第5話

光る石の明かりが照らす洞窟は、予想以上に深かった。湿った岩肌に苔が生え、ところどころに鍾乳石がぶら下がっている。空気はひんやりと冷たく、足元には水が溜まっている。


「ピコ、この洞窟、果てしないんじゃないか?」


タクミが不安そうに呟いた。ピコは、懐中電灯のように光る石を前に出し、洞窟の奥を照らした。


「きっと、もうすぐ出口があるよ。諦めないで。」


ピコの言葉に励まされ、二人はさらに奥へと進んでいく。洞窟の壁には、奇妙な模様が刻まれていた。それは、まるで古代の文字のようにも、あるいは、何かの生物の模様のようにも見えた。


「この模様、見たことあるような気がする…」


ピコは、壁に刻まれた模様をじっと見つめた。


「どこで?」


タクミが尋ねる。


「昔、おばあちゃんが話してくれた物語の中に。この模様と似たものが描かれていたような…」


ピコは、幼い頃の記憶を辿ろうとしていた。


「おばあちゃんの物語?」


タクミは、興味深そうにピコを見た。


「うん。おばあちゃんは、昔、この森に住んでいた人たちの話をよく聞かせてくれたの。その人たちは、とても賢くて、不思議な力を持っていたんだって。」


ピコは、静かに話し始めた。


「その人たちは、この森を大切に思っていたんだけど、ある日、大きな争いが起こって、この森は呪われてしまったんだって。そして、この模様は、その呪いの印だって…」


ピコの話に、タクミは背筋を凍らせた。


「もし、この洞窟がその争いの跡だったら…」


タクミの言葉に、ピコは何も言えなかった。


二人は、再び歩き始めた。洞窟の奥は、だんだん広くなっていき、やがて、大きな空洞へと開けた。空洞の中央には、深い淵があり、その淵には、真っ赤な宝石が光っていた。


「あれは…」


ピコは、宝石に釘付けになった。


「もしかして、それが、おばあちゃんの言っていた、呪いの源?」


タクミが、恐る恐る尋ねる。


ピコは、宝石に手を伸ばそうとしたが、その時、洞窟が揺れ始めた。


「地震だ!」


タクミが叫ぶ。


洞窟の天井から、無数の石が落ちてくる。二人は、必死に身をかわす。


「早くここから出ないと!」


ピコは、タクミの手を引っ張り、洞窟の外へと飛び出した。


洞窟の外に出ると、そこには、今まで見たことのない光景が広がっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

影の息吹 藤井湧己 @yuu_fujii_aj

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る