人間の葛藤と成長を描いた奥深い作品群
- ★★★ Excellent!!!
《はじめに》
現在、私がお金を払ってでも読みたいと思える作品を書いておられる作者様の一人が、この大和成生様です。このまま発掘されずに終わってしまうのはあまりに惜しいと思われましたので、その作品がもつ魅力についてネタバレなしに紹介させて頂きます。
また、本作は作者様が初めて書かれた作品とのことであり、『桜梅桃李シリーズ』の原点に位置づけられておりますが、ここでは本作を含むシリーズ全体に対してレビューしております。後述するように、シリーズとしてどういう順番で読むべきか、今ひとつ判断しかねるところがございますので、心配になられた方は作者様にご相談なさってみて下さい。
《本文》
本シリーズは石田家の三姉妹+末弟を中心に、彼らの幼い頃から大人になるまでの半生を、それぞれの視点で描いた連作です。恋愛成分多め。三姉妹の名前が上から順に桜・梅・桃であり、末弟が信であり、石田姉弟の従姉妹に当たるのが李(通称スーちゃん)ですね。なのにシリーズ名には信が入っていないという。男の子だからって仲間ハズレにしないであげて。(笑)
(彼らと作品の対応表は以下の通り)
『四角いあなた』→信の同級生たちのお話
『不思議な彼女』→信
『三日見ぬ間の桜』→桜
『梅切らぬ馬鹿』→梅
『桃色武装』→桃
『桜梅桃李』→李
『うんめいやから』→外伝(信と桜を読んでから)
『ぺんぺん草』→外伝(李を読んでから)
この作品群に「お金を払う価値がある」と思える理由は、人間の成長に必要な葛藤がズバッと描かれているからです。それも、かなりシビアな女性目線。そしてそれらは、それぞれの登場人物にうまく分散して配置されており、様々な角度から様々な人間像が浮かび上がってくる仕掛けになっています。更に面白いのは、そうした人間像の多くが、実は作者様ご自身の投影であり分身でもあるということ。すなわち、異なる人間像はひとつの人格に統合されたとしてもよいのでして、人間という矛盾に満ちた存在が見事に表現されています。
(ついでに言うと、作者様的に好きじゃないキャラが超重要ポジに就いていたり、あるいは作者様的に大嫌いであったはずのキャラがいつの間にか格好良く成長してしまっていたりするところも面白いのですが……作者様はその辺の情報を小説内で一切書かれていないというね笑)
全員が違う人格をもち、全員が違う人生を歩んでいながら、読者という一人の人間の中ではそれらすべてを教訓として糧にすることができる作りになっている。まったく同じ体験をしていながら、まったく違う選択をしてそれぞれの人生を歩む二人の姿が描かれていても、それらは「どちらもあり」と納得できる。こういったところが非常によくできています。
ただ、そのよくできている部分が「よく出来すぎている」きらいがありまして・・・複数のストーリーを読み進めることで、初めて見えてくるものが沢山あるわけですよ。「あの話のあれってそういうことだったのか!」みたいな。なので、単品で読むとなんだかアッサリ風味と言いますか、他作品との相乗効果でいきなり面白さが爆増すると言いますか、噛めば噛むほど味が出てくるスルメ的な魅力があると言いますか。それゆえ、早計な判断を下されてしまう可能性は、決して低いとは言えません。そういう意味では、じっくり丁寧に読む人向けなんですよね。ぶっちゃけ、作者様は設定集や解説書を書くべきレベル。多分、三回くらいは読み込まないと、情報を整理しきれません。(笑)
なので、WEB小説のニーズに合っているかと問われると……すみません。自信ないです。少なくとも、無双系ファンタジーにしか興味がないような方々には、まず合わないであろうと容易に予想されます。
(ちなみに自分のお薦めは信同級生(本作)→信→桜→梅→李→桃かな。信関連の2作を敢えて最後に回すという読み方もアリですね。こんなこと書いてる私自身、梅を最初の方で読んで、この作者さんは只者じゃないと思った記憶があるため、結局はどんな順番でも構わない気がします。というか、読む順番にこだわりが出てくるのは、全体像が見えてきた2周目以降のことだと思うのです。なので、読んだことない人は、とにかく全部読み尽くすつもりで手当たり次第読んでみて下さいと申し上げておきまする。あと、外伝的な短編もいくつか用意されていますので、そちらもどうぞ)
ともあれ、こればっかりは声を大にして言わせて頂きたいのですけど、「パッと見面白いけど中身スカスカ」な作品ばかりが読まれ、「パッと見地味だけど中身が詰まっている」作品はまったく読まれないというこの状況、ほんと何とかなりませんか。ちょっと顔がよくて口が上手いだけのヒモ体質DV男がモテて、地味だけど真面目に仕事/勉強している男は見向きもされない、みたいな?別に自分の見る目が確かだなどと言うつもりはないのですが、所詮は顔(タグとタイトルとジャンルと第一話)で決まるのかと思うと、色々とこう、アレでアレがアレなわけですよ。うがあぁぁぁ!
すみません。つい鬱憤がダダ漏れになりました。
単品でどれかひとつと言われれば、桃を推します。読む順番で桃を最後に回しているのは、私が「お楽しみは最後にとっておく派」だからですし。(おい) 梅と李に関しては、予備知識として「雪の女王」のあらすじだけでも知っておいた方がいいかな。注意点はそれくらいかと。(作者さんは「雪の女王」のあらすじを知っている前提で作品を書いておられますので……せめてあらすじを知ることのできるサイトへの誘導くらいはあっていい気がしまするぞ。たとえばこの辺→https://www7.big.or.jp/~ynisihir/html/Y622_GELDA.htm)
まあ、なんでしょう。流行とかテンプレとかに辟易していて、しみじみと「そうだよなぁ」と思えるような作品群に触れたい方、子ども時代の体験が人格形成に与える影響を、大人になった今だからこそ様々な角度から振り返らせてくれる、そういう作品群を読みたいという方々にお薦めでございます。ポジション的には、純文学に近いといいますか、純文学からWEB小説に読者さんを引っ張ってくることのできる作者さんというイメージ。あとはこう……女社会のリアルみたいなものを、味付けなしに表現してくれているところもいいですね。天然天使ちゃんから嫉妬に狂った横恋慕ちゃんまで、色んな「女」がご登場なされます。はい。
以上、ここまでお読み下さった方々に御礼申し上げます。一人でも多くの方が本シリーズの魅力に触れる契機として頂ければ幸いです。
《おまけ》
この先は個人的な愚痴になりますが……こういう作品に出会いたい私みたいな読者にとっては、お星様システムは何の参考にもなりません。作者さんが売れるようになりたいとか考えておられませんからね。積極的に宣伝されているご様子もありませんし、その代わりとでも言わんばかりに、書きたいことを好きなだけ書いておられるわけです。
ただ、売れたい売れたいと思ってる人より、自分の気持ちに素直な作品を書かれている作者さんの方が、優れた作品生み出す可能性が高いってのは、必然でもあるのです。芸術ってのは、作者の内面の表出なんですから。「売れる作品を書く」ということは、作者さんが自らの内面を外部評価に迎合して曲げてしまう行為でもあり。その意味でも、流行に乗らない作者さんという存在は貴重だと思います。
とはいえ、商業ベースにはない良さを持ったこういう作品がカクヨムに数多眠っていることもまた事実であり、その場を提供して下さっていることについては、運営様にいつも感謝しております。自分に合った作品に出会いたければ、濫読するしかないっていうのは、仕方のないことなのかもしれませんね。