第10話 救済者

その頃、ミロクは宇宙に存在するすべてのものを救済すべく、ミロクの使徒である超生命体の宇宙船に同乗されて時空を超え空間を超えて飛び回られていました。       ミロクのそのような姿を宇宙の果てにあるブラックホールの中に隠れてじっと見つめるものがいました。そのものは天魔と呼ばれていました。                  ミロクも天魔もこの宇宙の誕生の後に生まれました。ミロクはゴータマの入滅後56億7000万年あとに、天魔はミロクの前から存在して、宇宙に存在するありとあらゆるものを苦しめてきました。

                     ミロクは宇宙の辺境の星でありふれた生命体として生まれました。その辺境の星は次々と天変地異や戦争や社会の矛盾の爆発など苦難にあってミロクはその苦難のなか育ちました。ミロクはその苦難のひとつひとつを乗り越えるごとに自身を高められました。ある日にミロクは苦難のなか愛する家族を失ってどうしようもなくなって自らの命を断とうと思い星空を見上げました。見上げた闇のなかの光輝く星のひとつからとても強い光が発せられてミロクは包まれました。ミロクは光のなかで一瞬のうちに宇宙のなかで自分と同じように絶望するものの無数の姿を走馬灯のように見ました。そうして絶望しているものが自分だけであるように思っていた自分を振り返りました。                  その星の生命体は非常に長命で、地球時間でゴータマ入滅後56億7000万年あとに悟りを開かれ仏になられました。悟りを開かれたミロクは宇宙のなかで救済を求めて苦しむものの叫び声を再びこだまのように聞きました。ミロクは自らが生まれ育った辺境の星の救済を終えたのちに、広大無辺の宇宙の一切を認識して、辺境の星の人々に惜しまれつつ辺境の星を旅立たれて宇宙のなかで苦しむものの救済に向かわれました。ミロクの生まれた辺境の星をミロクが宇宙船に乗って離れるときに光輝く宇宙船を見上げて皆は涙しました。皆のなかでどんな苦難にあっても静かに微笑まれておられるミロク様の優しいお顔が浮かびあがりました。宇宙の涯まで辺境の星の人々のうねりのような声が響き渡りました。 

                    ミロクはホトケの世界では弥勒菩薩と呼ばれありとあらゆるものを救済する未来仏です。                 ミロクの使徒の超生命体は何億年も前に滅びかけた文明の生命体で、ミロクの救済によって生命体のなかから選抜されて生命体からエネルギーそのものに進化したものたちでした。超生命体はミロクとともに時空間を超えて宇宙のすべての救済に光輝く宇宙船で飛び回っていました。            宇宙船には超量子コンピューターと宇宙時計システムが搭載されていました。宇宙時計システムは宇宙に起きたすべてを記録するシステムでした。超量子コンピューターはミロクと超生命体が救済のためのあらゆる可能性を計算するために使われました。ミロクはあらゆる選択肢を検討して、救済を求めるすべての存在に慈愛をもってあたりました。ミロクは最適解は無数に存在すると思われていました。          

                     超生命体は何億年にもわたってミロク様に仕えてきました。超生命体の故郷はアンドロメダ星雲のなかにある星でした。アンドロメダ星雲は渦巻き銀河で1兆個ある恒星からなる銀河で、地球から250万光年離れ、超生命体はその14ある矮小銀河のなかの星に生まれました。アンドロメダ星雲は太陽系のある天の川銀河より大きく、太陽系から見れば秒速300km で天の川銀河に接近して、やがて衝突すると言われています。                  超生命体の先祖は生命体として進化してご多分に洩れず同種族同士の戦いにより滅びかけました。そのとき闇を切り裂いて天空は光輝き、そのなかをミロク様が天上からゆっくり降りて来られました。ミロク様は時間を停止されて一切の戦闘を無化されました。ミロク様は我らの世界に平和をもたらし、我らに宇宙時計システムと超量子コンピューターを授けられました。                  ミロク様は我らのなかから使徒を選抜して、いとも簡単に超進化させてエネルギーそのものにされました。我らは故郷を出てミロク様の救済のお手伝いをするようになりました。     我らはミロク様と宇宙を駆け巡りましたが、宇宙に点在する多様な文明は我らと同じ過ちを繰り返していました。            ミロク様はとてもシンパシーの強いお方で、悲しむものを前にして、そのものの悲しみを共有されました。宇宙の救済を思索される姿はとても静かで慈愛に満ちていました。   我らはミロク様の救済の前に時空連続体の分析を担当していました。偶然の積み重ねが因果となって今の一瞬を決定していました。    超生命体はミロク様と共に時空を超えて宇宙の救済ができることに喜びを感じました。   

                     ミロクとその使徒の救済は広大無辺の宇宙のなかで点在する文明に成されましたが、宇宙の文明は位置的にも遠く離れて恐怖により交流することなかったので、救済された文明以外にはミロクたちの存在を認識されることはありませんでした。時空を超えて成された救済は時間のなかで神話となりました。救済のなかで失敗に終わった救済もありました。ミロクたちは何故失敗に終わったのかを検証しました。多様な文明のあり方に対して画一的な方法はありませんでした。天魔による妨害もあって簡単な答えはありませんでした。ある者にユートピアであるものも、ある者にはデストピアでした。ミロク様は一番弱い者を救済することができなければ、救済をなしたとは言えないと思っておられました。 

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