第7話 サイン
静かな愛を注いでくれる妻とかわいい息子を前にして、しばらくして家族のために深いショックから立ち上がり、A 大財布団地の募集に応じて、やむなくあとで言うジェネリックとして毎日を過ごしました。私は運が悪かったんだと自分を慰めました。 正部品として団地でワークしていた頃のことを、時たま思い出すことがありました。生活は厳しいですが、今となっては仕方ないことと思いました。愛するキヨラと息子のために不本意ですが、ジェネリック部品を続けるしかすべはありませんでした。 私を助けてくれたキヨラは病気で亡くなってしまいました。私は妻の亡くなる前に、神の残してくださったデータベースにアクセスして、生まれ変わりという概念を掴み出しました。妻とは既視感というか、はじめて会った時から何故か以前にも会ったような気がしていました。それも親しくしていた感覚が私にありました。その時はそんな馬鹿げたことはないと思い、それを打ち消しました。でも、キヨラと過ごしているときに、ふと、やっぱり昔にこのようなことがあったと思えるのです。そのことをいうと、妻は優しく微笑んだだけです。亡くなった今も、ずっと遠くから私を見つめているように感じました。そんなとき私は何かに包まれました。はるか向こうから光を当てられて、少し体温が上がったように思いました。あらゆるものに魂がある限り、輪廻転生を繰り返す。我らにも魂があるので、次の世界での生まれ変わりはあると思いました。うんこになりそうな私を見捨てないで、暗い闇から救い出してくれたキヨラは、この世界から出でて次の世界で待っていてくれているように思いました。私は再び彼女に会えることを信じました。私と彼女は、次の世界で出会ったときに、お互い分かるようにサインを決めました。彼女と会えるのが、次の世界なのか、次の次の世界なのか、はたまた、次の次の次の世界なのか分かりません。この世界での出会いが最後の出会いとならないことを願いました。サインは誰にも言ったことはありません。サインを他の誰かに知られたら、会えなくなってしまうのではないのかと思いました。静かな夜のとばりのなか、私は静かに微笑んで私を見つめる彼女を思い出しました。
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