西暦2059年4月13日(日) 13:42
西暦2059年4月13日(日)、13時42分。
配信開始から2時間以上が経過し、それでようやくYOSHIによる基礎の基礎の教授は終わった。
「とりあえずここまでが基本だな。基本の復習と、応用に含まれる基本的な範囲は今後適宜教えていく感じで行こう。少し休憩したら最後に教えた内容を反映した基礎練習をするから、それで終わりにしよう」
「せんせ~、お疲れ様だよ~」
「ああ。いのり、まう、東郷もお疲れ様だ。俺が話した内容を適宜確認しても、3人とも覚え損ねている箇所が1つもなかった。君達は俺にはもったいない生徒だよ」
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○いったんおつ~
○本当によく褒めるな
○いのちゃんおつかれ~
○初心者ですがメチャ楽しいです!
○後で初心者wikiも検索して見ておこうな
会話が交わされて、コメントが流れて、それぞれに意志と言葉の流れがある、不思議な空間。それが配信。
まうはとことこと歩み寄って、YOSHIの隣で話しかけた。
「ふぅー。すまへんなヨシ。自分で見てもそんな覚えが良ぅない方でな……あんたが見慣れた天才と比べたら、覚えは雲泥やろ」
「いや、十分だ。俺が知る限り、俺の同年代で君達ほどの集中力をもって教えを受けようとしていた人間はほぼ居なかった。基礎練を嫌がり、地味なアクションの最適化を嫌い、チョコパイを餌にしないと話も聞かず……」
「それはあんたが公式戦デビューした頃の同年代の思い出話やろがい! 全員小学生やろ! 同年代は!」
「……それもそうか」
「というかヨシお前……もうええわ。褒められたことは純粋に嬉しいしな。あんがとサンキュ」
まうが歯切れの悪い言い方をして、それに"らしくない"と思ったのはこの場にいのり1人だけ。
いのりは怪訝に思い、配信中連絡用のフリーチャットアプリを思考起動。思考入力を起動して、ダイレクトメッセージ画面からまうに問いかけた。
配信にも映らず、YOSHIにも見えない、皆の前での堂々とした内緒話である。
『へいへいまうちゃん、何をそんなにカリカリしてるんだい~?』
『おま何いきなり……いや、これはヨシは悪くないねん。あの時期にポシビリティ・デュエルやってたヨシと歳が近いやつはな、みーんな親に"ヨシくんみたいに真面目にちゃんと頑張りましょうね"って言われとってなぁー。勉強でも、運動でも、ポシビリティ・デュエルでも……』
『あ~~~、ひどくない?』
『親も悪気は無かったと思うんやけどなぁ。ほら、ニュースとか報道もヨシを"この年代の子供で一番優れた子供"みたいな扱いしてたやん? すると大人もみーんなそういう扱いするもんやから、事あるごとに「彼を見習いなさい」とか「彼はちゃんとやってるから結果が出てるのよ」みたいなこと
『ひえ~、そういえばちょっと覚えあるかも』
『親の言うことが絶対正しいって思う子もおれば、反発する子もおるのは当然やろ? で、親に反発した子供は親に叱られとーなくて、親に見放されとーなくて、親に嫌われとーないわけやから、全部ヨシが悪いってことにし始めたんやな』
『うわぁ』
『つーかうちもしてたわ! ヨシが悪いっちゅうことに! おかげでヨシは同年代にも嫌われて、嫌われて、もー嫌われとってな。親にいいとこ見せたいガキ負かして、勉強しとうないからプロゲーマーになりたいっちゅうガキ負かして、親に期待されとるガキ負かして、負かした相手全員に嫌われてな』
『か、かわいそ~……』
『試合が終わったら友達ですぅーとか全く無くて、いつもなんか距離取られとったわ。試合したこと無い奴らからは他人事の尊敬向けられて、あとは大人にばっか好かれとったな。ガキの内はどーしても勝てない相手が嫌いでしゃあないねん。親に「YOSHI君を見習いなさい」言われて「あいつは天才だから頑張ってねえんだよ!」とかまで言うガキまでおってなぁ』
『か、かわいそ~~~!』
『まあ……でも……』
『?』
『なんかたまに……当時のうちにはその背中が……なんとなく寂しそーに見えることもあって……』
『お~?』
『なんでもあらへん。これだから思考入力チャットはダメやな、よくないよくない』
『よくないことなんてないよ~』
さらりと皆の前で内緒話を終え、チャットを切断する2人。いのりとまうが言葉無く微笑み合うと、YOSHIの黒目だけが一瞬まうの方を向いた。どこまで見透かしてきそうな、底の底まで見通す瞳。そうして他人を理解して、理解した内容を使っていずれどこかの試合で不寝屋まうを倒す───そういうことをするのが、YOSHIという男。
まうはニッと笑って返す。
この目に怯えている内は、YOSHIのライバルになることも、YOSHIに勝つことも、自分という個人をYOSHIに刻み込むこともできないと、分かっているから。
「いのいのはまっさらな状態から基本を入れとるから大変かつ楽? みたいな感じやろけども、うちの場合もちょっと面倒やなあ。クソにわかネズミチューチュー中途半端はいつものこととして、覚えた基礎を一旦忘れてYOSHI流基礎を染み付かせるのはちょいとめんどいな」
「え~? 頑張って覚えた基礎があるなら、忘れなくていいんじゃない~? もったいないよ~?」
まうは目を丸くする。
「いやいやいや、必要やで! 『デイビッド式メソッド』とかあるやろ!」
「でいび……?」
いのりは可愛らしく小首を傾げる。
「『戦術の基本思考が一致する者達で組むチームは強いので同じ基礎を習うべき』っちゅうシンプルな理論や! ヨシ、解説頼む!」
「え、俺? まあいいけど」
「お前がやらなきゃ誰がやる! 僕は見てるよ」
「うちも見とるで」
「わたしは聞く~」
後ろでやんややんやと賑やかしをする東郷とまうに何となく釈然としない気持ちを抱えつつ、YOSHIはにこにこしているいのりに解説を始めた。
YOSHIは今日一番に語り難そうな表情をする。
「今日、最後に言うつもりだったけど。俺は今日、君達にこう言うつもりだった。『まず一ヶ月俺の言うことの正しさを疑うな』ってな」
「ほーん」
「うわ~お」
「フォックス自分の感覚を信じろおじさんか後ろの敵をなんとかしてよカエルか……」
YOSHIは発言の傲岸不遜さとは裏腹に、自分の考えが絶対的に正しいだなどと思っているわけではなさそうだった。
「って言うのもな。世の中には無限に近い数の正しさがあるんだ。そしてどれが正しいかを見分けるかには、途方も無い時間と労力がかかる上に結果論で語らないといけないことも多い」
YOSHIは甲子園球児だった前世から覚えがある。
球児だった時も、競技者になってからも、配信者の一角となって記事やコメントを見るようになってからも、YOSHIはずっとそれを見てきた。
人は、教えたがる。
そして、基準になりたがる。
かつ、何の悪意もなく真理に気付いた気分になってそれを触れ回る。
───今の流行りの投球フォームはこれ
───メジャーリーグのセオリーはね……
───あーダメダメその打ち方は古いよ
───打撃で点を取るのが一番大事だ
───守備で失点を防ぐのが一番大事だ
───今の野球は走れない選手に意味はないよ
───私の言うことはプロの本の引用なんだ
───これはメジャーリーガーの話でね
───伝説の名将のインタビューの一節なんだが
───ちゃんと攻略wiki見てる?
───県大会優勝者のツイートくらい見なよ
───初心者は絶対これに沿いなさい
───風は使い難いからやめなさい
───君の才能は別のスキルの方が伸びるよ
───風遣いで日本王者になった人はおらん
───環境研究はいい、地力を鍛えなさい
───環境研究に一番時間を割かないと勝てない
───強いなら堂々と小細工無しで勝ちなさい
───リスナーのコメントはちゃんと聞こう?
───リスナーの言うことなんか聞いちゃダメよ
───SNSの反応はちゃんと見ていかないと
───流行りのRPGは最速でやって話題を作ろう
───流行りに乗っかってばっかだと埋もれるよ
───今はレトロゲームが環境トップ
───名作RPGから配信してかない?
───対人ゲー配信で強さを個性にしよう
───映画同時視聴で人気コンテンツに乗ろう
───料理配信はもうやらないんですか?
───雑談配信でリスナーのコメントと会話して
───事務所の先輩にコラボ配信頼みな
「周囲の人間に無数の意見があって、検索をかけた時に無数の意見が出て来る状況で、『何が正しいか』を選別していくのは滅茶苦茶に疲れるし、そうして選んだ正しさが正しいとは限らない。俺はこういう世の当たり前が、相当に最悪だと思ってる」
それは、地獄だ。
正しさの洪水が作る地獄。
この世界には、無限に近い数の『無責任な正しさ』で満ちている。
そして、人はそこで溺れ死ぬ。
野球でも。
配信業でも。
ゲーム競技でもそうだった。
風成善幸はそれを知っている。
見てきたからだ。
親戚のおじさんの助言で投球フォームが崩れていくライバルを見てきた。
息子のために一生懸命調べてきたと自称する父親の強いる指導で沈んでいく天才球児を見てきた。
大人にYOSHIみたいになれと言われて使えない風を押し付けられる子供を見た。
元々自分が持っていた強さを見失い、スランプの中でネットの言う『平均勝率最高スキルセット』を真に受け、元に戻れなくなった青年を見た。
関東トップクラスの実力者であったのに、YOSHIに(子供に)ボロ負けしてどうすればいいのか分からなくなり、コメントで教えられたバランスの悪いスタイルに気付かず路線変更してしまい、そのスキルセットで一回二回勝ってしまった成功体験に振り回されて『強くなった』と勘違いしてしまって、自分を改めることもできなくなって大会にも残れなくなった男も見てきた。
YOSHIは昨日の不寝屋まう100人対戦前に軽く検索した際に、配信の世界にも事務所やリスナーの言うことを聞いて自分を見失う者は居るということを認知している。
「人の話も、ネットの検索結果も、その中からどうやって正しさを探す? 『信頼してた親の話』や、『検索で一番上に出てきた結果』が致命的なほどに間違ってたという経験をした時、次は君達はどの正しさを頼りにする?」
今日の配信一回だけでも、数え切れないほどの『助言』は溢れていた。
溢れるほどある助言の中に、満ち満ちるほどの『善意』があった。
それは決して悪ではない。
悪ではないが。
人は、そこで溺れ死ぬ。
誹謗中傷でもなんでもない、ともすれば善意しかないような助言の海で、人は殺されるのだ。
そして、溺れ死んでいった『本物の天才達』の横で、人は言う。
『最初から才能無かったんだよ』。
『天才だったらそんなことで終わらないでしょ』。
『才能があれば人の言葉なんかで潰れない』。
『意見を出しただけじゃないか』。
『結果だけで俺達の論の正しさを語るのか?』。
『配信者は色んなものを参考にして自分の方針を決めて、最終的に浮くも沈むも運次第なのが普通だぞ』。
正しさの海は、無責任に満ちている。
正しさの海は、いつも無数の落第者の人生を飲み込んでいく。
正しさの海は、無くならない。
各々が語る正しさに正当性の肯定など見えず、もっともらしく見える正しさが幅を利かせ、人が自分の信じたい正しさを信奉して、誰も幸せにしていない『勝つ方法』『成功する方法』が世に満ち、純粋な強さを測る試合で山程の人が朽ちていく。
「君らは心当たりないか? 誰かの言うこと聞いてああ間違ってたなーってなったこと。何か大きな失敗して、あの時あの意見を聞いておかなければよかったなって思うこと。また逆に、ネットに書いてあることを真に受けて失敗して、あの時あの人の言う通りにしておけば良かったなって思うこと」
「あーあるわあるわ! リスナーの言う通りにしたらめっちゃくちゃなピタゴラスイッチみたいな死に方したことあるぅ! 切り抜き動画作られて一ヶ月くらいめちゃ笑いものにされたわ! おんどりゃあああああ舐めしくさってえええええって思ってたんやけど後から自分で自分の醜態見て笑っとったわ」
「ちょっと違うかもしれないけど~、食いログで近所の美味しそうなお店を探してご飯食べに行ったら~、3回連続で美味しくなくて~、もっと調べたらなんか2055年くらいからお店が運営に払ったお金の額で評価の数値が決まる仕様になってたらしくて~、悲しくなっちゃって~」
「僕もコメントが正しいか間違ってるか判断するのにもう疲れちゃってェ……全然動けなくてェ……」
YOSHIは直接的な言葉を選ばず、されど経験がある人間には絶対に分かる言葉を選び、淡々と『正しさの海で溺れる人間』『無自覚に正しさの海を作る人間』について語った。
コメントも徐々に、体験から来るYOSHIの実感的な語りに引っ張られて行く。
_________________
□うちのコメントチャット▽ ︙
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○チーズズ、反省しろ(責任転嫁)
○その節は大変申し訳なく……
○バージョンアップで仕様変わってたんだよね
○指示厨は誰の中にも居るのだ
○いつでもまうちゃんの好きにやってほしいな
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□いのりへのコメント~▽ ︙
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○全員肝に銘じろ~
○言うてなくなんないよね指示…本当に…
○正しさが多すぎる、か。考えたこともなかった
○今対戦wiki十個くらいあるもんねポシデュエ
○俺らのコメントよりYOSHIの言うことを信じて
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□東郷視聴者集会所▽ ︙
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○何リスナーのコメントの被害者面してんだ
○東郷お前コメントの言うこと聞いた事ないだろ
○ツラのカワ何kmあるんすか? ウケる
○次のモスラ映画の敵はカスラ。お前のことだよ
○しれっとコメント被害者の会に混ざるな
YOSHIは一呼吸置いて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「だからこそ、だ。俺は教導にあたって、俺の考える基本的な正しさを叩き込むつもりでいる。俺の言うことに絶対的に従う必要はない。状況に応じて俺が教えたことを無視してもいい。だが、もしどの正しさを選べばいいか迷った時、即座に俺が叩き込んだ正しさを選ぶ癖が付いたなら、それで勝てる試合もあるはずだ」
経験者のアドバイスから来る正しさがあって。
ネットで検索して見た正しさがあって。
コメントに教わった正しさがあって。
初心者が"ここでどうすればいいんだろう"と迷ってる内にやられるくらいなら、『YOSHIに教わったことを信じよう』で即座に決め打ちできる方が、トータルでの勝率は高くなる。
「『世の中には人の数だけ正しさがある』。少年漫画ならしょっちゅう見てそうな言い草だ。だけどそれを本質的に理解するには時間がかかる。無数の無責任な正しさの海で溺れてみて初めて意味が分かる言葉だ。無数の正しさには相性すらあり、ある正しさに勝つ正しさがあり、その正しさはまた別の正しさに負けていくこともある」
『俺はこれで勝ったから君もやってみな』と語られた正しさに倣って、試合に勝った人が居て。
その人が、『これが今の一番の流行りのスキルセット!』というまとめサイトの記事を真に受けた人に負けて。
まとめサイトスキルセットの人が、『○○ちゃんってこのゲーム得意だからこのゲームっぽいセットでいいんじゃない?』というコメントを真に受けたVliverに負けていく。
全てが、形の違う正しさの群れ。
「無数の正しさが存在することの本質的な恐怖とは、『どれかの正しさには従わないといけない。1つ選べ』と問われた時に発生するものだと、俺は思う。何も選ばないことが許される人生ってのは、実際そんな多くないから」
「……っ」
YOSHIの言葉が流れる中、3人の誰かが、音もなく息を呑んだ。
「正しさを1つ選ぶのは時間がかかり、ひどく疲れて、しかも結果が出るまでそれが正しかったのかも分からない。正しい積み重ねをしていたのに負けて何も手に入らないこともある。10年以上の努力が正しくなかったことさえザラにあるのが競技者の世界だ。名前も知らない奴のアドバイスを真に受けて人生が台無しになる配信者だって居るだろう。だけれども」
もしも、『どの正しさを選ばせるかを指導できる』立場に、原作という参考資料を持つ鬼才が立てたなら?
「基礎を教える立場の俺が、ひとまず正しさを選ぶ責任を負う。同じ正しさ・同じ基礎を骨身に染みつかせ、チーム全体で基本的な認知を共有し、その上でそれぞれが違う考え方を持つ……同じ人から同じ基礎を習った者だけでチームを組むと、そういう強さが持てるんだ」
「……なるほど~~~」
伊井野いのりは、深く頷いた。
「それで負けたら、俺が教えた正しさが全て間違っていた、でいい。俺の教え方が間違っていた、でいい。他の誰の責任でもない、俺の責任だ。君ら3人には熱意があり、集中力があり、発想に才覚が見える。これで何の結果も出せないようなら俺の教導が悪かったと結論付けていいだろうよ」
「見ろよリスナー! この過剰なまでの責任感、僕は感動した! YOSHINADは人生だよ! クソ忙しいはずのトッププロゲーマーがわざわざVliverにゲーム教えに来た上で勝たせられなかったら自分のせいとか言ってる責任感! 別にこの人のせいになるわけでもないはずなのに! これ以上の芸術品は存在しませんよこれは」
______________
□東郷視聴者集会所▽ ︙
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
○合唱コンクールの委員長に匹敵する
○気楽にやってほしいっすねえ
○こんなYOSHIに丸投げしようとしてた男が
○丸投げしようとしてたカスがいるってマ?
○負けたらアチャ太郎のせいでいいよ
YOSHIは思っていることをそのまま口にした。
それを東郷が発言によってコントロールして、また結果如何に関わらずYOSHIが責められない流れを構築していく。
YOSHIは、無数の正しさが乱立する原因である人々の無責任な正しさ語りに言及したが、東郷は意識的に『結果がどうあれ誰にも責任はない』という流れの方に持っていこうとしている。
そこにあるのは、いい意味でも無責任。
誰も責めないための無責任。
最終的に東郷が作ろうとした空気と流れが根付いた辺り、トーク力と場のコントロールにおいては東郷がYOSHIに勝っているようだ。
ふぅ、とYOSHIは一息吐いて。
「……俺達は、同じビジョンを見て、違う手段を考える。全員が同じ基本を倣ったから思考を重ねられる、全員が違う考え方をするから様々な敵に勝てる。このチームは、同じ思考と違う思考のいいとこ取りができるチームにしていこう」
「あいよー」
「は~い」
「禿同」
野球ならば監督など、競技者ならばチームリーダーなど、Vliverならば事務所などが、叶うならば果たすべき1つの責任がある。
それは、正しさの海で指針を示すこと。
それは"絶対に間違ってはならない"というほどのものではないが、絶対に在り続けなければならないものではある。
傘下の者達が、迷わないように。
「さて、少し休憩を挟んで」
少し、休憩を挟み。
数分の雑談を経て、最後の〆に。
「これで合同練習の締めとしよう。今日教えたことを実戦的に使えるかどうか、それを試す」
YOSHIが腕を振ると、トレーニングフォーマットに沿って、無数の銃・剣・槍・杖などがその場に大量に降ってきた。
同時に、まう達3人の手元に、スロットにセット可能な無数のスキルリストが送信されてくる。
「!?」
YOSHIの姿もまた変わった。
否。
一秒ごとに変わり続けている。
右手から板状のシールド、球状のバリア、攻撃を押し出す不可視のフィールドが次々現れる。
左手から自力で空を飛び主を守るバリアビット、伸縮自在で主を守る防御の如意棒、攻撃を自動で打ち落とす鋼糸の束が次々と現れる。
そして体も、風、炎、水、煙と次々変わっていく。
されど、組み合わされるスキルは3つだけ。
「俺が問題にあたるスキルセットを使う。正解にあたるスキルを選んで、俺に当てろ。当てられたら俺は次のスキルセットに切り替える。十回当てられたら、今日の合同練習は終わりだ。分からなくなったらコメントと相談してもいいぞ。……その大衆の声に、振り回されない自分を見せられるなら」
YOSHIが『絶対力15以下のスキルを無効化するペガサス』に変身して飛び上がったところで、3人は最後の〆の内容を理解した。
「いのいの、その銃やない、その隣の銃や! 絶対力高い防御を貫くために絶対力高いライフルを選んで撃てっちゅうお題や!」
「あっ、分かった! アチャ~君、せんせ~が水に変化して動いてる時は電気当てれば良いんだよ~! さっき使ってた雷の変化力のスキルの剣どこ~!?」
「だから僕を失敗の溜め息みたいな感じに呼ばないでくださーい! あっヨッシー消えた……えーっと透明化には魔眼だ魔眼! 知覚力上げろォ! まだまだ僕も心眼が足らぬ」
「自動追尾弾ー! 同調力高い銃そのへんに転がってへんか!?」
「うわっ鳥になったせんせ~はや~……あ。破壊力と維持力が高いと広範囲を攻撃できる爆弾になるんだっけ~? よーし」
「コメントうるせー! それは絶対に正解じゃねー! あ、ごめんなさいコメント様。それで合ってました。僕は時代の敗北者じゃけえ」
4人揃っての初めての配信は、そうして終わるのだった。
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