西暦2059年4月14日(月) 23:29

 ふと思い出して、いのりはそれをそのまま口に出す。


「あ~せんせ~、ちょっといい~?」


「なんだ」


「せんせ~から教えてもらったスキルセット~、なんでかすごくしっくり来たんだけど~、もっとしっくり来たスキルセットがあったから~、それに変えてしまってもいいでしょうか~?」


「もうか。早いな。好きにしろ」


「ありがと~お優しいおかた~」


 YOSHIは逡巡もなく頷いた。


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○即断即決

○生徒の自主性を重んじる教師の鑑

○ガンガン否定して指導でもええんやで

○最初にスキルセットいじってる時期楽しいよね



「どういじった?」


「あのね~、物を作るスキルの破壊力を全部なくしちゃって~、攻撃用のスキルも外しちゃって~、"攻撃しない"スキルセットにしたいな~、って~」


「……何?」


 YOSHIが珍しく、意表を突かれたという顔で目を丸くした。


 彼女がそういうビルドをしてなかったことは、記憶にも残っていたからだ。


「怒らないで聞いてほしいです~」


「怒らん。むしろお前が何を思いついたのか、楽しみに今待ってる。ゆっくりで良いから思ったこと全部言ってくれ」


「……ふふふ~」


 嬉しげで、陽気な微笑み。


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○YOSHI先生……!

○なんだろうこの子供っぽい先生っぽさ

○この人本当急かさないな



「あのですね~。せんせ~のスキルセットは凄くしっくり来たのですが~、攻撃だけなんとも難しくて~。人を攻撃するのがやっぱりどうにも苦手で~、これやったら痛そうだな~って思うと~、なんかちょっと手が止まっちゃって当たんないんです~」


「そうなのか……」


 原作のお前のスキルセットだったんだけどな、とYOSHIは心中で独り言ちる。


 原作の伊井野いのりのスキルセットは、ビルド系スキルを多用して戦場を作り、有利な場所を作り、高絶対力攻撃を防ぎやすい物質の壁で攻撃と移動を妨害しつつ、隙を見て高絶対力の攻撃を叩き込むスタイルのキャラクター。

 カテゴリー的には、サポートと妨害を並行してこなすサブアタッカーだ。


 YOSHIは書籍でしか原作を摂取していないが、原作のいのりは数回登場するライバルチームCの所属キャラDくらいの扱いであり、本格的な掘り下げはかなり後にリリースされたソーシャルゲームで行われている。


「なので~、人を攻撃しないスキルセットにして~、皆のサポートをするのがいいかなって思うんですけど~、どうでしょ~……?」


「良いと思うぞ。サポート専門職、こなす範囲が難解で俺にはできなかったが、いのりならできる」


 不安げないのりに、YOSHIは首肯で返した。


「え~!? せんせ~ができないならわたしにできるわけない気がしてきた~! 難しいんだ~、サポート専門職~!」


「向き不向きだ。お前ならできる。頼んだぞ」


 『でも』という出かかった言葉を、いのりは飲み込んだ。


 『でも』ではなく、『やってみる』の言葉を選ぶ。


「……まっかせて~~~!」


「任せる」


 7年前はできなかったことを、やってみせた。


 それは、彼女だけが自覚できた成長だった。


「今度、サポートの立ち回りを教える。基本的には攻撃できる奴との連携と、1人で動く時はどうするかになるな」


「攻撃がなんか苦手ですみません~」


「いや、いのりらしい気もする。何が得意で何が苦手か、1人1人の個性に合わせて強くなれるのがこのゲームだ。問題はない」


 YOSHIの内に芽生えた違和感があった。

 しかし、YOSHIはそこそこ適当な人間なので、競技外のことはあまり細かい所まで気にしない。

 何より、原作などという紙の束より、目の前に生きているいのりの個性を重視するのがYOSHIという人間である。


 YOSHIが深掘りしなかったため、いのりのスキル適正が原作と異なっていたことは謎として扱われず、なんとなく放置されてどこかへ消える。


 その時、コメント欄に、1つのコメントが流れる。



○いのちゃん、人を本気で憎んだこと無さそうだもんね



 何気なく、根拠なく、核心を突き真理に触れたコメントは、"何故伊井野いのりの適性が変わったのか"の真実を言い当てていたが、誰にも拾われることなく、コメントの海に沈んでいった。






 そんなこんなで。


「完成~!」


 ワールドクラフトビルダーズ・エヴリィカ新鯖における、YOSHIのマイホームが完成した。


 モダンとファンタジーが溶け合った白中心の西洋風デザインに、まるで補色のように働くシックな装い、それを飾る蔦と花の色、広い庭で揺れる木吊りブランコがなんとも言えない落ち着くバランスを生み出している。


「凄いな、クラフトゲーム。最初はただなんか板を並べてるだけで何も進んでないような気がしてたのに、2時間と少しで家が出来たぞ……」


「でしょ~? こつこつやるのが大事なのですよ~」


「これ税金どんくらいかかるんだ?」


「かかりませ~ん」


 春の日差しが降り注ぐように、優しい明るさでいのりが微笑む。

 家は完成した。

 配信はここで終わりにしてもいい。

 2時間以上配信したなら、YOSHI初コラボとしては十分だ。

 けれども。


 "もうちょっと"と、いのりは欲張りたくなってしまう。


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○そろそろ終わりかな

○もっと見てたい

○24時間コラボしてて

○あっという間の2時間で物足りねえのぜ



 コメントを見て、まったり穏やかなコメント欄に自分と同じ気持ちを見つけて、いのりは少しばかり背中を押された気持ちになる。


「せんせ~」


 "もうちょっと一緒にいませんか"と彼に伝えようとするだけで、何故か多大な勇気が必要なことに、いのりは気付く。

 心臓の鼓動が、加速しているような気もする。


 かつて、家族と一緒に居ないために出した勇気は、本当に大きなものだった。

 そして今、憧れの人と一緒に居るために出さなければならない勇気も、本当に大きなものだった。


「も~ちょっと~、お話していきませんか~?」


「家が完成してもか?」


「家が完成してもだね~」


 YOSHIはいつでもなんでも、期待すると応えてくれる。彼にはそう思わせる振る舞いがあった。いのりが願えば応えてくれるだろうと、今日が初見のリスナーですら思っていたが、それでいのりが自信満々に誘えるだなんてありえない。


 少しの不安を抱え、その不安すらも何故だか少し楽しくて、いのりは微笑んでYOSHIを誘う。


 小学生の子供が、最近仲の良いクラスの人気者を遊びに誘う時のような、そんなちょっと浮ついた気持ち。


「どうかな~? 全然~、断っても~、いいんだけど~……」


「いいぞ。ただ1つ、提案がある」


「提案~?」


「ここまでは君の流儀だ。だがここからは俺の流儀でやる」


「せんせ~の流儀~……!」


「散歩するぞ。散歩しながら指示を出す。指示の通りにビルドしてくれ。ポシビリティ・デュエルのビルドスキルの基本的な感覚を掴ませる」


「おお~! 物作りの冒険だ~!」


「雑談しながら物を作る、実戦レベルのマルチタスクの練習でもある。できるな?」


「やってみま~す! 行くぞ~、うり坊の皆~!」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○行くぞ~!

○頑張って~

○修行パートだ~!

○もう夜遅いから無理しないでな

○楽しそうだなぁ



 いのりは欲張った。

 もう少しだけ、一緒に居たいと。

 YOSHIは欲張った。

 『楽しい』が満ちるこの配信で、『楽しい』を損なわないままに、いのりを強くしてやりたいと。


 だからもうちょっとだけ、一緒に居られる。




【63.好きな物は最初に食べる派?最後派?】


「俺は少し学習した」


「なんと~? せんせ~がまだ進化してしまうのか~?」


「自分なりに噛み砕いて回答すればいいんだな」


「ほほう~? その心は~?」


「俺は、大体食い物はなんでも好きだ。しょっぱいもんの後に甘いもんを食っても美味いし、甘いもんの後にしょっぱいもんを食っても美味いと思う。美味いもんはどの順番で食っても美味い」


「わかる~」


「だが、これはポシビリティ・デュエルに置き換えられる。俺は強いチームと試合する時、多少なりと敵チームの一番強い奴とぶつかる瞬間を心待ちにしている。他の奴らを全員倒してから、一番強い奴に自分の可能性の全てをぶつけたいと思っている。つまり、俺は好きなものは最後に食べる人間なんじゃないか? こいつが俺の練り上げた推理だ」


「おお~! 成長だぁ~!」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○成長?

○成長?

○成長?

○俺は好きだよ

○YOSHIなりの模索、偉いぜ

○うり坊、YOSHIさんを甘やかし始めてない?



「ちなみにわたしも好きなものは最後に食べる派~。パフェとか最後に食べるのがいい~。おそろいじゃないですかこれは~」


「お揃いなのか」


「おそろオブおそろよ~」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○お揃いか?

○お揃いでいいの?

○お揃いではない

○一周回ってお揃いかもしれん



 YOSHIが指示を出し、いのりが川に橋をかける。

 いのりが作った土の橋をYOSHIが渡るが、橋が崩落してYOSHIが落ちていく。

 びっくりしたいのりとリスナー達が目を見開く中、YOSHIは微塵も動揺せず、空中に足場を作ってひょいひょいと戻って来た。



【64.飴はなめきる派?最後に噛む派?】


「舐めたことない。全部即噛み砕いてる」


「わぁ~、獰猛~」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○私もそうだ、嬉しい~

○わんぱくだなぁ

○歯に滅茶苦茶飴の欠片くっついてそう

○YOSHI先生には顎が強いイメージがあります



「わたしは~、まったり舐めてたらいつの間にか消えちゃってた~、みたいな人~」


「優しい食べ方をするんだな、いのりは」


「せんせ~はよく食べてる飴とかある~? 好きな飴はきっと全部なんだよね~」


「ゲーセンの飴を掬うやつあるだろ。あれにハマった仲間が居て、一時期毎日20個ずつ貰ってた。あれのぶどう味のやつを死ぬほど食ったな」


「へ~、どうだった~?」


「歯応えは弱かった」


「味を聞いたんだけどなぁ~~~」


 何度か試し、川にしっかりとした橋をかけて喜ぶいのりを、YOSHIとリスナーが素直に褒め称え、いのりが照れた。



【65.映画は字幕派?吹き替え派?】


「今ちょっと『倒幕派!? 骨太な質問してくるじゃねえか』って質問読み間違えてて余計なこと考えてた」


「新選組VS攘夷YOSHIの戦いが始まるの~?」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○草

○わろ

○待て! また質問から離れてる!



「外国の映画があって~、下に日本語が出るのが字幕~、日本人の声優さんが台詞を丸々取っ替えたのが吹き替え~、という感じだよね~。わたしは字幕~。見てる人その人の声が聞きたいから~」


「そうなのか。派閥が分かれるほどなのか?」


「字幕が駄目な人は~、映像を見てると字幕が読めない~、字幕読んでると映像が見えない~、とか言ってるの見たことあるよ~。難しいもんね~」


「2箇所同時に見れない奴はポシビリティ・デュエルだとずっとエンジョイ勢やってた方がいいと思うな、俺は」


「急にいつもの話題にハンドル切ってくるぅ~!」


 山道を前にして、YOSHIはいのりに山を登る階段を作らせる。

 一段一段を同じ幅にし、それを長距離に渡って作る作業は、意外にイメージの維持が難しいようだった。



【66.映画はエンドロールも見る?見ない?】


「最後のいっぱい人の名前が流れるやつ?」


「最後のいっぱい人の名前が流れるやつ~」


「あれで見た名前覚えられたことねえんだよな……」


「せんせ~はあれ以外でも見た名前は大体忘れちゃうタイプの人でしょ~」


「……よく分かるな。たまに言われる」


「なんとなく分かりますことよ~」


 山の中腹で、YOSHIの指示するままに、いのりが岩で小屋をビルドしていく。斜めの地面の上に拠点を建設する、基本イメージのトレーニングだ。


「ってか、見る見ないってなんだ」


「タイパじゃないかな~? タイムパフォーマンスってやつ~。大作映画だとエンドロールって10分くらいあるから~、エンドロールが流れ始めた時に席を立てば~、その時間を自由に使えるとかそういうのなんだと思うな~」


「ほー……忙しいんだな、今時の奴らは。10分が惜しくてそんな急いでんのか。俺よりずっと忙しそうだな。大したもんだ」


「あ~、う~ん、どうだろ~」


「?」


「……人によりそう~!」


 いのりは、ちょっと濁した。


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○その10分を無駄に過ごしたりするもんです

○エンドロールは余韻だから見た方がいいのに

○どっちでもいいよねほんとは

○クレジット後のワンシーン映像とかとかいう罠

○YOSHIくんより忙しい人は多くないと思う



【67.インドア派?アウトドア派?】


「……」


「せんせ~が曖昧な顔してるぅ~」


「俺、どっちに見える?」


「え~? せんせ~は野山を駆けビルの合間を飛び回るイメー……あれ~? あれぇ~???」


「プロゲーマーって言うほどアウトドアか?」


「そ、そうだぁ~、確かに~」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○哲学始まったな

○そうだぁ~じゃないのよいのりちゃん

○え? どういうこと? 何?



「俺はアウトドアじゃあない。普通に四六時中ポシビリティ・デュエルしてるしな。だけどインドアでもない。俺はネット上のバトルフィールドを駆け回ってるから、部屋の中で何かしてるわけでもない。たとえるなら、俺はインドアの奴らと同じ位置座標に体を置いて、アウトドアの奴らみたいにネットで森や海を駆け回ってるわけだが、どうなんだ?」


「どうなんだ~~~」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○哲学

○インドアとアウトドアって家の内と外?

○やってること基準でアウトドア?

○確かに家は出てないからインドアなのか

○体動かしてバトルしてるやつがインドア?

○PDは体動かしてるけど体動かしてない(矛盾)



「これは~、もはや~、せんせ~が既存の枠に収まらないスーパーヒーローである証拠とさえ言えよう~」


「別にヒーローではないが」


「せんせ~専用の言葉が必要~」


「そうなのか」


「そう~……せんせ~は、ダブルドアなのだ~!」


「そう……なのか……?」


「インドアとアウトドア~、そして光と闇の力~! 相反する力をその身に宿した最強の戦士~! これが次の大会でYOSHI入場の時に~実況の人が高らかに謳い上げる入場文句だぜ~!」


「光と闇はどっから連れてきた? 元の場所に戻して来なさい」


 YOSHIがスキルセットを再構築し、いのりが作った小屋に窒素の弾丸を射出した。直撃し、崩壊するいのりの小屋。いのりから上がる可愛い悲鳴。「ここからは弱い攻撃に耐えられるレベルのビルドを作る癖を付けてくれ」と、YOSHIは言った。



【68.老後に過ごすなら都会派?田舎派?】


 頑丈な小屋をいのりが作って、YOSHIが手加減して撃った窒素の弾丸が飛び、小屋がそれを弾いていく。


「わたしね~、おばあちゃんになったら~、好きな人達と『カントリー・ロード』みたいな田舎に住みたいな~。あるか分かんないけど~、買い物帰りに"あっカントリー・ロード歌いたくなってきた"ってなるような~。そういう田舎がいいな~」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○超いのちゃんって感じ

○すき

○老後か~

○これが歌ってみたおばあちゃんですか



「おばあちゃんになっても配信を続けたいから~、もしそうなったら~、皆もおじいちゃんおばあちゃんになっても見に来てね~」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○いいよ~

○50年スパチャしてやらぁ!

○親より長い付き合いになりかねないですわ

○まあ2019年からずっと活動してるV居るもんね



「せんせ~は~どっちのどっち~?」


「都会。試合すんなら当然都会だ」


「おお~、おじいちゃんになってもやる気だ~」


「老いたことは挑戦をやめる理由にならん」


「……でも~、老いていくと~、どうしても"なりたくない自分"になっちゃって~、今まで通りに生きられなくて~、それに耐えられない人は居るもんなのよ~」


「なら、その時の自分を試す。俺は老いた時老害になるのか。俺は老いて技巧を失うのか。俺の老いた体に最も適した技と戦い方は何になるのか。老いてからの俺の可能性は老いてからじゃなければ測れない。俺が老いた時は、その可能性を試す時が来たってことだ。後は結果が教えてくれる」


「どこまで頑張るの~?」


「俺が俺の全てを知るまでだ」


 淡々と、彼はそう言った。


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○まいった…イメージ通りだ

○ジジイになったYOSHIに日本刀使ってほしい

○鋼糸使いの爺になってくれ

○普通にそう生きるんだろうなって納得する

○あっ、好き



 老いて負けることを恐れないならば、衰えを笑われることを恥じないならば、老いても挑戦を続けることができる。


 勝ちも負けも、称賛も嘲笑も、自分を試した結果論。

 自分も嫌わず、誰も妬まず、ただ挑戦を繰り返していく。

 己の可能性以外に興味を持たない、ゆえに老いることも自然な変化の1つでしかないと受け止めていて。


「そっか~。うん、うん~。素敵だと思うよ~」


 絶対にその人を、いのりは星を見上げるように、憧れの目で見つめていた。



【69.ツッコミする側?される側?】


「今日確信した。俺はする側だ」


「わかる~~~」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○草

○そりゃそうでしょうね

○ワロタ



「そしてわたしはツッコまれる側~」


「そりゃそうだろうな……」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○妥当

○そりゃそう

○他に無いよ



「逆にしてみたらどうだろ~」


「逆にするな、そのままにしとけ」


「せんせ~ボケて~わたしがツッコむ~」


「やらん」


「して~」


「やらん」


「して~」


「なんでそんなやらせようとする」


「一生に一回もふざけたことなさそうな真面目な人が~、嫌々ボケて照れてる顔が可愛くてすき~。親しみと好意だけで繰り出される優しいボケがすき~」


「……」


 "20階建てを作れ今すぐ"とYOSHIに命じられ、いのりは「ひ~ん」と悲鳴を上げて造り始めた。



【70.動物園派?水族館派?】


「俺は……本格的にピンと来ないな。いのりは?」


「動物園かな~? 可愛い生き物さんはどっちにも多いけど~、動物園は触れ合えて~、水族館は触れ合えないのだ~。わたしが触れても~、わたしのせいで傷付いたりしない~、そういう生き物に安心して触れていたいなぁ~、って感じですな~」


「そうなのか……あ」


「どしました~」


「水族館にする」


「……なぜ~?」


「俺は比較的水中戦に弱い。水中ステージだと地上ほど自由に動けねえんだな。風遣いは空気が無い場所が苦手なんだ。たとえばそこで、俺が鮫の群れと戦う戦術を考えるとすると……」


「急にニガテ克服を始めた~! 進研セミ並みのニガテ克服意識と展開の速さ~! 挑め1日15分~」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○素直に楽しみなよ!

○デートが下手そう~

○闘争が生んだ悲しき獣

○向上心は評価したい



 YOSHIの言う通りに物作りをし、その応用として地形変化なども倣うと、いのりはPD最適化塹壕の作成がみるみる上手くなっていく。


「せんせ~、好きな動物もおらんの~? 可愛いと思った動物とか居ないの~? ひとつくらい居ない~?」


「お前」


「へあっ」


 声が裏返った。


「冗談だ」


「…………………????????」


「さっきツッコミを入れられるようボケろって言ったのお前だろ。それからずっとボケを考えていた。つまり、常識的に考えて俺が言わないこと、そして俺がお前に絶対に言わないことを言えばいい」


「……」


「あとは俺が変なことを言った瞬間、お前がツッコミを入れれば良かった。それがなんだ。何が"へあっ"だ。ツッコミはどうした? なんなんだお前は」


「なんなんだはわたしのセリフだ~!」


「お前のセリフではないが」


「ボケるのは今じゃないでしょ今じゃぁ~!」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○YOSHI無罪

○なんで俺こんな笑ってんだろ

○いのっさん可愛いな

○これ定期的にやってほしいなYOSHI先生

○私達はいつも可愛いと思ってるよ~

○YOSHIっ……それが天然ボケってんだっ……!



 コメントは、この配信の配信主であるいのりの味方をしなかった。


「なんだ~君達~!」


「ありがとうございます、うり坊の皆さん。俺はこれからも皆さんの期待に恥じぬよう、誠心誠意仕事をこなしていきます」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○謙虚

○誠実

○真面目

○天然

○こんなコメントに感謝しなくていいよ



「本当になんなのじゃ~!」


「なんで俺じゃなくてコメントにツッコミ入れてんだお前は」


「なんではわたしの感想ですが~……???」



【71.目覚めは良い?悪い?】


「たぶん良い」


「けっこ~悪いです~。寝起きはふわふわしてます~」


「そうなのか。ならタイムスケジュールも考えとく。朝練で無理させてもいいことないからな……」


「ううん~、皆で集まって朝練するなら頑張って起きる~! 皆だって眠いけど頑張ってるはず~!」


「……そうか。だが、朝練の予定は前日に誰が深夜配信するかとかを見て俺が決める。強くなれない無理は俺が許さん」


「は~い」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○素直教師

○素直生徒

○素直師弟

○朝激弱ワイ、2人の選択に合わせる模様

○なんかこの2人の距離感好きかもしれん



「わたしが知ってる限りだと~、エヴリィカでまうちゃんが一番寝起きがいいんだよ~。寝坊したこととか一度も無いんだ~。すごいよね~」


「そもそも寝てんのかあいつ?」


「寝顔可愛いよ~。頭撫でたくなるの~」


「見たことあるのか……」


 YOSHIがお手本で硬い流線型の壁を作り、いのりが真似して作って見せると、YOSHIが試しに放った弾丸を、流線型の壁が次々と受け流していった。



【72.愛したい派?愛されたい派?】


「愛したい派です~」


「似たようなもんじゃないのか」


「も~、せんせ~、も~だよ~!」


「お、おう」


「こればっかりは~同じに感じてちゃダメ~」


 いのりが"めっ"と嗜めるのを、この短い付き合いの中で、YOSHIは初めて見た。


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○これはいのちゃんが正しい

○ド正論

○愛を知らぬ悲しき獣

○YOSHI、恋をしな。大人になるんだよ

○YOSHI先生が恋愛なんて低俗なことするかよ



「ええ……すまん、分からん」


 YOSHIは困惑した様子で頬を掻いた。


「も~」


「そもそも、愛ってのは愛し合うのが基本だろ。愛し合うなら愛してるし愛されてるんじゃないのか? そこをあえて2つに分ける必要あんのか? この2つの違いってなんだ? なんか底無しにピンと来ないんだよなこの質問」


「違うんだな~それが~」


「違うのか……」


「せんせ~そんな子供じゃ困りますよ~」


「そんな子供じゃ困る!?!?!?!?」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○いのちゃんも別に経験ある方じゃなさそう

○いのっさんがそもそも子供

○上手く話せる男性Vliver多くない子が……

○いのりちゃんそもそも男性恐怖症気味なのに



【73.占いは信じる?信じない?】


「信じてないな」


「うわぁ~、心底信じてなさそ~」


「俺が朝の星座占いで最下位だった時、俺以外の星座を全員倒して優勝したことがある。占いに力があるならああいうことにはならなかっただろう」


「占いの結果が勝敗で蹴散らされてるよ~」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○ひどい~

○あまりにもひどい

○強さの前に占いのロマンが踏み潰されてる

○まあ星座占い1位になっても大怪獣には勝てん



 YOSHIはいのりの中にあるスキルのイメージを聞き、明確な言語化を行わせ、時折助言を与え、いのりのスキルの精度を引き上げていく。


「占いの力を思い知る方法はありますよ~、せんせ~」


「そんな方法があるのか?」


「せんせ~が占いをするんですよ~」


「……ん?」


「『来年はこのスキルセットが勝ちやすい』とか予言をするんです~。そうしたらせんせ~を信じて皆そうして~、上手く行った人はせんせ~を信奉して~、上手く行かなかった人はせんせ~を叩くので~、信奉してる人と叩いてる人が『こっちの言い分が正しい』と言い合って大喧嘩を始めます~。これが占いパワ~!」


「最悪じゃねえか」


「『なのでそういうことを言わないようにしよう』と考えるのがVliver、なのでした~。言葉は何を言ったかではなく、誰が言ったかなので~。未来を占うような言葉は、少し考えてから言うのがいいかもですな~」


「……おお、おー。いや、普通に感銘を受けた。いいことを言うな、いのりは。忘れないようにしとく」


「えへへ~」



【74.性格は細かい?大雑把?】


「大雑把だと思う」


「わたしも~、けっこ~大雑把だと思うな~」


「しかしな、聞けいのり」


「聞きましょうぞ~」


「俺の経験上……素の性格が几帳面で細かい思考や細かい作業を得意とする人間は、たまに自分が大雑把に振る舞っているからという理由で、自分が大雑把だと思い込んでしまう傾向がある」


「大雑把だと~……思い込んでしまう~……!?」


「恐ろしいな……俺もお前も大雑把じゃないのかもしれん」


「わたしが~……大雑把じゃない~……!?」


「だが、もしかしたら……大雑把かもしれない」


「大雑把~……かもしれない~……!?」


「本当に几帳面なやつは……コーヒーを飲んだやつが飲んだカップをそのまま手洗い場に置きっぱなしにしてることに耐えられず、人を嫌いになるらしい」


「本当に几帳面な人は~……コーヒーを飲んだ人が飲んだカップをそのまま手洗い場に置きっぱなしにしてただけで人を嫌いになる~……!?」


「だが……俺もお前も、そういうのを見て別に誰かを嫌いにならず、とりあえずカップを洗い始めるはずだ」


「それは~……そう~……!」


「俺達は細かいことを気にしてねえわけ。俺達はもしかしたら、大雑把なんじゃないのか……?」


「わたしたちが~……大雑把~……!」


 YOSHIは真面目だが、いのりはふざけている。


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○何の寸芸なんです?

○他人の面倒見るのが苦痛じゃない人ってだけ

○いやまあ大雑把ではないと思いますよ

○細かい所によく気付く人達だなぁと感じます

○また2人とも質問に答えないまま次行ったぞ!



 YOSHIの指示するまま、いのりは仲間を守るための壁に足を生やし、壁を操作して歩かせ始めた。



【75.即決派?優柔不断派?】


「即決」


「優柔不断~」


「まあ、そうだろうな」


「ゆっくり考えて生きております~」


 いのりは喋りもゆっくりで、いつもゆったりとした陽気な空気を身に纏う。


「せんせ~はすごいよね~。考えるのが速いっ~! せんせ~が一番強いところって~、一瞬でたくさん考えて詰将棋みたいに立ち回ることだと思う~」


「まだ出会って間もないが、俺も君のゆっくり考える部分は長所だと思う。特に会話の最中、相手が受け入れられる言葉、相手を傷付ける言葉をよく考えて喋ってるな。俺は君ほどよく考えて喋る人間を見た覚えがない。羨ましいとさえ思う」


「……ぬへへ~」


 いのりは照れたように笑む。


 今も、昔も、何も覚えていない人が同じ人に同じことを言うならば、それは紛れもなくその人の本音なのだろう。


 それが、いのりにとっては嬉しい。


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○兎が亀を励ます兎と亀みたいだ

○YOSHIは本当に見てから動くまでが速い

○褒められてよかったねいのちゃん

○優柔不断を長所と言う人初めて見たかも



「考え方の違いは、手札の多さだ」


「手札の多さ~?」


「俺の思考と戦術に対策を立てた奴は、その対策を君に流用できない。俺を倒せる奴は君に倒されるかもしれない。それがチーム戦だ」


「みんな違ってみんな良いから~、チームは強いって話だね~。頑張りますぞ~」


「そうだ。俺と違う人間として成長してくれ。俺とは違う可能性を育てろ。俺にできないことを成せ。君が俺と違うという事実を、俺はこの上なく喜んでる。君の未来の可能性に期待させてくれ」


 今も、昔も、何も覚えていない人が同じ人に同じことを言うならば、それは、紛れもなく。


「へっへっへ~、期待しといて~。せんせ~をびっくりさせちゃるぜ~」


 いのりは木に生やした岩の腕を動かし、えいえいおーと拳を突き上げた。



【76.将来的な夢は?】


「俺には無い。が、まうに誰よりも高い所へ連れて行くと約束した。今のところは何年かかってもそいつを叶えてやるつもりだ。途中で契約解除されたらそこで諦めるしかないが」


「ひゅ~、まうちゃんかっけ~」


「いのりは?」


「わたしは最近ほぼ叶ったので~。後はとても立派なVliverになって~、尊敬している人と胸を張って話せればいいなと思うなどしてます~」


「なるほど、分かった。俺はその助力をしよう。しかし今のいのりでも胸を張って話せないなんて……余程の大人物なのか。君も大変だな」


「そ~なんですよ~。わたしにとっては世界一の大人物なんです~。まだわたしは並んでないと思ってて~、こんなに立派になれましたありがとうございます~、みたいなことが言い難いのです~」


「君もなんというか……大概自分に厳しいな。俺にできることはするぞ。どこの誰だか知らんが、そいつが君に夢中になるといいな。そのくらい魅力的な君になれるといいな。仲間として応援している」


「あざすです~! 素敵な女の子を目指します~!」


「そうか」


「なってみせますぞ~!」


 ビルドスキルで作った木の鳥をぱたぱたと飛ばしながら、いのりはふんすふんすとやる気を見せた。


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○流石に深夜、先に寝ます。すみません

○みんなおやす~

○寝落ち勢おやすみ~

○この2人の会話、なんか安らぐんだよな……

○今配信来たけどなんでこんな仲良いの!?



【77.今後やってみたいことは?】


「わたしは~、TTTの皆で集まってポシビリティ・デュエルの大会とかしたいな~。せっかく良いお師匠様がついてくれて~、PDもできるようになったから~、皆で遊びたいな~って~」


「同期24人だったか。十分すぎる人数だな……リスナー参加型試合、他事務所交流戦、ユーザービルドダンジョン攻略辺りを修行として考えてたが、同期トーナメントも全然ありかもしれない。ちょっと相談してみよう」


「わ~い~!」


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□いのりへのコメント~▽   ︙

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○おもしろそう

○いのちゃんのお願いを聞いてくれるお兄さん

○タツミと千和と大勇者が強すぎ問題

○獅子座伝説がまた始まるのか

○YOSHI先生にはブレイズ君とかも見てほしい



「モデレーターの人達にも相談しておかないとだね~」


「モデ……何? モデル? モデルの知り合いか何かの話か」


「違うよ~、モデレーター~。変なコメントを消したり~、荒らしの人が来たら蹴り出す人だよ~。他にも色んなお仕事があって~、わたしたちの配信を助けてくれてるんだ~。わたしの配信にもモデレーターさんが居るんだよ~」


「なるほど」


「せんせ~も専属のモデレーターさんが必要になるんだよ~。大会とかは特に~、目立つから悪い人も来やすいし~、信頼できるモデレーターさんが居ると良いよね~」


「ああ……そうなるのか」


 ぽん、ぽん、ぽん、と壁が出来ては崩される。

 早くもビルドスキルのコツを掴んで来たいのりに、YOSHIは期待以上といった顔で頷いていた。


「今日教えたことは後で自分でも練習してくれ。反射的にスキルが出るくらい感覚に染み付けば初期習得としては十分だ。そうしたら思ってから発動までの時間を0.01秒単位で削っていく作業になっていくから、地味な反復練習になってくかもな」


「うへ~何年も練習してる人達に敵わなそ~」


「そこは色々考えてる。心配は要らん。俺がどうにかする」


「し、師匠~! ついていきますぅ~!」


「ついて来るだけに終わるな、自分でも考えろ」


「せ、せんせ~! 厳しいです~! あっ、せんせ~! 今後やってみたいこと他にありました~! せんせ~とデュエットとかしたいです~」


「……まあ、そういうのは、呼ばれたら付き合うが。俺の歌の可能性はもう検証し終わってる。カスだぞ」


「せ、せんせ~っ!!」



【78.直近の目標は?】


「せんせ~たちと勝つこと~! せんせ~たちと頑張ること~! せんせ~たちと楽しむこと~! いのり三か条、交付します~! せんせ~は~?」


「俺は……」


 YOSHIは少し、言葉を選んだ。


 配信の世界。

 Vliverの世界。

 少しばかり学べた世界。

 まだまだ未知に溢れた世界。

 異界としか思えないほど、これまで生きてきた世界と常識が異なる不可解な世界。


 YOSHIはこれまでに少しばかり学べたことを活かし、そこから正しい言語化を成そうとする。

 言葉でないものを言葉にする時、間違った言語化で誤解を招く怖さは、会話の節々でいのりも教えてくれていた。


「俺の教え子になったVliver達がいる。そいつらを推しているリスナーの人達が居る。その全員に見せたいと思ってる。"これからどうなっていくか"を。応援する人も否定したい人も居るだろうから、進む道先を不明瞭にはしない」


「どうやって見せるの~?」


「『これまでの楽しい』と、『これからの楽しい』が、重なって見える瞬間を作りたいと思ってる。具体的にどうするかは、詳細まで決まってないが……」


 いのりが輝かせたこの可能性を、無限に広がっていく会話の良さを、YOSHIが知る躍進の方程式の中に落とし込む、そのためには。


「この伊井野いのりが、伊井野いのりらしく楽しみ、伊井野いのりらしく頑張り、伊井野いのりらしく戦い、大活躍して、かっこいいところも可愛いところも出していく試合を見せてやる。今日この配信を見ていた奴ら、全員に」


 そうするべきだと、YOSHIは思った。


________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

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○応援してます!

○今日からYOSHIも俺の推しだ

○無理はしないでな。楽しんでけ

○最後にいい思い出になるといいよね

○勝ち負けより楽しむことが大事やで

○あえて言う! 信じてるから勝てーっ!



 YOSHIは、悪くない反応に胸を撫で下ろす。


 ここは、『好き』で回る世界。


「差し当たっては……」


「差し当たっては~?」


「……今度参考になる試合でも、4人で見るか。お菓子とコーラでもたっぷり買ってから。いのりの雑談の楽しさと、ポシビリティ・デュエルの楽しさが重なることを、視聴者の面々に見せていこう」


「やろ~! 楽しみ~!」

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