住宅街のフランス料理店(4)
厨房から妻である店員を注意するような声が聞こえた。その語調は、強く、しかし、優しかった。
「そんなに小さく、氷を割らなくていいです、よ。」
厨房は壁の向こうで、こちらからは中は伺えないが、シェフである夫は、声質からしてご高齢だろう。氷とは、お冷に入っている氷のことのようだ。このお店の氷は、家庭で作られるような四角い形ではなく、純氷のかち割り氷であった。
シェフの妻は聞き取れない声で何か対抗して、作業を続けた。その時、新たな客が入ってきた。3人組だ。
「3人ですか?」
彼女はそう聞き、奥のテーブルに案内した。厨房に戻り、氷の入った3つのグラスに水を注いで、テーブルへ運んだ。
そのタイミングで私の皿は回収され、デザートのゼリーがサーブされた。さくらんぼが2つ入った果物味のゼリーである。味わってみたものの、ほのかな風味で何の果物なのかは分からなかった。
「ランチコースの肉料理と魚料理と、ジビエ鹿肉シチューをひとつずつ、お願いします。」
奥のテーブルの娘らしき人が注文をした。あとの2人はその娘の老いた父と母のようだ。シェフの妻は無言のまま、厨房に下がった。
(続く)
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