第8話 大団円
秋月も少しビックリはしたが、冷静になるうちに、逆に、
――どうして、すぐに分からなかったんだろうか?
と思ったが、これも鶴岡のミスリードかも知れないと思った。
「こういうことは、最初にきっかけのようなものがあって、そのきっかけで一気に気付いてしまわないと、最後まで、相手がその正体を明かすまで分かることはなかったのではないか?」
という思いを抱くことになるのだろうと思っている。
「一体、どう考えたらいいのだろう?」
秋月は、本来なら、鶴岡が元刑事ということであれば、もっと安心してもいいはずなのに、彼が刑事であるということを聞いた時点で、震えが止まらなくなったかのように感じていた。
――俺は、何か入り込んではいけないところに足を踏み入れたのだろうか?
という感覚になったからだった。
「秋月君に黙っていて、申し訳なかったと思うんだけど、これも、俺の計画の一つなので、悪く思わないでくれ」
というではないか。
その言葉を聞いて、さらに震えが止まらなくなった気がした。
鶴岡という男が自分を信頼して、すべてを打ち明けてくれた上で、自分に協力を促してくれていると思っていたのに、
「敵を欺くにはまず味方から」
とでもいうかのような対応に、疑問を呈してしまったのだった。
ただ、鶴岡の方も、桜井刑事が、
「何かに気づいたのではないか?」
ということを考えると、事件が少し前に進んだような気がしてきたのだ。
今まで、たぶん、自分たちは、まだスタートラインにも立っていなかったという意識があったようで、そのせいもあってか、鶴岡を見ていて、
「何か苛立っているかのようだな」
と、秋月に感じさせていたのだが、それが、まだスタートラインにも立っていないことでの苛立ちだと思っていた。
しかし、実際には違っていた。
「スタートラインに立ちさえすれば、この事件は一気に解決に向かうかも知れない」
という思いを、鶴岡は感じていたのだった。
そこに何かの根拠があるわけではないが、この事件の特徴は、
「あまりにも事件が見えてこずに、すべてを事故として処理をさせるところにあるのではないか?」
という思いだったからである。
スタートラインに立つ前に、事件として表に出さず、事故として処理をしてしまうと、そこから事件として掘り下げるのは土台無理なことだった。
そのことを分かっているのは、現時点で鶴岡と、桜井刑事だけだった。
もちろん、この事件の首謀者である連中には分かっていることだろうが、そういう意味ではやつらとしても、諸刃の剣ではないかということを、桜井も鶴岡の分かっていることだろう。
そういう意味では、相手が、何かボロを出さないかというのも感じていて、それはあまりにも可能性は低いのだろうが、自分たちが地道に捜査をすることで、相手を疑心暗鬼にさせるという作戦でもあった。
しかも、幸いなことに、鶴岡も桜井もお互いに独自で捜査している。二人が繋がっていないということをやつらも分かっているだろうから、疑心暗鬼にさせるのも、意外と無理なことでもなさそうだ。
そもそも、事件となってしまうと、これが殺人などの凶悪事件であれば、今は昔のように、
「十五年」
という時効はないのだ。
しかし、事故として処理してしまうと、前述のように、もう一度掘り返されることは、よほどの事件性の証拠でも出てこないと無理だろう。
一旦捜査を打ち切ってしまい、事故となると、その証拠など誰にも見つけることはできないのだ。
しかも、時間が経ってしまうと、証拠があるとしても、証拠能力が維持できるかというのも大きな問題だ。
それを思うと、事故にされてしまうことの危険性を、鶴岡も桜井も同じように感じているのではないだろうか。
「そろそろ、スタートラインに立てそうな気がするな」
と鶴岡は言った。
「もう、相手に俺と桜井が独自に動いているということを悟らせるに十分だろうから
もう桜井と連絡を取ってもいいかも知れない」
と言い出した。
「鶴岡さんは、桜井刑事が、事件について何か有力な情報を握っているのではないかと感じているんですか?」
と言われて、
「俺はそう思っている。そして桜井がどう考えているか聞いてみたい気もするんだ。そして、俺が持っている情報が、桜井の知りたいことなのかも知れないとも思うので、そろそろいい機会なんじゃないかな?」
と鶴岡は言った。
「僕には、いまいち分からないんですが」
と、秋月がいうと、
「それはね。君が一部しか知らないからさ。実は君には、まだ分かっていないことがあって、それを俺も桜井も知っていると思うんだ」
というではないか。
「ますます分かりません」
というと、
「君はこの事件が単独であって、その件について俺が調べているので、それ以上のことを膨らませることはできないんだろうけど、実はね。この事件、つまり俺が調べている事件の前に、もう一つ、繋がっている事件があるんだ。桜井刑事はそっちの方を探っていて、君がさっき疑問に感じていたことが今の俺の話で納得いくものがあったんじゃないのかな?」
と言われ、
「あっ」
と思わず、秋月が言ったが、それは自分たちが調べている内容と、桜井刑事が調べている内容に違いがあることだった。
さっきまでは、鶴岡と桜井刑事に何ら関係はないものだと思っていたので、
「まったく関係のない人間が、偶然似たようなことを調査している」
ということで、あくまでも、
「偶然」
だということで、片づけようとしていた。
しかし、今の鶴岡の話を聞いて。犯人たちにしてみれば、
「まったく関係のない人間が、自分たちを前からと横から見ることで、迫ってきているような気がする」
と感じたとすれば、何か疑心暗鬼にもなろうというものだ。
しかも、やつらがどれほどの力を持っているかということは分からないが、かなりの力を持っていることは分かっているので、そんな連中が相手であれば、正攻法では難しいだろう。
そういう意味での疑心暗鬼というのは、かなりの力になるようで、一体どうすればいいのか、鶴岡には見えてきているようだった。
「スタートラインが見えてくると、君にも事件の概要が分かってくるんじゃないかな?」
と、鶴岡は以前からいっていた。
その鶴岡が、
「そろそろ、スタートラインに立てそうな気がするな」
というのだから、かなりスタートラインに近づいてきていることだろう。
「ひょっとすると、すでにスタートラインが見えていて、すでに足元にあることで気付かないだけなのかも知れない」
そう思うと、秋月は身震いを感じた。
それが、武者震いなのか、それとも他の震えなのか、自分でもよく分かっていないようだ。
とにかく、いよいよクライマックスにも近づいてきたのではないかと思うと、秋月もかなり興奮しているようだった。
「桜井さんは、何を知っているというんでしょうね?」
と、秋月は言った。
「それも、そうなんだけど、この間、君がいっていた、桜井君が尋問した人がいたと言っていたけど、松崎さんだっけ?」
と鶴岡がいうと、
「ええ、確かに、F大学の教授で、スズランなどの毒に関して詳しいようですね」
「なるほど、桜井君は、その松崎という男が、今回の事件に何か関わっていると思っているんだろうね」
と鶴岡に言われて、
「ひょっとして、鶴岡さんは、松崎という男を最初かあマークしていたんですか?」
と秋月に聞かれて、
「ああ、そうだよ」
と鶴岡がいうので、
「あの松崎という男は、この事件でどういう役目を帯びているんでしょうね?」
と秋月がいうので、鶴岡は心なしか表情が緩んだ。そして、
「それはね。秋月君。君と同じような役目を帯びているんだよ」
と、鶴岡はいうではないか。
その言葉にはさすがに秋月もビックリしたようで、
「ええっ? それはどういう意味ですか?」
と、まったく、想像がつかないと言った様子だった。
「今君が思っていることそのものさ。もっとも、想像はできなくもないが、自分の中で認めたくないという思いが強いんだろうね」
と鶴岡がいうのを聞いて。
「まさにその通りです。何がどうして、そういう考えになるのかということが分からない、いや、分かろうと思わないんでしょうね。その感覚があるから、想像もつかないんですよ」
と、秋月がいうと、
「それが錯誤というのか、たとえば、三段論法のような発想を、よく推理をする時には考えてしまうだろう? そうすると考えが節目でまとまるというのかな? だけど、逆にいえば、一つ道を間違えると、錯誤に結び付く気がするんだよな」
と鶴岡が言ったが、秋月は怪訝な表情になり。
「どうしてですか? 逆のような気がするんですが。一気に推理を貫いた方が、最初に間違えれば、最後まで間違った路線になると思うんですよ。でも、節目節目でもう一度考えるチャンスがあれば、方向を元に戻せるんじゃないですか?」
というと、
「いやいや、元の方向に戻すには、完全に方向を急角度に変える必要があるだろう。ということは、それだけ最初の路線とはまったく角度も違うことになる。しかもだよ。本当お道を理解していなければ、通り過ぎてから、どこで方向を戻せばいいのか、それとも、今の道を進む方がいいのか、まったく分からないよね。だから、一度変えてしまうと、また変えることへの恐怖はハンパないような気がするんだ」
と、鶴岡は言った。
「なるほど、そういうことですね。一度交わってしまって、反対側に出ると、それまで見えていたものすら見えなくなる。つまり、ゴールも分からないくなるということですよね?」
と、秋月がいった。
「そう、その通り、錯誤というのは、一度狂ってしまうと、それを戻すことの方がかなり大きなリスクを伴うということを、誰も理解していないんだよ。だから、元に戻そうと考えて、結局、明後日の方向にいってしまうということになるんじゃないかな?」
と、鶴岡は言った。
「今の鶴岡さんのお話が、この事件の何か神髄を行っているような気がするんですが、違いますかね?」
というので、
「私もそう思うんだよ。ただ私は事件の半分しか知らないので、そういう意味でも、桜井刑事に遭って、話を聞いてみる必要があるのさ。きっと桜井刑事も同じことを考えているような気がするんだけどね。そういう意味で、君と、松崎という男の存在が、この事件を微妙な違いを修正してくれるようでそれを思うと、いきなり四人で話をするのは危険な気がするので、とりあえず、桜井刑事と二人で話をする方が先決だと思うんだよね」
と鶴岡は言った。
「鶴岡さんの話を聞いていると、信憑性があるのを感じられて、不思議な気がしてきあすね」
と、秋月は言った。
鶴岡と桜井刑事との再会は、それから一週間後に決まった。今回は特別に、秋月が参加することを桜井刑事に伝えると、
「ええ、もちろんいいですよ、鶴岡さんが連れてこられる方ですからね」
ということで、いかにも鶴岡という人間が、桜井刑事に信頼されているのかということを示している言葉だと思った。
秋月の方としても、
「自分にだって、桜井刑事に負けるとも劣らないくらいの言葉をいうことだってできる」
という自負もあった。
さっそく話をすることになったのだが、そこで、鶴岡が一言、謎めいた言葉を口にした。
「真実は一つとは限らないが、事実は一つしかないからな」
という言葉だった。
それを聞いた桜井刑事は、ニコッと微笑んで、いかにも、
「それくらい分かっているよ」
と言わんばかりに、返事をした。
「逆も真なりということですね?」
と言った。
「うむ、よく分かっているね」
と鶴岡はいって、二人は二人だけの世界に入っているかのようだった。
まださすがに秋月も二人が何を考えているかというところまでは行き着いていない。
「今の言葉なんだけどね、最初に真実ということから言っただろう? だけど、事実のくだりから言ったとしても、結果は同じように思うだろう? だけどね、何もない時に言われると明らかに感じる意味は正反対に近いくらいのものとなるんだよ。だから、桜井君は、逆も真なりと言ったのさ」
と、鶴岡は言った。
「なるほど」
とはいったが、言葉のニュアンスが伝わっただけで、何が言いたいのかまではまったく分からない。
「この事件は、今我々が追っている事件の前に、隠れている事件が存在しているんだよ。そして、それは桜井刑事の方から見ても同じで、桜井刑事はまったく正反対の方向しか見ていないので、我々が見えていない反対側の世界を見ているのさ」
ということであった。
それを聞いた秋月は、
「何か、日食と月食というイメージを感じましたね」
と、さりげなく言うと、
「うんうん、なかなか君は面白い表現をするね。なるほど、鶴岡さんが君を重宝しているという意味が分かった気がしたよ」
と桜井刑事は、そう言って、さらに続けた。
「鶴岡さんは、あの事件のことを知っていたんですね?」
と聞かれた鶴岡は、
「ああ、知っていたよ。俺たちが追っている事件が、単発ではないような気がしていたので、この前に何かがあって、そこからの派生した事件なのではないかと思っていたのさ。だから、きっと、その事件について誰か捜査をしているのではないかと思っていたところに、桜井刑事が、スズランの毒を気にしているようだったので、それwp探ってみたかったんだ」
と言った。
「さっきの言葉ですけどね。あれは、鶴岡さんは、真実の方を事実よりも重んじて考えているということですよね? だから、先に真実の方を口にしたんですよね?」
と桜井刑事に言われて、
「ああ、この事件に前があると思った時、事件全体を真実のように感じ、それぞれの事件を事実として見ることを考えたんだよ。いわゆる、各論と総論みたいなイメージかな? それに対して、事実と真実という言葉を組み合わせると、事実というのが、二つの間に共通点を持たせることだと感じたのさ。その共通点を、俺はスズランの毒ではないかと思ったんだ。つまり、スズランの毒によって、両方の事件は引き起こされているとね。そこで、桜井刑事がこの間、聞き込みをしたという松崎というのは、実は俺が君よりも前に見つけていて、話を聞いたんだ」
と鶴岡は言った。
すると、それを聞いた桜井刑事が、
「そうなんですね。じゃあ、僕が、あいりという女の子に、先に話を聞いていたことはご存じでしたか?」
と、言われ、少しビックリしたように、鶴岡は目を見張った。
「いつも俺のバスに乗ってくれて、明るく挨拶をしてくれるあの女の子かい? 彼女がこの事件のどこかで関わっているというのかな?」
と、鶴岡が聞くと、
「ええ、彼女が私が追いかけている第一の事件で、亡くなった被害者の妹さんなんですよ」
というのを聞いて、桜井は少しビックリしたかのように、
「えっ? そうなんですか? 私は第一の被害者の人は、自殺だったと思っていたんですが違ったんですか?」
というと、
「何をいっているんだ。君は最初自殺だと思っていたようだけど、今はだいぶ他殺に気持ちが変わってきたんじゃないかな? もしあの後に事件胃続きがあったのだとすれば、殺人だと思っていたと感じたんだけどね」
という鶴岡の言葉を聞いて、
「ええ、さすが鶴岡さん、鋭い指摘ですね。はい、確証はないんですが、鶴岡さんが何かを調べているというのを聞いて、やはり、事件には続きがあると感じたんです。その時に、最初の被害者は自殺ではないと思ったんです。いわゆる、スズランの毒を使っての殺人ですね」
と桜井刑事は言った。
それを聞いて秋月は、
「えっ? 私にはいまいち事件の概要がまだよく分かっていないんですが、最初の事件というのは何を意味しているんですか?」
と秋月が聞くと、
「最初の事件というのは、君は覚えていると思うんだけど、前に『はやて詐欺』というのが流行ったのを覚えているかい? 実はその被害者の一人が、毒を煽って死んだということだったんだけど、どうにもその事件を怪しいと思って僕は一人で捜査し始めたんですよ。そこで、あいりさんに会ったんです。そして彼女の出現が、この事件にその後があるということを教えてくれたのです」
と桜井は言った。
「そういうことだったんだね。俺たちの方の事件は、その後、車が側道を飛び越して、川に転落して、爆発炎上したというものだったんだけど、あれを見た時、俺は、あの事故は仕組まれたものだと思ったんだ。最初から殺しておいた人を車に乗せ、爆発させて、身元が分からないようにして、完全に事故に見せかけたかったんだろうね」
と鶴岡は言った。
「じゃあ、犯人は同じ人物?」
と桜井刑事がいうと、
「いや、そうではないと思う。第二の犯罪。つまり我々が追いかけている事件の真犯人というのはいないと思うんだ。もちろん、車に乗せて走らせた人はいるんだろうけどね。だけど、これは殺人でも何でもない。自殺した人間の顔をあらかじめ潰しておいて、そこで焼いておいた。だから、顔は判別できなかったわけだが、事故で損壊したのとはどこかが違っていた。それを鑑識から聞かされて、一人気になっていた刑事が、俺のところに相談に来たんだ。それで話を聞いてみると、この事件には、何かウラがあると思ったんだ。しかもその裏というのが、こっちの事件の方が裏で、桜井刑事の事件の方が表に見えるかのようだということで、こっちが二番目の事件だということを感じたんだよね」
ということであった。
一拍間があったが、さらに鶴岡は続けた。
「人間というのは、一つのことでは我慢できるけど、二つ重なると我慢できないということがよく言われているけど、今回の事件もそれなのかも知れない。俺たちが追いかけている事故の自殺した人も、最初の事件だけであれば、自殺までは考えなかったかも知れない。だけどあの事件が実は殺人であり、そこに、自分が騙されたことで、最初の被害者が殺されることに、間接的だが関わってしまったということを知り、さらに、自分がその時、詐欺に遭っていたということの両方のショックを浴びてしまったことで、精神的に二進も三進もいかなくなってしまったのだろう。それが、この事件の本質なのかも知れない」
と、言った。
「じゃあ、我々が追っている事件の黒幕というのは?」
と秋月に聞かれて、
「それは、詐欺グループの連中だろうね。やつらからすれば、自分たちの手を汚すことなく、自殺した人間を葬ることができた。しかし、あれを自殺ということにされると、最初の殺人が露呈しないとは限らない。それは困るということで、我々が追っている事件を、あくまでも犯人がどこかにいると思わせる必要がある。だけど、彼がスズランの毒を煽ったということを知られたくもないし、自殺のカモフラージュとも思われたくない。だから、あんな形で、車を爆発炎上させるしかなかったということなんだろうね」
と、鶴岡は言った。
「ええ、私もその通りだと思います。私が知らべた内容も、鶴岡さんの話を加味して考えれば、すべて理屈が通る気がします」
と桜井刑事も言った。
二人の捜査内容は、桜井刑事を通して公安の方に捜査の依頼が入った。
詐欺グループに関しては、公安の方でも内偵がついていて、証拠固めを進めていたようだ。
そして、内偵の方でも、鶴岡が突き止めた内容まではいかないまでも、ある程度のところまで近づいていた。
しかし、スタートラインにも立っていなかったというわけだ。
それでも桜井刑事のもたらした内容が、
「はやて詐欺」
の黒幕を突き止めるための大きな力になったことは間違いなかった。
今回の事件を解決しただけでは、本当の意味での事件解決にはならない。なるべくなら、やつらの組織を完膚なきまでに叩き潰すという目的が果たせなければ意味はないだろう。
特に詐欺グループというのは、もぐら叩きのように、事件が本当に世間にもたらす意味を理解したうえで、再発防止できなければ、事件を解決できたと言えないのだろうと、鶴岡も、桜井刑事も感じていた。
だが、内偵の方でも、ある程度までは組織を叩き潰すことができるだけの証拠もあったので、やつらの組織も風前の灯と言ってもいいだろう。
しかし、それだけで終わるわけではなかった。
これからも、叩いては消え、また現れて、さらに叩いては消えという世界を、ずっと紡いでいくことになるのかと思うと、やり切れない気持ちになるのだが、警察の方で、それだけたくさんのもぐら叩きに耐えられるのかどうか、もぐら叩きも、いたちごっこになってしまっては、本末転倒だと言ってもいいだろう。
今回の事件が、解決されたことで、検挙率が上がるわけではない。そもそも、事件にもなっていなかったことだ。そして、公安に協力したに過ぎない。ただこれらの一つ一つの努力が、
「いたちごっこをもぐら叩きくらいにしてくれるのではないか?」
と感じさせた。
鶴岡は、今日も、元気にバスを運転するのだった……。
( 完 )
いたちごっこの、モグラ叩き 森本 晃次 @kakku
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