就職活動
なの
第1話
寒い冬の朝。私は1本の電話で目が覚めた。
「もしもし、お母さん?」
「もしもし、りりちゃん?すぐに実家に帰ってきてくれる?落ち着いて聞いてね、千代ばあが事故にあったの」
「は?まってどういうこと?え、ほんとに?」
「とりあえず急いで帰ってきて」
私は、福岡の大学に通っている。実家は大分なので電車で二時間程度。電話を受け、急いで身支度をした。私は生粋のおばあちゃんっ子だった。起きたばかりで頭も働いておらず状況が掴めずにいた。千代ばあが事故?大分までの電車あいちょんのかな。千代ばあの様子ちゃんと聞けばよかった。状況が理解出来ていなかったが胸騒ぎがした。涙ぐみながら、まだ状況が分かってないんだから泣くのはやめろと言い聞かせる。家を出て急いで博多駅へと向かった。幸い私の家は博多駅に近い。全力で走り五分で駅に着いた。そこから大分行きの電車切符を買い二時間涙を抑えながら揺られていた。大分駅に着き、お母さんが迎えに来てくれた。急いで車に乗り込み、千代ばあのいる病院へと向かった。
「千代ばあ!!」
病室のドアを開け叫んだ。そこには涙を流したお父さん、弟が立っていた。千代ばあのもとへ行くと千代ばあは目をつむっていた。
「璃々、千代おばあちゃんは先ほど息を引き取った」
お父さんが告げる。目に映りだされるものが、歪んでくる。その日の記憶はあまりない。次の日からお通夜、葬式とばたばた終わっていった。私はというと、生きる屍のようだった。最後に千代ばあと話せなかったという後悔がへばりつく。大学入学とともに福岡で一人暮らしを始めた。だから千代ばあには今までのように頻繁には会えなくなっていた。でも、千代ばあは元気だったからいなくなるとは思いもしなかった。最後にもう一回元気な姿で会いたかった。そんな後悔の渦の中、福岡に帰ることになった。本当はもっと地元にいたかったけれど、いつまでもうじうじせんで就活しておいでとお母さんが私を福岡に帰した。私は来年から社会人になる。周りはどんどん内定をもらうなか、私はまだ内定を貰えていない。だけどこんな気持ちのまま、就活ができるはずなかった。
福岡に戻り、私は自堕落な生活を送っていた。何に対してもやる気が出ない。ベッドの中で時間を費やすばかり。そんなある日、ネットサーフィンをしているときだった。
『亡くなった方にもう一度あいにいきませんか?』
という広告が出てきた。
「なんこれ?」
私は気になり、その広告サイトを開いてみた。
『従業員募集!未経験OK!新卒大歓迎!天国もしくは地獄での勤務で亡くなった方に対する接客業務が主です!大切な方をなくして、もう一度会いたい。憎いあいつに会ってもう一度だけ文句を言ってやりたい!どんな理由でもOK!気になった方はまずは企業説明会にお越しください!ご応募はこちらから!』
天国勤務?どういうこと?何度読んでもよく意味が分からなかった。亡くなった人にもう一回会えるわけなくない?そんな考えが頭を埋め尽くしながらも、私はこの可能性に賭けたいとも思っていた。もしこれが本当ならばもう一度千代ばあに会えるかも。そんな淡い期待をもって私は一度企業説明会に行くことにした。予約フォームに飛ぶと好きな日程を選ぶことができた。そのため早めのほうがいいかと思い明日の朝十時に予約した。とりあえず話だけ聞いて怪しかったらすぐ帰ろう。
翌日私は説明会へと向かった。
「こんにちは!お名前は?」
「前田璃々と申します」
「前田さん!少々お待ちください!はい、確認とれたので会場入って前の席お座り下さい!」
受付の方は明るく真っ白で美人だった。1番前の席に前田という名札が置かれておりそこに座った。私以外誰もおらず少し体が強ばった。
「こんにちは!本日は株式会社アフターライフの説明会にお越しいただきありがとうございます!私就職担当の桑と申します!本日は前田さんだけのご参加なのでマンツーマンで弊社の説明をしますね!話を止めて質問して頂いて大丈夫です!それでは本日よろしくお願いします!」
「前田です。よろしくお願いします」
受付のお姉さんも綺麗だったが、この桑さんも真っ白な肌に綺麗な顔立ち。この会社は綺麗な人ばっかだな。
「では早速ですが、前田さん!弊社はどのように知りましたか?」
「ネットです。たまたまスマホでSNS見てる時に流れてきました」
「インターネットからですね!ありがとうございます!すみません、本日前田さんのみなのでこうやってたまに質問したりしても大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
正直黙って話を聞くつもりだったので計算外。しかも私一人とは思わなかった。なにかあっても帰れないというのが少し不安だった。
「それじゃあ、まず業務内容について説明しますね!前田さんは死んだあとどうなるか分かりますか?」
「え、天国に行くとかですか?」
「そうです!人が亡くなったら、天国または地獄で一時過ごすことになります!その後、希望者は輪廻転生を行えるという仕組みになっています!ここまでで何か質問とかありますか?」
「いえ、、、」
質問はない。ないけどこの人は何を言っているんだ?私は企業説明会に来たのであって、こんな宗教じみた話を聞きに来たのではない。少し寒気がして、帰りたくなったが言い出せなかった。
「そこで我々の会社は、天国または地獄で暮らしている方々のサポート等を行う仕事となっています!基本的に天国と地獄のスタッフは人間ではないのですが、ここ最近スタッフが足りなくなってまして、、、。上層部の方たちの会議の結果、人間の皆様方の手をお借りしようとなったのです!でも大丈夫ですよ!スタッフの方たちは皆さん優しいですし、人間差別とかはありません!それもそうですよね!亡くなった人間の皆様のお世話をしているので!それでは、細かい業務内容はですね、あれ資料が、、?少し待っててください!資料を取ってきますので!」
まって桑さんがすらすら話したけど、なに?天国とかって作り話じゃなくて本当にあるって事?どうしよう、桑さんがいない今のうちに逃げるべき?でも来た時に受付をしてくれた方がまだ出入り口にいるかも。そうなったら私は連れ戻されて終わるまで帰れないよな。どうするべき?
「お待たせしました!すみません!」
戻ってくるのはや!やばい、逃げれなかったこうなったら最後まで話を聞いてみるしかない。
「それではここまでで何か質問はございますか?なんでもいいですよ!」
「あの、、私は天国とか地獄は実際には存在していないものだと思っていたのですが、、、。それとも今まで言っていたのは、老人ホームか何かの施設の名前が天国とかそういうことですか?」
「そうですよね、この世の方は実際に見る機会がないのでご存じないのも無理はないです。生きている方には見えないところに存在しているのです!ですが、うちの社員になりますと、この世とあの世を自由に行き来することが可能になります!その方法はここでは詳しく言えないんですけどね!」
「そう、なんですね、、。分かりました、ありがとうございます」
にわかに信じがたいが、桑さんが嘘をついているとも思えなかった。この人は私と会ってからずっと真面目に話続けている。しかもこれがいたずらとかなら、わざわざ資料まで持ってきて手が込みすぎている。初めて会う人間にここまでのことはしないだろう。もう一つの可能性としては宗教勧誘だ。でもこれも違うと思う。宗教勧誘ならば私に質問する隙を与えずに、自分たちの教えを一方的に説くのではないだろうか。そうなればこれは本当にあの世が存在しているのではないだろうか。私の頭は今までにないぐらいフル回転だった。
「それでは続けますね!こちら資料です!まず、地獄勤務の場合から説明いたします!地獄での勤務になった場合、最初は主にスタッフのお手伝いをしていただきます!簡単な清掃から始まり、書類業務、物品管理などこの世で言う事務作業をまずは行っていただきたいです!事務作業と言っても簡単なことばかりなのでご安心ください!その後慣れてきたら地獄で過ごすことになった方々の対応などもしていただけます!この暮らしている方々の対応の方が主な仕事内容となっております!ですが中には、事務作業が得意という方もいらっしゃいますので、ずっと事務作業のみでという感じで選ぶこと可能となっております!ここまでで何か質問ございますか?」
「あの、その、地獄で暮らしてる人っていうのはやっぱり生前罪人だった人とかってことですか、、?」
「そうですね、罪人だったり生前あまり良い行いをしてこなかった方とかが多数ですね!」
「あぁやっぱりそうなんですね、、、分かりました」
「続いては天国勤務のほうですね!天国での生活は地獄より自由な暮らしとなっております。地獄で暮らすことになった方は様々なルールに従い、過ごさなければなりません。ですが、天国ではほとんどルールがありません。皆様好きなように過ごしてらっしゃいます。なので天国ではその方々の暮らしをサポートしていただきたいです。やはり、寿命を全うした方々がほとんどなので高齢の方々が多いです。あの世にいらっしゃった方の体は皆様何不自由なく動かせるようになります。生前寝たきりの方も若いころのような身体に戻すことが可能です。ですが、脳だけがどうにもならないのです。生前までの記憶を残したままある程度までは治せるのですが、やはり物忘れがひどい方や認知症を突然発症される方も中にはいらっしゃいます。そのためその方たちのフォローをお願いします。難しいことは何一つないですよ!例えば、私たちスタッフのことを友達と勘違いされている方にはその友達になりきって遊んでもらうとか!中には小さい子もいらっしゃって、○○が欲しいとかのお願いを言われるのでその要望に応えたりとか!どんな要望にも応えられるように様々なものの用意がありますのでご安心頂いて大丈夫ですよ!」
「はい」
「続いて給料などのお話をしますね!続けて大丈夫ですか?休憩取ります?」
「いえ、大丈夫です」
嘘か真か分からない話を聞き続けて、正直何が何だかわからない。
「そうですか?じゃあ続けますね!まず給料ですが、新卒の方は四十九万円です!」
「え?」
「はい?どうかされましたか?」
「え、本当に四十九万ですか?」
「はい!そうです!」
「分かりました、すみませんお話止めてしまって」
「大丈夫ですよ!では続きですね!」
いや待て、さすがに新卒で四十九万は高すぎないか?びっくりして話を遮ってしまった。怒ったりしてないみたいで良かった。
「続いて、通勤手段ですね。先ほど言った通り、職場は生きてらっしゃる人間の皆様方には見えない所となっております!なので、自宅から職場までは送迎スタッフを完備しております!もちろんその交通費とかは掛かりませんし、自宅までスタッフが参りますので通勤は楽ですよ!あとは福利厚生ですが、住宅手当等がございます!ちなみに今って一人暮らしですか?」
「はい、そうです」
「それでしたら、毎月一定額お支払することが可能です!もしくは、寮もございますのでそちらにお引越しというのもありだと思います!寮から職場まで近いのですぐ到着します!」
「へ、へえ~」
やばい、話がどんどん進む。なんかこのまま一次面接スタートとかならないよね!?
「ほかの手当等もございますので、後ほどご覧ください!それと言い忘れていたのですが、うちは二十四時間体制をとっています!なのでシフト制で管理をしています!もし前田さんが夜勤は得意じゃないな等のご要望がありましたら対応は可能です!基本的に好きな時間に働いていただきたいので、希望は遠慮せずにおっしゃってくださいね!ちなみに、前田さんはどうして弊社の説明会にご参加くださったのですか?」
「あの、、ネットで広告を見たときに亡くなった人にもう一度会えるって書いてたのでどういうことだろうって気になって、、、」
「なるほど!ありがとうございます!それじゃあ今現在亡くなった方で、もう一度会いたい方がいるということですね?」
「はい」
「ちなみに誰っていうのは聞いたりしても大丈夫ですか?」
「祖母です。この前事故で急に亡くなって、最後に会えなかったからもう一度だけ会いたいなあって思っています」
「おばあ様ですか、この度は大変なことで。でもその願い叶えること可能ですよ!」
「え?」
「おばあ様が天国と地獄どちらで生活しているのかは今すぐには分からないんですけど、調べることが可能なので入社していただいたら分かると思います!そこが分かれば勤務時間中なら自由に会いに行っていただいて大丈夫ですよ!」
「え、あの本当ですか?」
「でも一つだけ問題があって、天国と地獄勤務選ぶことができないんですよね。もちろん希望はお伺いするんですけど、やっぱり素質だったりとか足りてない部署とかがあるので最終決定は上の者がすることになります。でも仕事で成果などを出せば異動希望も出せます!なので、もしおばあ様が天国で暮らしてて、前田さんが地獄勤務になってしまった。その逆もしかりです。その場合は、上司に掛け合ってもらって上司から出される課題だったりをクリアすればすぐにでも希望部署に異動できると思います!」
「そのもし、祖母が天国で私が地獄になった場合勤務時間外に祖母に会いに行くとかは出来ないんですか?」
「それは出来なくていくつかルールがございます!まず一つがもし前田さんがおばあ様と同じ場所でのご勤務で、お仕事お休みだからおばあ様に会いに行こうとしてもそれは出来ないです!休日中は職場には入れないルールとなっております!なのでその場合は勤務時間中に会いに行っていただきたいです!勤務時間中で休憩中や自分の仕事が終わっていたら好きにしていただいて結構ですよ!それともう一つ!もし天国勤務が決定したら地獄のほうには入ることができません!その逆もですね!天国と地獄は場所が少し離れてて、入り口でチェックがあります!なので、自分の勤務先にしか足を踏み入れることはできません!なのでおばあ様と別々になってしまった場合には、異動願いを出してもらって先ほど言った通り課題をクリアしていただけたらなと思います!」
「あーそうなんですね。分かりました」
「それでは最後に就職試験の説明です!弊社では、面接試験一回のみとなっています!特に必要な資格であったり、学歴などはありません!完全に人柄採用をしています!面接も難しいものではありませんので、気軽に来ていただいて大丈夫ですよ!本日は一度お帰りになって、十分考えてみてください!そのうえで面接を受けたいと思った場合、資料の一番後ろに載せてある連絡先までご連絡ください!最後に質問等はございませんか?」
「あのもし入社することができたら、祖母に会えますよね、、?」
「はい!すぐにお会いできるかもしれませんし、お時間が少しかかるかもしれません!ですが、働き続けることができた際には、その夢叶うこと可能だと思います!」
「分かりました、今日はありがとうございました」
「はい、こちらこそありがとうございました!お出口は後ろの方にございます!」
軽く会釈をし、足早と会場を去った。家に帰り着き、今日貰った資料をもう一度見返してみた。何度見ても新卒の求人にしては条件が良すぎる。そのうえ、千代ばあにもう一度会える可能性がある。こんなことこれから先あるだろうか。この可能性に賭けてみるのもありなのではないか。幸いお父さんとお母さんは私の仕事に口を出すような人ではない。学生の頃から好きなことをやりなさいと言い続けてくれている。ただ業務内容とかを言うとさすがに心配するだろうからそこは噓をつけばいい。就職してから速攻千代ばあに会いに行って、そのあと業務が合わなかったから辞めたなどと言い転職すればいいだろう。どうしても千代ばあのことを引きずってしまっている。面接に行ったからと言って必ずしも受かるわけではない。こんなチャンスを逃してしまったら私はもっともっと後悔するだろう。やらずに後悔よりやって後悔のほうがいい。私は応募を決意した。翌日の朝、面接日程のお知らせがきた。明日の朝九時から説明会があった会場で面接。正直、来週あたりかなと呑気に思っていたので焦った。面接の準備など何もしていなかったので慌ててネットで予習を始める。朝から志望動機などを考えていたらあっという間に夕方になっていた。空がオレンジに染まる中、電話の音が響いた。
「もしもし、お母さんどうした?」
「もしもし、璃々ちゃん就活はどんな感じ?福岡帰ってからなんも連絡よこさんけん大丈夫かなと思って」
「あーーごめん、連絡忘れとった!大丈夫!明日面接に行ってくる!」
「あらそうなん?それはよかった!頑張るんで!しっかりご飯食べてな~、じゃあ忙しい時にごめんね。また連絡して~」
「はーい、じゃあね!」
良かった、自然な感じに面接を受けることも言えたし深く詮索もされなかった。一安心。面接の予習も出来たし今日は早く寝ることにしよう。
面接当日、私は緊張していた。何度面接を受けてもこればっかりは慣れない。深呼吸をし、息を整え私は受付へと向かう。
「こんにちは!お名前よろしいですか?」
「こんにちは。9時から面接予定の前田凜々と申します」
「前田凜々さんですね!準備がまだ整っておらずもう少しで面接始められると思うので、座ってお待ちください!」
「はい。分かりました」
ああそわそわする。何を聞かれるのだろうか、早く始まってくれないかな。
「前田凜々さん、準備が出来ました!どうぞ中へお入りください!」
「はい!失礼します。前田凜々と申します。本日はよろしくお願いします」
「初めまして!よろしくね!どうぞお座り下さい!
「失礼します」
この前の説明会のお姉さんとは違う方だった。だが、この方も真っ白で目がクリっとしており綺麗な方だ。スーツに付けている真っ白な羽のピンバッジが輝いている。
「緊張しなくて大丈夫だからね!面接っていうか面談って感じだから!じゃあまずはお名前と生年月日をお願いしてもいい?」
「はい、2000年12月7日生まれ前田凜々です」
「うん!ありがとう!じゃあ志望理由をお願いします!」
「はい。祖母にもう一度会いたいと思ったからです。先日説明会に参加させていただいた際に亡くなった方に会うことができると聞きました。私は最近祖母を亡くし、最後に会って話すことが出来ませんでした。そのためその後悔を無くすべく、御社で働かせていただき祖母と話したいと思ったからです。以上です」
「ああそうなんですね。おばあ様に、素敵ですね。ではもし弊社で働くとなった時に天国と地獄どちらが希望ですか?」
「えっ、と祖母が暮らしている方で勤務したいと思っています。ですがまだ祖母がどちらで暮らしているかが分かっておりません。なのでどっちが希望というのはまだハッキリありません」
「分かりました!ありがとうございます!」
うわ、これ考えてくんの忘れとった。ああ、嘘でも天国とか言った方が良かったかも。だって千代ばあが地獄なわけないよね、絶対天国って言った方が良かった!やらかした、しかも希望ないとか言ってしまって働く意欲あんま無いじゃんとか思われたかも、、。
「次に前田さんはアルバイトの経験とかはありますか?」
「はい、スーパーマーケットでアルバイト経験があります。レジ打ちや品出し、接客などを主にやっております」
「接客経験がおありなんですね!それはいいですね!うちもやはり亡くなった方のサポートや対応をするのが多いので接客経験が合った方が仕事がやりやすいんですよね!ではもし希望の部署じゃない所に配属になった場合どうしますか?」
「はい。その場合はまず最初に配属になった所で成果を出しその後自分の希望する部署に移りたいと思っております」
「おっけーです!じゃあ最後に前田さんの方から質問とかありますか?」
「はい、あの天国や地獄勤務にあたって危ない事とかあったりしますか?」
「んー今まではなかったですよ!」
「分かりました。以上です。ありがとうございます」
「はい!それじゃあ合否は明日か明後日には出ると思うのでお待ちくださいね!本日はありがとうございました!」
「ありがとうございます。失礼いたします」
以外と面接は早く終わり、あっけなかった。普通の企業と何ら変わらない面接だった。変わった会社だからもっと怖い人が面接とかと思ってたのに。まあ無事終わってよかったか。家に帰り着いて一気に緊張が解けたからか寝落ちしていた。母からの電話で目を覚ました。
「もしもし、璃々ちゃん?今日面接って言いよったよね!?頑張ってね!」
「お母さん、もう終わったよ。朝から面接で終わるの結構早くて帰ってから寝とった」
「あら、そうなん!?お疲れさま!どうやった?」
「んーどうなんやろう、手ごたえとかはない」
「そっかあ、どんな仕事なん?」
「あ、っと接客業!福岡の会社でお年寄りの相手したりする!」
「そうなんや、璃々ちゃんなら大丈夫よ!いきなり電話してごめんね、じゃあまたどうなったか教えてね!」
「はーい、じゃあね」
お母さんにどうにか誤魔化せてよかった。とりあえず合否を待つしかない。これで受かっていたら千代ばあに会いに行った方がいいという事だろう。自分の運命に身を任せることにした。翌日五分に一回メールを確認していた。合否がどのように通知されるか等は詳しく聞いていなかったため、起きてからずっとそわそわしている。夕方五時過ぎ、合否は明日かもなと諦めかけていた時だった。選考の結果についてという題名のメールがきた。スマホの通知部分だけではまだ結果がわからない。ドキドキしながらメールを開いてみる。
「えーっと、選考の結果前田さんは合格となっております!やったーーー!千代ばあに会える!お母さんに電話!」
急いで電話を鳴らす。
「もしもしお母さん!?受かっとった!!」
「わ!本当に?!おめでとう!やっと決まったね!良かった!」
「うん本当よかった!お父さんにも伝えとって!!」
「分かった!お父さんも喜ぶよ!良かったあ、心配しとったから。これで安心やわ〜」
「うん、じゃあそれだけ!ばいばい!」
嬉しさのあまり一方的に電話を切ってしまった。でもそんなことよりもう一度間違っていないかメールの確認をしたくてたまらなかった。何度見ても合格という文字がしっかり書かれている。メールを読み進めていくと、明日の朝九時から入社の説明がしたいと書いてあった。早速だなと思ったが、ワクワクが私の中では強かった、千代ばあに会える、こんなに嬉しいことはない。たまたま見つけた求人の面接に半信半疑で行き、合格した。正直まだ千代ばあに会える確証とかは無い。だが私はそんなことを考えずにただただ千代ばあとの再会を楽しみにしていた。
次の日、メールに書いていた通り私は入社の説明を聞きに行った。
「こんにちは!前田さんですよね?」
「こんにちは。はいそうです」
「お待ちしておりました!どうぞ会場の1番前の席にお座り下さい!すぐ係の者が来ます!」
受付のお姉さんは、説明会の時受付をしていた人だった。やはり今日も真っ白で綺麗。この前は気づかなかったが、この人も真っ白な羽のピンバッジを付けていた。
「ごめんなさい!お待たせしました!お久しぶりです、前田さん!この度は合格おめでとうございます!」
「お久しぶりです、ありがとうございます」
説明会の時の桑さんだ。桑さんと受付の方はペアなのかもしれない。
「面接どうでした?」
「結構緊張してたんですけど、受かって良かったです!」
「そうなんですね、私も前田さんが合格でとても嬉しいです!それで今日は入社についていくつかお話したくて来てもらいました!まず一つ確認なんですけど、前田さんはもううちに入社するってことで大丈夫ですか?一度入社すると決めたらもう辞退は出来ないことになっているのですが」
「はい!入社させていただきます。よろしくお願いします」
「ありがとうございます!良かったです!次に前田さんの勤務先なんですけど、面接の際に希望がないとおっしゃったと聞いております。なので会議の結果、前田さんは地獄勤務ということになりました!」
「あ、分かりました」
うわぁ、まじか。やっぱ天国って言っとくべきやった!悔しい!でもここで変えてもらうこととかさすがにできんよね、、。
「大丈夫ですか?本当は天国が良かったとかありました?」
「あぁ実は天国の方が良かったかもなぁとは少し思いました」
「本当ですか?それなら少し調べてみましょうか?もし天国の方でスタッフが欠員している部署があったら変われたりもするかもなんで!少々お待ちください!」
「え、ありがとうございます!すみません、よろしくお願いします」
ラッキー!ここ最近の私運良すぎる!頼む!天国空いててくれ!千代ばあ!
「お待たせしました!申し訳ございません、今は空いてないみたいです、、」
私の願いが砂のように消え去った。
「ですが数ヶ月後に退職予定の方がいらっしゃるようで、その方が退職されたら一枠空きが出るので異動できる可能性はあります!そのためにはあまり大きな声では言えないんですけど、仕事スタートしたらまず直属の先輩とある程度仲良くなってください。信頼関係がすこし築けたら天国の方に異動したいってのを伝えてみてください!そしたら申請とかやってくれる方が多いです!ここで肝なのは、仕事スタートしてすぐ言うのではなくある程度仲良くなってから!ですよ!」
「分かりました!ありがとうございます!実践してみます!」
「実際にそれが成功したら一緒に天国で働きましょう!私は就職担当ですが、就職応募がない時は基本天国勤務なので!」
「はい!」
「次は住居に関してです!今って一人暮らしって言ってましたよね?」
「はい、そうです」
「ですよね!それならそのまま一人暮らしを続けるか、職場近くの寮に引っ越すことも可能ですがいかがいたしますか?」
「あーこのまま一人暮らしを続けていきたいです!」
寮とか怖すぎる。ただでさえ、地獄勤務とかよく分からないのにその近くの寮とかなんかあった時誰も助けを呼べないかも。しかも千代ばあに会ったらすぐ辞めるつもりだし。
「分かりました!一人暮らしですね、そうしましたら毎月お給料とは別に住宅手当が出ると思います!」
「はい、ありがとうございます」
「あとは、、入社日ですね!相談がありまして、普通の企業だったら四月からだったりするかもなんですけどもっと早くから入社していただいてもいいですか?」
「あーーはい、、分かりました」
正直、四月からが良かった。でもここで無理とか言ってこの話はなかったことにとか言われても困る。
「ありがとうございます!そうしましたら、今日がもう二月末ですね。急にはなりますが三月一日が入社日とかでもいいですか?」
「え、あ、はい」
「良かった!それじゃあ三月一日の朝九時に家までスタッフが参りますので、部屋の中でお待ちください!」
「はい、、」
入社日が決まってしまった。あまりにも早すぎる。
「以上です!なにかご質問とかはございますか?」
「あの服装とかは?」
「入社日はスーツでお願いします!次の日からは地獄勤務の方は自由ですよ!でも動きやすい格好がいいと思います!あと持ち物!筆記用具とメモ帳だけご持参ください!」
「分かりました。それでは三月一日からよろしくお願いします」
「はい!本日はお時間頂きありがとうございました!」
「失礼します」
この数十分でまさかもう入社する日が決まるとは、しかも3日後。はやすぎる、確かに早く千代ばあに会えた方が嬉しいがそんなすぐの心構えなど出来ていなかった。しかも地獄で暮らしてる人への対応ってなにがあるんだろう。怖くないといいけど。不安すぎる。
「もしもしお母さん?今大丈夫?」
「はいはい、どうした?」
「あのね、今日入社の説明したいって言われて言ってきたんよ。そしたら三日後の三月一日から入社することなった」
「え!?三日後?!早くない?大丈夫なのそれ?」
「うん、私も早いって思ったんやけど。でもなんかこれで無理とか言ってじゃあ内定はなかったことにとか言われてもさぁ、困るやん?」
「んーまあそうやけど、じゃあとりあえず頑張るんよ!」
「うん、分かった」
「なんかあったらすぐ辞めて転職したらいいよ!」
「そうやね」
「それじゃ凜々ちゃん、お母さん今から買い物行かんといけんから切るね!ごめんね〜!」
「え、あ、はいじゃあね」
お母さんは一方的に電話を切った。本当は業務内容の事とかを言って相談してみようかなとか思っていたけれど、もうしょうがない。私が選んだ道なのだから自分でどうにかしよう。
入社日当日。目覚ましより早く目が覚めた。 スーツを着てドキドキしながら部屋で待っていると、インターホンが鳴った。
「おはようございます〜。私株式会社アフターライフ地獄支社の御荷車と申します〜。お迎えにあがりました〜。玄関先までお願いします〜」
来た!
「はーい、お待ちください!」
「おはようございます〜。初めまして、御荷車です〜。準備できてますか〜?」
「おはようございます、前田です!いつでも行けます!」
「じゃあ行きましょ〜」
「はい!」
家の前に車が停めてあり、乗るように言われた。後部座席に乗ると外の風景などは一切見れないようになっていた。
「ここからだと五分程度で着くと思うんで自由にしててください〜」
「分かりました」
御荷車さんは顔が少し赤くてタレ目の優しい雰囲気だ。
「今日から前田さんの送迎は自分がするんでよろしくお願いしますね〜」
「そうなんですね!こちらこそよろしくお願いします!」
「会社の場所は秘匿なので送迎の時に風景見れないようになってるんすよ〜。すみませんね〜、真っ暗で」
「ああそういうことだったんですね」
「今日が初出勤っすよね?そしたら今日は早めに帰れると思うっすよ、良かったですね〜」
「そうなんですか?なんでですか?」
「自分も入社1日目はスーツで会社の説明とか受けてもう帰っていいよ〜って言われたんで〜。多分前田さんもそうだと思いますよ〜」
「へえ、それだと嬉しいです」
「色々大変なことあると思うけど頑張っていきましょうね〜。そろそろ着きますよ〜」
「はい、ありがとうございます!」
「到着です〜。降りたらそこで待っててください〜、多分係の人すぐくるんで〜。じゃあまた帰り迎えに来ますね〜」
「ありがとうございました!」
着いた場所は薄暗い所だった。電灯などは無く、何故前が見えているのかは分からない。そして少し暑い、まだまだ春には程遠く冬の寒さが残っているはずなのにここはモワッとする暑さだった。
「前田さーーーーん!お待たせしましたーー!」
遠くの方から微かに声が聞こえた気がした。声の先を見てみると、遠くからお兄さんみたいな人が走ってきている。だが、近づけば近づくほどその人が人間ではない事が分かる。人間ではありえない真っ赤な顔。まさか、鬼?待てよ、確かに説明会の時桑さんがスタッフに人間は基本的にいないとか言ってたような。あの時どんどん話が進むもんだから聞き逃してた所もあるかもしれない、、。うわぁまじか、どんどん近づいてくる。めちゃくちゃ怖いどうしよ。
「前田さんですよね?お待たせして申し訳ないです!」
「あ、はい、、、前田です」
「どうかされましたか?」
「え、あのいや」
「あ!僕ですか?僕は地獄支社のリーダーをやっている遠仁田です!初めまして!」
「よ、よろしく、お願いします」
「???あ!もしかして前田さん、僕みたいなの初めて見ました?そうですよね!就職担当の人は見た目が人間よりの方を使ってるのか!あのですね、説明しますとうちで働いているのは色々な種族がいるんですよね〜!例えば鬼だったりとか!説明会とか面接の時はどんな方でした?」
「えっと、真っ白くて美人な方で、説明会の時は桑さんって方です」
「ああ!桑さんが就職担当なんだ!桑さんは確か天使族とかだったような〜、そんな感じで人間族の方は前田さんが初めてなんですけど色んな種族の方がスタッフとしているので大丈夫ですよ〜!じゃあ行きましょう!」
「あ、はい」
遠仁田さんは見た目は鬼っぽくて怖いけど喋ったら全然怖い感じじゃないな。見た目さえ慣れてしまえば多分いい人そう。人じゃないけど。
「まずは私たちの事務所兼休憩室からです!私は基本ここで作業をしていますのでなにかあったらここに来てくれれば解決できます!そしてみんなここで休憩をとります!一階が休憩室、二階に食堂、三階が事務所です!私は三階にいます!食堂では好きにご飯食べてください!今日は地獄内の施設とかの説明終わったら帰ってもらって大丈夫なので明日からですね!好きにお使いください!」
「分かりました」
あ、本当に御荷車さんが言ってた通り今日早く帰れるんだ。ラッキー。
「その隣に建っている建物はスタッフの寮ですね!前田さんはここに入る機会無いと思いますけど、寮にはいつでも引っ越せるのでその際は僕に言ってください!」
「はい」
「続いては前田さんが働いていただく場所の説明をしますね!僕たちの間では現場って呼びます!」
遠仁田さんと合流してから事務所まではシャトルバスに乗った。ここでの移動は基本シャトルバスらしい。送迎係の御荷車さんは今日車をおろしてくれた所もまでしか入ってこられないため、事務所までの行き来はこのシャトルバスでないと駄目だと言う。もちろんシャトルバスから風景は見ることが出来ず、御荷車さんの車同様真っ暗だった。そのため私はこの寮はどこに建てられているのか、自分がどこにいるのか全く予想がつかない。事務所と寮は隣り合わせなので歩きだが、そこも道が決まっていると言っていた。完全秘密主義を貫いている。また事務所から現場までシャトルバス。送迎車を降りてから直行現場に行くこともでき、これもまたシャトルバスの乗車が義務付けられる。歩きはだめなのかと聞いたら駄目だと即答だった。私はその時遠仁田さんが一瞬私に向けた疑いの目が頭にこびりついていた。現場の入口に着くと、そこには高い塀が建っていた。推定十メートルはあるであろう塀のせいでまだ現場の中の様子を見ることが出来ない。
「はい、ここが現場と呼ばれる場所で前田さんが明日から働いてもらう場所ですね!こっちが入口でここで社員証を読み込まないと中に入ることは出来ません!前田さんの社員証は後で渡しますね!」
中に入ると想像を絶する風景が広がっていた。そこでは至る所で炎があがっていた。釜茹での風呂に入らされている人、焼かれている人、切り刻まれている人。正直見るに堪えない部分もある。
「前田さん、大丈夫ですか?やっぱり最初はびっくりしますよね!でももう少ししたら慣れると思います!」
「えっ」
「じゃあここでの生活の説明を行います!最初に、亡くなった方はどうなるのか!まず三途の川って聞いたことありますよね?その川を渡りきった方は死亡が確定します!そこから暮らし生活部署の方々が天国が地獄かの組み分けを行ってくれます!この組み分けは生前のポイント制度で決まります!生きている間はそんなもの見えないんですが、人間の皆様には生まれつきポイントカウント機能が備わっています!悪事を働いた時のポイント、人助けをしたポイントなど様々です!なのでその死ぬまでのポイント数を暮らし生活部署の方々が集計して、その後死後天国と地獄どちらで暮らすかを決定します!ここまで大丈夫ですか?」
「えっあ、はい」
正直目の前に広がる風景がまだ見慣れておらず、話が全然入ってこない。地獄っていうのはどんなものかとか今まで何度か聞いたことあるけど、本当にこんななんだ。しかも私と同じ人間が苦しんでいる。見るに堪えない。
「そこで地獄に来ることになった方は、大体の方が悪事を沢山働いてきています!なので生前その償いを出来なかった分私たちがこの地獄でその償いのお手伝いをしようってことです!なので同情とかは不要ですよ!」
「、、、」
「地獄の中にも様々な償いがあります!焼かれたり、煮られたり、切られたり!そこら辺にも法則があるんですが、別にそこは覚えなくていいので話さないでおきますね!あの、大丈夫ですか?」
「あ、、はい多分」
「いきなり前田さんにあの方たちの償いのお手伝いってのはきついと思うので、最初は掃除から任せるので安心してください!掃除から始めてこの風景に慣れてもらえればなによりです!」
「分かりました」
「そろそろ時間なので一旦事務所の方に戻りましょう!」
事務所までのシャトルバスでは目眩がした。
「前田さん、少し座って待っててください!」
「、、、」
「これが前田さんの社員証です!明日から忘れずに持ってきてくださいね!今日は実際の現場見て疲れたと思います。今迎えの御荷車さんを呼んだのでもう少しだけ待ってくださいね!」
「はい、、ありがとうございます」
「前田さんはおばあ様に会いたくて入社したんですよね?おばあ様がどちらで暮らしているかとか聞きました?」
「あっ、聞いてないです」
そうだ、さっきの光景に蝕まれすぎて本来の目的を忘れていた。そうだ、千代ばあに会うために来たのだ。
「じゃあ今から調べてみましょうか!おばあ様のお名前は?」
「天野千代子です」
「ちょっと待ってくださいね!えっーと、前田さんのおばあ様は天国となっていますね!天国で暮らしているみたいです!地獄ではないのでまだ会えずに残念ですね〜」
「そうなんですね、ありがとうございます」
良かった、、、。千代ばあがもしあの地獄で暮らしているとなっていたら私は耐えきれなかった。あんな目に遭っている千代ばあには会えなかった。天国でのんびり暮らしてくれているだけで一安心だ。あとは、私。私が踏ん張れば千代ばあに会える可能性がある。こんなとこで挫ける訳には行かない。
「あ!御荷車さん到着したらしいですよ!じゃあシャトルバスで入口まで行ってください!きっとシャトルバス降りたらすぐ御荷車の車停まってると思います!そうだ!明日は昼十二時からでも大丈夫ですか?」
「ありがとうございます、明日十二時ですね。分かりました」
「はーい!それじゃあ気をつけてね!」
会釈をしシャトルバスに乗りこんだ。
「前田さ〜んお疲れ様です〜。やっぱり早く帰れましたね〜。じゃあ乗ってください〜。ご自宅まででいいっすか〜?」
「はい、お願いします」
「やっぱ疲れてますね〜。疲れますよね〜、想像とは違いました?」
「いや逆に想像通りできつかったと言いますか」
「あぁ〜そうっすよね〜。人間界では結構地獄リアリティある感じで伝えられてますもんね〜。ま、でも大丈夫っすよ〜。慣れたらなんてことないんで〜」
「はは、そうですかね」
御荷車さんは私の気分が下がっていたのを察したのか行きより喋りかけてくれた。
「はい、着きました〜。それじゃあ明日は昼十二時に来るんで今日と同じ感じでインターホン鳴らしたら外出て来てください〜」
「ありがとうございました、明日もよろしくお願いします」
「はい〜それじゃあお疲れ様です〜」
家に入るなりすぐに横になった。今日は説明だけだったのにこんなに疲れがくるとは。明日から働くことになるけどやっていけるのだろうか。でも千代ばあには会いたいし。やるしかない。
「凜々ちゃん、おばあちゃん凜々ちゃんに会えるの楽しみやわ〜。早く会いたい」
「千代ばあ!」
疲れていたからか横になったらいつの間にか寝ていたらしい。こんな時に千代ばあが夢に出てきた。千代ばあも私に会いたがっている。やめるわけにはいかない。私の中で火がついたような気がした。
翌日、私はTシャツにジーンズにスニーカーと動きやすい服装で出勤をした。今日も御荷車さんが送迎だ。御荷車さんは私の服装を見てただ一言、いいっすね〜と言った。まず、リーダーの遠仁田さんの所に行った。
「おはよう!前田さん良かった!昨日結構落ち込んでた感じしたから今日来なかったらどうしようかなって思ってて!じゃあ今日から業務に取り掛かってもらうんだけど、最初に教育係の先輩を紹介するね!じゃあ現場に行こっか!」
「はい!」
昨日の私は全員に心配されるほど落ちていたらしい。自分ではそう思わなかったが、御荷車さんや遠仁田さんを見ると明らかだ。昨日夢であれ千代ばあに会えたことが嬉しかったので、今日から気持ちを入れ替えて頑張ることにした。
「えっーと、九鬼くん!ちょっといいかな?」
「あいーー!待ってくだせえ!」
「待ってね、九鬼くんって言うんだけどね」
「はい!お疲れ様っす!遠仁田さん!」
「お疲れ様!あのね九鬼くん今日からね前田さんが働くことになったんだけど、九鬼くんが教育係になって教えて貰ってもいい?」
「え!自分っすか!自分そんな教えたりするの上手くないっすよ!」
「九鬼くんが1番若くて前田さんと歳も近いからさ、ね?歳近い人の方が前田さんも質問とかしやすいと思うし、お願い!」
「はぁ、まあ自分で良かったらやりますけど!」
「本当?ありがとうね!じゃあ前田さん!この方が今日から前田さんに教えてくれる九鬼くんです!分からないこととかあったら彼に聞いてね!」
「分かりました、前田ですよろしくお願いします」
「じゃあ九鬼くん、前田さんには最初掃除とか簡単な仕事から教えてあげて!じゃあ僕は事務所戻るからなんかあったら事務所まで!」
「あっ、ありがとうございました!遠仁田さん!」
「はーい!」
「じゃあ早速やるぞ!俺の名前は九鬼、お前はなんだっけ?」
「前田です!」
「下の名前は?」
「凜々です!」
「よし、凜々!じゃあ着いてこい!」
「はい!」
九鬼さんは多分若いお兄さんだろう。見た目とか喋り方が遠仁田さんより元気で若さを感じられる。初対面で下の名前を呼び捨てで呼んでくるくらいには馴れ馴れしいけど。
「んじゃあ、まず凜々には掃除と受付からやってもらう!俺の受け持つ場所はここだ!慣れてきたら凜々にも手伝ってもらうぞ!」
そう言って連れられたのは人々が切り刻まれている所だった。絶望の淵に立たされ諦めている者、泣き叫びながら許しを乞う者それとは逆に快楽を感じている者など様々な人が腕などの身体の部位を切られていた。
「じゃあ最初にここにある包丁を洗って拭いてくれ!終わったら俺に報告!洗い場はすぐそこにあるだろ?そこにタオルもあるから!」
そう言って九鬼さんは自分の腰元から包丁を取りだし行ってしまった。私はまだこの世界に馴染むことが出来ない。まだ目を伏せてしまう。だから最初の業務がこの包丁洗いで良かったと心底思った。血のついた包丁を洗うのは初めてだった。だからこべりついた血はなかなか落ちないということを知らなかった。包丁を全て洗いきり、拭き終わるのに苦戦したがやっと終わった。私は九鬼さんの元へ向かう。
「九鬼さん!終わりました」
「お!凜々!意外とはええじゃねえか!いい子だ!でも喋り方が駄目だ!俺に話しかける時はもっと元気よく話せ!あと九鬼さんじゃなく九鬼くんって呼べ!分かったか!?」
「はい!」
九鬼くんは意外と細かいらしい。
「じゃあ次は受付頼むわ!受付は死んでから地獄で暮らすことになったやつが来る!そいつらが書類持って来るから名前聞いて本人確認、その後デスクに入ってる地獄地図渡してそいつがどこ行ったらいいかを言ってやってくれ!俺がいる所は四番だから!あとは九番とか色々あって書類見りゃあ分かるからよろしくな!」
「えっ私やった事ないですけど」
てっきりお手本を見せてくれるかなと思っていたが九鬼くんは行ってしまった。あの適当な説明でよく分からなかったがとりあえず受付のデスクに座った。一番大きな棚を開けてみるとさっき言っていた通り地図が入っていた。九鬼くんは四番にいると言っていたが、別に地獄内で仕切りがある訳では無い。ただどこから吊るしているのか分からない看板があるだけで、他の番号の所も丸見えだ。私が座っている受付は入口のすぐ側にあり、地獄にやってきた人はすぐに受付に来れる感じになっている。地獄内もそこまで広くなく、端までしっかり見える。だから端の方で楽しそうに人間を釜茹で風呂に入れる鬼を私は凝視してしまった。九鬼くんの方を見てみると九鬼くんも穏やかな顔をして腕を切っていた。あと何日いればこの光景に慣れるのであろうか。
「すいません」
「はい!」
他のスタッフの人を見渡していたら急に話しかけられてビビりあがってしまった。
「あの、この書類を受付に見せてって言われたんですけど、、」
「あぁーはい、貰いますね。えっと、じゃあまずお名前からお伺いしてもいいですか?」
「伊東勝平です」
「はい、ありがとうございます。伊藤さんは四番と書いてあるので、あの看板見えますか?四番って書いてある。あそこまで行ってください。これ一応この地獄内の地図です」
「はい、、ありがとうございます」
地図を受け取る伊東さんの手は震えていた。絶望に打ちひしがれた顔をしている。なかなか足が進まずに立ち尽くしていた時
「凜々!そいつ何番!?」
九鬼くんが叫んでいる。
「四番です!」
慌てて答えてしまった。
「じゃあ俺んとこだ!連れてこい!」
どうしよう、九鬼くんが呼んでるでもこの人を連れていけば切り刻まれてしまう。でも九鬼くん怖い、どうしよう。
「おい!どうした!早くしろ!」
「はい!ごめんなさい、伊東さん着いてきてください」
「え、あのまってください、、」
私は無理やり伊東さんの手を引き四番ゾーンまで連れて行った。
「いい子だ凜々!じゃあおっさんここ寝て。凜々、言ってなかったけど自分で行かないやつ結構いるからデスクの右上にあるボタン押したら誘導係来るからそれ押して!ごめんな!それ伝えたくてわざわざ連れてきてもらった!じゃあ戻って受付頼むわ!」
「はい、、」
「凜々!返事が弱い!」
「はい!」
伊東さんの顔を見ることが出来なかった。私が連れて行ったせいであの人は今から切り刻まれる。申し訳ない。それと一つ分かったことがある。九鬼くんはスタッフとかの仲間にはとても優しいがここに来る人間にはとても冷たい。さっきの伊東さんへの態度がその証拠だ。軽蔑しているような、九鬼くんが私の先輩だから九鬼くんに見限られたらきっと天国への道は閉ざされるだろう。はやくこんな所を抜け出し天国へ異動するにはまず九鬼くんを攻略するしかない。九鬼くんは多分元気で自分に従順な人が好きなんだろう。そうなったら私は九鬼くんには従順な後輩を演じ、一日でも早く仲良くなろう。そう決めた私はまずは元気よく話すところから始めた。幸か不幸か受付と九鬼くんがいる四番ゾーンはそう遠くない。だから私が大きな声で喋れば聞こえている。そこで私はまず元気さをアピールした。
「こんにちは!お名前お願いします!」
「加藤優です」
「はい!加藤さんね!加藤さん九番だからあの左奥まで歩いていってください!行ってらっしゃい!」
「行きたくないです、許して貰えませんか、、」
「行きたくない?そっかあ、じゃあちょっと待ってね!」
ピーンポーンとベルが鳴る。そうしたら誘導係が加藤さんを担ぎ連れていく。
「加藤さん行ってらっしゃい!頑張ってください!」
私はとりあえず明るく元気な受付を演じた。送り出すのは胸が痛いが私は遠仁田さんが言っていた言葉を思い出しながら受付をした。ここに来る人達は悪事を働いてきた人だ、同情なんかはするな千代ばあに会うことだけを考えろ。そう何度も言い聞かせ、数時間受付をやった。
「凜々!お疲れ、お前元気があっていいぞ!」
「ありがとうございます!」
初日から私の作戦通り九鬼くんの私に対する評価は良さそうだ。
「じゃあそろそろ休憩行くぞ!俺もちょうど今から休憩だから一緒に行こう!」
「はい!」
こんなに元気よく挨拶をしたが、休憩はひとりが良かった。もう数時間ぶっ通しで受付をし精神的に参っていた。シャトルバスに乗り事務所まで戻る。
「凜々、ここの食堂使うの初めてか?!」
「はい!初めてです!」
「おお、そっか!ここの飯はうめえぞ!」
「楽しみです!」
飯どころでない。もう疲れている。今日は何時に帰れるのだろうか、、、。聞いとけばよかった。食欲はあまりなかったが、九鬼くんが一緒だったためカレーを食べることにした。一口頬張ったらめちゃくちゃ辛い。なんだこれは、何使ったらこんなに辛くなる。
「凜々!大丈夫か?」
あまりの辛さにむせて、一気に水を流し込んだ。
「大丈夫です、、。ちょっと辛くて、、」
「辛い?!これがか?凜々は全然辛いの食べれねえんだな!」
九鬼くんの反応を見る限り鬼とかにはこの辛さは普通なのかもしれない。人間の私にはきつい辛さだったが、九鬼くんが向かいで食べているので残すことも出来なかった。食べ終わった後、舌と唇がずっとヒリヒリしている。
「お疲れ様!前田さん!これシフトね〜!渡すの忘れてた!ごめん!今日はあと一時間半だから頑張ろうね!」
「あっ、ありがとうございます」
今日も少しだけ業務時間を短くしてくれているらしい。嬉しい。
「初めての現場はどうだった?大丈夫?」
「あ、はい。なんとか、、」
「遠仁田さん!お疲れ様っす!凜々は元気あっていいっすよ!」
「九鬼くん、おつかれ!ああそうなんだ!良かった〜、じゃあ九鬼くん今日前田さんあと一時間半だからよろしくね」
「了解っす!」
「あ、あと前田さん!帰りの車は御荷車さんに前田さんのシフト渡してるから終わる時間頃にはいつものところいると思うから!だからわざわざこっち帰ってこなくてもいいからね!」
「分かりました」
「よし、じゃあ凜々!戻るぞ!」
「はい!」
「じゃあ凜々は今日受付頑張ってくれたし、残りの時間は包丁洗いでいいわ!ゆっくり綺麗に洗って残りの時間潰しゃあ一時間半とかすぐだろ!じゃあ退勤時間なったら俺に言って〜!時計あの上の方にあんだろ?そこ見て動けよ!」
「分かりました!」
ラッキー!受付から解放されてこの包丁洗いで今日の業務終わりとか! やっぱり九鬼くんは仲間には甘い傾向がある。このまま真面目に仕事してすぐに天国行きの話を出来たら最高なんだけどな。私は無心で包丁を洗い続けた。先程の受付と比べたら余計な気を使わずに黙って洗い続けるだけでいいので楽だ。そうこうしているうちに、退勤時間となっていた。
「九鬼くん!包丁洗い終わりました!あと退勤時間になったので帰ってもいいですか?」
「おお!凜々!しっかり仕事出来て偉いぞ!洗った包丁ちゃんと片付けたか?」
「はい!片付けました!」
「よし!よくやった!じゃあ帰っていいぞ!明日も俺とお前働く時間被ってるから、明日も頑張ろうな!お疲れ!」
「お疲れ様です!お先に失礼します!」
よし、帰れる。早く横になりたい。急いでシャトルバスに乗り込む。
「あっ前田さん〜。お疲れ様です〜。じゃあ帰りましょうか〜」
「お願いします、、、」
「は〜い。ご自宅でいいですか〜?」
「はい、いいです」
「疲れてるようですね〜。どうでしたか〜?」
「いやもう疲れました、、、。慣れないことばっかできついです、、」
「やっぱそうっすよね〜。明日は朝十時からだったんで早く休んだ方がいいですよ〜」
「明日朝からでした?まじか、きつ。いつもありがとうございます」
「いいえ〜。はい、着きましたよ〜」
「ありがとうございました。明日もお願いします」
「は〜い、お疲れ様です〜」
家に帰りつくと、どっと疲れが出た。明日からまたやっていけるのか不安だったが、千代ばあのことを考えたらやるしかないと思えてくる。この日は気絶するかのように寝た。
翌日朝八時起床。迎えを待つ。ピーンポーン。来た。時間ぴったり。
「おはようございます〜。お迎えです〜」
「はーい、今行きます」
「前田さん、おはようございます〜。昨日疲れてたんで今日心配してましたが良かったです〜」
「今日も頑張ります」
今日は事務所によらずそのまま現場に行った。九鬼くんを探す。昨日と同じ四番にいる。
「九鬼くん!おはようございます!」
「お!凜々!おはよう!今日も頑張ろうな!今日も休憩同じだから一緒行こうな!」
「えっ、あはい!」
「じゃあ今日も最初は包丁洗っててくれ!」
「分かりました!」
今日も九鬼くんとご飯食べなきゃなのか、、。朝から落ち込むな!ポジティブに考えろ!もしかしたら今日天国行きたいことを話せるかもしれないだろ!そう自分を鼓舞し、私は包丁を洗う。包丁洗いはもう慣れたもんだ。すぐに終わらせることが出来た。
「九鬼くん!終わりました!」
「凜々!この前よりはええじゃねえか!いいぞ!じゃあまた受付に座っててくれ!頼む!もう少しで休憩だから頑張ろうな!」
「はい!」
休憩時間が待ち遠しい。今日も受付に座る。毎日たくさんの人がこの受付に来ているようだ。私はまだ仕事を始めて二日だが、それでも多いなと感じるほどだ。辛そうな人を笑顔で送り出し、また受付をする。やることは常に変わらないので、覚えてしまえば楽だ。ただ精神面が少しきついだけ、でも昨日もやったからか昨日よりかは気持ちが楽だ。
「凜々!飯行くぞ!」
「はーい!ここ受付開けてていいんですか?」
「多分代わりのやつすぐ来るからいいよ!早く行こ!」
「分かりました!」
九鬼くんと食堂へ向かう。今日はカレーではなく野菜炒めにしてみた。辛くないだろうと思って頼んだのにこれも少し辛かった。
「凜々は人間なのになんでここで働いてんだ?」
思わぬ質問に目を見張った。これは絶好のチャンスなのではないか?
「あっと、おばあちゃんに会いたくて!おばあちゃんがこの前亡くなったんですけど、最後に会うことが出来なくて。だからこの会社に入社したらまた会うことができるって聞いて入社したんです!」
「ばあさんにか!凜々はばあさんの事が好きなんだな!んで、ばあさんには会えたのか?」
「いえ、私のおばあちゃんは天国で暮らしてるらしくて。だから天国に異動しないと会えないみたいです、、、」
「そうなのか!?早く言えよ!そしたら俺が遠仁田さんに言ってやるよ!」
「本当ですか?!」
「おう!凜々はいい子だし俺の言うこともちゃんと聞いてるから、一個ぐらい願い聞いてやってもいいぞ!」
「九鬼くん、、ありがとうございます!お願いします!」
「おう!じゃあこれ食べたら先戻ってまた受付やっててくれ!俺は遠仁田さんに話つけてから戻るわ!」
「分かりました!」
一気に未来への光が見えた。まさかこんなに早く九鬼くんが話を切り出してくれて取り持ってくれるとは。最近本当に運がいい。この休憩が終わってからの業務は憂鬱だったが、九鬼くんのおかげでやる気が出てきた。このまま頑張れば二、三日後には異動できるのではないだろうか。
「じゃあ九鬼くん!私戻ります!遠仁田さんにお願いしますね!」
そう言って私は現場に戻った。現場に戻り、いつも以上に元気な受付をした。私が現場に戻り三十分程で九鬼くんも戻ってきた。
「凜々!なんかな、遠仁田さんが言うには課題があってそれクリアしたら移っていいらしいわ!んで、その課題を明日朝九時から説明したいから事務所に朝来てだってよ!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「おう!じゃあ俺も四番とこいるからあと一時間受付したらまた包丁洗ってくれ!」
「分かりました!」
九鬼くんが一気に話を進めてくれたおかげで、すぐ異動出来るかもしれない。千代ばあ!もうちょっと待ってて、私頑張るから!でも課題っていうのはどんなのなんだろう。千代ばあに会うためならなんでも頑張ろう!この日は受付をし、使用済み包丁が溜まったら洗うその繰り返しだった。私の頭は千代ばあに会えるということでいっぱい。業務もこの風景にも慣れてきていた。課題のことを考えながら、包丁を洗っていたらいつの間にか退勤時間になっていた。
「九鬼くん!私もう退勤時間なんで帰ります!お疲れ様でした!」
「凜々もう帰んのか!お疲れ!また明日な!」
「はい!お疲れ様です!」
私はシャトルバスに乗り御荷車さんの元へ向かった。
「あっ前田さん〜。お疲れ様です〜」
「お疲れ様です!」
「あれ?なんか今日はいい事でもあったんですか?」
「えっなんでですか?」
「いや、顔がいつもより晴れ晴れしてるっていうか〜」
「ああ、実は私本当は天国の方で勤務したくて。で、今日九鬼くんっていう先輩が遠仁田さんに話つけてくれて!だからもしかしたら天国に異動出来るかもしれないんです!」
「あぁ〜そうなんすね〜。九鬼くん年下には優しいっすからね〜。良かったですね〜」
「はい!」
「でも課題クリアしないといけないですよね〜?頑張ってくださいね〜それ結構きつかったりするのあるんで〜」
「そうなんですか?」
「はい〜あまり詳しく知らないんすけど、結構体力使うのもあるとか聞いた事ありますよ〜」
「へぇ〜頑張るしかないですね、、」
「もう着きます〜。じゃあ明日も迎えに来るんで〜」
「あっ、明日は九時に事務所の方に行かないといけなくなったので、それに間に合うぐらいに迎え頼んでいいですか?」
「了解です〜。じゃあお疲れ様でした〜」
「ありがとうございます!お疲れ様です」
今日は昨日より疲れてはいない。やはり緊張とかが無くなったからかな。そうだ、お母さんに連絡しないと。
「もしもし、お母さん?」
「あっ凜々ちゃん〜!どうした〜?」
「仕事が始まったからその報告!」
「そっか!どう?きつい?」
「うんきついけど、なんとかやってる!今日いい事もあったしね」
「ええ〜いい事ってなになに?」
「んーそれは秘密!とりあえず大丈夫だよ〜ってこと伝えたかっただけやから!じゃあね!」
「えー凜々ちゃ」
まだなにか喋りたそうだったが一方的に切った。お母さんは話し出すと長くなるのだ。明日も朝早いからご飯食べてお風呂入ってすぐに寝よう。
翌日、事務所に向かうと遠仁田さんが待っていた。
「おはよう、前田さん!座って座って!」
「おはようございます」
「九鬼くんから話は聞いたよ!天国勤務に異動したいんだって?それがね、本当は二ヶ月後とかじゃないと無理だったんだけど、急に辞めた人がいてねすぐに入れるんだって〜!」
「えっ!」
流石に運が良すぎないか?桑さんも数ヶ月後じゃないと難しいかもと言っていたのに、まさかすぐにでも動けるとは。
「でね、すぐにはいけるんだけど課題クリアしてもらわないと駄目なのさ。その課題がね腕を九十九本切り落とすってのなんだよね!出来そうかな?」
「え、、?」
「前田さんの先輩が九鬼くんでしょ?九鬼くんの仕事が腕を切り落とすのことなんだよね!だから先輩ごとによって課題内容とかは違うんだけど、前田さんはそれになりました!」
「あの包丁でってことですか?私やった事ないですけど、、」
「そうそう!大丈夫!九鬼くんが自分が教えるんでって言ってたから教えてくれると思う!天国に異動はそれクリアしたらいつでも来ていいって天国側も言ってくれたからさ!とりあえず今日九鬼くんにやり方教わって試してみて!」
「わ、かりました」
まさか課題がこんな事とは。私は今まで法を犯して生きてきたことは無い。ましてや人の手を切り落とすことなどしたことが無い。どうしよう、でもこれをしなければ天国には行けない。でも、そんなこと人間の私がやっていいのか?そんな考えがぐるぐるしながら、私は現場に着いた。
「凜々!おはよう!待ってたぜ!遠仁田さんから課題の内容聞いてきたか?」
「おはようございます、、はい」
「なんか元気ねえな!」
「いや、あのまさか課題の内容があれだとは思わなかったので」
「なんだぁ?びびってんのか?」
「いや、びびってるっていうか。同じ人間なのに私がしていいのかなとか思ってて」
「いやいいだろ!お前仕事だし!天国行きたくねえのか?」
「行きたいです、、」
「じゃあやるしかねえだろ!元気だせ!返事!」
「はい!」
「そう!というかそもそもここに来るようなやつは生きてる間ろくなことをしてねえ!そんな同情はいらねえんだよ!お前のばあさんの方が大事だろ!」
「はい!」
もはや洗脳にかかったような感じがした。
「んじゃまずお手本な!腕の付け根があんだろ?そっから九センチ以内を切れ!勢いよく包丁を叩き落とす感じでな!」
ドンッと鈍い音が鳴った。人々はまな板のような物の上に縛り付けられている。腕に刃がめり込んだ瞬間叫び声が上がった。私は目を細めた。見ていられない。
「やっぱ最初は見るのきちいかぁ!大人しそうなやつを凜々がやってみろ!」
そう言って九鬼くんは大人しそうな人を連れてきて括りつけた。
「ほら!やってみろ!こいつはもう何回も腕切り落とされてっから叫ばねえぞ!」
ここで腕を切り落とされてもまたすぐに生えてきてまた切り落とされる。その繰り返しらしい。私は包丁を持たされた。手が震えて上手く持てない。
「凜々!気合い入れろ!お前なんのためにここにいんだ!ばあさんの為だろ!そんなんなら一緒にやってやるよ!」
そう言うと九鬼くんは私の後ろに立ち、一緒に包丁を握った。
「行くぞ!怖かったら最初は目つぶっとけ!」
九鬼くんは私の腕を持ち上げ振り落とした。先程と同じような鈍い音が聞こえた。本当に私が腕を切り落としてしまった。括り付けられた人はなにも叫ばない。もう全てを諦めている顔。痛覚はあるはずなのに何も感じなくなっているようだった。
「よし!凜々!よくやったぞ!これで一本達成だな!ちょっとそこらで休め!また出来そうなら二本目やりゃあいい!無理そうなら包丁でも洗ってくれ!」
私は端の方に座った。本当に切り落としてしまった。でもこれは千代ばあのため。これは仕事。鈍い音が頭から離れない。千代ばあも私に会えたら嬉しいよね。これは悪いことではない。はやく千代ばあに会いたい。もうこの時点で私は精神に異常をきたしていたのかもしれない。
「凜々、大丈夫か?」
「九鬼くん、これでいいんだよね?私千代ばあに会うため腕切り落とさなきゃ駄目だよね?」
「そうだな!凜々は腕を九十九本持って遠仁田さんのとこに行くんだよ!そしてばあさんに会う!そうだろ?」
「はい!」
そこから私は腕をもう三本自ら切り落とした。手の震えはもうない。私は無心で腕を切り落とすことが出来ていた。
「凜々!ちょっと包丁洗ってきてくれねえか?もう使えるやつがほぼねえ!」
「分かりました!」
もっと早く切り落とさないと。千代ばあには会えない。もっとはやく。急いで包丁を洗い九鬼くんの所に戻っては腕を切った。だが、1番下っ端なので受付と包丁洗いをやらないといけない。そうなったら腕を切り落とすのにさける時間がない。
「あ!凜々!お前もう退勤時間だわ!もう帰れ!ごめんな!気づかんくて!」
「え?」
「ほら早く!遠仁田さんに怒られる!」
私はシャトルバスに放り込まれた。このままでは千代ばあに会うのは当分先になる。労働時間が少ない。もっともっと働いて腕を切らなければ。どうすれば?そうだ、遠仁田さんにシフトを変えてもらえばいいのか。
「前田さん〜。お疲れ様です〜。じゃあお送りしますね〜乗ってください〜」
「御荷車さん、ちょっと待っててください。遠仁田さんに話したいことあるんで」
「?分かりました〜。じゃあここで待ってます〜」
急いで遠仁田さんの元へ向かう。
「遠仁田さん、私のシフトの時間もっと伸ばしてください」
「あら前田さん!お疲れ様!急にどうした?」
「もっと早く腕を切らないと。もっと働きたいんです、もっともっとシフト入れてください」
「んーそれは難しいなあ。今前田さん人間界で暮らしてるでしょ?だから就業規則ってのを人間界に合わせなきゃならないんだよね!だから今の前田さんのシフトは限界まで入ってるの!ごめんねぇ」
「どうしても無理なんですか。私はもっと切らないといけないんです」
「んーあ!一個だけあるよ!この隣の寮に住むの!そしたらこっちで生活してるってことで僕が手続きしたら就業規則とか関係なしに出勤できるよ!」
「本当ですか、じゃあそうします。早く引越したいんですけど」
「最短明日!荷物とかまとめなくても前田さんが働いている間に全ての荷物を運び出して手続きとかも勝手にこっちがやるよ!」
「じゃあそれで。お願いします」
「おっけー!じゃあ明日はシフト通りに出勤してね!そっからは好きなように出勤できるから!」
「分かりました。お願いします」
早く帰って寝て明日また腕を切らなきゃ。はやく、はやく。
翌日朝、いつも通り出勤をした。包丁を洗い、受付をし空いた時間で腕を切る。休憩時間も少なくして私は働いた。でもさすがに体の限界がきて、一度事務所の方へ行った。そうすると遠仁田さんが寮の私の部屋へと案内してくれた。部屋の間取りは以前私が住んでいた家と同じ感じで家具の配置もその通りになっていた。この寮に入れば一日最低6時間働くのならば何時間勤務し、いつスタートでもいいと言われた。私は睡眠時間を削り、食事回数を減らし毎日腕を切り落とした。だけど、現場に入れば包丁洗いと受付を押し付けられる。だから腕を切り落とす時間が少ない、その時間を多く確保するため私は毎日長時間働いた。時計など見ずに。お母さんから電話が度々きていたが、出る時間すらももったいない。メッセージを送り、電話をしてこないで欲しいと頼んだ。そんな生活をはじめて二週間が経った。まだ腕は五十本しかない。まだまだ足りない。もっともっと働かなければ。私はどんどん睡眠時間を削る。
「凜々!受付もう終わりでいいぞ!」
九鬼くんからそう言われ、やっと腕を切りにいける!そう思い立ち上がり歩き出したら足がもつれた。倒れた勢いで意識を失った。気づいたら沢山の花に囲まれていた。すぐに夢だと分かった。最近寝てなかったから、意識が飛んだのか。早く目覚まさなきゃ、どうしたら起きれるんだろう?
「凜々ちゃん」
聞きなれた声がした。振り返ると千代ばあが立っていた。
「千代ばあ!なんしよんの!前に夢で会ったぶり!わぁ嬉しい、今私ね千代ばあに会うために頑張りよんの!」
「ん〜?凜々ちゃんちょっと遠くて声が聞こえんわ〜。もっと近くに来て喋ってくれん?」
「分かった!今行く!」
走って千代ばあの元へ行く。
「千代ばあ!」
千代ばあのことをぎゅっと抱き締めた。体温は感じられない。
「千代ばあ、なんでスーツ着とるん?」
「うん、ちょっとね」
「この千代ばあのスーツに付いてるピンバッジ素敵!真っ白で、でもどっかで見たことあるような、、」
「ありがとうねえ。凜々ちゃん、さっきこっち来る時に足が濡れたみたいやねえ、これで拭きなさい」
「千代ばあ、ありがとう!千代ばあ大好き!」
「あーあ遠仁田さん!飛ばしすぎっすよ!一ヶ月も持たなかったじゃないっすか!」
「だねぇ、やっぱ人間は限りがあって駄目なのかなあ?桑さんたちが結構頑張ってくれたんだけどね!夢とかまで見せて!前田さんはやる気あっていいなと思ったんだけどなあ!」
「本当っすよ!凜々は従順でなんでも押し付けたらやるから使い勝手良かったんすよ!せめてあと一ヶ月はもって欲しかったっす!」
「だよねぇ、ちょっとセーブさせるべきだったか!初の人間でこんな脆いとは思わなかったんだもん!これぐらいじゃ倒れないと思ったんだけどなあ。まぁ、しょうがないか!こっからの対応が大変なんだよね〜、面倒臭い、、」
「また新しい人入るっすか?」
「んーどうだろう!上層部の方たちの話し合いによるかな!とりあえず前田さんが地獄に来たらまた仲良くしてあげてね!次は住人として!」
「了解っす!普通ならぜってえありえないっすけど凜々にはよく働いてもらったんで!」
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