西暦2059年4月14日(月) 22:42
【51.犬派?猫派?】
「犬」
「猫~」
「……分かれたな」
「わたしはね~、猫がなんだかすき~。好きに生きてて~、やりたいことしてて~わたしが追いかけても捕まえられなさそうなとこがすき~。せんせ~はなんで犬が好きなのですかな~」
「戦うからだ。立ち向かうからだ。時に食うために、時に守るために、時に自分の
「わ~せんせ~が好きそ~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○ドーベルマンめちゃくちゃ好きそう
○追うと逃げるエヴメン好きだよねいのっさん
○温和と物騒の温度差で死にそう
○犬に生まれたら犬と戦っていたであろう男
YOSHIはふと目についたコメントを見て、それに反応した。
「そうだな。犬に生まれてたら犬と戦って最強を目指してたかもしれない。俺が動物に生まれ変わったら闘犬だろう。飼い主が用意した強敵と戦って戦って戦って……」
「せんせ~はイリオモテヤマネコでしょ~」
「イリオモテヤマネコ!?」
とんてんかんと、ドアの彫り込みをデザイナーハンマーで叩いて変えつつ、いのりが笑い声を漏らす。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○草
○分からんでもない
○ちょっとレアな猫っぽさあるよねYOSHI
「っていうか~、もしかしたら今の~、せんせ~が初めて拾ったコメントかも~」
「なに? そうだったか……いやだからなんだ? 俺が初めて反応したコメントだからって別に……」
「おめでと~YOSHIせんせ~が初めて拾ったコメントをした『いのちゃんの@理恵』さん~、記念になりますよこれは~」
「いやそんな大げさな……」
ぽん、と、YOSHIが初めて拾ったコメントになったリスナーのコメントが表示された。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○一生の誇りにします! 悪いな、皆っ
○こいつぅ~~~
○おめ!
○いいなぁー!
○おめでとう
○今からでも俺のコメントだったことにならんか
コメント欄が、割と加速した。
【52.朝食は食べる?食べない?】
「人並みには食べてるつもりだ。今日の遅めの朝食はツナマヨおにぎりと、明太子おにぎりと、唐揚げ串と、チョコチップスティックパンと、たまごサンドイッチと、あとエクレアを3つくらい食べた」
「わぁ人並み~……人並み~!?」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○わろた
○ゴキゲンな朝食過ぎる
○若いっていいなぁ
○コンビニの熱々チキンいいよな、どこの店のも
「わたしはね~、前の日のお夕飯を作る時に~、次の日の朝ごはんの準備もしちゃう~。そうすると朝にぱぱっーと短い時間で美味しいごはんが並ぶので~、朝から頑張れそうな気になります~」
「おお。賢いな。普通に感心した」
「えへへ~」
「俺も前日準備して栄養補給の効率化を図るか。バケツプリンとか作ったらいいか」
「感心から出力されるものが変~」
2階の壁と床の模様を、パパっと2人で貼っていく。
【53.目玉焼きには醤油?ソース?】
「何かけても美味いだろ。そもそも玉子が美味い」
「貫禄の回答~。わたしはこの2つなら醤油かな~? なんとなくだけど~、『美味しく整える』のが醤油で~、『旨味を足す』のがソースという感じがしますな~」
「というかこのソースってなんだ……? どのソースだ? 醤油は醤油だから分かるが、この『ソース』ってどのソースだ? もしかして『ソース』って言えば誰もが思い浮かべるソースがあるのか?」
「ありますな~。こわーい犬の顔がプリントされた中濃ソースをみんな思い浮かべてると思うよ~」
「天下取ったソースがあるんだな。俺はいつも弁当についてる透明袋のソースを思い浮かべるから、新しい知見を得た気持ちだ……いやでももしかして俺もどっかで見てるのか、怖い犬のソースとかいうの……」
「1回くらいはどっかで見てるんじゃないかな~、こわいぬソース~。ピンと来てないだけで~」
「俺も見てるのか、こわいぬソース……」
ワールドクラフトビルダーズのシステムに基づき、新設キッチンでいのりが作った目玉焼きを2人でもぐもぐと食べた。
連続クラフトに必要な2人のスタミナなどがぐんぐんと回復していく。
こういうお遊びの食べ物にもちゃんと味が感じられるのが、ポシビリティ・デュエルと規格を共通しているゲームのいいところだ。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○なんでだよ
○いのちゃん醤油派なのか……
○塩胡椒が一番よ
○ケチャップ一択
○YOSHI先生! マヨ最高ですよ
○YOSHI先生! 塩だけでいいんです!
○YOSHI君! 騙されたと思って鰹節振ってみ
○YOSHIさん! 醤油とラー油が最強!
何故か、コメントの圧力が一気に増した。
【54.きのこ派?たけのこ派?】
「……せんせ~、せんせ~、あのねこれはね~」
「あー待て待て待て。いのりはどうせこれも俺が知らんと思ってんだろ。違うんだなこれが。昔チームメイトが買ってきてくれたら両方食ったことがあるんだわ、俺は。驚いたか? ふん……」
「せんせ~、おもしろ~」
「なんでだよ」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○今日何度笑ったか分からん
○無表情なのに滅茶苦茶得意げで草
○テンプレを破壊する勇気、いいね~
○きのこたけのこ知ってて偉い
「でも知ってるだけでせんせ~はどっちが好きかとかはないんだよね~。もう完全にわかりみ~」
「……まあ……なんだ……チョコは美味いからな……。いや本当に美味い。小学生くらいの時は歩いてるだけで周りの大人がチョコくれるから死ぬほど食ってた。なんだけど、ある時なんかファンの女がくれたチョコがクソ苦い上に髪の毛がめっちゃ入ってて、なんか『先生』がめっちゃ怒って、以後ファンから貰ったチョコ食うのは禁止になっちまった」
「こわ~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○こわ
○こわ
○こわ
○子供に何してんだクソ女! ざけんな!
○怖すぎ
「いのりはどっちが好きなんだ?」
「わたし~? わたしはたけのこ~。しっとりがすき~」
「そうなのか。じゃあ俺もそっちにしとくか」
「え~!? 派閥替えが早い~!!」
「仲間は足並みが揃ってた方がいいからな」
「お菓子くらい好きなの推そうよ~!」
「そういうもんか……?」
家に置いておくとYOSHIがゲーム内で死亡しても自然復活する『蘇りの花』を花瓶に活けながら、いのりは"そうだよ~"と首肯で返答していた。
【55.和菓子派?洋菓子派?】
「菓子の時点で全て美味い。大体のやつに砂糖が含まれてるからな。砂糖が不味いわけがない」
「前世がアリだった方ですか~」
「何っ……」
「わたしは洋菓子かな~? なんとなく外国のお菓子も好きだけど~、それを日本風にアレンジした~、カテゴリだけが洋菓子で生まれは日本だよ~、みたいなお菓子も好きかも~」
「俺の前世は……人間だ、いのり」
「ふふっ~! なんでそんな真面目な感じに否定するの~。そんなに前世が虫って嫌~? あ~、でもわたしも嫌かも~」
「いや、俺の前世が人間なだけだ」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○なんか面白い
○会話が噛み合わない季節だぜー!
○頑なに前世が人間だと主張する男
○自分の前世なんて誰も知らねえよぅ~
家の周りの塀になるブロックを、2人が同時に積み始めた。YOSHIは右回り、いのりは左回りで、どっちが速いかという積み遊びだ。
【56.和食派?洋食派?中華派?】
「いのり、洋風ラーメンってどれだ?」
「いきなりアクセル踏んで来た~!」
「いや、な。ラーメンって元々中華料理だろ。それをアレンジしたのがよく知られてる日本ラーメンだろ。2040年くらいにそれがアメリカに渡って向こうの肉文化とジャンクフードスタイルと融合したのが洋風ラーメンだろ。今だと日本でも洋風ラーメンが結構流行ってるけど、これ中華か? 日本食か? 洋食か? どれなんだろうと今思ってさ」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○精神的ショタの素直な質問が一番危険だ
○始めるのか、起源主張を
○ぶっちゃけ今どこのラーメンも美味いよね
○最近また豚骨系強いですよね~
○いのちゃん…どうする…
「……まうちゃんに後で聞いておくね~」
「そうか……」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○逃げた!
○逃げおった
○アチャ「逃げるな卑怯者!」
○これは勇気の逃走
家周りの塀を積んで競争する遊びはあいも変わらずいのりが速く、いのりが勝利。いのりのガッツポーズに、YOSHIは淡々とした拍手で答えた。
【57.パン派?ごはん派?】
「炭水化物は全て美味いだろ」
「一人暮らし男性の果てしない共感を呼ぶ炭水化物大称賛主義の登場だぁ~~~!」
「だがな、いのり。そこから理論を1つ先の段階に進められる」
「と~、言いますと~?」
「炭水化物は美味い。だから……炭水化物に炭水化物を加えたら当然上手い。ポシビリティ・デュエルの高等技術に、2つのスキルを重ね合わせて、破壊力や絶対力を局所的に高めるものがあるのと同じだ」
「! 焼きそばパン~!」
「お好み焼きご飯丼」
「パスタと付け合せのふわふわパン~!」
「ラーメンチャーハンセット」
「餃子も炭水化物だから餃子定食もかな~」
「餃子、炭水化物だったのか……マカロニリゾットもそうだ」
「さつまいもパンも芋とパンだよ~」
「気付きが天才だな、いのり。……いや待て。もしかしてカレーのじゃがいもと米を同時に食べるとあんなにも美味いのは、もしや……」
「!!! せんせ~、天下一~! カレーのじゃがとお米を炭水化物の組み合わせとして見るのは大発明だよ~!」
「じゃあ噂に聞く、熱々のパンケーキの上に冷え冷えのアイスケーキを乗せるっていう例の2050年代最強スイーツとかいうアレも……」
「間違いないよ~、炭水化物×炭水化物の法則だよ~。しかも温度差スイーツと来たよ~。美味しくないわけがないよ~」
「お前もそう言うなら、そうなんだろうな」
「知ってる~? タピオカみたいなのをパンに挟んだのが最近人気な模様~。タピオカだけじゃなくて生クリームっぽいのとチョコソースっぽいのを挟んでる模様~。パン生地がふわふわで独特の味で歯ごたえがすっごく面白い模様~。パンの感触とタピオカの感触と生クリームの感触が神業みたいなバランスの模様~」
「模様模様うるせえな染物屋か?」
2人でだらだら、だらだらと話しながら家の前の門を作って、まだまだだらだらと話している内に、質問の番号が自動で移り変わった。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○コメントみろー!
○雑談に夢中になりすぎですよぉ!
○とうとう問題文忘れたまま次行きやがった
○草草の草
○パンと米どっちが好きなんだよ!
○パン「あの」米「あの?」
パンが好きなのかごはんが好きなのかハッキリしなかった模様。
【58.こしあん派?つぶあん派?】
「こ……なんだこれ」
「え~……え? え~?」
「いや、なんだっけか、こしあんつぶあんって」
「う~……嘘だ~。でもわたし今凄く納得してるぅ~」
「……ああ、思い出した。あんこが入ってる食べ物に書かれてるやつ……だよな? ちょっと自信ねえけども。ほらあれだ、コンビニで手の平に乗る丸っこいあんぱんが何個も入ってるやつあるだろ。薄い皮がなんとかっての。あんことかチョコとか色々種類があるやつ。俺あれが好きだからよく買ってんだよ。それであの……なんだっけ……いや今ちょっと名前が出てこないだけで……バスタードクリームとかああいう感じのあれ、ああいうパンが好きだからな、その横に置いてあったこしあんとかいう? なんかそういうやつ? の名前は覚えてたんだ。流石に俺もそこまで世の中のなんでもかんでも知らねえわけじゃあねえの」
「もうだめだぁ~~~~~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○ワロタ
○今日生えた草だけで那須高原出来るだろ
○こしあんとつぶあん結局分かんねえのかよ!
○せ、先生……
○カスタードソードとかもあるんですか?
いのりがぱっぱっぱっとこしあんつぶあんを説明すると、YOSHIは驚き、納得したように頷き、それでようやく質問の意図を理解した。
「俺の歯に時々引っかかってるあれ、つぶあんだったのか……あんこ美味えなあくらいのことしか考えてなかった……牛乳飲みながらあんこ食うの美味すぎるなみたいなことばかり考えてて……」
「『あんこにうるさい人』の対存在みたいな人だぁ~」
門と家の扉を繋ぐように、整地した地面の上にYOSHIがレンガ状の歩道を敷いていく。
【59.紅茶派?コーヒー派?】
「わたしは紅茶派~。甘くするの~。ちょろっとミルクも入れてくるくるかき混ぜて、ゆ~っくりふんわり溶けていくのを眺めるんだ~」
「俺はコーヒーだな。昔『現実時間で300時間ずっとゲームが進行し続ける』っていう健康的に相当危険なレギュレーションで試合したことがあった」
「こわ~」
「寝れば寝るほど殺されるリスクが増え、起きてる時間が長ければ長いほど有利な試合だった。俺は定期的なログアウトの度に仲間から貰ったコーヒーを飲んで、それでなんとか乗り切ったんだ。コーヒーにはそこで随分と助けられた」
「コーヒーが命の恩人みたいな語り方だぁ~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○飲み物じゃなくてカフェインとして見てる
○コーヒーさんかわいそう
○目覚ましになる液体としてしか見てないよ
○アーカイブあったら見たいなそれ
○YOSHIってこういう大会の優勝歴も多いよね
いのりが錬金術師らしく複数の薬品をフラスコで混ぜ合わせ、混ぜ合わせた液体をシャッと振り撒く。するとそれだけで、YOSHIが敷いた家と門を繋ぐ歩道の左右に、色とりどりの花が咲いた。
この家を訪れる者達は門をくぐってすぐに、花に囲まれながら家に向かうひとときを味わうだろう。
【60.豆腐は絹ごし派?木綿派?】
「鍋とかに入ってる豆腐ってどっちだ?」
「もう既に区別がついてない~!」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○いのりお姉ちゃん助けてあげな
○教えてあげていのりお姉ちゃん
○鍋自体は普通に好きそうだなYOSHI
○手取り足取りだよいのりお姉ちゃん
○弟に鍋食わせてあげな姉ちゃん
「お姉ちゃんではない~気持ち的にはわたしがせんせ~の妹のポジションでありますよ~。あ、私はつるつるの絹ごし豆腐がお味噌汁に入ってるのが好きです~」
「絹ごし豆腐の方が硬そうだな。濁点多いし」
「……」
門と塀に、花と蔦を這わせて『洋風の城っぽさ』を出しつつ、祈りはまったりと絹ごし豆腐と木綿豆腐の違いについて語った。
【61.うどん派?そば派?】
「どっちも美味いが、強いて言えばうどん派」
「なんで~?」
「昔、そばを食う時にめちゃくちゃ千切れまくって全然食えなかったことがあった。うどんは切れない。うどんの方が俺に優しかった」
「……あ~」
いのりはうんうんなるほどと頷いた。
「そばは、あまりにも弱い……」
「弱いやつは嫌いってやつ~?」
「弱いから嫌いなんじゃない。弱いと俺が触れただけで気付かない内に壊してることがある。それは基本的に俺の力加減のせいで、弱いのが悪いとかそういうことじゃあない。ただ、もうちょっと強くあってくれと思うことはあるな……」
「なるほど~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○ここだけ切り抜かれて拡散されたらヤバそう
○脆い蕎麦=弱いプレイヤー説!
○悪意ある切り抜きは通報だぞ
○俺も蕎麦は切れやすくて苦手だな、細うどんも
○世界広しと言えど蕎麦の脆さを語ってる流れだけ切り抜かれて捏造されたら炎上する可能性があるのはYOSHIだけだろうな……
会話と並行して、いのりは庭の樹から謎のブランコを2つ吊り下げてうんうんと頷いている。
いのりのこだわりである。
【62.お酒は強い?飲めない?】
「たぶん飲まないな」
「わたしも飲まないかな~」
「俺は俺の人生に必要ないからだが、いのりもか?」
「んとねー……」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○まあ酒はね~
○そんな忌避しなくてもいいとは思います
○怖いっちゃ怖いですわ~
「Vliverを一番殺すものってなんだと思う~?」
「……? 『飽き』か?」
「おお~、鋭い答え~。そう言うVliverもきっといっぱい居るよ~。でも~、わたしがVliverを一番殺すものだと思ってるのは~、『自分の言葉』なんだ~」
「……自分の言葉か」
YOSHIは腕を組み、受け止めた言葉を咀嚼し始めた。
「誰かの悪口~、不謹慎な言葉~、思うのはいいけど言っちゃいけないこと~、誰かを笑い者にする目的の発言~、明かしちゃいけない秘密~、単純な暴言や差別発言~、現状への不満や苛立ち~、リスナーさんへの攻撃~、色々あるよね~」
「……パッと例示が大量に出てくるのが怖いな。Vliverの頭の中には常にそういうものに対する警戒心がある、っていうのが薄っすらと透けて見える」
「まあね~。でさ~、お酒飲むとつい口が滑ることってあると思うんだ~」
「ああ……それは確かにありそうだ」
「だからわたしは飲みません~。たぶんずっとね~。晩酌配信とかする人も居るけど~、ああいうのができる人って~、たぶん酒に酔って失言したことがない自制心の鬼な人だと思うんだよね~。わたしは不安だからしません~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○プロやな───
○いのちゃんならそう失言しないと思うけどね
○いのっさんのそういうとこ好きだよ
○技術が進歩しても40年失言炎上は無くならない
○『つい』で人生終わるのやばすぎるよね
「配信で皆が見てる中で言ったことは~、全部本当になっちゃって~、冗談が冗談と受けられないってことだって全然あるんだよ~」
「大変だな」
「せんせ~は他人事じゃないんだなぁ~」
「何?」
YOSHIが首を傾げた。
くすっ、といのりが微笑む。
「まうちゃんを~、誰も見たことがない所まで~、一番上まで連れて行くんだよね~? まうちゃんと約束してたところ、リスナーさんがみんな見てたんだよ~。トレンドにもなってたよ~。これが、配信者は発言が重いってやつなのだ~」
───どこまで行きたい? 俺が連れていく
───一番……上まで。誰も見たことがない所まで
いのりが、からかうように言うと。
「したな。連れて行くぞ、必ず」
YOSHIは、混じりけなし真剣100%で返答した。
思わず、いのりはYOSHIの真剣な眼差しに見惚れる。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○かっけー
○ホント迷いとか躊躇いとかが無い人だ
○無理だろうけど頑張ってほしい
○私はいのちゃんの先生を信じますよ
「俺が教導を厳しくやってるのは、まうがあの時そう願ったからだ。俺は約束を果たすために自分の全ての可能性をぶつけ、まうの願いを叶えに行く。勝たなきゃ怒るとまでは言わん。だが、俺はお前達を勝たせるために全力を尽くすつもりでいる」
「そっかぁ~、律儀だね~」
「別に律儀じゃない。お前が言いたいことと同じだ」
「……ふぅん~?」
「『言葉には影響があるから自分の発言には責任を持ちたい』ってことだろう。お前が言いたいことは、酒で失言して人生が駄目になるのが嫌とかそういうことじゃない。酒で自分の発言に責任が持てなくなって、失言を酒のせいにしたりするのが嫌だって話だろ」
「……おお~、なんかわたしの知らないわたしのことが発掘された~。確かに~、正確に言語化しようとすると~、そうなるかも~……」
「お前は、酒の勢いで誰かを傷付けて、誰かを傷付けたことを酒のせいにするもしもの自分を恐れている。無責任に一方的に他人を傷付けることを恐れている。無責任に誰かを傷付ける身内でも居たのか?」
「……かも~」
いのりは苦笑して、頬を掻いた。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○時々怖い人だ
○見抜く力が強いのかな
○しっくりくる指摘が上手いな……
○あんなポンコツだったのに
○あんな天然ボケ野郎だったのに
○こしあんとつぶあんの違いが分からないのに
「言葉の影響が持つ恐ろしさを正しく把握してるお前は間違ってない。人は注目されればされるほど、発言1つで周りに大きな影響を与えるもんだからな」
「そだね~、お互いに言葉に気を付けて生きていきましょ~」
「だな」
「せんせ~なんて~、気付かない内に周りを助けたりして~、気付かない内にかっこいいこと言って~、気付かない内に尊敬されたり真似されたりするもんなのよ~」
「いやいやいや……」
YOSHIが顔の前で手を振って否定する。
「昔せんせ~と会って~、せんせ~と話してその言葉に感銘を受けて~、困難を乗り越えて~、せんせ~に感謝しながら生きてきた少年とか~、そういうのどこにでも居そうなんだぜ~。そういう少年の感謝の気持ちを素直に受け取るのだ~、世界チャンピオン~」
「それ、俺関係あるか? たかだか少し話しただけで、献身的に世話をしたとかそういうわけでもないんだろ。俺と少し話したくらいで困難乗り越えたんなら、そいつはその少年の努力の結果だろ。その少年には成し遂げられる可能性があったって話だろ。その少年が偉大なんだよ。逆に俺が褒めてやりてえわ、そんなの」
「……ふふ~」
いのりがほんの一瞬の間に、懐かしむような顔をして、敬うような顔をして、やがて陽の笑顔を浮かべた。
「なんだお前、また急に機嫌が良くなったな……」
「誰だって自分の発言の影響と一緒に生きてるもんじゃないかな~。良くも悪くも~。ふふふ~」
「そりゃそうだろ」
「せんせ~もね~、自分の言葉の影響と、自分の言葉の結果の中に生きてるんだよ~。気付いたら周り全部~、先生の過去の行動の結果が反映されてるもんなんだ~」
「それはまあ……そうだろうな」
「そして~、自分の言葉の影響を知ったせんせ~はこう言うのだ~。『そんなことやったっけ?』」
「余裕で想像できるな……怖……」
「過去からは逃げられんぞ~せんせ~」
「怖いこと言うなこのレディは」
いのりはけらけら笑って、庭に大きな池を作って、きらきら発光する謎の熱帯魚をどばどば離した。
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