後編

 拝啓十八歳のあなたへ。

 あの日よりも少し蒸し暑く感じる七月七日です。まず最初に謝らなければなりません。ごめんなさい。そして、ありがとう。あなたの願いを私は叶えてしまった。この十年間私はある意味本気で生きていたと思う。遠い未来への希望を胸に多分普通の人以上に全力で多くの人と関わった。とてもいい経験もできた。

けれでも、関われば関わるほど、「私ってこの程度なんだな。」って痛感することが増えて、どんどん苦しくもなっていった。血を吐きながらエンジンにガソリンを入れるような日々だった。そんな年月を過ごしていたら、気づけば二十七になった。一週間後は七月七日、二十八歳になるとわかった。その時、私に残っていたのは割れたスマートフォンと小さい財布だけ。なんでなの?その時、瞬間的にある事を確信した。

「私が私を見つけてしまった。」

 そう。私を見つけても別に私に何かあるわけじゃない、漫画の少女みたいに美しくもないし、アイドルみたいに輝いてすらいない。自分の価値を知ってしまった自分にもう何の意味も見いだせなくなった。

 そんな中この手紙を見つけたの。うん、本当は探していた。じゃなきゃ、押し入れの奥に潰れたボロボロの手紙なんか見つけることなんかないよね。

 十年前のあなたのように私も願い事を書かせてください。七夕だから。

「私が私を知らないでいますように。」

 叶うかどうかじゃなくて、夢は叶わないから、願いを書き留めたいと思います。こうやって文字を紡ぐ間も時は流れて、一時間一分一秒とあなたから私が離れていく。私はもうあなたにはなれない。あなたがどんな顔をしていたかも私は覚えていない。そうやって生きていかなければならないのかな。

 夜の空はいつもきらきらしているけれど、一つとってよく見れば凹凸がある。遠くにずっといて欲しい。そんなことを思って、今日は眠ります。

 疲れたよ。

 おやすみなさい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

タイムカプセル 死神王 @shinigamiou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

ペペロンチーノ

★4 恋愛 完結済 1話