[3] 占術
当面の目標はこの世界に隠された"邪悪に対抗するための防具"を探して手に入れることだ。
そのためには情報が必要になってきて、情報を集めるためにはひとまず人の集まるところが都合がよくて、骨月と平犬の2人はそのまま街へと帰ることにした。
なんだかやってることは本物の勇者の妨害のような気がするが気にしない。最終的な結果が同じになるなら向こうも大目に見てくれることだろう、多分。
聖なる防具探しゲーム、真勇者チーム対偽勇者チーム。どちらが有利か?
こちらは現地人、この世界のことならよく知ってるはずだ。勇者感覚で防具の位置がわかるとかならどうにもならんが。
いやそんなものがあるならまずこのくそ聖剣を確保しておけ、真勇者よ。お前がこいつをきちんととっておかないからこんなことになったんだろうが、クソが。
つまりは真勇者側も恐らく聖なる防具の位置をちゃんとわかってない可能性が高い。希望的観測というやつかもしれんけどな。
街に着いたら早速聞き込み開始。それぞれがそれぞれの心当たりを探ってみる。
探ってみたのだが――成果なし。どころかいやな噂まで耳に入ってきた。
何かといえば真勇者が女連れて聖剣を探し求めているという噂。
やばい、まじでやばい。その聖剣はどこのやつとも知れない偽勇者のものになってるとか知れたらまじで超やばい。激やば。
骨月は3日ほどあらゆる伝手を頼って探ってみたが何の手がかりも得られなかった。
いつもの酒場で落ち合って情報交換、平犬の方も収穫なし。しょうがないので飯食って酒飲むことにする。
作戦を変更すべき? 例えばいい感じに勇者に取り入って仲間に入れてもらうとか?
いや相手がどんなやつかわからんし、相手からしてもこっちのことなんて信用ならんだろうし、そもそも交渉のテーブルについてくれない可能性がある。
早くも詰んだ。
その日はあまりの進展のなさにやけになって飲んだくれてた。つまりは判断能力が下がっていたということなんだろう。
そんな時は普段やらないことをやってしまう。それがいい方に転ぶこともあれば悪い方に転ぶこともある。
骨月と平犬のテーブルにだれかが座る。視線をやれば薄汚い爺さん。
よく知っている、この酒場でいつだってのんだくれてる占い爺さん。
骨月が酒場に入り浸るようになったころにはすでにいた覚えがあるから爺さんの中でも結構な爺さんということになる。
爺さんは探るような目つきで2人を眺めたのち問いかけてきた。
「お前さんら、なんか困ったことがあるようじゃな」
一瞬ぎくりとした。けれどもすぐにただの占い師の常套句じゃねえかと気づいた。
骨月は無視する。平犬はけっと吐き捨ててから「とっとと失せろよ、爺さん」と言った。
爺さんは動かない。どころか、骨月にむかってにやりと笑いかけてきた。
「1杯おごれ。さすればお前らの求める情報をわしが与えてやろう」
繰り返すがどうしてそんな気になったのかよくわからない。
骨月は白泥酒のボトルを手に取ると爺さんの手の中のコップへとなみなみそそいでやる。
爺さんはしぇっしぇっしぇと喉の奥で笑うと、うまそうにどろどろとした液体のを飲み干した。
「南へ行け、古い都がある。そこにお前らの求めるものが待っている」
それだけ言うと爺さんはふらふら歩いて去っていった。
その後も飲みつづけて翌朝、骨月はだらりと起き上がると朝日を眺めて、そうだ南へ行こうと思った。
薄い粥をすすりながら「南へ行くぞ」と言ったら、平犬のやつは「何を言っているのかまったくわからない」という顔をした。
それを見て骨月は「あ、こいつ、昨日のことなんも覚えてねえな」と気づいたが、いちいち説明するのは面倒だったので「とにかく南へ行くんだよ」で押し切った。
何も占い爺さんのことを全面的に信頼しているから南に行くというわけではない。
理由は3つ。
聖なる防具なんて骨董品の情報なら古都の方が集まりやすいんじゃないかというのが1つ。
それから勇者たちが聖剣を求めてチョイハテ村に向かうならその途中でこの街に立ち寄る可能性が高い、万一にも鉢合わせしたくないというのが1つ。
最後に古都には行ったことないからせっかくだし観光がてらに訪ねてみようというのが1つ。
古都に行くという結論が先に決まっていてそれに後から理由をつけたと言われても仕方がない。実際そのような側面はある。
占い爺さんに"古い都"と言われた時に頭の中で何かがぴんと来たのは確かなことだ、それに従ってみるのも悪くない、特にこういう何の手がかりもない時には。
街道沿いに歩いて進む。時にはあえて道を外れて魔獣を狩る。
こいつらここ数年ほんと増えた気がする。これも魔王復活の兆しなんだろうか、よくわからない。
平犬を前に出して聖剣とやらを使わせてみた。
はじめの2、3戦は「なんだ、これ使いにきいのな」とぐちぐち言っていたのだが、3戦目だか4戦目だかで急に交戦中に「お、お、お、そうか、こういうことだったのか!」みたいなことを言い出して、聖剣を大きく振り回すと相対していた黒犬の群れどころかあたりの木々までまとめて消し飛ばした。
「なにやってんだ、加減考えろよ、バカ」と言いつつ骨月が近づいていったところ、「うっわ、これやばすぎだろ」とこぼしながら平犬はがくりと膝をついた。
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