いつの日か
羽入 満月
いつか君に伝えたい言葉
八月最後の日曜日。
平成最後の夏。
そんな言葉がネットで飛び交っている今年の夏休み。
社会人の俺だって、夏休み最後の日曜日を満喫しようとした。
しかし、クーラーのリモコンの電池が切れていたのだ。
うんともスンとも言わなくなったリモコンに、腹を立てながらも電池の在庫を探した。
が、在庫もなし。
危険な暑さとニュースが盛んに報道する昨今。クーラーなしなんてやっていられない。
仕方がない、コンビニに電池を買いに行こう。
そう思って、財布を持って家を出発した。
もうすぐコンビニにつくというところで、横断歩道の信号が赤に変わり、舌打ちをしながら木陰に入る。
ミンミンとセミが耳元でにぎやかに鳴いている。
この暑さ、いつまで続くんだ、そう思いながら空を見上げた。
見上げた空は雲一つない青空で、どこまでも透き通っていた。
その空を見て、俺は一人の女の子を思い出した。
彼女は、幼稚園の時からの同級生で、とっても泣き虫で、小柄で、でも自分の決めたラインがあってそこは絶対に譲らない、という女の子だった。
ご飯は全然食べないし、運動だって苦手だし、勉強がよくできるという感じではなかった。
ただ、本を読むのが好きだった。そしてみんなが好きだと盛り上がるものに興味を示さないちょっとずれた女の子だった。
俺は、そんな彼女のことが気になって仕方がなかった。
でも素直に仲良くなるなんて言うのは照れくさくて、幼稚園時代いじわるばっかりしていた。
小学校に入ってからだっていきなりなかよくするなんてかっこ悪くて、しかも俺は運動大好きで活発な部類に入るような奴だったから、彼女との接点はどんどん少なくなっていった。
会えば意地悪をする俺と一緒に、俺と仲のいい女たちも彼女に意地悪をし出した。
ここまでくると、もうやめようとかそう言うことを言えることなく、中学に上がるころには彼女に完璧に嫌われていた。
でも、俺の友人関係は彼女をいじめることで始まり形成されている関係なので、いじめることをやめたら俺の友人関係だって終わってしまうかもしれない。
俺は一人で平気な奴じゃない。その時、俺は彼女は一人が平気な奴だろうと勝手に思っていたのだ。
それにここまで最低と言われることをさんざんやってきて手を引いたって、彼女は俺に振り向いてもくれない。だからやめるにやめられない。
そんなことを考えながらも彼女に対してのいじめは、エスカレーそしていき、中三で久々に同じクラスになった時には拍車がかかった。
そして、二学期の総合の授業で、『将来の夢』を書いてその下のマスに、無記名でコメントを書くという授業が行われた。
俺は将来の夢なんてまだなかった。とりあえず高校に行っても陸上は続けたいと思い、その旨を書き、後ろの席に回した。前の席から回ってきたプリントに「がんばれ」的なテンプレを書いてまわす。
仲のいい奴のプリントには、「お前ならなれる」「応援するぜ」みたいなことを書きまわしていった。
しばらくすると彼女のプリントが回ってきた。
彼女の夢は具体的で、俺の夢なんか子供っぽいと感じるくらいだった。今まで俺のが上だという優越感があったはずなのに、急に下に見られたようで不愉快だった。
コメント欄だって、回った人数よりはるかに少ないコメントしか書かれていない。
俺は、怒りに任せ「お前なんかなれるわけがない」と書いて回そうとした。
しかしこれは担任に最後は回収される。
今まで、教師どもはめんどくさいと放置している様子だが、証拠をわざわざ提出することもないか。
そう思ったが、いままでいじわるしかしてこなかったからここでもいじわるしたくなった。
薄く消しゴムで消して、下の字が見えるようにして、その上に「まずは、その根暗な性格をなおしたら?」と書いて次に回した。
判で押したような定型文を書いては回しを繰り返していると自分のプリントが手元に来た。
彼女の手元にもプリントが戻ってきているだろうとそっと盗み見るが、特に反応を示すことなくプリントを見ると担任に提出しに行った。
なんだ。
拍子抜けだ。
結局、彼女のことをいじめるにいじめて、中学校を卒業した。
卒業式、彼女は一粒の涙も流さなかった。
本当は同じ高校に行けたらいいななんて淡い期待を抱いていた。
しかし彼女は、女子高一択だった。しかも、俺と仲の良い、平たく言えばいじめっ子仲間たちが誰も行かないようなお堅い女子高だった。
つまり、簡単に俺たちと縁を切ったのだ。
地元が一緒といえど、高校に行けば生活範囲や時間が違うのでなかなか会えなくなった。
高校に入って、初めての冬に一度だけお互いに制服姿ですれ違った。
向うは一人で、こっちは三人。
お互いに自転車に乗っていて、ほんの一瞬の出来事だった。
でも、遠目で彼女に気が付いていたのでどういう反応をしてすれ違えばいいのか必死に考えた。
普通にすれ違えばよかったのに、結局今までの癖で「ウェ」っと言いながら、自転車を激しく揺らして気付いてもらおうとした。
気付いてもらえたのかどうなのかわかることなく一瞬で再会は終わってしまった。
そして、一緒にいた友人たちに、『あの子がどうした?』と聞かれて、恥ずかしくなり「いじめられっ子で根暗でキモイやつ」と説明した。そしてみんなで彼女を馬鹿にして笑った。
少し心が痛かった。
そのあと、もう一度彼女と会う機会があった。
成人式だった。
式典が終わり、ホールに移動すると中学校区でわかれるようがった。
早速移動すると三年の時の使えない担任がいて元生徒たちと楽し気に話していた。
俺も加わり話していると、中学時代の友人や親友も来てすこしはなれたところで話していると、彼女が担任に近づいていった。
彼女は、淡い色がグラデーションになっている振袖をしてセミロングの髪を緩く巻いていた。
けばけばしい友人たちと違い、化粧も落ち着いているし、髪飾りも控えめだった。
彼女のキャラによくあっていた。
担任と少し話すとすぐどこかへ行ってしまった。
俺のことは視界に入っていなかったらしい。
というか、彼女の世界にはもう俺の存在はないのかもしれない。
それを思い知らされた二回目の再会だった。
地元を離れて就職して、同窓会の案内がたまに来るが出席してない。
たぶん、彼女も出ていないだろう。いい思いでないだろうし。
ただ、彼女は授業中によく空を見上げることがあった。
だから今日、空を見上げた時に彼女のことを思いだしたのだろう。
もし、彼女にもう一度会うことができて、声を掛けれる機会をもらえるのなら。
言っても許してもらえないだろうけど、一度だけチャンスをもらえるのなら、彼女に伝えたい言葉がある。
『あの時はごめんなさい』
そして
『あなたのことが好きでした』、と。
いつの日か 羽入 満月 @saika12
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