すれ違った恋はやり直せますか? 貴方が差し出した手をとって、付いて行ってもいいですか?
甘い秋空
一話完結 北ウイング
「ギンチヨお嬢様、クロガネ様がお見えになられました、いかが致しますか?」
メイドさんが、侯爵家の自室にこもっている私に、扉越しに聞いてきました。
「会えないと、伝えて下さい」
彼がプロポーズに来たことは、わかっています。
会ったら、きっと、後戻りができないと思います。
私は、今、第一王子との政略結婚が、内々に進められています。
カーテンを閉め切り、暗い自室で涙をこらえます。
銀髪は力なく垂れ下がり、青緑の瞳は濡れています。
学園時代、彼は生真面目で、私は優等生で、今考えれば、お互いに恋愛に臆病だったのだと分かります。
◇
私は、学園時代に恋愛小説を読んでいたので、知識がある方だと思っていました。少しは上手に、気持ちを伝えることが出来ると思っていました。
でも、うつむくだけの私でした。
帰りたくない、そばにいたい……その、たった一言が、言えませんでした。
あの時、彼が、私の気持ちを聞いてきたのは、解っていました。
でも、髪を直すふりをするだけで、上手に応えられませんでした。
私を連れて行って、時間を止めて……その、たった一言が、言えませんでした。
学園時代の後悔が、走馬灯のように流れます。
◇
今また、愛が、私に話しかけてきます。
(貴女が密かに恋焦がれた北の国の令息ですよ?)
言わないで、もう遅いのよ!
(このまま、離れてしまっても良いのですか?)
恋愛小説のワンシーンのように、全てを捨てて行きたい! でも、できないの。
第一王子との縁談を断ることは出来ません。
政略結婚は、侯爵家の令嬢としての仕事です。
一人で、悩んでいます。これまでは、両親の引いたレールの上を、疑いもせず、歩いてきました。
(今なら、間に合いますよ)
私は、自室の扉を開けます。
廊下の窓から差し込む光がまぶしいです。
一度は、彼を、あきらめました。
心に区切りをつけました。でも……
彼は、この王都を離れ、北の国へ帰るつもりです。
もう会えないかもしれません。
まだ、彼の馬車は、走り出していません。
今なら、彼を引き止められます。
家族に迷惑をかけるかもしれません……
ごめんなさい。
廊下から玄関ホールに飛び出します。
彼の姿がありません。
もう、馬車に乗ってしまったのでしょうか。
体が、こんなにも重いなんて……
空気が体にまとわりつきます。
もう少しで、光輝く外に出れます。
でも、私の行動は、正しいのでしょうか?
馬車の中に彼の姿が見えました。
黒髪に黒い瞳……
こちらを見ました。私に気が付いたようです。
驚いています。
馬車のドアが開き、彼が降りてきます。
「ギンチヨ!」
少し不安です。
どうか、私の想いを受け止めて下さい。
今になって、やっと分かりました。
私は、貴方から抱きしめられたい。
「クロガネ様!」
眠っていた恋が、目を覚ましました。
私は、北の国へ、羽ばたいて行きます。
私は、貴方の胸に飛び込みこみました。
それが、プロポーズへの返事です。
━━ fin ━━
あとがき
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すれ違った恋はやり直せますか? 貴方が差し出した手をとって、付いて行ってもいいですか? 甘い秋空 @Amai-Akisora
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