(仮)百合小説
きうり
1
幣原春子(しではら・はるこ)さんは、意外と身近なところに住んでいた。
それを知った時の私の胸中をどう表現しようか。春子さんは学年でもトップクラスの成績で、容姿の美しさから、違うクラスでも名前と顔が知れ渡っていた。
もちろん私もそんな彼女のことはよく知っており、帰りの電車でもたまに見かけることがあった。最初は気にもとめなかったし、帰りの電車はいつも満員で、彼女がどこの駅で降りるのかなんて気にする余裕もなかったのだ。
だがある日、その春子さんが、私よりもひとつ手前の高擶(たかだま)駅で下車するのを見た。
(高擶に住んでいるのかな)
一度そう推測したら、翌日からは、高擶で彼女が下車する姿を探すようになっていた。それだけではない、放課後の駅ホームに行けばまず春子さんの姿を探し、彼女と同じ車両に乗り込み、彼女の動きを常に目の端で追うようになってしまっていた。
おそらく一七〇センチはある、同年代の女性としてはやや長身の彼女。彼女のボブカットの頭頂部が、ホームや電車内の人込みでちょこんと突き出ていればすぐに判別できる。そして、やや鷲鼻気味で、あまり洒落っ気のないメタルフレームのメガネをかけたその顔を見ると、あ、今日もいた、とほっとする私がいる。
しかし、あくまでもそこまでだった。私は立ち位置を崩すことなく、ただ帰り道に春子さんという人を目で追っているだけだった。
(仮)百合小説 きうり @cucumber1234
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