シニタガリ庭園

@liroril

第1話

「ここは俺が居るべき世界では無い」何度かそう思ったことがある。

特に理由は無いがこの世界は俺には向いていないとふとした瞬間思ってしまう

 いつからか俺の中で命の価値が低くなった、それは自分も他人も同じ事でニュースでどこそこのだれだれが死んだなんて話を聞いてもそうなんだ、程度にしか思わなくなった。

でも何故だろう、同じ頃から人の死が美しく見えるようになってしまった。フィクションだろうがノンフィクションだろうが、人の命の散り際に魅力を感じる様になった。ほらあれだ、スカートの中が見えるか見えないかの瀬戸際にいる気分に近い。

 そんな感情を誰にも話すことが出来ず、何となくこの世界に不適合な人間な気がして、ふと「死にたい」そう思った

そしたら何故だろう自分は死ぬべき人間であると感じる事が多くなった。しかし人はそう簡単に死ねないものでその感情を持ってからはや2年が経とうとしていた。

 今俺は高校2年生の青春と言われる年を謳歌している。

人並みに友人は居るし、家庭になんの問題もない平々凡々な男子高校生の俺「瀬戸隼人せとはやと」は今ぼっち下校をしている。


(なんか人と帰る気分じゃないんだよなぁ、)


 いつも一緒に帰っている幼馴染とは別々に帰り、俺は普段通らない道を通って下校していた。


死にたいなぁ、なんかの事故に巻き込まれたりしねぇかな

なんていつも通りの野望を抱きながら一通りの少ない商店街を歩いていく。


 ほとんどの店が閉まりシャッター街となってしまっているが、10年前までは人通りも多く閉まっている店なんてなかったはず、時代の流れとは怖いもので、商店街を抜けた先にショッピングモールが出来てからは殆どの人がそちらに流れて行ったらしい。


しかしまぁ、本当に殺風景な道になってしまった

色が少なく殆ど白黒に見えて仕方がない。

最近は夏も近づき暑くなり、近年四季が殆ど二季になってきているとかなんとか、頭の良さそうな何処かの大学の教授か、何処かの専門家がそんな事をニュースで話していたのを思い出した。

 汗はかかないがじめっとした空気が不快でたまらない、どこか休める場所はないだろうか、いやしかし早く家に帰ってゆっくりしたいという気持ちもある。


こんな面倒臭い世界であと何十年も生きるなら早く死にたいと思ってしまう、、、なんだあれ、真っ赤な花が花瓶に刺さって曲がり角の手前にポツンと置いてある。周りは白黒なのにあそこだけ色がある、そんなの気にならないわけが無い。

俺は非日常を求めて曲がり角を曲がった、しかし曲がり角の奥に道は殆ど無く、目の前にはシャッターが上がった開店中の店があった。

何故だろう、その場所に不思議な魅力を感じて俺は店の中に引かれるように入っていってしまった。


「なんだここ、、すみませーん」


扉をくぐって両隣は商品棚だったようだが、今は何も置かれていない、真正面には会計用の机と思われる古い木の机が置いてある。

 しかしその奥にこの雰囲気をぶち壊す北欧風の木のドアがあった。

妙に新しく、色褪せていない

これは非日常への扉だ、直感がそう告げていたので俺はその直感に従い取っ手を手前に引いた



「おや、初めてのご来園ですね。」


ドアの先はまるで異世界かと見まごうほど華やかな場所だった。中には赤や黄色、ピンクの花が綺麗に咲いていて、その花たちに水をあげる男の人に声をかけられ、俺の意識は現実かも分からない現実に戻ってきた。

その男の人は執事のような服を着ていて、腰まで長い漆黒の後ろ髪を束ね、肌は透き通るほど白い、そんな真っ白な顔にある双眸は俗に言うオッドアイで右目は鮮やかなバイオレット、左目は深いロイヤルブルー

手には白い手袋をつけていて、スラッとした立たずまい、恐らく身長は185cm以上あるだろうし、、、股下何メートルだ?


「おや?どうかされましたか?」


「あ、いえ、ここは?」


「ここはシニタガリ庭園ガーデン、死を望む人が集まる場所です」


 なんと、まさか俺はこの一瞬で本当に異世界に迷い込んでしまったらしい。

こんなイケメンがこんなシャッター街で花に水をやっている訳が無い、早く元の世界に変える方法を探してふかふかのベットで寝なければ、それとも俺は運良く死んでそれに気づいていなくてここはもう天国か地獄という死後の世界だったりするのだろうか


「ここは異世界でも無ければ死後の世界でもありませんよ」


「あれ?声に出てましたか?」


「えぇ」


「じゃあここが異世界でも死後の世界でもないならここは何処なんですか?」


「ですからシニタガリ庭園ガーデンです。」


「本当に死にたい人が居るんですか?」


「はい、本日はまだ誰もいらしていませんが、よろしければ案内致します。」


「じゃあ、お願いします」


「はい」


 その人は手に持っていたジョウロを棚に置いてこちらに向き直り改めてお辞儀をされた

その所作はまるでどこかの王侯貴族専属執事かのようで、何一つ無駄がなく、動きは洗礼され、綺麗な動きだった

 思わず見とれてしまったが、1度思考を正し執事さん(仮称)の話に意識を向けた


「こちらはシニタガリ庭園ガーデン、死を望む人のみが立ち入るガーデンです。私はここの管理人のディンファと申します。」


「中国の方、ですか?」


「いえ、純日本人でございます。名前はディンファレという花から来ております。」


「ディンファレ、、」


「どうぞ好きなように呼んでください」

「それではこちらへどうぞ」


ディンファさんの後ろをついて行きガーデンの中に入る

左右には沢山の花が咲いており、本当に現実か怪しくなってきた、、窓の外に見える景色はおおよそ寂れた商店街などではなく、壁紙かなにかを貼ったような何も無い草原になっている。

 彼の声は優しく落ち着く声質で、もしこの人が先生ならクラス全員がたとえ1限目でも爆睡してしまうだろう。しかし今は寝ている場合ではなく、俺の思想を理解してくれる人が居るかもしれない場所であるここに興味が湧いてきた。


「この先でそれぞれの季節の時花を育てております。」

「こちらには毒花の温室があります。」


「毒、、彼岸花とかですか?」


「えぇ、死にたくなったらぜひ使ってあげてください」


薄いガラスの向こうには赤や白の彼岸花はもちろんスズランや見たことも無い植物が美しく飾られていた。

スズランって確か花瓶の水でも飲んだらダメとかじゃなかっただろうか、綺麗な花ほど毒があったりする、そうでなければ俺は奥に咲いてある真っ白の花を誤って持って帰り観賞用にしてしまうかもしれない。


「なにか気になるものはございましたか?」


「あの奥の白い花はなんて言うんですか?」


「あちらはスイセンですね頭痛や昏睡、低体温を引き起こす毒が含まれております。ですがあちらは私が品種改良したもので毒性はより強くなっています」


「品種改良、、」


何故だろうこの人ならば品種改良なんて研究者しか出来ないような高等技術も数日でこなしてしまいそうな気がする、本当にここは現実なのだろうか

窓の外は現実を感じられないし、ここにある花々も知っているもののはずなのにここで咲いていると言うだけで見た事のない初めて見る花に錯覚してしまう


「そういえば、ここに来る方々に聞いてるのですが

瀬戸様はどうして死にたいと望むのですか?」


何故、、か、深い理由も無く死にたいと思うのは良くないのだろうか、、、というか名前いつ言ったっけ?


「いえ、深い意味は無いのです

ただの定型文と思ってくれて差し支えありません。

言いにくいのなら言わなくて大丈夫ですよ」


「じゃあ、黙秘します」


「左様でございますか」



 それからもディンファさんの案内で庭園を見て回った、

入口が商店街の中にあるお店の奥だってことを忘れるくらいに広くて綺麗な場所で、どこを見ても綺麗な花が咲いていて、何度も現実か確かめる為に頬をつねったがやはり現実だった


 だってありえないだろう、寂れた商店街の中のたかがひとつのお店の奥にあった庭園ガーデン、そこは現実味の無い美しい花々で彩られており、そこに立つ燕尾服を着たイケメン紳士

 でも不思議な魅力に俺はここに通うことを決めたのだ。

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