西暦2059年4月13日(日) 11:55

 YOSHIの手の上で、くるくると無数の光が回っている。

 宝玉のような光だ。

 洗練された玉の軌道は、まるで掌の上に太陽系を模しているかのよう。


 ポシビリティ・デュエルの上級者はよくこうして、『真球に近い光の玉をいくつも作る』『玉の光量を全て一定にする』『複数の玉を別々の軌道かつ等速でコントロールして飛ばす』『複数の作業を並行して行いつつイメージをブレさせない』癖を付けている。

 作業のついでにハンドグリップで握力を鍛える癖をつけたアスリートのように、手慰み感覚でイメージ力を常に鍛える癖が付いている。


「ポシビリティ・デュエルの全国大会や世界大会では、フィールドルールが一戦ごとに変化する。同型ダンジョンの一番奥にどちらが速くつくかを競う『ダンジョンアタック』。船・車・飛行機などの乗り物に乗って互いに妨害しながらゴールを目指す『ヒッティングレース』。互いに基地を作って、先にどちらの基地を破壊できるかを競う『ブレイクベース』、その他諸々……」


 YOSHIの手の上で回っていた光が四方八方に飛び去って、1つ1つが小さな花火になって弾けた。

 誰かに見せようとしてそうしたわけでもない、YOSHIの手癖じみたお遊びに、いのりは見惚れる。


「せんせ~、女子にモテるでしょ~」


「ねえよ」


 まうが一瞬、目を殺人的なほどに細めた。


「フィールドルールの多様さ、戦術的選択肢の問題、諸々の理由であると助かるのが『ビルド系スキル』だ。壁を作ったり、拠点を作ったり、フラッグ争奪戦で旗を覆ったり……物を作るスキルには、それ単体に無限の可能性がある。事前に話を聞いていた分には、ビルド系の才能がありそうなメンバーが1人居るって話なんだが……」


「あ、それたぶんいのりちゃんのことです~。せんせ~に教わっていっしょけんめ頑張るから応援よろ~」


「君か。よろしく頼む」


「おまかせ~!」


 YOSHIの期待を受け、いのりはふんすふんすと気合いを入れていた。



________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○いのいのビルド枠か

○サグラダファミリア作ってたしな…

○いのちゃん頑張って

○後方サポは重要だよね

○YOSHI先生も結構考えてるんだな




 まうは腕を組み、首を傾げた。


「ヨシなら建設でもなんでもできるんとちゃう?」


「ビルド系は独特のセンスが要る。戦場で必要なのは状況に応じた最適なビルドだが、俺ができるのは暗記した設計図通りの建設だけだ。設計図とかを用いないと……豆腐しか作れん……」


「あ~~~」


「久々にワロタ」


「YOSHIにも苦手な事あるんやなあ」


 豆腐。

 クラフトゲームなどで定期的に作られる、正方形型住居である。

 バカでも作れるため初心者がまず作ることが多い構造だが、外観や機能性の問題で皆いつかは卒業していく形状である。

 しかしながら、センスが足りていない者はいつまで経っても真四角真四角な豆腐しか作れないという。


「まあ、ともかく。俺が最初に破壊力の高いスキルの説明から入ったのは、高破壊力のスキルは拠点破壊や防壁破壊に使われることが多いからだな」


「せやな、確かに」


「ビルド系スキルは小さなものを作る場合は絶対力を反映するが、大きな物を作る場合はフィールドの自然物をそのまま巻き込んで使うから絶対力を反映しない。絶対力10のビルド系スキルで小さな盾を作れば、絶対力1のビームを絶対に防げる。けれど絶対力10で周囲の土をそのまま巻き込んで作った城壁は、絶対力1のビームに大半を吹っ飛ばされることがある。スキルに巻き込まれて形を変えた土はただの土だからだ。高破壊力の攻撃は、だからいつも需要がある」


 YOSHIの手の上で光が踊り、また光が文字列を作る。



【形質:大火力ビーム】

破壊力:20

絶対力:0

維持力:10

同調力:0

変化力:0

知覚力:0



 教導は『教わる方の理解度』によって適宜調整を行わなければならない。YOSHIはその洞察力で"理解している・していない顔"を見抜くことができたが、彼女らの顔に見たものに確証を求め、手探りの確認をした。


「いのり。仮にこのビームを敵が撃ってきたとして、どう防ぐのがいいと思う? 気軽に答えてくれ」


 YOSHIはただ最強なだけの、まだまだ未熟な教導者ゆえに。


「え、わたし~? うーん、絶対力が高い方のスキルが勝つんだよね~? じゃあ、絶対力1以上のおっきなバリアとか、そういうので防いじゃったらいいんじゃないかな~?」


 "答えられるだろう"というYOSHIの期待に、いのりが的確な答えを返して、YOSHIが頷く。

 "よかった"と、YOSHIは内心ほっとした。

 "あってた"と、いのりは内心ほっとした。


「当たりだ。俺の説明をちゃんと聞いて、自分でちゃんと考えて答えを出したな。偉いぞ」


「えへへ~」


 YOSHIはパパっと、左手でいのりが答えた通りのバリアでまう・いのり・東郷を包み。



【形質:半球バリア】

破壊力:0

絶対力:1

維持力:29

同調力:0

変化力:0

知覚力:0



 右手で、今話題に上がっていた大火力ビームを放った。

 YOSHIが放った破壊力20絶対力0の大型ビームが、YOSHIが広げた絶対力1のバリアにいとも容易く散らされる。

 鋼鉄の大型恐竜を一撃で蒸発させた攻撃が、まるで羽毛の一撃かと錯覚するほどであった。


「今一瞬僕達マジで死ぬかと思ったザウルス」

「突然恐竜風味出してくるんやな東郷お前」


「こうして、巨大鋼鉄恐竜を一撃で倒したビームでも、いとも容易く弾かれてしまうわけだ」


 煌めいた目で、いのりがバリアを見上げる。


「お~、すげ~。わたしこのバリア持つ~」


「即決だな、いのり……」

「これがいのいのの持ち味やで」

「判断が速い天狗が出てきちゃいますなぁ」


 古今東西、対等の条件から戦闘がスタートする場合、防御側より攻撃側が有利であるとされる。

 防御だけで勝てることはなく、勝つには攻撃が必要であるからだ。

 防御側が有利を作るには、城などの防御拠点が必要である、というのが常道的な考えである。


 しかしスキルの世界において、防御に徹したスキルを無理矢理に貫通することは非常に難しい。


 点数を30点、全て絶対力に振ったシールドを敵が展開したとする。

 だが、これに絶対力30のビームをぶつけても相殺されるだけ。

 そも、破壊力0絶対力30のビームなど敵にぶつけても何の意味もない。


 ここに通常の戦争とは絶対的に異なる法則性が存在する。

 ポシビリティ・デュエルは、バランスを取るためにある程度防御優位のゲームデザインが成されているのだ。


 攻撃側は悩む。

 破壊力が高くなければ、相手を一撃で倒せない。

 絶対力が高くなければ、スキルが打ち負かされて敵まで届かない。

 維持力が高くなければ、接近しなければならず反撃されやすい。


 防御側は悩む。

 絶対力が高くなければ、敵の攻撃を防げない。

 維持力が高くなければ、全身を守れなかったり、一瞬の防御の後を撃たれる。

 知覚力が高くなければ、遠くの敵からの攻撃をそもそも気付けない。


 破壊力、絶対力、維持力。

 3つ合わせて基礎3種。


 破壊力11絶対力9のビームは絶対力10のバリアを貫通できないが、破壊力9絶対力11のビームならそれを貫通できる。

 けれど、破壊力10絶対力1で大爆発を起こすビームを作れば、絶対力30の盾型バリアの向こう側を大爆発に巻き込んで倒せるかもしれない。


 絶対力10の全方位バリアは絶対力10の拡散ビームを防げるが、絶対力10の収束ビームを防げず貫通されてしまう。

 絶対力10の盾型集中バリアは絶対力10の収束ビームを防げるが、絶対力10の拡散ビームから全身を守り切ることができない。


 そして、攻撃や防御の純粋な強さを重視するあまり破壊力や絶対力に点数を振りすぎていると、維持力が足りなくなってくる。


 全てを欲張ることはできない。

 どれかを捨てる必要がある。


「さて」


 YOSHIは頭を掻き、少し踏み込んだ問いかけをした。


「君達なら、自分の手持ちがこの『大火力ビーム』で、敵の手持ちがこの『半球バリア』だとして、この防御に対してどう行動する? よければポシビリティ・デュエル初心者のリスナーの皆も、考えて遊んでみたらどうだろうか。別に正解はない。考えることが大事だからな」



【形質:大火力ビーム】

破壊力:20

絶対力:0

維持力:10

同調力:0

変化力:0

知覚力:0


【形質:半球バリア】

破壊力:0

絶対力:1

維持力:29

同調力:0

変化力:0

知覚力:0



 このビームで、このバリアを相手にする時、『君』ならどうする?

 という問いかけ。


 まう、いのり、東郷が考え込み、まず最初に答えを述べたのは東郷だった。


「僕なら解除を待つ。どんなに維持力を割いたって永遠には張っていられない。限界を超えてバリアが解除された瞬間撃って、それで終わらせるさ。一体いつからバリアが無限だと思っていた?」


「待って撃つか。いいな。それも正解の1つだ」


 『待って、撃つ』。

 それは狙撃兵のキャラ付けに合った回答だ。

 回答は個性を反映する。


 次に答えを述べたのはまうだった。


「防御を固めて穴熊決め込んどるやつを相手にする必要無いやろ。場所だけ覚えてさっさとその場離れて仲間と合流したりとか、有利な高台取るとかするわ」


「いいな。確かにそういうのも正解に数えられる」


 『柔軟に優位を作る』。

 まうの思想には「強い奴にうち1人で勝てるわけがない」という諦めがあって、その諦めが逆にこだわりの無さと発想の柔軟さに繋がっている。

 回答は個性を反映する。


「わたしはね~、えーと~、あのでっかいビームで地面の下を掘って~、バリアを張ってる人の立ってるとこの地面を崩して~、そこに落として土に埋めちゃって降参させるのがよくな~い? って思いましたぁ」


「……ああ、確かにそれも正解だな」


「うへへ~、やった正解だ~」


 『場を壊し、作り直す』。

 いのりの発想には人と殺し合うゲーム特有の考え方が無く、されど人と争うことを忌避するわけでもなく、自分の手慣れたやり方で状況を作り直して勝とうとする独特の考え方があった。

 回答は個性を反映する。


_________________

□うちのコメントチャット▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○ビームでバリアごと押して落とせない?

○俺もアチャと同じで待ちかなぁ

○バリアが石とかは通すかどうか確認する


________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○上にビーム撃って仲間に来てもらう?

○デカい音立ててバリアの周りに恐竜集める

○リスナーとの雑談タイムを始める!


______________

□東郷視聴者集会所▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○「せこいバリア」って煽る

○痛嫌防振り野郎がよォ!ジジイか!?って煽る

○この距離ならシールドは貼れないな!



 3人の回答から3人の個性・スタイル・可能性を少しばかり深掘りして、YOSHIはこの先の方針を考える。


「3人とも、悪くない回答だ。この発想にプラスして、敵のスタイルに合わせた具体的な作戦・戦術の構築を考えられるようになれば、どんな方策を採択しても決して間違いじゃない。戦術の考え方は後から勉強できるが、素の発想の方向性は生まれつきのセンスだ。きっと君達には才能がある」


「な、なんやめっちゃ褒めるやん。褒めてもスパチャは投げんで!」


 まうが照れた顔で、YOSHIの肩をバシバシ叩いた。

 いのりは陽気に笑ってにこにこしている。


「せんせって~、人を教える時になったら急によく褒めるよね~、話し方とかから想像もしてなかった~」


「……そうか?」


「そうだよ~、えらいよ~」


________________

□いのりへのコメント~▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○わかる

○わかる

○上司に欲しい

○いのちゃんは褒め言葉によく気がつくよね



「まあでも……もし本当にそうなら、それは俺以外の功績だ。俺の周囲に居た大人が、俺に何かを教えて、俺が何かを答える度に褒めちぎってたせいで癖が付いたんだろう。俺だって周囲の影響を受けない人間じゃない」


「……そうなんだ~、ふふふ」


「何故笑う」


「いいことだな~、って思って~、にへへ」


 "自分にそういう癖を付けた人間"の心当たりを探してみて、YOSHIは思い出の中で、自分に色んなことを教えて、事あるごとに褒めてくれた元チームメイトの大人達を、ぼんやりと思い出していた。


 YOSHIの周りを、地面の上で前転する東郷がぐるぐると回り始める。


「ヨッシーっていつもそうですよね! 初心者の内から褒められて思い上がりまくった私達のことを何だと思ってるんですか!」


 何の妖怪? とYOSHIは戸惑う。


「大丈夫だ。俺は鼻っ柱を折られたことがないやつをいきなりネット対戦に出すほど薄情じゃない。どっかで一回へし折ってから世に出してやる」


「えっなにそれこわい」


 YOSHIは東郷の襟首を掴んで巧みな体術でぽーんと投げ、近くの岩の上に放り込んで座らせた。


「話を戻すぞ。今例に挙げたように、絶対力は攻防の正義だ。スキルがぶつかった時、絶対力が高い方が勝つ。だから対人重視のビルドではスキルの絶対力が高くなる傾向がある」


「せやせや。だから絶対力10ライン、15ライン、20ラインみたいなことが言われるわけやしな」


「だが、絶対力は破壊規模を保証しない。そこでさっき言ったビルド系スキルが立ち位置を持つ。絶対力が高くて破壊力が低いスキルは、ビルド系スキルで作った基地や壁を破壊できない。そして俺達は味方が作った基地や壁を利用して立ち回ることが出来るんだ」


「あ~なるほど~責任重大だ~」


「今、見せたように」


 YOSHIがまた、左手でバリアを作り、右手でそこにビームを放つ。



【形質:中絶対力バリア】

破壊力:0

絶対力:15

維持力:15

同調力:0

変化力:0

知覚力:0


【形質:大火力ビーム】

破壊力:20

絶対力:0

維持力:10

同調力:0

変化力:0

知覚力:0



 ビームは軽く、バリアに弾かれる。


「高配点破壊力の攻撃は、中配点絶対力の防御を突破できない。そして」


 YOSHIの右手が輝くと、ビームのイマジナリスキルが再構築され、別のビームが放たれる。



【形質:中絶対力バリア】

破壊力:0

絶対力:15

維持力:15

同調力:0

変化力:0

知覚力:0


【形質:高絶対力ビーム】

破壊力:5

絶対力:20

維持力:5

同調力:0

変化力:0

知覚力:0



 今度はそのビームが、置かれたバリアを貫いた。


「中配点絶対力の防御は、高配点絶対力の攻撃に突破される。絶対力が高い攻撃は基本だ。しかし」


 YOSHIの左手が振られると、バリアのイマジナリスキルが再構築され、石の壁が構築されて、そこにもう一度高絶対力のビームが放たれる。



【形質:ストーンウォールビルド】

破壊力:0

絶対力:5

維持力:15

同調力:0

変化力:10

知覚力:0


【形質:高絶対力ビーム】

破壊力:5

絶対力:20

維持力:5

同調力:0

変化力:0

知覚力:0



 だが、恐竜島の土を大量に集めて作られた石の壁は、高絶対力のビームを受けても深く抉られるに留まり、ビームに貫通はされなかった。


「高配点絶対力の攻撃は、物理防御を突破できない。ここで最初のビームに戻ると……」


 YOSHIの右手が輝き、最初の高配点破壊力のビームが戻って来る。



【形質:中絶対力バリア】

破壊力:0

絶対力:15

維持力:15

同調力:0

変化力:0

知覚力:0


【形質:大火力ビーム】

破壊力:20

絶対力:0

維持力:10

同調力:0

変化力:0

知覚力:0



 もう一度ビームを撃つと、鋼鉄の恐竜を一撃で倒した破壊力がいかんなく発揮され、高絶対力ビームを防いだ石の壁は、一瞬にして爆散した。


「ちなみに、絶対力に全てを振った防御は全てを防ぐ最強の守りにはなるが」


 YOSHIが腕を突き出すと、そこに非常に高密度であることが見て分かる光の盾が現れる。



【形質:無敵シールド】

破壊力:0

絶対力:30

維持力:0

同調力:0

変化力:0

知覚力:0



「維持力に振れないから広げられず、防御範囲は狭く、またほんの短時間しか展開できず、消える」


 だが光の盾は、展開してすぐに消えてしまった。


_________________

□うちのコメントチャット▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○うわむず~

○悩むなこれ

○だから仲間と協力必須なんよな

○YOSHIに防御スキル使うイメージ無いな



 高配点破壊力の攻撃は、中配点絶対力の防御を突破できない。

 中配点絶対力の防御は、高配点絶対力の攻撃に突破される。

 高配点絶対力の攻撃は、物理防御を突破できない。

 物理防御は、高配点破壊力の攻撃に突破される。

 高配点絶対力の防御は全てを防ぐが、狭く短時間しか展開できないため、攻撃を防ぎ難い。


 これがポシビリティ・デュエルの世界で回っている、攻撃と防御のメタゲームである。


「うわ~むずかし~正解が無いやつ~」


「そういうことだ。だからたとえば、チームのアタッカーに任命されて、相手がどんな防御スタイルを選んでいようが仕留められる攻撃が欲しいと思った時は、破壊力と絶対力、2つの攻撃手段を持つのが良い」


 YOSHIの手の上でまた光が文字を作り、2つのイマジナリスキルの点振りを示す。



【形質:レーザーバレット】

破壊力:17

絶対力:6

維持力:7

同調力:0

変化力:0

知覚力:0


【形質:レーザーブレード】

破壊力:5

絶対力:25

維持力:0

同調力:0

変化力:0

知覚力:0



「たとえばこういう構築にすると強いよな。敵が物陰に隠れようが壁をビルドしようが、レーザーバレットの破壊力で押し切りやすい。敵がレーザーバレットを防ぐ高絶対力の硬いバリアを持ってるなら、レーザーバレットで敵の足を止めつつ接近して、高絶対力のレーザーブレードでバリアを切り裂いて仕留めればいい」


「お~、すげ~。わたしこの2つ持つ~」


「即決だな、いのり……」

「これがいのいのの持ち味やで」

「ウルトラハイパー早い判断でございますなぁ」


 YOSHIはいのりに厳しいことを言おうとするが、思い出の中の大人達に「それはどうかと思うぞ」と言われ、思い直して言葉を選ぶ。


「けどな、この2つにスロットを割いたら、残り1つのスロットには何を差す? 硬いシールド? 土の壁を作るビルドスキル? 高速移動スキル? 敵を見つける感知スキル? バランスの良い身体強化? 差せるのは1つだけだ」


「……あ~~~」


 ここで、スロットの制限が効いてくる。

 それぞれのプレイヤーは、基本ルールにおいて3つだけしか手札を持つことができないのだ。

 『だから』、メタゲームが成立する。


「分かるかいのっち! 僕には分かる。僕が分かるということは、僕が分かるということなんです」


「分かるって何が~?」


「この無限の組み合わせがありえる競技の仕様で、個人戦で2回、団体戦で2回世界一になってるヨッシーは永久機関並みにめちゃくちゃすげーってことなんだよォ~次のノーベル賞はヨッシーのもんだぜ~」


「うお~! せんせ~すげ~! 尊敬~!」


「あのな……ここ9年で9回の個人戦、9回の団体戦があって、その内2回ずつしか最後まで勝ち抜けてないってことは、他の年は大体途中で負けてるってことだからな俺……」


 YOSHIは白けた顔で言った。


「僕思うんですけども年一の公式世界大会で個人団体両方優勝してる人と合計で4回優勝してる人が他にいらっしゃるんですか?」


「その内出てくるだろ」


「他に居ないってことだろ!」


______________

□東郷視聴者集会所▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○アチャ・東郷、やはり天才……

○大したやつだ

○随分勉強したな、まるでYOSHI博士だ

○YOSHIェ!



「へへ……ヨッシーさんさぁ、その大体の奴を瞬殺してきた腕前を活かして僕らを是非大会の表彰台に連れて行ってくれませんかね……へへっ……大丈夫、それで負けてもYOSHIさんのせいにはなりませんて……リスナー98人切りの実力を遺憾なく見せて下さいよへへへ」


 アチャ・東郷は、YOSHIの眼前で手揉みを始める。YOSHIの2回の人生の中で、こんなにも三下ムーブが上手い人間は見たことがなかった。


「東郷お前、それでいいのか」


「僕はクールキャラらしく後方で腕を組んで試合終了と同時に『ふん……僕が出るまでも無かったか』って言う仕事だけしていたい」


「クールキャラをなんだと思ってんだ」


______________

□東郷視聴者集会所▽   ︙

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

○カス

○ボケ

○くたばれ

○YOSHIが懇切丁寧に教えてる今を何だと

○上昇志向を持って?



「僕がお前らに見せてやるよ。他力本願の力をなっ……! 元々トーシロの集まりでストリーマー大会とか勝てるわけねーんだ、勝ったらYOSHI様のおかげ、負けたらそりゃそうですわの精神を抱えて溺死していけ! そしてYOSHI、お前はエヴ学の柱になれ」


「アホかい! やる気出しーや!」


「なさけな~」


「うおおおおおおおおおおおおこのクソアホ女子どもめが、何故この崇高なる保身を理解できんのだ!」


 ぎゃあぎゃあと喚く3人の声。

 今日新参のYOSHIと違って、この3人は同期デビューしてから共に過ごし、共に頑張り、共に戦ってきたがゆえの絆があるのだろう。

 どこか不思議な気安さがある。


 そしてYOSHIは、東郷が皆の中の無意識に埋め込もうとしていた『布石の棘』を見逃さなかった。

 東郷は道化を演じている。

 そして、場の空気やリスナーの意識をコントロールしようとしている。

 YOSHIはその予兆を見逃していない。


 東郷が埋め込もうとしていた布石の棘は、『たとえ勝てなくて教導と努力の全てが無駄になったとしてもそれはYOSHIのせいではない』という意識。

 これをまう・いのり・東郷のリスナー全員の無意識に埋め込み、いざという時にYOSHIの社会的評価を守ろうとする仕込みだろう。

 東郷は初配信からこれを埋め込もうとしていたのである。


 この男は、最初から負けた後のことを考えていて、負けた後のYOSHIの社会的評価のことを考えていて、敗北と失敗をYOSHIのせいにしないようにしていて、それでいて目の前の勝利のために全力を尽くせる気質がある。

 チームに1人は欲しい気質。

 最悪の状況を常に思考の隅で考慮できる資質だ。

 YOSHIの観察力は、それをしかと見抜いていた。


「東郷」


「はいはいはいはいなんすか!」


「俺が試合で落とされた最悪のパターンにおいては、俺を落とした奴はお前が落とせ。それで負けだけは無くなる試合があるかもしれん」


「ヨッシーってさヨッシーってさヨッシーってさヨッシーってさヨッシーってさ、僕にどこまでの実力を求めるご予定ですか!?!?!?!?」

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