西暦2059年4月14日(月) 22:11
【38.あなたの趣味は?】
「ポシビリティ・デュエルだな」
「仕事は~?」
「ポシビリティ・デュエル」
「暇潰しは~?」
「ポシビリティ・デュエル」
「みんな~見て見て~これがPD世界チャンプの強さの秘訣だよ~」
屋根に色を塗りながら、陽気にキュートにいのりが笑う。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○こわ
○生き方と実績が一致してるの素直に尊敬します
○一途だから強いとかいう理屈
○ギャルゲヒロインでもここまで一途じゃない
「俺の回答は普通につまらんだろう。話が広がらないしな……いのりが趣味語りするのがいいんじゃないか」
「わたし~? あ、最近ね~、実はちょっと小瓶作ってるよ~」
「小瓶?」
「赤い塊を作って~、すり潰して砂にして入れて~。赤紫も作って~、すり潰して入れて~。次は青紫をすり潰して入れて~。その上には青い砂を入れてから、その上には青にちょっと白を混ぜたのを入れて~。綺麗なグラデーションになったら固めて動かないようにして~、蓋をして~、とかね~」
「女子してるな。女子の趣味で、男子があんまりやらんやつだ。見てないけど出来も良いんだろう」
「ありがと~、せんせ~の分も作っておくね~。流れる風にラメでキラキラの星みたいな小瓶~」
「え? いや俺は……」
「友達には一個はあげるようにしてるんだ~」
「……そうか。まあ……くれるって言うなら、貰っとく」
「ふふ~」
【39.休みの日はどう過ごしている?】
「ポシビリティ・デュエル。……もうやめねえか? 俺の人生のつまらなさを公共の配信に乗せるのは……」
「せんせ~! 逆に面白いから美味しいよ~!」
眉間を揉むYOSHIを見ているいのりは、何が楽しいのかにこにこの笑顔だ。今のYOSHIを見ているのが心底楽しい、みたいな笑顔。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○うける
○こんなに意外性無いのが面白い人いないよ
○安心感すらある
○強く生きてくれYOSHI先生
○19歳とかじゃなかったっけYOSHIくん……
「お前が頼りだいのり。話題を繋げ」
「休みの日にどう過ごすかって話題でこんなに困る人初めて見たよ~。でもわたしも~、配信か配信準備か収録か、みたいな感じかな~。あとはお買い物に行くとか~、エヴリィカの友達と夢の国に行くとか~? あ、一周年まで行ったら土日に同期で旅行行こうねって話もあったかな~」
「そんなもんか。まあでも、本気でやってる業界の奴らはどこでも土日に何かしらやってるもんだしな……」
「Vliverだと半年か一年に1日くらいしか休みを取らない人とかも時々見るもんね~。尊敬してます~」
「プロゲーマーだと実家に帰る奴も居たな。今思い出した」
「わたしんち、残ってないんだよね~。誰も住まなくなっちゃったから~、なんか売っちゃった~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○いのちゃんもよう頑張っとる
○スパチャでいいもん食べて
○いつも楽しませてくれてありがと~
「昔、日曜だけ駅前で子供にお菓子配ってる政府のAIアンドロイドが居たんだってな。話を聞いただけで結局見に行かなかったから、どういうのか見てもいないんだが……」
「! あったあった~! あのね~、あのロボット~、お菓子を渡した子供の顔を覚えてるんだけど~、6時間で顔の記録がリセットされるから~、1日に3回行ってた~! お菓子があんまり貰えない家で育ったから嬉しかったな~」
「裏技かよ」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○あったあった
○なっつ
○なんかの政策だったよね
○俺当時27だけど背が低すぎて貰ってた
○僕の5つ上くらいの世代が直撃世代だそうな
YOSHIが屋根に強度強化効果があるレタスのような形状の釘を打つと釘が消え、頑丈で壊れない屋根が完成する。
これで、家の壁と屋根は大まか完成である。
【40.疲れた時のリフレッシュ方法は?】
「正しい手順で食事を取り、正しい手順で眠り、正しい手順で思考を無にして規定時間横になる」
「言ってることは普通なんだけど~、なんか『正しい手順で』って頭に付いてるだけで普通っぽく無い感じ、まともな方法で休んでない感じがするんだよ~」
「いや……俺も君と同じ人間なんだから、普通に君と同じ休み方をしてると思うが……」
「この質問の意図がそうなんだけど~、人は疲れた時のリフレッシュに色んな娯楽の力を借りるもんなんだよ~。寝るだけじゃ取れない疲れってあるもんだから~」
「何? そうなのか? そんなに要るもんなのか娯楽。摂取すると楽しいから摂取してるだけで、別に無いなら無いでいいもんなのかと思っていたが……」
「ん~、必要ですねえ~。たぶん現代人の9割は娯楽の無い人生に耐えられませぬ~。しかも自分に最適な娯楽でないと死んでしまいます~」
「……それで、たとえば、生きていくために大量の娯楽が必要な人間とかはどうなる? 金がかかる娯楽を嗜好してしまった人間はどうなる? 一般的な人間に娯楽が必要なのがマジなら、娯楽が『消化』という側面を持つ以上、娯楽に過剰に金を使いすぎる人間も出て来るんじゃ……」
「そりゃ借金してソシャゲのガチャルートですよ~」
「借金して……ソシャゲのガチャ!?」
普段淡々としているYOSHIが、目に見えて困惑していた。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○狂人
○武人
○仙人
○禁欲の擬人化か?
○待てよガチャカスよりはYOSHIの方がまともだぞ
家周りに芝生の種を蒔きつつ、YOSHIは小難しい顔で眉間を揉んだ。
「今、俺の頭の中で色々と繋がった気分だな……漫画やゲームのサブカルチャーにノータッチだったせいで、娯楽方面の認知の結線、及び人間への理解が浅くなってたか……反省しておかねえと」
「なんだか~、人間を理解しようとしたけど理解するのに失敗して人間に倒されるエイリアンのラスボスみたい~」
「そうか? ……そうか?」
【41.ストレスの発散方法は?】
「いつかストレスを感じたらその時考える」
「こんな回答が来るんじゃないかと思ってましたぁ~!」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○わかる
○わかる
○「いつか考える」じゃないんだよ
○エイリアンのラスボスの回答だろ
○ストレスの自覚無いだけとかだったりしない?
「……まあ、待て。今検索サイトで検索したところ、生まれつきストレスを感じない人が居るみたいな記事が出て来たぞ。君が知らないだけでよく居るんじゃないか、そういう人間も」
「まとめサイトを真に受けんな~、いっぱい居てたまるもんか~、居ても少数派~」
遥か遠くのセンターで、『君は他人に利用されることにストレスを感じないけどそのせいで色々と安請け合いをして長期的には損をしてるんだからそれは長所じゃなくて短所だぞ自覚しろ愚かしさを』というコメントを『先生』が打とうとしたが、サイト運営によって先生のアカウントはBANされていた。
「仮に感じても、もう心配は無いだろうけどな」
「? なんで~?」
「ストレスエアプの俺でも分かる。いのりはそこに居るだけ、話しているだけで、相手のストレスを消していくタイプだ。戦闘技術抜きにしても、チームに1人は居ると助かるタイプだと思う」
「……えへへ~、褒め褒め星人じゃん、せんせ~」
いのりは照れ照れな顔になる。
家の周りに綺麗な観葉植物を植えるついでに、YOSHIの脇を肘でつついたが、YOSHIは足を10mくらいに伸ばして上空に退避し更なる脇つつきを回避した。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○だよな……
○分かる……
○同意です……
○YOSHI先生……
○いのりちゃんみたいな娘が欲しいんです
○なんだそのバカみたいな足は
【42.今ハマっているものは?】
「せんせ~、いつものどうぞ!」
「ポシビリティ・デュエル」
「ひゅ~!」
どこからともなく取り出した笛で、いのりがファンファーレを吹き出した。今年72周年を迎える、最後の幻想をテーマにしたRPGの戦闘勝利曲らしい。
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○PD回答持ちネタになってて草
○笑った
○ポシビリティデュエル妖怪
○そのままの君で居て
「凄いなVliverは。皆違うことにハマってるんだろう、こういう質問が成立してるってことは……」
「それを凄いことだと思うのはせんせ~以外に居ないんじゃないかな~、たぶんおそらくきっと~」
「かもしれん」
「1人にはさせないぜ~。わたしも今はポシビリティ・デュエルにハマってます~! せんせ~と同じ~! うり坊のみんな~、応援よろしく~! たぶんみんなももう既にちょっとばかり好きになってくれたせんせ~に恥をかかせないためにも~、精一杯頑張るぜ~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○がんばれ~
○応援しかできないけどするよ
○いつも精一杯頑張ってるよ
○楽しんで頑張ってほしいな、いつでも
「ああ。頑張れ、いのり」
少しだけ。
ほんの少しだけ。
驚いた時以外は淡々としているYOSHIの声色が、優しくなったように聞こえた。
【43.今一番欲しいものは?】
「強敵」
「わ、わぁ~……! わぁ~~~~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○リアルでこんなこと言うヤツ初めて見た
○嘘だろ……
○めちゃくちゃ爆笑してる
○週間連載バトル漫画のキャラ?
「強敵が育たないと自分を試せないんだ。どいつもこいつも何回か戦うと俺の勝率が5割を切らなくなる。俺が欲しいのは俺に7割勝ち越す奴……いや、俺に6割勝ち越すやつでいい。そいつが俺を圧倒する中、俺がそいつを倒すために研究と鍛錬を繰り返す形にしたい。俺が半端な立ち回りをしたら即時倒して、常に俺に"反省点"を与えてくれるような強敵が欲しい」
「せんせ~って勝ちたいわけじゃないの~?」
「勝とうとする意欲はある。だが、俺の真価が試されるのは俺より明確に強い敵との戦いだと思ってる。その点、ポシビリティ・デュエルは良い。誰もが無敵になれないがゆえに、誰もが俺を倒す可能性がある。数の差を作れば誰でも俺を倒せる。その敗北から、俺は学びを得ることができるんだな」
「……なるほど~」
「いのりは?」
陽の陽、と評すべき微笑みが、猪メイドの顔に浮かぶ。
「ずっと一番欲しいものというか~、欲しい未来があったんですけど~、もう9割くらい手に入ったからヘッヘッヘ~、やったぜ~、という気持ちです~」
「Vliverとして成功してる今か。なら、それは君の努力の成果だな。俺には未だよく分からない世界の成功者だが、成果こそが過程の努力を最も祝福するのは、どこも同じだと思ってる」
「ありがと~、今割と幸せです~」
いのりはにこにことしてピースサインを連打する。
庭を整え、家の中に入る光量を確認してから、2人は1階内部に入る家具を製作し始めた。
【44.人よりも語れるというジャンルは?】
「せんせ~の回答、当ててみせます~」
「ポシビリティ・デュエルだよ分かってんだろ」
「あ~言っちゃった~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○草
○分かりきっていた未来(さき)───
○そりゃ人よりは語れるよなぁ
「あとまぁ野球も多少はな。つっても、ここ40年でバランス調整のルール変更があったりしたらしいが……」
「せんせ~が生まれる前のルール変更が何か問題になるの~」
「……なる時もある」
「へ~。わたしは……あ。ビーズの種類とかいっぱい語れますよ~、大師匠~」
「ビーズ。噂では聞いたことがあるが……」
「なんでそんな遠い世界の話題みたいに語るの~!? ちっちゃくてクリアなシードビーズは可愛いねぇとか~、やっぱり女の子ならドロップビーズを使いこなしたいよね~とか~、今も昔も一番人気はスロフスキーだよね~とか~、わたしが一番好きなのはチェコビーズとか~、そういうお話をすることができます~」
「女子だな」
「女子です~」
「いや、マジで女子だなぁ……」
「女子なのです~」
YOSHIが置くと繋がる絨毯の布を敷き、敷かれた上にいのりが洋風冷蔵庫などを置いていき、流れ作業で一階のレイアウトを完成させていく。
【45.─────────】
「なんだこれは」
「気付いて~……しまったね~……」
「え、マジでこれなに?」
「これは版権にちょっと触れる感じの質問~……この質問100答は2010年とか2020年とかだったらセーフだったんだけど~今版権持ってる版権管理会社が厳しいせいで使えなくなってしまったのだ~」
「権利問題か。それなら確かにちょっとアレだな」
「一説にはVliverを一番殺すのは自分の発言~、二番目に殺すのは版権問題と言われるほど~。恐ろしいやで~」
「そんなにか」
「ちなみに版権問題がなかったらわたしの答えは『もしもボックス』でした~」
「なんで問題表示してないのに答えは言うんだよ」
いのりお手製の、緑に青の柄と金の刺繍をあしらったカーテンを、2人で窓に貼っていく。
【46.お寿司屋さんで最初に食べるものは?】
「『最初に回って来た寿司を無条件で食うのがうちのチームのローカルルールだ』って言われてきた。団体戦のメンツで食いに行った時は、炙りサーモンを最初に食うことが一番多かった気がする」
「わぁ~、Ghotiの裏話だ~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○どういうローカルルール?
○最初は白身魚からとかいうルール消えましたね
○今はサワラ、タイ、サヨリ、シラウオが美味い
○Vliverってやたら寿司屋とコラボするよな…
「わたしね~お寿司屋さんのお味噌汁がすき~いつも最初に頼んじゃう~」
「味噌汁……!? 美味いのか」
「美味しいよ~、あさりのお味噌汁とか~、捌いたお魚を出汁に使ったのとか~。お魚の頭が浮かんでるアラ汁とかはちょっと苦手かも~」
「そうなのか……勉強になる」
「せんせ~の好きなお寿司は何~?」
「寿司なんて全部美味いんだから腹一杯になるまでメニューの左上から順番に頼んでいけばいいんじゃないか」
「……最初に回ってきた寿司を必ず食べるルール~、せんせ~に色んなお寿司を食べさせようとする誰かの仕込みなんじゃないかな~、これ~」
「何?」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○蛮族
○好き嫌いなくて偉い
○メニューの左上からってことは安い順か?
○僕はえんがわが好きです
YOSHIが部屋中央に大きなテーブルを置き、いのりがパッパッパッと椅子を置いていく。
【47.海外旅行するならどこへ行きたい?】
「わたしね~、ハワイ行きたい~。綺麗な海の上をね~、借りた船で友達とぷかぷか漂いながら~、名前も聞いたことのないお菓子を一緒に食べるの~」
「いいじゃないかハワイ。俺は……ドバイとか、ベルリンとか、ロサンゼルスとか。あのへんの地区大会で面白いスキルセットの流行があるんだよな。実地で戦って肌身に感じておきたい」
「わぁ~答えがポシビリティ・デュエルに収束していく~」
「収束してないが」
【48.国内旅行するならどこへ行きたい?】
「わたしね~、夏の北海道に行きたい~。仲の良い人達と一緒に行ってね~、動物とかお花とか見て~、北海道のバニラアイスを舐めるのだ~」
「神奈川、愛知、埼玉、千葉、後は大阪辺りに行きたいな。元々この辺は東京に次ぐ人口があり、都市のベッドタウンとして成立した面も強い。だがポシビリティ・デュエルの勃興により、人口の多さは選手層の厚さに変わった。東京や大阪に近いことは大会会場などへのアクセスという強みに変わった。野良試合で得られる経験は、この辺りの県がとびきりに多いだろう」
「わぁ~答えがポシビリティ・デュエルに収束していく~」
「収束……して……な……たまたまだ」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○おもろすぎる
○各土地への理解が深すぎる
○デート下手そう
○旅行下手そう
○世界全てが戦場に見えてるタイプの人?
置いておくだけでゲーム内効果がある食器の数々をいのりがぽんぽんと作って並べ、いのり製の食器棚にYOSHIが並べていく。
【49.宝くじにあたったら何をする?】
「どっかの慈善団体に寄付するか、少子化対策センターの予算にするか。ああでも、昔半国営企業にe-sports振興のための寄付求められたこともあったな……そういうとこに渡すかもしれない」
「おお~……聖人だ~、聖人とはいい人という意味~」
「いや、そもそも金渡されても困るんだ俺は。どう使えば良いのか分からんし、金が必要な人生をしてないしで。生活費があればいい」
「金が必要な人生をしてない、一生に一度くらいは言ってみたい言葉じゃ~」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○わかる
○この台詞に嫌味が感じられないの凄いな
○金があってマジで困ってるって声をしている
○まあ、この人、仙人だもんな……
「この前のEU国際大会の賞金も先生に自由に使っていいって言われてて困ってるんだよな。500億円くらい。税金とかで減ってるけど要るか? いのり。この家の代金として。俺は500円くらい貰えてればいいんだよな……500円ありゃコンビニのお菓子がかなり買えるし……」
いのりは、人生で3指に入るくらいびっくりした。
「!? だめ~! いけません~! お金はそういう使い方や渡し方をしてはいけません~! よくないとこだよせんせ~!」
「そうか……」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○俺もびっくりだよ
○この人なんか危なっかしくない!?
○たぶん冗談とかじゃなかったぞ今の
○やばい、マジでイメージ通りの人だこの人
【50.地球滅亡まで残り1日、何をする?】
「わたしは~……一緒に居てくれる人を探して~、その人と最後の時間を一緒に過ごすかな~。いっぱい楽しい時間を過ごして~、いっぱい『これまでありがとう』って言うんだ~」
「いいな。いのりらしいと思う」
「せんせ~は~?」
「俺か? 俺は……」
いのりが模様の付いた光の玉をクラフトし、それを更に室内灯に加工する。
「地球の滅亡に挑む。俺が勝つか、滅亡が勝つかだ」
「───」
いのりが作った部屋の明かりを受け取り、YOSHIはさらりとそう言った。
それは、いのりが心のどこかで期待していた、YOSHIらしい120点の答えだった。
「俺の中に世界を救える可能性があるなら、結果論で世界は救われるだろう。そうでないなら世界も俺も死ぬだけだ。俺が俺を試せば、勝つか負けるかは勝手に決まる」
「死ぬ前にやりたいことがいっぱい~、みたいなの無いんだね~」
「俺にその程度の可能性しか無いなら、そこでさっさと死ねばいい。俺にできるか、できないか。俺は勝てるか、勝てないか。俺の可能性の実体に沿って、挑戦が答えを導き出すだけだ」
コメントが流れる。
コメントが流れる。
いのりはどこか楽しそうに、YOSHIがYOSHIらしく語る姿を見つめている。
「ふふ~。せんせ~のマネした人が世界の滅亡に挑んでも~、皆途中で出来ねえ~って投げ出しそう~」
「俺以外の誰かができないと誰かが決めたのか? 俺が滅亡に挑んで負けた後、どっかの誰かがあっさりと滅亡に勝つかもしれないだろう。俺以外の人間には、俺とは違う可能性が満ちている。それが人間だ。だが、投げ出してしまったらどんな可能性を持っていようが、何も成し遂げることはできない」
いのりから受け取った明かりを、YOSHIは伸ばした腕で天井に埋め込む。
「できないと決めたのはそいつだ。挑みもせず、自分の可能性も試すこともせず、全身全霊でぶつからない人間は、自分の可能性を知ることがない。自分がどこまで出来て、どこまで出来ないか、それを知ることもないまま死んでいく」
「……」
「もっとできるはずだった奴が、言い訳して半端者になっていく。本気を出しても大したことのないやつが、自分の無限の可能性を無根拠に信じて怠惰に沈んでいく。俺以外がそういうものに成り果てるなら別にいい。だが俺は、自分がそういうものに成り果てることに耐えられない」
カチッ、と明かりが天井で輝き。
「俺は死ぬまで何かに挑み、自分の可能性を試し続ける人間で居たい。極限の向こう側で自分を試していたい。俺が知りたいのは、俺の可能性の限界にある極点だけだ」
光がYOSHIの全身を照らした。
「『俺にはできない』と言うのは、困難に挑み、自分を試し自分を知ってからでも遅くはないはずだ」
眩く輝く星を見上げるように、いのりが僅かに目を細める。
「うん~、そうだね~、本当にそうだ~」
「本当に分かってるのか?」
「うんうん~、分かってるとも~」
伊井野いのりは、彼と再会してから、毎日のように思い出す。
彼女がまだ伊井野いのりでなかった頃、彼と初めて言葉を交わした日のことを。
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