れた。


 "これを荒らしに穢させたくなかったんだよ"と、東郷の頭のどこかが言っていた。


「お前がも失敗し、失敗を悔い、もう一度やり直さなければ納得できなくなったなら、俺はそのもう一度を用意する。仲間だからな」


「……バッカだな、お前。そりゃ、仲間思いキャラにしたってやりすぎだってーの」


「そういう理由を付けて自分がどこまでできるか試すのも悪くない。これも挑戦だ」


「ヨッシーらしい言い草だ、こやつめ」


 自然と、東郷は気楽に笑っていた。


 善幸は仏頂面でメロンパンを食べている。

 東郷も貰ったメロンパンを食べ出す。

 東郷が食べ終わると、善幸が無言で次のメロンパンを差し出し、東郷が苦笑して受け取った。


 ふと、まるで兄弟のようだなと、東郷は思った。

 距離感や空気感から、なんとなくにそう思った。

 どちらが兄でどちらが弟かは、あまり考えないようにして、不思議な距離感の友との時間を噛み締める。


「俺が思うに、仲間がしてくれて1番嬉しいことは『俺が準備してたからまだ後があるぞ』って言われることだからな。"もう1回"があるってのは心理的に本当に助かることだ。俺が仲間にしてもらって嬉しかったことは、俺も仲間にしてやりたい」


「そりゃ……確かにそうだ。うん」


 東郷は頷き、考える。

 彼には2つの選択肢があった。

 仲間のため、事務所のため、自分のため、今後のため、配信者として背伸びをした人気取りに専念する選択。

 そして、いつもの自分の配信スタイルを貫くことを意識し、普段通りの自分で全力を尽くし、ただただ勝ちに行く競技者としての選択肢。


 善幸は後者を勧めつつも、選択をする権利自体は東郷に残してくれていた。

 けれども、東郷の脳裏に浮かび上がる言葉は1つ。


───今日、最後に言うつもりだったけど。俺は今日、君達にこう言うつもりだった。『まず一ヶ月俺の言うことの正しさを疑うな』ってな


 なら、まあ、いいか、と。


 東郷は自分の中で、納得に足る理屈を組んだ。


「一ヶ月は、迷ったらヨッシーの正しさに従うって決めてるからな。今日は背伸びすんのはやめとくさ。ヨッシーに教わったことで戦ってくるぜ、へっへっへ」


「……俺は、言うつもりだっただけだぞ」


「僕に『東郷、お前にとって1番の正しさは一生働かず遊んで暮らすニートになることだ』って言ってくんね? 今ならノータイムで信じてやるが?」


「言うわけねえだろ」


「くははっ」


 笑う東郷。

 『正しさを他人に委ねる』ことは、様々な創作において、間違ったこととして扱われる。悪人に利用されたり、あくどい身内に利用されたりする原因として、いつも使われているからだ。


 自分で正しさを考えられる。

 自分で何が正しいか選べる。

 他人に正しさの選択権を委ねない。

 それが人間として最も素晴らしいことであると、多くの創作は語っている。


 けれども、スポーツチームの多くは、選手達が監督や指導者に正しさを決めさせ、他の者達がそれに無条件で従うことで、チームとしての運用効率を引き上げている。

 選択にはエネルギーが費やされる。

 目の前の試合にエネルギーの全てを費やしている類の人間は、無限の選択肢の中からどの正しさを選ぶかにさえエネルギーを割けず、時に狭まった視野の中で延々と間違えてしまう。


 疲れ果てた極限の状態の中、善幸が『こうしないか?』と彼なりの正しさを示してくれることが、東郷にとって、何よりもありがたいことだった。


 善幸の瞳が、また東郷をじっと見つめる。


「お前がわけわからんことをほざいていない時は、お前が大丈夫でない時だということだな。学んだぞ」


 直球の言葉を善幸がぶつけると、東郷は誤魔化すように頬を掻く。


 善幸は、仲間のことをちゃんと見ていた。


 わけわからんこと=オールド・スラング。使オールド・スラングは、疲労困憊している状態では操れない。いかに平気そうに見えていても、会話中に全力でふざけていない東郷は、見かけ以上に憔悴しているのだ。


「オルスラの有無で僕を判断するな、まったく」


 呆れの中にひとつまみの嬉しさがあるような、そんな顔をする東郷が居た。


「よし、考えがまとまったぞ東郷。予定を変更する」


「え? おお、うん」


「軽く状況を確認してから、お前は寝ろ。今が12時半前だから……16時半まで、4時間でいいから寝ろ。そこから1時間の特訓でお前を最低限仕上げる。運営が30分の編集動画を1つ作ってアップロードするには十分な尺があるはずだ。その後、19時からのPDのイベントでお前の登録枠を使って俺も参加する。イベントを使ってお前を急速に鍛え上げる」


「!? は!? 待て待て待て!」


「イベントに参加してくる強い奴を探して優先的に狩るぞ。練習と、本番と、本番後の改善と弱点の解消を同時並行してこなす。今日中に、お前を俺の次に強い駒に鍛え上げるのが目標だ」


「待っておくんなまし!」


 そうして。


 本日の予定が決まった。



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