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 部屋ではメトロノームのような一定のリズムが刻まれている。君の遺言書を読んだ私に、何も迷いなんて必要ない。君はきっと死ぬタイミングを考えてただけで、ずっと死にたかったんだね。私は何も分からなかったよ。幸せとか言ってたけど、私からみたらそれは幸せじゃなかったよ。


 でも、君がそうするとどこか分かっていたのに何も言わなかった私も私か。ならせめて、最後に君の望むことをしよう。


「やっぱり君は分からない」


次の瞬間、部屋は驚く程静寂に包まれた。君にはさようならなんて言葉より、この言葉の方が似合いそうだ。


「行っておいで」


そうして私は、だんだんと暖かさが消えてゆく、私の理解できぬものに触れた。

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遺言書 霧裂 蒼 @kaki-kama

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