第20話 20

 耳元で囁く響くんの言葉に、思わず言葉を飲み込んだ。ここで声を出したら、お母さんに見られちゃうんだよね……・

「お母さんに見られたら、響くんだって困るよ……」

 小声で、響くんに向かって答えた。

「別に」

 なんで別になの? 普通は嫌じゃない?

「それに俺、見られてる方が燃えるし」

 えぇ!? それって、お母さんに見られたいってこと? そんなの絶対にやだ!

 響くんから離れるために立ち上がろうとするけど、身体を押さえつけられていて動けない。

「やだ……」

 そう言うと、響くんがなんだか意地悪そうな笑みを浮かべた。

「じゃあ、誰もいないとこに行くか?」

 そんなの、もっとやだー! 響くんの言葉に、思いっきり首を横に振る。それを見て、響くんがまた意地悪そうな表情をした。私、このまま響くんにされるがままになるのかな……。

 だいたい、なんでこんな事になったんだろ? 今日、初めて会ったはずなのに、響くんはいきなりキスするし、しかもファーストキスだったんだよ。普通なら響くん、殴られてるよ。って、私、怒ってもいいんじゃないの? っていうか、なんで私、怒らないの? 怒ってもいいんだよね? よし、響くんに文句を言う!

 意を決して、響くんの顔を見る。って、なんでこんな時に王子様スマイルなの? これじゃあ、何も言えないよぉ……。

「もうすぐご飯よ」

 キッチンからお母さんの声が聞こえた。やった! これで響くんから離れることが出来る!

「はーい!」

 思わず元気に返事をしてしまった。すぐに、響くんが私の手を取って立ち上がる。手を引かれ、勢いよく立ち上がると、勢いがよすぎて響くんに向かって倒れこんでしまった。響くんが支えてくれたおかげで、転ばなくて済んだんだけど、なんか抱きしめられてしまって動けないよ。これなら転んだほうが良かったかも?

「あの……、着替えてくるので……」

 響くんから離れるために、恐る恐る着替えを口にしてみたけど、拍子抜けするほどあっさりと離してくれた。

 響くんの気が変わらないうちに、さっさと着替えちゃおっと。私はリビングを出て、自分の部屋へと向かった。

 ん? 何か後ろから気配がするんだけど……? 足を止めて振り返ると、そこにはなぜか響くんの姿があった。

「なんでいるの?」

 思わず声をかける。

「手伝おうかと思って」

 爽やかに響くんが答える。手伝うって、何を? 私、これから着替えるんですよ?

「て、手伝うって?」

「もちろん、着替え」

 はい? 爽やかな笑顔と口調で、響くんが答えた。響くんの言葉の意味を理解するまで25秒……、気がついたら廊下の壁に押し付けられていた。

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