第8話 第三の事件

 そんな小山田の頭の上から落ちてきた植木鉢、誰かが故意に落としたと考えるのが普通であろう、植木橋など他にはなく、植木鉢があることすら不自然で、さらに、人通りの少ないところ。ここまで考えると、誰かの意志が働いていると考える方が自然だろう。

 小山田には、

「まったく誰かに狙われるなんていう覚えはないですよ」

 と言っていたが、それだけに恐ろしさもあった。

 狙われる理由も分からないところで誰かに恨みを買っていたのだとすると、それは自分が気付かないのが悪いのか、それとも、勝手な逆恨みなのか分からない。どちらにしても、恐ろしいことには変わりはない。どちらにしても、自分がまわりを気にしていない証拠であるし、気付かないうちに誰かを傷つけているということである。相手をして、正当な恨みなのか、それとも逆恨みなのか、逆恨みであっても、抱かれるにはそれなりに理由があるということであろう。

 小山田にとって、いつも他人ばかりを気にしていただけに、いざ自分のこととなると、考えたことはないのだろう。今回の事件の中での一番の問題点はそこらへんの彼の性格にあるのだろうと、長谷川巡査は言った。

 ただ、小山田の態度を見ていると、どこか大げさにも感じられた。

 確かに植木鉢を上から落とされるなどというのは、恐怖におののくレベルのものではある。

 しかし、それ以上に何かに怯えている様子を見ると、

「何か心当たりが本当はあるのではないか?」

 と長谷川巡査は感じた。

 もっとも、そんな思いを抱いているのは長谷川巡査だけであり、小山田のことを何も知らない他の刑事たちには、まだ、彼のことを理解できていなかった。

 いや、

「小山田という人は結構分かりやすいひとだ」

 と思っているのは長谷川巡査だけで、他の人、刑事だけではなく、梅崎や松本も感じていたようだ。

 きっと、小山田のことを利用している人たちも、実際に小山田の本質というものを分かっていて使っているわけではないような気がした。

 それだけに、使いはするが安心しているわけではない。悪いやつになると、

「利用するだけ利用して、後はいくらでも処分すればいい」

 と思われていればそれは恐ろしいことであろう。

 しかし、実際に小山田にはそんな自分に従順な人物がいて、その人の存在に気が付いた時、彼は一皮むけた気がしたようだ。

 長谷川巡査が、小山田となかなか連絡が取れないと思っていたその時、小山田は自分のことを考えるようになり、それまで漠然と感じていた自分とは違う一面を知ることになったのだ。

 そのせいで長谷川巡査との間に壁のようなものができて、今回の事件でも、友達だということを他の人に話す勇気が持てなかったのだ。

 そんな小山田が、どうしてまわりの人間に従うようになったのかというと、元々小山田という男は。子供の頃からまわりに従順だったわけではない。

 このような性格の人間は得てして生まれつきの性格を引きずっているようなものだが、小山田の場合は違った。

「俺、子供の頃はこれでも、ガキ大将気質だったんだぜ」

 と言って、長谷川巡査に言っていたが、長谷川巡査は最初その言葉が信じられなかった。

 小山田という男が、従順な性格で、下手をすれば、いじめられっ子だったり、奴隷扱いされていてもおなしくないような性格ではないかと思っていたくらいだった。

 今の時代、

「ガキ大将」

 という言葉が死語になっているが、これも死後というべきか。

「わんぱくな少年」

 と言ってもいいくらいだっただろう。

 そんな小山田が狙われたとなると、そこにどういう真実が隠れているのか分からない。現場には、誰かがいたという形跡は残っておらず、植木鉢を落とすだけの目的でそこにいたのだろう。そうなると、一つ疑問が浮かび上がってくる。

「犯人は一体どうして、小山田がここを通りかかるというのを、前もって知っていたのであろう?」

 という疑問だった。

 その疑問に一つの仮説を立ててみた。そのことを柏木刑事に話してみたが、

「少し話が飛躍しすぎているんじゃないかな?」

 と口では言っていたが、その可能性を柏木刑事も考えているようだった。

 話した内容としては、

「今回の事件なんですが、少し気になるところがありまして」

 と切り出すと、

「ほう、長谷川君が自ら推理してくれるというのもいいかも知れないね。参考のために聞かせてもらおう」

 と言って、少し茶化しているかのようだったが、話を訊いているうちに、少しずつ真剣な顔になっていったのが印象的だった。

「まず感じたことはですね、このあたりというのは人通りが少ないこと、そして、植木鉢というものが、そのあたりに存在しないこと、それらのことを考えると、どうも作為が見え隠れしているような気がするんですよ」

 と、いうと、

「それじゃあ、これは何か狂言の匂いがするとでも言いたいのかい?」

「そうですね。私にはそう思えて仕方がないんですが、柏木刑事はどう思います?」

 と聞くと、

「君は、小山田という男を信用していないのかな?」

 と言われた長谷川巡査は、

「そういうわけではないんです。彼のことは私は以前から知っていて、よく話をすることもあったのですが、あまりあざといようなことをするタイプではありません。人に対して従順で優しいタイプなので、それだけに、この道において、上から植木鉢が落ちてくるなどという考えにくいことが起こるというのが腑に落ちないんです。まるで、この犯行に何かの疑惑を持たせるような感じがしてですね」

 というと、

「やはり君はこれを自作自演だと言いたいのかね?」

 と言われた長谷川は、

「ハッキリとは言えませんが、そう考える方が自然な気がするんですよ。特に彼は、数日前の自分の関係者でもありますからね」

 と、元々友達だった相手をよくもここまで言えるものだと、自分でもビックリしている長谷川巡査は、

「やはり、俺も警察官なんだな」

 と感じていた。

「彼はそんなに真面目な性格なのかい?」

 と言われた長谷川巡査は、

「ええ、そうですね。そしてもう一つは、人を疑うことをしないともいえますね。だから下手をすると、他人から利用されやすいということも言えます。逆に融通の利かないところがあり、典型的な真面目人間というのが彼に対して素直に感じた性格だと言えると思います」

 と長谷川巡査がいうと、

「なるほど、そのあたりの矛盾から、何かの作為を感じたということかな?」

 という柏木刑事に対して、

「ええ、そういうことになりますね」

 と、長谷川巡査は答えた。

「じゃあ、何のために、そんな手の込んだことをしたというのかい?」

 と言われ、

「そこまでは分かりませんが、陽動作戦というか、何かから目を逸らそうとしてわざとやったのではないかということもありえるんじゃないかと思ってですね」

 というと、

「一番考えられるのは、この間の松本さんへの殺人未遂だろうと思うけど、こちらは、別にまだ彼を真犯人だと断定したわけでもない。そもそも、まだ被害者の供述スラ取れていないところだからね、そんなところで犯人ではないというアピールをしても意味がないような気がするんだけどね。事件をややこしくするだけのパフォーマンスにしか過ぎない」

 と柏木刑事は言った。

「そうなんですよね。それくらいのことは彼にだって分かりそうなものなのに、何か他に目的があるのかな?」

 と長谷川巡査がいうと、

「とにかく、こちらは地道に捜査をする必要があるということだね。この事故はこの間の事件とはまったく関係のないのかも知れない。気を付けて見ている方がいいかも知れないな」

 と、柏木刑事は言った。

 小山田の供述には、疑えばいくらでも埃が出てきそうであるが、敢えてそのことに触れるのはよそうと、柏木刑事は考えた。

 それは知り合いである長谷川巡査の話があったからで、

「小山田という男は真面目なんですが、意固地なところがあるので、相手に詰められると、反発しようとするんですよね。しかも相手が警察となると、余計な力が入るんだって、前に言っていましたよ」

 と長谷川巡査は言った。

「何か警察に対して逆らいたい気持ちでもあるのかね?」

 と聞くと、

「そのあたりはハッキリとしないんですが、何か警察には過去に嫌な想い出があるそうなんです。でも私のような制服警官に対して持っているわけではないと言っていたので、刑事という人たちに何かあるんでしょうね?」

 と言われた柏木刑事は、

「以前、取り調べか何かを受けて、嫌な想いでもしたのだろうか?」

 というと、

「そうかも知れません。最初にストーカに追われているようなことを言っていた女の子を交番に連れてきた時も、自分は警察署には行きたくないのでといって、うちの交番に来てくれたんです。本当なら生活安全課に行ってみるのもいいですよと私が言った時、彼が訝しい表情をしたのを思い出しました。何かやはり警察に嫌な思いがあるんでしょうね」

 というと、

「そのストーカーの女の子に対してはどうだったんだい?」

 と言われた長谷川巡査は、

「最初は、断固として悪に立ち向かわないといけないと言っていたんですが、彼女が泣きだしたのを見て、かなりトーンダウンしたみたいですね。それ以降、彼女の嫌がることはまったく言わなくなりましたからね。彼は勧善懲悪の塊りかと思ったけど、ちゃんと空気も読める人間なんだって思いました」

 と長谷川巡査がいうと、

「どうやら刑事に向いていそうな男だね」

 という柏木刑事に対して、

「いやあ、それが彼は結構気が弱いところがあるんですよ。さっきの彼女が泣きだしてから急にトーンダウンしたのも、そのあたりの気の弱さが出たんじゃないかって思うんですよ」

 と長谷川巡査が言った。

「彼ってどういう性格なんだろうね?」

 と言われて、

「確かに、勧善懲悪で空気も読めるんだけど、きが弱い性格でありながら、意外を芯が強いところを持っているんですよ。実は、彼には姉がいたそうなんですが、今から十年前、つまり、小山田が二十二歳という大学を卒業した年に、亡くなったらしいんです。警察は事故だとして処理したんですが、彼は自殺を主張したんだそうです。実際にお姉さんの遺書が、その場所からではなく、遺品を整理している時に見つかったということで、それを持って警察に行ったということなんですが、警察では取り合ってくれなかったというんですね。自殺をする時に、遺書は自殺をした場所にあるものだというのが、警察の見解だったということです。もし、彼が刑事に嫌な思いを抱いているとすれば、この時の記憶が残っているからではないでしょうか?」

 と、長谷川巡査は言った。

「そこまで君に話をしてくれたというのは、よほど君を信頼していたんだね? それはいつ頃のことなんだい?」

 と柏木刑事は訊ねた。

「そうですね、一年くらい前だったですかね。きっと私を信頼してくれたんだと思って嬉しかったですが、同時に警察が彼にした中途半端な捜査に、私まで嫌な気分になりましたね」

 というと、

「彼は、それを今でも恨んでいるような感じだったかい」

 と言われて、

「それはないんじゃないかと思いました。酒を飲みながら笑いながら話していましたからね」

 というと、

「いや、酒でも飲まないと話せないというくらいに、怒りがこみあげていたのかも知れないよ」

 と言われ、

「そうかも知れないですね」

 と力なく言い返すだけだった。

「彼にとって、姉の死というものが、自分の人生にどのような影響を与えたんだろうね? 大学時代からの友達と言っている、梅崎君や松下君たちも、彼の姉のことは知っていたんだろうね?」

 と言われた長谷川巡査は、

「それは知っていたと思いますよ。ただ、他の誰に話したということは、その時の小山田は言っていなかったですからね。お酒の席だったから私にも話せたのか、それとも警官だから何か言いたかったのか」

「そうだね。もしお酒の席だから話せたのだとすれば、逆の言い方をすれば、お酒の席であれば、誰にでも話す可能性があったということだね」

 と柏木刑事は言ったが、

「私もその通りだと思い明日」

 と、長谷川巡査も同意した。

「小山田君がお姉さんのことで今も苦しんでいるというのは、よほどそのお姉さんのことが好きだったんだろうね?」

 と言われて、

「そうかも知れないですね。でも、十年も前のことを思い悩むほどの男ではないと思うんです。ひょっとすると新たな悩みが生まれたのかも知れないとも感じるほどで、それに関して、一度小山田が、自分のことを好きになってくれた女性がいたようなことを話してくれたことがあって、それが嬉しいと言っていたんですよ。今までに自分は誰かを好きになったことはなかったので、好きになられるなどありえないと思っていたようで、そのことをかなり気にしていましたね」

 と長谷川巡査がいうと、

「相当、モテなかったのかな?」

 と柏木刑事の問いに、

「そんなことはないと思います。容姿もそんなにバランスが悪いわけではないし、性格的にも素直で優しさがあるわけで、そんな彼が一度も今までモテなかったとは考えにくいですからね」

 というと、

「男の君から率直に見てそう感じるのであれば、本当にモテなかったわけではなさそうだね。ということは、ストイックだということなのか、それともそもそも、女性に興味がないのか、どれかなのだろうか?」

 と聞かれた長谷川巡査は、

「女性に興味がないということはなかったと思います。ただ、モテないという思い込みから、女性が別の人種だと思い、自分の中で結界のようなものを敷いていたのも事実のようです。性欲だって普通にあったはずであって、その証拠に、昔からの友達から、風俗に連れていってもらったということを話していましたからね。それは今ではなく、数年前だと言っていましたけど」

 というと、

「風俗の女の子には、別に抵抗はないけど、それ以外の女性だと抵抗があるという男もいるようですからね。それだけ自分に自信がないのかも知れないですね」

 と、長谷川巡査は言った。

「自分に自信がないとは?」

「例えばまだ彼女ではない女性と、ホテルに行ったりして、いよいよ性行為に及ぼとした時、もし、身体がいうことを聞かなかったりして相手にそれをなじられたりすると、それはトラウマとかになって残ってしまう可能性が十分にありますよね。でも、相手が風俗の女の子であれば、余計なことはいわないし、お客相手なので、気持ちよく相手してくれるはずですよね。それが言葉においても同じことで、絶対に酷いことを言われることはないと思うんです」

 と、長谷川巡査は答えた。

「なるほど、そういうことだね。やはり、それだけ、小山田君というのは自分に自信が持てなかったということなのかな?」

 という柏木刑事に対して、

「その通りだと思います、ただ、それは彼は気が小さいからというよりも、謙遜心が強いだけだと思うんですよ。人のことになると、結構ムキになって庇ったり、自分のことのように同情できてみたりと、他の人で同じ行動をとれば、わざとらしいという風に言われることでも、彼にとっては当たり前のことなんでしょうね」

 と、長谷川巡査は言った。

 長谷川巡査は、かなり小山田氏のことを過大評価しているようだ。柏木巡査が見ていても、若干の違和感があった。

――どうしてここまで、小山田のことをよくいうんだろう? 何か彼に対していい面しか見えないような暗示にでもかかっているのだろうか?

 と感じたほどだった。

 それでは、まるでマインドコントロールを受けているかのようではないかと感じたが、そういう普段と変わった様子おなかった。

 洗脳されているわけではなければ、小山田には人を引き付ける魔力のようなものがあると言ってもいいのかも知れない。

 洗脳という言葉はかなりの偏見かも知れないが、長谷川巡査にまでこれだけの感覚を与えるのだから、十年来の友達だという、松本や梅崎にもかなりの影響を与えているのではないだろうか?

 そんな感覚をだいぶ言葉を砕いて長谷川巡査に話した柏木刑事だったが、長谷川巡査はそれに対して、

「そうかも知れないですね。でも、小山田君の影響を受けている人というのは、一緒にいるだけで分かってくるんです。醸し出される印象というのか、どこか小山田君の影響を受けている部分が匂いのような形で出てくるということなんですよね。でも、松本君にm梅崎君にもそれが感じられなかった。それはあの二人の個性が強すぎて、小山田君の神通力が通用しないのか、それとも、元々が腐れ縁のようなもので、親友と思っているのは小山田君だけで、二人はむしろ、彼を利用するくらいの気持ちでいたとするなら、洗脳はされないでしょうね」

 と、持論を展開した。

 この自論は今のところ、説得力はなかったが、事件が解明されていくうちに、思い出されることになるのだった。

 その日は、植木鉢が落ちてきたことを、捜査本部に帰って捜査員に話をしたが、とりあえず、そちらの捜査も引き続き、やってもらうとして、まずは、殺人未遂との関連性から考えられることを洗い出してみるという方針が考えられた。

 しかしその捜査をする必要もないくらい、この事件は、急に動きが活発になってきて、予断を許さなくなってきていたのだ。

  それから二日後のことであった。

  今回の一連の事件が殺人未遂ということから、殺人罪に変わっていった。その口火であり、クライマックスとも言える事件は、思わぬ形となって表れた。

 時間は、夕方から夜になるという時間帯で、午後七時頃であろうか、県警から通報が入った。

「錦町のマンションで、人が殺されているという、付近住民からの通報があり、被害者は、梅崎達夫と見られる。ただちに現場に急行せよ」

 ということであった。

 刑事課ではそれを聞いて、

「梅崎達夫?」

 とまさに、今捜査を進めている殺人未遂事件の関係者ではないか。

 皆、名前を聞いた時、コーラスでもしているかのように声を合わせて名前を呼んだ。そuれだけ、刑事課のボルテージは一気に上がり、緊張が刑事課全体を包んだのであった。

「梅崎って、あの三人の中の一人だよな?」

 と桜井刑事がいうと、

「ああ、そうだ。松本君がまだ入院中で、小山田君と梅崎君が時々お見舞いに行っているようだったが、まさか、そのうちの梅崎君が殺されることになるなんて、これで無事なのは小山田君だけになったな」

 と、もう一人の刑事がいうと、

「いやいや、そんなことはない。小山田君も、この間、上から植木鉢が降ってくるという事件があったんだ。幸い事故にはつながらなかったので、報告だけはしていたんだが、浸透していなかっただけかな?」

 と柏木刑事がいうと、

「ああ、そうそう、そうだったね」

 と、納得したようだった。

「でも、梅崎さんは、あまり病院に来ていたというわけではなかったですよ。小山田さんは毎日のように、時間を作ってきていたんですが、梅崎さんは、最初の二日ほどは来てくれていましたけど、それ以降はほとんどお見舞いにくるということはなかったようですね」

 と病院に何度も足を運んでいる隅田刑事はそう言った。

 隅田刑事は意識を取り戻した松本に貼りついていた。

 少しでも、彼から事情が聴ければいいという理由と、もう一つは、犯人の目的が殺害にあるとすると、意識が戻ったからと言って、殺害を諦めたわけではないとすれば、犯人が逮捕されるまでは安全とは言えないからだ。

 さらに松本が犯人を知っていて、そのことを喋られたら困るということも考えられる。いやそれ以上に、松本が犯人も知らない犯行において、致命的な何かを知っているとすれば、生かしておくわけにはいかないだろう。

 そのことをいろいろ考えていると、捜査本部としては、松本を一人にしておくわけにはいかなかった。

 犯人にとって、幸いだったのは、松本が半分記憶喪失に陥っているということだった。本来なら犯人がすでに分かっているかも知れない状況で、時間稼ぎでしかないが、犯人にとって、今であれば何かをすることで、自分が捕まらなくなれればいいと思っているのかも知れない。

 だが、一つの懸念としては、

「本当に、事件はこれで終わりだろうか? 本当の目的は他にあるのではないか?」

 という思いが捜査本部にはあった。

「被害者が殺されていないというのが、どうにも引っかかるんですよね。しかも、生き残ったのに、何もアクションを仕掛けてこないということは、逆に、松本は何も知れないと思っているのではないか?」

 という内容の話が捜査本部の中で意見として昇り、

「十分に信憑性がある」

 として考えられたが、だからといって、入院中の被害者に決して危害が及ばないとも限らない。

 油断していて、殺されでもすれば、メンツは丸つぶれであり、それを警察幹部が許すわけもない。

 特に最近は警察の不祥事が耐えない。これは今に始まったことではないが、

「警察の不祥事や交通事故関係は、連鎖する」

 という、そんなことが言われていた時代があった。

 警察官の外部との癒着や、飲酒運転、冤罪事件や、捜査内容の漏洩など、あってはならない話が続発していた。

 そんな状況なので、警察上層部は、かなりピリピリしている。

 内部におけるコンプライアンスの問題もしかり、パワハラ、セクハラと言ったあらゆるハラスメントには、誰もが敏感になっていることであろう。

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