第22話 22

 着替え終わって、私は急いでキッチンへと向かう。なんて言っても今日はスキヤキなんですよ。ものすごいご馳走で、一年に一回でも食べられれば良いほうだって、お母さんが言ってた。

 キッチンに着くと、響くんはもう席についていた。それも私の隣の席。

「鈴、遅いわよ」

 お母さんの言葉に、私は慌てて自分の席に座る。食卓の上には、なんだか見たことがないお肉がある。たまーに食べるスキヤキの時とは、何か違う。

「さ、響くん、どんどん食べてね」

 そう言いながら、お母さんは響くんの器にどんどんお肉を入れていく。早く食べないと、無くなっちゃう。って、もうお肉ないよ!

「お母さん、お肉ないよ」

 そう言うと、お母さんはスキヤキ鍋の中かにあるキノコと白菜を私の器の中へと入れた。

「鈴はダイエット中なんだから、それでいいわよね」

 はい? そんなものしてないよ?

「それにしても、また響くんと一緒にご飯が食べられるようになるなんて、おばさん嬉しいわ」

 お母さんが嬉しそうに、次々と響くんの器にお肉を入れていく。

「僕もです」

 爽やかに答える響くんとお母さんを見ていると、私だけ仲間はずれみたいな気がする。いやいや、今はそんなことよりもお肉ですよ!

「お母さん、私もお肉」

「はい」

 お母さんは、笑顔で私の器にトウフを入れた。

「ちょっと、これトウフだよ」

「何言ってるの、ダイズは畑のお肉って言うでしょ」

 そう笑顔で答えるとお母さんは、自分の器にお肉を入れた。

「鈴」

 名前を呼ばれ、思わず響くんを見る。

「はい、あーん」

 そう言うと響くんは、私の目の前にお肉を差し出した。

「い、いいの?」

 思わず目の前のお肉を見る。このお肉、なんだかすごーく柔らかそうで、きらきら輝いて見えるよ。

「あ、響くん。鈴はダイエット中だから、お肉は与えないでね」

 何? だからそんなものしてないってば!

「ちょっと! お母さん!」

「そうなんだ。ごめんね鈴……、僕、気がつかなくて……」

 え? ものすごく切なそうな表情をした王子様な響くんが私を見ている……。そんな顔されたら、どうしていいんだか分かんなくなるよ……。

「じゃあ、肉は僕が全部食べるから、安心してね」

 へ? 爽やかな王子様スマイルで、いきなり何を言ってるんですか?

 目の前に差し出されたお肉は、無情にも響くんの口の中へと去って行っちゃったよ……。

 

 結局、野菜とトウフしか食べられなかった……。楽しみにしていたのに、響くんとお母さんがお肉を全部食べちゃった……。

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王子様と私 さくら @sacra_flos

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