クロスワード

倉井さとり

クロスワード

初恋のすえにお前は生まれたと不意に告げられ脚がふるえる


夢だけにともる灯りに見惚みとれてる、まさにこのとき歯軋はぎしりは鳴る


ひんやりと吸い付くような柔肌は甘い鬱血うっけつ内に隠して


笹笛でおいでおいでとさそうのは飢えて渇いただにふち


青肌は手招くように透きとおる さなぎのなかのはねがうごめく


パニエ着て回転木馬の姿見でふと気づかれる淡い切り傷


この身体、キミにだったらバラバラにされてもいいと呟いてみる


試し斬り 枝毛スパスパ切り落とし刃物の声に耳傾ける


チョコレートとろかすような体温は愛も溶かすとヘラ握り込む


振っていい、それでもせめて食べてほしい チョコレートだけ、このかたちだけ


貧血で天使の声が裏返る ガラスを破る時間のかけら


去り際の余計な手切れは涙色、お風呂に浮かぶ浮かない顔の


靴ひもがとけて目につく水たまり ボウフラのわく大きな瞳


雨だれが遠く泣いてる窓の外、感情の裏、最果ての中


日に焼けた肘から下の細腕が他人に思えてそっとつついた


指パッチン かすれた音が鳴るだけだ 無声映画に逃げ込みたいよ


原付でどれだけ走れば私はさ、元の自分に戻れるのかな


紙吹雪 実物をまだ見てないな ふと押し寄せる引き算の波


道端で花を咲かせる女の子 朝のシリアル卵子に触れて


葉桜が反射でかえす生返事 来世ゆめみて微睡まどろみながら

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

クロスワード 倉井さとり @sasugari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ