どうせなら、深夜にエアコンの見える場所で読むのがいい。
- ★★★ Excellent!!!
一縷さん自薦の『コウシン世』。会社のエアコンに成り代わっているアノマロカリスが、徹頭徹尾、可愛かったです。
全体的に無機質かつ淡々とした雰囲気なのですが、どこかに淡い優しさのようなものを感じました。起こっている全てが異質なはずなのに、アノマロカリスだから、で許されてしまう。
うるさい上司を喰ったのも、夜の東京を飛んでいるのも、シュークリームも食べているのも──それらは淡々と描かれるようで、アノマロカリスの優しさを孕んでいる気がします。
ちなみに博物館での"エアーコンディショナー"のくだり、私は馬鹿なので、「きっと通称でそう呼ばれている生物がいたのだなぁ」としか思わなかったのですが、"三葉虫のスリッパ"を目の当たりにしてようやく気付きました。鈍すぎました。
後半の展開がとても素敵……素敵どころか、どうしたらこれを思い付くのかというほどに面白く、ただ黙々と読み進めていました。アノマロカリスとともに見た明け方の光があるからこそ、"日本"という大洋に沈むビル郡の美しさが際立ちます。
世界は更新されたのか、或いは後進したのか……。全てを覆い尽くすどんでん返しのラストシーン、ただ一口に退廃的とくくるのは、なんだか惜しい気がします。不思議な世界でした。