《番外編》「由銀、奮闘す。(前編)」

これは首都での事件から少し前の物語…。


「ちょっと出かけてくるよ。」


零士はおもむろに立ち上がると

そんなことを言いつつ玄関へ向かう。


「では、吾輩も同行を…。」


そう言いつつ立ち上がろうとする吾輩を

零士は「いっ、いや!由銀はいいんだ!」と

止めてくる。


「えーと、あ、そう!


学校に忘れ物してさ、

すぐに帰ってくるから由銀は待っててくれ。」


零士は明らかに動揺しつつ

かなり苦しい言い訳を答える。


(嘘なのはバレバレだが…

まぁ、たまには一人にさせてやるとするか…。)


「承知した。

では夕飯の支度をして…」


「あ!と、今日は夕飯はいらないぞ。


たまには由銀も休んでてくれ。

夕飯は食べてくるからさ!」


吾輩の言葉を遮って何を言い出すかと思えば

夕飯はいらない?怪しすぎるぞ?


「それも承知した。

では気を付けて。」


零士は顔を半分、引きつらせつつ

「あ、あぁ行ってくる。」といい出て行った。


(怪しいにもほどがあるぞ。)


脳内に先日見た「てれび」の映像が浮かぶ。

内容は青少年の不適切な行動の増加と

その注意喚起だ。


(零士に限ってそんなことはないとは思うが


先日の津中のように

昔の零士に恨みを持つ輩が現れんとも限らん。)


そう思った吾輩は悪いとは思いつつも

零士の後をつけることにした。


―――――――――――――――――――――


(やはり学校は嘘か。)


予想通りに零士は学校とは反対の道に進む。


(この先は商業地区…。

こんな時間から買い物か?)


吾輩は霊であることを活かし


建物の中をすり抜けたりしつつ

零士の後をつけていく。


少し経って零士は

商業地区にほど近い公園に入る。


「ごめん!遅くなった。」


誰かと思い覗いてみると正明殿だった。


「ちゃんと一人かい?」


そう聞かれると零士は周囲の見渡してから


「あぁ、由銀は家で待機してるはずだから

大丈夫だ。」


それを聞くと正明殿は

「それじゃ、いこうか。」と


零士と一緒に商業地区に向かっていく。


正明殿なら安心と思いつつも


気になった吾輩は

そのままついていくことにした。


―――――――――――――――――――――


「ここだね。」


そう言って二人は

飲食店の前で立ち止まる。


「よし、入ろうか。」


零士の言葉で二人は

中に入っていく。


(ここは…。)


その建物は由銀には

異界の建物のように見えた。


それもその筈、

その店は洋食レストランだったのだ。


(とっ、兎も角、後をつけねば!)


吾輩はおっかなびっくりしつつも

後をつけてその店に入っていった。


―――――――――――――――――――――


二人が店に入り何やら注文してから

少し経つと料理が運ばれてきた。


(なっ、なんじゃあれは…!!)


皿の上には楕円型の物体が乗っており

その物体には何やら黒い何かがかかって…。


「お待たせしました。

デミグラスハンバーグです。」


(でみぐら…?はんばーぐ…?)


聞きなれない言葉に首を傾げつつも

吾輩は二人を観察する。


「やっぱこれだよな!

ひっさしぶりハンバーグだ!」


零士は今まで見たこと無いほどに

感激した様子で、「はんばーぐ」を見つめる。


「零士君テンション高いな…。

そんなに久しぶりなのかい?」


零士は銀色の何かを掴み

それを使って「はんばーぐ」を切り始める。


「あぁ、由銀は和食しかできないからさ

約一か月振りくらい?かな。」


零士は「はんばーぐ」を一口大にまで切ると

それを食べる。


零士は幸せそうな顔で

それをほおばり続ける。


そんな中、吾輩はうなだれていた。


(この由銀、一生の不覚!


思えば吾輩の料理で

あのような幸せな顔になっていたのは

最初の二、三回ほど


何も文句も言わずに

食べてくれることをいいことに

この時代の料理を学ぼうともしなかった!)


機会はいくらでもあった。

しかし吾輩には無理だと諦めていた。


(主君の幸せの為ならこの由銀、

もう恐れはない!)


その日はそのまま帰り零士の帰宅を待った。


そして次の日。


零士が学校へ行ってから吾輩は行動をはじめた。


(まずは情報収集だ。)


近くの図書館で料理関係の本を読み漁る。


吾輩の姿はほとんどの者には見えん。


その為、こういう目立つ行為は

零士と共に行うのだが

今回はそうも言ってられん。


周りの目を気にせずに読み漁る。


「はんばーぐ」の他にも

「おむらいす」や「かれー」など若者に

人気のメニューを頭に詰め込む。


(では、まずは器具集めからじゃ!)


吾輩は読んだ本を本棚に綺麗に戻すと

図書館から出た。


そして重大な事に気づく。


(しまった!

吾輩だけでは買い物など出来ないではないか!)


以前、一人で買い物に行って

「ポルターガイスト」だと騒がれて

零士にたっぷりと叱られた時のことを思い出す。


(またあのようなことに

なることだけは避けなければ!)


では、どうするか?

吾輩は頭を抱えた。



―あとがき

霊能戦記初の番外編いかがでしたか?


意外と長くなってしまい

前後編に分けて投稿することになりました。


とりあえず由銀の話として書いてみましたが

たまにはこういう日常回もいいですね。


本編に活かせていない設定も書けるので

今後も書くかもしれませんね。


では次回番外編

「由銀、奮闘す。(後編)」で

お会いしましょう。ノシ

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