《番外編》「由銀、奮闘す。(後編)」
迷った末辿りついた結論。
それは…
「この通りじゃ吾輩と一緒に
買い物に行ってくれぬか?」
千春殿に頼ることだった。
「えーと…。
まず、頭上げてください。」
吾輩は土下座をして千春殿に頼み込んでいた。
「「すーぱー」とは言わば戦場。
そこに年端もいかぬ少女をましてや
主の友人である者を同伴させようというのだ。
この程度、造作もない。」
千春殿は少し困ったような様子でいた。
「出雲殿。
確かに「すーぱー」は戦場、
我が主を同伴させるのは心苦しいであろう。
だが、安心なされよ。
私も同行し護衛いたす所存、
出雲殿は自身の任を優先せよ。」
井伊殿のその言葉に吾輩は
「かたじけない」と一言礼をした。
その際、千春殿は何やら困惑した様子で
「スーパーってそんなとこだっけ?」と
小声で言っていたような気がするが
気のせいだろう。
翌日、すーぱーで買い物を済ませた我々は
調理場で作業に取り掛かっていた。
しかし…
「…なんか違うなぁ。」
千春殿は出来上がったはんばーぐを食べると
微妙そうな顔でそう呟く。
何度か試作を繰り返すも思った成果は得られず
仕舞いには千春殿の満腹でその日は終了となった。
「やはり、慣れぬものは上手くいかんな…。」
吾輩は零士に作った夕食を見つめながら
そう口にする。
「何が慣れないものなんだ?」
それを運悪く聞かれていた吾輩は
情けない声を出してしまっていた。
「い、いつからそこに!」
零士は首を傾げつつ
「今さっきだけど?」と答える。
「それで何を…」「なんでもない!!」
咄嗟に途中で話を折った吾輩は
零士に話す隙を与えずに席に座らせ、
食べ終えたことを確認すると
零士を自室に押し込み
とりあえず、ことなきを得た。
このままではいけない。
そうは思っても中々良い案が浮かばぬ中、
「てれび」で料理番組が放送されていた。
昔は料理などは師に教えを乞うために
色々と修行をさせられたものだが
この現代ではその技術は
このように惜しげもなく披露されている。
思わず食い入るように番組を見終えて
「てれび」を消そうとしたとき
思わぬ情報を耳にする。
「――本日お越しいただいた
料理研究家の清水恭子さんは
個人でお料理教室を開いており――」
まさに天からの送りものといえよう。
「これじゃ!!」
思い立ったが吉日。
まずは千春殿に連絡を掛ける。
先日、零士に教えてもらったとおりに
寮の固定電話から千春殿に連絡を掛ける。
そして一通り話終えると
千春殿は呆れつつ、
「由銀さん、それ無理じゃないですか?
相手にはあなたの姿は見えませんよ。」
思わず電話を持ったままうなだれてしまう。
電話の向こうではため息とともに
「まるで零士が二人みたいね…」と
呟きが聞こえる。
「吾輩…どうすれば…。」
千春殿は不意に
「そういえば…」と声を漏らす。
「料理なら麗奈さんに
教えてもらったらどうですか?」
麗奈…初めて聞く名前であった。
「誰なのじゃ?その方は。」
千春殿は
「零士が教えるわけないか…」と呟いた後、
「零士のお母さんですよ。
霊井麗奈さん。
あの人、霊能士の素質があるみたいで
霊が見えるし話せますよ。
「零士の霊」だっていえば
喜んで引き受けてくれると思います。」
そういえば、
零士から家族のことはそんなに聞いたことはない。
「どのようなお方であろうか…」
翌日、零士を送り出し
早速、母君に連絡を掛ける。
番号は千春殿から入手済みだ。
「もしもし。」
「霊井麗奈殿でお間違えないだろうか。」
開口一番にそう切り出すと
その場に一瞬の静寂が訪れる。
「…どちら様でしょう。」
電話の向こうから
警戒の気配を感じる。
「…は?!
…これは失礼。
吾輩、零士殿と契約をした霊、
出雲由銀と申すもの。」
そこまで言うと
電話の向こうで感じた警戒は解かれた。
「まぁ!
零士はちゃんと霊と契約出来たのね。
よかったわ。
…それなのにあの子電話も寄こさないなんて、
出雲さん息子がお世話になっています。」
矢継ぎ早に浴びせられる言葉に怯みつつも
吾輩は「いえいえ、
吾輩のほうこそ、いつも迷惑を掛けています。」
と答える。
「今日はお願いがあり
お電話をお掛けさせていただきました。」
「なにかしら。」
そこで少し間を開けると
吾輩は意を決して要件を伝える。
「吾輩に「はんばーぐ」を
教えていただきたい!」
―――――――――――――――――――――
「ただいまー。」
零士の声が聞こえる。
予定通りの時間だ。
「零士殿。
今日もお疲れ様である。」
零士は多少困惑気味に
「…どうした?急に改まって。」と
問う。
「今日はもう既に
夕飯の準備ができている。
部屋に荷物を置いてきたら
食卓に来て欲しい。」
吾輩の改まった態度に何かを感じたのか
「すぐに来る。」と言い残し零士は
部屋へと向かう。
いよいよだ。
零士が食卓に座ったことを確認すると
お盆に乗せた料理を目の前に運ぶ。
料理には蓋がしてあり中は見えない。
「まず、謝らせてほしい。
実は先日、零士の後をつけておった。」
「へ?」
零士は珍しく素っ頓狂な声を出す。
「最近、「にゅーす」にて
気になるものをみてな。
零士が危ないことに関わっていないか
心配だったのだ。」
零士はそこで待ったをかける。
「「先日」ってまさか…」
吾輩は一つ頷くと
「零士が
「はんばーぐ」を食べに行った日じゃ。」
と答えた。
「吾輩を気遣ってくれたのだろう?
和食しか作れぬ吾輩には
あんなものを出すことなど想像もつかなんだ。
吾輩の配慮不足であった。
申し訳ない。」
零士は「そんなこと…」と言いかけるが
それに吾輩は待ったをかけた。
「吾輩は学ぼうとしなかった。
それは失敗であり
そしてその失敗は新たなる道の
始まりであったのだ。」
零士は再び困惑した顔になる。
「では御覧に入れよう。
吾輩の現時点での最高傑作を!」
吾輩は蓋を外しその中身を露わにする。
そこには不格好な形の
「はんばーぐ」が乗っていた。
「まずは食べてみてほしい。」
零士は何も言わずに
「はんばーぐ」を口に入れ租借する。
「…美味い。
それになんだか懐かしい気がする。」
吾輩は心の内でほっとしつつ話始める。
「その「はんばーぐ」は
お母上…麗奈殿より御指南頂いた品。」
零士は少し驚くが
不意に笑みがこぼれた。
「…そっか。母さんが…。」
零士は「はんばーぐ」を完食すると
満足そうに一息つく。
「…ありがとうな由銀。
こんなに美味いハンバーグは久しぶりだよ。」
それを聞いた吾輩は
「それは良き事である。」と短く答える。
「由銀が良ければなんだけど
これからもハンバーグを作ってくれるか?」
吾輩は大きく頷く。
「ほかにも希望があれば聞こう。
吾輩、零士の為ならこの力惜しまぬ故。」
零士は少し微笑み
「じゃあ、今度はカレーをお願いしようかな。」
と答える。
「承知した。我が主よ。」
吾輩の料理道は長く険しい道になりそうじゃな。
―あとがき
霊能戦記番外編いかがでしたか?
由銀と零士。
二人の主従関係以上の
温かいものを感じていただけたら幸いです。
今後も番外編は恐らく書いていくことになると思います。
本編も変わらず更新しますので
これからもよろしくお願いします。
では次回からは第三章をお送りします。
今回から予告は
近況ノートに書いていこうかと思いますので
良ければご覧になってみてください。
それでは!ノシ
霊能戦記〜マイナー武将とへっぽこ?霊能士〜 剣 光影 @-Hisuto-
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