第2話 鏡の付喪神

「でね、アタクシを求めるご婦人の目といったら、それはもう!」

「は、はぁ」

(つ、疲れた...)


某月某日


付喪神転生案内所新米職員のソラは、笑を浮かべなから苦しんでいた。


その日も普段通りの仕事をしていた。

が、業務中やってきたこの手鏡の付喪神、かなりの曲者だった。

調べた経歴を語ったが最後、いつまでも自慢話をし続けるのだ。


「え、えっと、では、お客様は、次に宿りたい物の希望をお教えいただけますか?」

「・・・そうねぇ。ねぇ、貴方は、アタクシのような美しいものは次は何に宿ったほうがいいと思う?」

「へ?」

突然の質問にソラは言葉を詰まらせた。まさかこちらが聞かれるなどとは思わなかったからだ。


「そ、そうですね。・・・う〜ん、あ!ドレスとか?あと、イヤリングみたいな飾りとか、美術品もいいかもしれませんね!どうでしょうか」

「・・・・・・そう。貴方も、そういった物が美しいと思うのね」

(な、何か、答えをまずったか...)

手鏡の付喪神の反応に、ソラは再度固まってしまった。


「どんなに美しく作られたって、所詮アタクシはには足元にも及ばないのね」

「え・・・?」

「アタクシはね、とある工場で大量生産されたものなのよ。そうして、お店に出されて。可愛いと言ってくれる方も沢山いたわ。でもね、どんなに着飾っても、賞賛を受けても、アタクシは、本物の方々には負けるの」

「本物...?」

「ええ。昔から多くの方に愛され、大切にされ、美しい魂を持つものたちよ。アタクシとは全く違うの。アタクシのように、買われた後は忘れ去られ、ちょっとしたアクシデントで壊れ、すぐにゴミに出される。ふふ、皮肉でしょう。こんなに気位だけは高くても、アタクシは人に愛されないわ。馬鹿馬鹿しいものね」

「・・・・・・あの、これは私からの提案なんですが、」





手鏡の付喪神とは少し戸惑ったソラだが、部署にはあっという間に終業時間が来た。

「ふーお疲れさまです」

「お疲れソラちゃん。あの手鏡の付喪神さん、大丈夫だった?」

「あぁ、はい!多分、どうにかなると思いますよ」

先輩職員エリカの質問にソラは満面の笑みで答えた。


『・・・・・・あの、これは私からの提案なんですが、画家の新作の絵に宿るのは如何でしょうか』

『画家...?』

『はい。最近、とある新人画家さんが新作を生み出すところで誰かを、と調査課から言われていたんです。もちろん、お客様が宜しければなのですが』

『・・・アタクシが宿るにふさわしい絵と画家なのでしょうね?』

『私の見た限りですが、とても美しい絵でしたよ』

『・・・・・・そう。なら、そちらに宿ることにするわ』


「って、ことになりました」

「なるほど。この間調査課から回されていたやつね」


調査課とは現世を見渡す鏡や自分の足を使って新しく生み出そうとしている物が何かないか調査をする部署である。地味で多忙だとも言われるが、現世に足繁く通えるため、現世に興味のある者には人気の部署である。


「なるほど。確かに、それなら彼女の言うところの「」だものね。いい判断だと思うわ」

「だといいのですが。幸せになれますかね...?」

先に出た通り、手鏡の付喪神改め絵画の付喪神の生みの親は世に出ていない新人画家だ。手鏡の頃に比べると人目には尽きにくい


「幸せかどうかは彼女が決めること。そして、彼女の価値は周りの人間たちが決めることよ。そこまでは私たちの仕事じゃない。・・・でも、精一杯祈ってあげましょ。せっかくの門出なんだし」

「はい!」


どうか、彼女の次の生が幸多いものとなりますように、ソラは心の中で小さく祈った

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付喪神さん、こんにちは @yuka0104

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