私立探偵 立花達夫は紫煙の先に真実を見る

めるりん

俺の名は

 俺の名前は立花達夫、探偵だ。

 しかし、仕事の無い探偵は探偵と名乗っていいのだろうか? 最近した仕事と言えば2か月前の猫の捜索が最後だ。

 とかく探偵という仕事は誤解されやすい仕事だ、「この中に犯人がいる」とか「犯人はお前だ」という台詞に憧れて親の反対も押し切り探偵になったはいいが、やることは浮気の身辺調査と猫の捜索ばかりである。

 しかも、数少ないそれらの仕事も大手の事務所に取られて仕事にあぶれる日々。そういえば今日はコンビニのバイトの日だったな。煙草をくゆらせて朝日を見る。煙草の煙が目に入ったのか何故か泣けてくる、ついでに煙草を吸ったせいで咳き込む。今日も世界は俺に優しくないようだ。


 そんな俺にもたまには仕事が舞い込むことがある


「俺の名前は立花達夫、探偵だ」


 自己紹介で仕事を失っていると言われることもあるが、それでもこの自己紹介を変えるつもりはない


「私は、赤井清子といいます。高校生です」

「それで、本日はどのような用件で?」

「兄が一月前から失踪していまして。探してほしくて」

「警察に届けは?」

「出しましたが成人してすでに社会人であったこともあり取り合ってくれませんでした」

「確かに成人済みの男性となると警察は動かないかもしれませんね」

「親とも仲が悪かったことから家出のように扱われてしまいまして」

「まあ大人の家出というのも無いわけではないですからね」

「お願いします。兄を探して下さい」

「着手金として10万円。成功報酬として更に10万円頂きますが払えますか?」

「高校に入ってからずっとアルバイトをしていたので何とか払えます、お願いします!」

「それではお受けいたしましょう。必ずやお兄さんを見つけて見せます」


 依頼人に色々聴取した結果。通帳・印鑑はそのまま自宅に残されていたとのこと、通帳を記帳したところ失踪後の引き出しがないことが分かった。更に失踪者のSNSアカウントも失踪後にはまったく更新がないことが確認できた。

 その後依頼人が帰り煙草をくゆらせたながらバイトに休みの連絡をし思考をまとめようとしたが、どういうわけか煙草を吸っていると頭がぐらぐら揺れて思考がまとまらず咳き込んでしまう


 普通に考えて働き始めた20代前半の青年が財布に入れている金額は数千円から1,2万円くらいだろう。その金額で家出を続けるのは難しいだろう。ならば衝動的な家出の線は消える。つまり失踪者は何らかの事件に巻き込まれている可能性もしくは巻き込まれた可能性が高いだろう。20代の男子を拉致監禁して身代金の要求などもないということは、おそらくもう死んでいる可能性が高いだろう。

 となると探すのは生きている失踪者ではなく、死んでいる失踪者ということになる。「被害者」の行動半径から死体を隠しやすく人から見つかりにくい場所を探すとおのずと答えは出てくる。


 そうして俺は被害者の第一発見者となった。依頼を受けて探していたことを説明したこともあり容疑者になることは無かったが、一応発見することは出来た。依頼人は泣きはらした顔で「いつまでも見つからないよりはずっと良かった」と言って成功報酬を払ってくれた。


 勘違いされることが多いが探偵に事件を捜査する権限はない。苦い思いをしながら今日も煙草をくゆらせる。


 しかし涙を流し兄の名前を呼び叫ぶ声が忘れられない、いつものバーでいつものミルクを飲みながら記憶を洗い流そうとするが、忘れられそうにない。


「自棄ミルクか何かしらんが今日は飲みすぎなんじゃないかい?」

「自棄ミルクもしたくなる、飲みすぎたせいか胸がむかむかするぜ」

「ミルクの飲みすぎで?いい加減酒飲めないんだから恰好付けてくるのやめたらどうだ」

「そうだな、マスターの言うとおりだ。うじうじしているのは俺らしくないな」

「お前は結構な確率で話が通じなくなるな」

「会計を頼む」

「お前はミルクか烏龍茶しか飲まないから金にならんのだよな」

「探偵はバーをさるぜ」

「映画とかに影響受けるのも止めた方がいいぞ」


 どこから金が貰えるわけでもないが俺の安眠の為に犯人には捕まってもらうことにする。殺人の55%は身内の犯行だ。しかしそちらは警察がじっくり調べ上げるだろう。そこで俺は45%を探すことにする殺人した相手を隠せる場所を知っているということはあの場所の周囲に生活圏を持っているに違いない。

 そこで被害者がいた場所から円を描くように聞き込みをすることにする。しかし捜査権を持つ警察と違い捜査権を持たない探偵に過ぎない俺は基本的に他人の善意に頼ることになる。徒歩で場合の生活圏は大体2km以内ということを考えると捜査は暗礁に乗り上げつつある。それと刑事さんが睨んできて怖い。


 名探偵は煙草を吸いながら思考するらしいので俺もしてるが全く考えが纏らない。半径1500mの聞き込みを終えたところで車の可能性も考えたが、それでは俺が探せないので頭から追い出す。

 名探偵ってどうやって犯人を捜すのかだれか教えてくれないでしょうか。


 しかし事件を解決する名探偵なんていない以上俺が頑張るほかない。そもそも俺は死亡推定時刻すら知らないことを思い出した。最寄りの警察署に頼み込んだ結果教えて貰えなかった。やむをえないので一升瓶を土産に教えていただけないか頭を下げたが教えていただけなかった。もはやこれまでと土下座を敢行したところなんとか死亡推定時刻を教えていただけた。43歳の土下座は軽くないということだ。

 死亡推定時刻をもとに再び聞き込みを開始するが全然情報が出て来ない自棄ミルクが進む。

 しかし警察も俺より人員も多く捜査権を利用して民間人から情報を搾り取っているはずなのに解決に導けていないということは何か見落としがあるのではないか? 俺は煙草に火を付けながら考える。そうだ捜査状況教えて貰おうっと。

 一升瓶が受け取ってもらえなかったことを考えて地元の銘菓を持ち警察に赴いた


「捜査状況を教えてください!」

 そして断られる前にすかさず土下座を決める 

「流石に捜査状況をおしえるわけにはいかない」

「そこを何とかお願いします。銘菓を受け取ったことは無い所にしますから!」

そして土下座から五体投地に移行します

「え、これ賄賂的なものだったの?」

「これ以上捜査を荒らされても困る、いっそ教えてしまおう」

「あざーーーす!」

「こいつ反省してないな」


「これが現在の捜査状況だ。どうも酒の場での口論が元凶らしい。今は証拠を固めている最中なんだ。頼むからこれ以上余計な事しないでくれ」


 こうして今回の事件簿は終わりを迎えた。煙草をくゆらせて煙を吐く。ゴホゴホと咳き込んでしまうが煙草はいいもんだ、嫌な記憶を忘れさせてくれる気がしないでもない、テレビから犯人が逮捕された速報が出た、俺はそれを静かに煙草の煙の向こうに見るのだった。


 今日は、コンビニバイトが首になったので今度はスーパーでバイトだ。お惣菜が余ったら貰えるとうれしいぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私立探偵 立花達夫は紫煙の先に真実を見る めるりん @hana-hana-meru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ