四角いあなた
大和成生
第1話 入学式
これは私が高校生だった頃の話だ。
中学3年生の11月、ベルリンの壁が崩壊した。
「この時代を生きて、この瞬間を目の当たりにしたことを幸せに思ってください」
社会の先生が熱く語った。
歴史が動いた瞬間というのは、その時代の者にとっては大した出来事ではないのかも知れない。
何年、何十年、何百年の後に思い出してその時代を生きたことがいかに幸せだったのかを知る。
そして4月。
私は県内の公立高校に入学した。
退屈な入学式が終わり、体育館からその日決まった新しいクラスへ移動すると、お決まりの自己紹介が始まった。
一人ずつ教卓の前でクラスメイトに向かって、名前、趣味、好きなもの、好きなこと云々かんぬん
よろしくお願いします
はい次の人。
同じようなことをぼそぼそ喋っては、
よろしくお願いします ペコリ
はい、次の人
以下同文
段々眠くなりながら、私も以下同文なことをしゃべろうとぼんやり考えていた。
自分の番が来て教卓へ向かう。
フルネーム、趣味は読書です。好きなことは寝ることと散歩。あ、音楽は聴くのも歌うのも好きです。
ここで、担任がどんな音楽を聴くのかと質問した。
「ブルーハーツが好きです」
「げっ!ブルーハーツ」
でかい声で叫んだ奴がいた。
声のほうに顔を向けた。
四角い男の子がいた。
「ザ・ブルーハーツです」
四角に向かって言った。
クラスのみんなが笑った。
四角も笑った。子どもみたいに心の底から楽しそうなピカピカの笑顔だった。
今思えば、それは私にとっての歴史的瞬間だった。
私は恋をした。
これは、精一杯でがむしゃらでただ好きな人を好きなだけで良かったあの頃の幸せな片想いの話だ。
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