第2話 十数年後、とある教室にて


放課後のチャイムが鳴る夕焼けの空。

暁に光る教室に、男女二人。


そして女が口を開く。


結人ゆいと先輩、好きです!付き合ってください!」


女が男に好意を伝える。

告白した後の暫しの静寂。

そして「ごめんなさい」の返事。

女は泣きそうな顔で教室を出る。

出ていった先を見ていると、女の友達かは知らないがが女を慰めていた。


「…醜いな」


この告白は毎日のように行われる。


傍から見たらこれは「モテている」と言っていいだろう。けれど、「モテる」というのは予想以上に疲れる。

そして毎日のように身体が重い。

身体というより精神の方だろう。

精神的な苦痛が僕の身体を犯し続けている。

毎日告白されるというのもあるが、それよりも、憎しみを感じさせるような視線、

皮肉の効いた愚痴などが鋭く心に刺さった。辛いの一言に尽きる。


けれど、そんな鬱々とした気持ちを春風は飄々ひょうひょうと消し去っていった。


「あっ」


女が去った後、教室の窓から、桜の花びらが舞い散る姿を見た。


春風はガタガタと教室の窓を震わせ、学校に生えている桜の花びらを散らしていった。


桜は満開こそ美しいが、散る姿もまた美しい。


「――帰るか」


僕は夕焼けを背にして学校を出た。




家に帰ると、待っていたのは明るい雰囲気を纏っている母親。「鏡音えりか」だった。

僕は、母親のことを「母さん」と一般的な呼び方をしている。

母さんは35歳と、近所の奥さんやらの年齢と比べると比較的若い。



――まぁ、こんなのはどうでもいいか。


「結人、ご飯もうすぐできるから」


「…わかった」


優しい声に対して、少し冷たく感じるような声で返答する。


「どうしたの?そんなくらい顔して」


自覚はなかったが、

どうやら顔に出ていたらしい。

自分でも気づかなかったことに気づくか、

やはり母というものはいつの時代においても偉大である。


「…なんでもない、今日のご飯は何?」


また自分を取り繕ってしまった。多分、心配してくれる母親を僕は、いや、なんでもない、余計なことは考えるな。


「今日はコロッケよ、今できたからテーブル片付けといて」


「うん、わかった」


僕がテーブルを片付けた後、母さんが惣菜や主食、汁物などを並べていった。


「「いただきます」」


いただきますをした後、食事をしながら母さんと何気ない雑談を交わした。

最近の学校生活とかそんな話。

小一時間ぐらい話した後


「...結人」

と、母さんが突然暗い声で僕の名前を呼んだ。


「何?」


「結人は、」


「結人は


死ぬ?どうゆうことだ?


「え、なんで?」


母さんは取り構ったように言う。


「なんでもないわよ」


母さんはだった。


その笑顔が、僕には少しだけ、悲しく見えた。

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僕と俺と私の記憶 鈴木 ハル @kusasika1en

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