[4] 古都

 もう日も暮れかけていたことだしその日は先に進まず野宿することにした。

 平犬を無理矢理歩かせて聖剣で地形をずたずたに破壊した場所からは離れたところにテントを張る。さすがにあれをやらかしたとばれるのは、いろいろちょっとまずいのだ。

「で、なんだったんだ?」

 干し肉で空茶酒をちびちびなめながら骨月は尋ねる。

 平犬は自分のやらかしたことを思い出してか、なんともいやそうな顔をしてから答えた。


「多分、この聖剣とかいうやつ、安全装置の類が一切ついてねえんだよ」

「まじかよ、それやばすぎだろ」

 精神力を攻撃に変換する仕組みのある武器には必ず安全装置がついている、一定以上の精神力を消費しないためのものだ。

 それがないとどうなるかと言うと際限なく精神力をすり減らして、その結果、人間の方はよくて廃人、大抵の場合は死に至る。

 そんな相手より先に自分が倒れるような武器が売れるはずがないので通常の市場ではまず手に入らない。裏の伝手を頼ればなんとかなるという噂もあるが、まあ所詮噂だろう。


 いや捨てることもできないし、加減間違えて使ったら自身が死ぬとかもうそれほんとに呪いの武器以外の何ものでもないのではこれ?

「その点除けばまあ気の通し方に癖はあるけどエネルギー変換効率は高いみたいだから、確かに聖剣っていわれるだけはあるって感じだな」

 気に入ってるのかいないのか、平犬はその剣を手に取ってながめながら、そんなことを言った。

 骨月はそれを見て、もしかして平犬はすでにいわゆる"剣に魅入られる"状態になってるんじゃないかと思ったが、よくわかんなかったので、まじでやばくなったら逃げようと決めて、考えるのをやめた。


 そんなちょっとしたトラブルはあったものの2人は無事に古都に到着する。

 さて着いたはいいが特にあてがあるわけでもないのでまず観光に出かけることにした。幸い道中で魔獣を狩ってたおかげでそれ換金して懐には多少の余裕があった。

 古都――かつてここには都があったという。100年どころじゃない、1000年ぐらい前の話だ。

 今ある国とは領域もシステムもなんもかんも違うわけだがとにかくあった。結構大きな国だったらしくて今ある国の領域がが2つ3つまとめて含まれてたらしい。

 そんな大国の中心がこの古都に定められていた。


 今となっては地方都市のひとつにすぎない。

 けれども大量の遺構が残されているおかげで観光資源には事欠かない。ちょいと歩けば古の遺物に突き当たるそんな街並み。何かお宝が眠ってる匂いがぷんぷんする。

 門のところで売ってたパンフレットに従い遺構を巡る。

 大蟷螂の骨、麻生の骨髄、三極教会、未踏尖塔群、小切開の足跡、悪魔の左眼、シュニグラ望遠鏡……話には聞いたことがあった場所を渡り歩いた。

 正直なところ、骨月も平犬もそうした歴史的遺物に興味がある方ではない。だが実際に現地に足を運んでみればその迫力に圧倒される。

 古くてぼろくさいとしか思えないものもあったことはあったが、大部分はその場に立つだけで雰囲気を楽しむことができた。


 "邪悪に対抗するための防具"の手がかりはまったく見つからなかったけれど。

 ありそうでない。だいたいここにあったものはとっくに掘りつくされている。今さらそんなものが隠されているなんてことがありえるだろうか。

 多分ない。

 観光ルート最後は博物館。さすがにつまらないから止そうかという話もあったが、ちょうど宿屋への通り道にあったので寄ってくことにした。


 何やらかび臭くてこじんまりとしていた。

 錆びついた剣やら鐘やらが飾ってあってその隣には小さな文字でたらたらと説明文がついている。いちいちそれらに目を通せば時間もかかろうが目を止めることなく通り過ぎる。

 最後、ぽつんと青い革製(?)の長靴が置いてあった。名前を示す標識もない。

 骨月は思わず足を止めていた。つられて平犬も。


「あの靴はなんですか」

 通りがかった博物館の人に問いかける。彼女は眼鏡ごしにちらりとそちらを見た。

「よくわかりません。ただ随分古いものなのは確かなので一応こうして飾ってるわけです」

 それだけ言って彼女は通りすぎていった。

 その場で2人は顔を見合わせると頷き合う。ひとまず博物館を出ることにした。

 無言のまま街中を歩いて宿屋に入る。2人部屋に通されて初めて口を開いた。


「あれじゃね」「あれだよな」「でもなんで」「わからん」「びんびんに感じるものがあったろ」「知ってないと大したものには見えないとか」「まあ得体のしれないものだしそういうこともあるかもな」

 思ってもみないところで手がかりを通り越して実物にぶつかった。

 なんというか、聖剣を手に入れた時と似たような状況を想定してた。どこかに忘れられた祠があってそこにまたあの半透明の女が現れて、みたいな展開。

 いや別段こっちとしてもその形式に則ってくれなくてもなんら構わないのだけれど。いくつか手間が省けた分助かったとすら言えるかもしれない。

 ただ新たな問題があって――どうやって手に入れればいいのだろうか?

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