住宅街のフランス料理店(5)
その後、サーブされた小さなコーヒーの飲みながら、奥のテーブルに座る親子の会話に耳を傾ける。店内は音楽もなく無音で、店員すらもその静けさを保とうとしているのか、無駄な会話をしない。
「すみません。」
3人組の娘の母が店員に声を掛けた。
「この辺りに歩ける距離で、◎◎公園ってありませんか?」
「◎◎公園なら近くにありますけど、私は歩いては行かない遠さですねぇ。」
私は、その公園はすぐ近くで歩ける距離だと思っているが、地元の人からしたらそうではないのだろう。
それと、3人組は地元の人だと思っていたが、話を聞く限りでは昔近くに住んでいて、久し振りに立ち寄った感じだ。住宅街の裏道みたいなところに立つこの店をお昼に選ぶほどだから、てっきり近所に住んでいるものだと思った。
コーヒーを飲み干し、3人組との話に弾んでいない店員に会計の声を掛けた。
「1580円になります。」
現金で1600円をトレーに出し、20円のお釣りを手に取り、店を後にした。
「ありがとうございました。」
と最後まで必要最低限の会話を店員と交わした。
店の扉を開けて外に出ると、すっかり日が高くなった昼の街に、ミンミンゼミの単調なリズムが鳴り響く。これからさらに暑くなる夏のこの時間を全身で感じながら、駅へと向かった。
(終わり)
住宅街のフランス料理店でご飯を食べる 古田地老 @momou
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