笑いを起こす装置【大人のみらいばなしシリーズ】

独白世人

笑いを起こす装置

 人間にとって笑うという行為はとても大切なものである。

 笑うことで人生がより豊かなものになるのは誰の目からも明らかであり、免疫力の向上など健康面でも良い効果を与えるものだとされている。


 しかし、笑いとはとても不確実なもので、笑いのツボや頻度は人それぞれである。同じ漫才を見ても笑う人とそうでない人がいるし、その笑い方も様々だ。

 それゆえに人間にとって笑うことは、とても奥深く難しいものとされてきた。

 お笑い芸人は自分の芸に磨きをかけ、バラエティ番組のプロデューサーはどうすれば面白い番組が作れるのかを全身全霊をかけて考え続けている。


 ○○○


 ここから先は今よりずっと先の未来のお話である。

 人間にとって笑いというものが人体に与える効果を重視した研究者が集い、人工的に笑いを起こす装置『Laugh machine』が発明されるのだ。

 その装置の中に入って設置されているボタンを押すと直接脳の笑うツボに働きかける超音波が出て、どんな人でも笑いが込み上げてしまうのであった。

 それは性別や年齢、人種の壁を超えて万人に適用される装置であった。


 そして、装置を発明した研究グループはある大企業と提携し、この装置を世界中に設置する。1回1分の使用料は丁度喫茶店で飲むコーヒー1杯分くらいの金額に設定された。当初は1分間を短いという人もいたが、実際に使用した後の感想はほぼ100%の人が満足する結果となった。

 駅やコンビニに併設されたLaugh machineを人間は日常的に利用するようになる。ストレスが溜まった時や気分が落ち込んでいる時に気軽に利用できるこの装置は爆発的にヒットした。


 色々な効果が現れ始めた。

 人が抱えるストレスが緩和され、鬱で苦しむ人や自殺者が減った。

 犯罪も減少し、人々はLaugh machineによって戦争が無くなる世界を本気で夢見るようになった。


 しかし、徐々に弊害が出てくる。

 Laugh machineには中毒性があり、使用を重ねるに連れて笑いに関する感度が落ちてしまうのだった。

 漫才やコントでは笑えないという人が出てきて、多くのお笑い番組が打ち切りになった。

 

 こうして人間の笑いの質が少しずつ変化していく。

 笑いはLaugh machineで手にいれるものと認識されるようになる。

 結果、日常生活からどんどん笑いがなくなっていく。普段の生活で笑わない大人が増えたことで子供も笑わなくなった。

 そして、笑うという感情表現を失った人間は喜びの感情も表せなくなっていく。

 喜ばれることを一つのモチベーションにして働いていた人達が仕事をする意味を見出せなくなってしまうのだ。


 日常生活の中から笑いが無くなった世界はどんよりとした曇り空のようになってしまう。

 人間らしい生活が出来なくなる日がきてしまうのだ。


 人類は核戦争や隕石の落下で滅亡するのではない。

 自然に笑えなくなった人間が生きるモチベーションまで失ってしまい滅亡するのだ。

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