第21話 21

「い……い……」

「いいんだ。じゃあ、遠慮なく」

 そう言うと響くんの手が、ブラウスのリボンを外して、ボタンへと移動した。

「いやー!」

 私の近所中に響き渡るような叫び声が、廊下に響き渡った。そのまま両腕で身体を抱え込むようにして、その場にしゃがみ込む。

「鈴、うるさいわよ! 近所迷惑でしょ!」

 リビングから顔を覗かせながら、お母さんが怒った。え? なんで? どうして私が怒られるの?

「ごめんね、響くん。うるさい子で」

「いえ、大丈夫です」

 王子様スマイルを崩さずに、爽やか光線を撒き散らしながら、響くんあが答えた。

「ちがっ、響くんが……いたっ!」

 お母さんに説明しようとしたら、いきなり響くんに蹴られた。お母さん、今の見てたよね? ってリビングの入り口を見たら、もうお母さんの姿はなかった。なんで? どうして? お母さんは娘の私よりも、響くんの方がいいの?

「鈴」

 名前を呼ばれ、おそるおそる響くんを見上げた。

「着替えの続きするか?」

 響くんが、なにか楽しそうな笑みを浮かべている。

「け、結構です」

「結構なのか、それって良いって事だよな?」

 響くんの言葉に、私は思いっきり首を横に振る。

「なんで? 今、結構だって言っただろ? 手伝ってやるよ」

 そう言いながら響くんは私の目の前に膝をついた。

「い、いいです……」

「いいんだよな」

 響くんが意地悪そうに笑った。なんですか? その悪徳商法みたいな受け答え。

「ごめんなさいー!」

 思わずそう言うと私は、響くんの横をすり抜けると四つん這いのまま、部屋の前まで移動した。

「鈴」

 名前を呼ばれて振り返ると、立ち上がった響くんが腕を組みながらこっちを見てた。

「パンダが見えてる」

 パンダ? 響くんの言葉に、少しの間考え込む。

「あ!」

 響くんの言葉の意味が分かり、私は慌ててその場に座り込むと、スカートの裾を押さえた。今日は、パンダ柄だった……。え? ということは、もしかしなくても響くんに見られちゃったの?

 響くんを見ると、なんだか震えてる。どうしたんだろ? もしかしてパンダのせい? 私が首を傾げたとたん、響くんはお腹を抱えて笑い出した。

 なんで笑うの? 響くん酷いよ。

 なんだかムカついて、私は立ち上がると部屋のドアを開け、中へと入った。

 いっつもいっつも響くんは意地悪だし、私が嫌だってことばっかりするし……って、あれ? いっつも? 私、響くんとは今日会ったばかりだよね。なんでいっつもなの?

 考えてみるけど、何も思い出せないし、分かんない。まー、思い出せないものは仕方がないよね。さっさと着替えてご飯だ。

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