第7話 光
あの人たち...つまり両親にとって私は何だったんだろうと、みなみは自問する。恐らく、薬にも、毒にもならない無の存在。父が私に色々なものを買ってくれたのも、遊びに連れていってくれたのも、愛情や関心からではなく、父親はこうあるべきという単なる義務感からだったのだろう。二人には、いさかいの相手であるお互いのことしか見えていなくて、娘の私など眼中になかったのだ。
そう思うことで、みなみは[かわいそうな自分]を慰める。全て両親が悪いということにならない限り、彼女は自責の念から逃れることができなかった。父母の言動に少しでも娘への愛情が見られた場合、彼女は両親を恨む自分を許せなくなってしまうのだった。
ーだけど、私は生きている。
ーもう、許してもいいんじゃないかな。
そんなことを考えていると、カバンの中のスマートフォンが震え、メッセージの着信を知らせた。見ると叔母からのLINEが届いていた。
<ケーキよろしくね>
文字列の下でお辞儀するキャラクターのスタンプを見て、若作りだなとみなみは苦笑した。それでも、若者のくせに機械音痴な自分よりはずっといい。LINE だって叔母の勧めで先月始めたばかりだし、巷にすっかり定着している動画配信サービスや電子書籍のこともよくわからなくて、未だに手が出せないでいる。デジタル社会で真っ先に淘汰されるのは、叔母でも世の高齢者たちでもなく、自分なのかもしれない。そう思うと、なぜか少しだけ気が楽になった。
ーお前のような外れ者、いなくなってしまえ。
そう、私はずっと一人だった。家庭でも、学校でも、社会でも、あまり歓迎されず、意味もなく、ただ生かされてきた。でも、それで何が悪いのだろう。みなみは心の中で小さく呟いた。
時刻は夜7時。この時間だと、叔母がよく行く個人経営のケーキ屋はもう閉まっているだろう。そうなると、駅前のデパートか...デパートに着くのが7時半、家に着くのが8時過ぎ...ケーキを食べるのは明日の楽しみにとっておいた方がよさそうだ。いっそ、買うのも明日に伸ばして、叩き売りされている、売れ残りの品を、うんと安く手に入れた方が得なのかもしれない。
みなみはスマホに <ごめん また明日>と打ち込んだ。そうしても叔母が怒らないのはちゃんとわかっていた。
聖夜のフライドチキン 紫野晶子 @shoko531
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