婚約破棄された後、再会の時間は、ゆっくりと流れました。
甘い秋空
一話完結 スローモーション
「僕は、ギンチヨ嬢との婚約を破棄し、聖女かもしれないこの令嬢と、婚約する」
クソ王子が宣言しました。
「今日は、私たちの婚約発表パーティーですよ! どうなされたのですか」
私は、侯爵家の令嬢、ギンチヨです。
「もうすぐ、28歳にもなる年増とは、婚約できない」
お前がそれを言うのか!
王子が、次期国王として、貴族たちから認められたら、婚約を発表することになっていたのに、常識外れな行動ばかりするから、婚約を発表できなかったのですよ!
私は、銀髪で青緑の瞳、スタイルも上々、しかも侯爵家の令嬢であることから、学園の卒業前、内々に王子との婚約が決まりました。
卒業後は、学園のマナー講師として働き、若い貴族たちを育成してきました。
同時に、私も、王太子妃としての厳しい教育を受けてきました。
気が付いたら、この年です。
「その、横に立っているお嬢ちゃんが、聖女かもしれない令嬢ですか?」
私が学園で教えている中等部の令嬢が、王子の横に立っています。
「そうだ、僕にお似合いだろう」
お前は、もうすぐ30歳だろ、精神年齢は中等部か!
「ギンチヨは目障りだ、今すぐ、この会場から出ていけ!」
王子は、一応、目上なので会場を出ます。
なぜか、私の両脇は、国王直属の近衛兵に護られています。
そして、案内されたのは国王の執務室でした。
◇
「すまなかった、ギンチヨ」
国王とお父様が頭を下げました。
「ギンチヨから見放された王子は、求心力が無くなるため、国王にはできない」
国王は、頭を抱えます。
「明日、王子の廃嫡を宣言する……」
「国王として最後のお願いがある。良いな侯爵」
「御意のままに」
お父様、なんで涙ぐんでいるのですか?
国王とお父様は、何を考えているのか、私には分かりませんが、ここは、従うしか道はないようです。
◇
「この馬車は、どこに向かうのでしょうか?」
国王が急遽手配した王族用の馬車に乗せられました。
国王とお父様には、何か考えがあるようでした。
「申し訳ありません、わかりません」
侍女のジジも説明を受けていないようです。
「私が着せられたこのウエディングドレスと、ティアラは、王妃様が結婚式で着用された貴重な品ですよね?」
私の年齢としては、だいぶ若いデザインで、少し恥ずかしいです。
「私は、ギンチヨ様のベールガールをしなさいと指示されました、この年で……」
ジジも、もう成人しているので、戸惑っています。
「私は、婚約を破棄され、ウェディングドレスを着せられ、追放されるなんて、ずいぶんとキツイ罰です!」
こんな恥ずかしい仕打ちはありません。
「ギンチヨ様が退出なされた後、お客様のほとんどが会場を出たのは、ご存じですか?」
「いえ、なぜお客様が?」
「お客様のほとんどが、ギンチヨ様の教え子であり、強烈なファンだからですよ」
ジジは、笑って答えました。
あれ? 馬車が止まりました。ここは王宮から近い場所です。
◇
「ここは、王族の離宮ですよね?」
大きな屋敷に、広い庭があります。
「王弟陛下のクロガネ様が、お一人で住まれていらっしゃるお屋敷ですよね」
馬車を降ろされ、ゆっくりと歩を進めます。
王弟陛下とまさかの結婚という期待、そして婚約破棄された心細さが、心の中で入り混じります。
「誰か、大事なお客様がいらっしゃるのでしょうか?」
使用人の皆さんが屋敷の前に整列しています。
玄関ホールの中に目を向けると、人影が見えます。
人影が外に出てきました。白い衣装に金の装飾、王弟陛下が駆けてきます。
「あれは!」
ふいに、恋の予感が、私の背すじを抜けて、甘く走りました。
黒髪に黒い瞳、クロガネ様は、出会った頃のままです。
私の瞳の中に映る彼は、軽いめまいを誘います。
二人の時間が、ゆっくりと流れます。
貴方の長い脚、広い歩幅、
歩く速さを緩めて、私に近づいて来ます。
その後ろから、執事さんが追いかけてきています。
貴方は、それを、少し待っています。
「ギンチヨ嬢、待たせて、すまなかった」
彼は、いつから待っていたのでしょうか。
「ずっと、待っていました」
私は、あの幼い夏の日から、心のどこかで、ずっと待っていたのです。
婚約破棄から、こんなに早く、運命の人が現れるなんて、夢のようです。
二人の時間が、ゆっくりと流れます。
私の心だけが、先走りしてるのでしょうか?
貴方の、うつむき加減、交わす言葉に、私への好意を感じます。
「ギンチヨ嬢、貴女を幸せにします」
貴方の差し出す手に、ゆっくりと私の手を重ねます。
「クロガネ様のそばに、いつまでもおいてください」
優しい時間が、緩やかに私たちを包みました。
屋敷までの道を、ゆっくりと歩を進めます。
貴方と共に……
━━ fin ━━
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございました。
よろしければ、★★★などを頂けると嬉しいです。
婚約破棄された後、再会の時間は、ゆっくりと流れました。 甘い秋空 @Amai-Akisora
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます