僕と俺と私の記憶
鈴木 ハル
第1話 夢と死
最初に来たのは嗅覚だった。
鉄の匂いが強く臭う。
――血だろうか。兎に角この匂いのせいで
気分が悪い。
そして真っ暗だった目の前がぼんやりだがはっきりしてきた。
しかしどす黒い赤が視界を覆い尽くしている。
…なんだこれは。
手の感覚もはっきりしてきた。視界を覆い尽くしているどす黒い赤を触れてみる。
――血だった。手にあるのは血だった。
匂いの正体はこの手に触れている血。
ふと、僕は無性に周りが気になり、顔を上げる。周りを見ると瓦礫ばかり。
家は?友達…。そう、僕の友達、僕の、たった二人しかいない友達はどこ?
体を起こす。
――…!!!???
全身に激痛が走る。痛い。痛い痛い痛い。
痛い痛いいあたいいたいいいたいいたいいたい。
体が燃えるように熱い。(今から死ぬのか?)そんなことを思わせるような痛み。
――たすけ…って
誰かに助けを求めた。
必死に。死ぬんじゃないかと思えるくらい。痛いのを我慢しながら。
「…………――――
声が聞こえた。男の声、知らない声なのに、どこか懐かしい気がする。
けど…誰だ?結人?結人って誰だ?
僕のことか?僕は、僕の名前は……。
なんだ?
* * *
目を覚ました。
見知らぬ天井…ではない。保健室の天井だ。そして横を見ると俺の親友と呼べる存在。
黒髪。センターパート。スラッとした体型。ついでにイケメン。うん、こいつは間違いなく鈴木晶斗だ。
鈴木が目を覚ました俺に気づいたようで、すぐ先生を呼んだ。
鈴木が言う。
「やっと起きたか。お前少しは気をつけろよ。てかよそ見すんな」
俺の頭の中は?というマークで埋め尽くされていた。つまり状況が掴めていない。
「ん?どゆこと?なんで俺、保健室にいんの?」
鈴木が呆れた顔で質問に答える。
「お前ドッヂやってるときに思いっきし顔面にヒットして血流しながら気絶してたんだぞ」
続けて、笑いながら言う。
「お前の愛しの
「え、なにそれ普通に恥ずいんだけど」
「いや~顔面ストレート。実に面白かった」
と、鈴木がうんうんと頷いて言う。
少しムカついたので反論しようとしたら、保健の先生が割り込んでくる。
「はいはいそこまで」と、先生。
鈴木はすみませ~んと軽く謝る。
「
「
「あら、そう…?」
出水先生は「次は気をつけてね」と注意喚起をする。
俺は「分かりました、次は気をつけます。失礼しました」そんな感じなことを言って(適当な事を言ったので覚えてない)保健室を立ち去った。
* * *
廊下にて。時計の針が12時50分を指す頃。
俺は歩きながら「鏡音えりか」に思いを馳せていた。
にしても恥ずかしいな。うん、恥ずかしい。だって鏡音さんにカッコ悪いとこ見られちゃったんだもん。
叫びたい…叫んで忘れたい。ていうか俺、ミジンコ並の下等生物と同じぐらい価値がない存在だから別にあっちから忘れられてたらそれでいいんじゃね?
あーあーそうすると死にたくなるなー。嫌だなーこの人生。いっそ転生して顔面偏差値が国宝級のイケメンに生まれ変わんねぇかなー。
「いてっ!」
痛い。それと後ろから叩かれた感触があったので振り返る。
案の定、俺の学校の同級生であり、親友の鈴木晶斗だった。
「お前歩くの早すぎだろ。そんなに恥ずかしかったか?」
やっぱり、コイツには見透かされていた。
「うっせ!恥ずかしいに決まってんだろ――」
照れ隠しの言葉を言うと同時に廊下の角を曲がる。
「きゃっ!」
可愛らしい声となにかが倒れた音が脳を占める。
そして「あ…」俺の身体は固められたかのように動かなくなった。
眼の前に飛び込んできたのは、透き通るような白髪、空のように澄み渡っている碧色の瞳。まるで二次元からそのまま出てきたかのような美少女。
クラスのマドンナ的存在「
俺は正気に戻り「だいじょうぶですか!?」と声をかけた。
瀬名さんは「そっちこそ大丈夫!?ごめんね?」と慌てて謝ってきた。
謝られてしまったが、もちろんよそ見をしてしまった俺のほうが悪いので、
「こっちは大丈夫です!すみませんでした!」と多少うるさく聞こえる声量で謝った。
「ううん、こっちも考え事してたから。あ、用事があるんだ…本当にごめんね?」と言って瀬名さんは俺のすぐ横を通り過ぎ、立ち去っていった。
その様子を見ていた鈴木は、何やってんだと言わんばかりの顔をしている。
「本当にすみませんでした。もうよそ見はしません。心に誓いますそんで早く鏡音さんを拝みたい。」
鈴木が笑う。
「反省してねぇじゃねぇか」
学校のチャイムが鳴る。
「そんなにえりかちゃんに会いたいんだったら早く行くぞ」
俺たちは急いで一階から三階への階段を登り、教室に入った。
* * *
「あぶねぇ!間に合った!」と鈴木が焦った声で言う。
本当に危ない。なぜなら休み時間が終わった後、1分位で次の授業が始まるからだ。
次の授業のチャイムが鳴る前に慌てて準備をし、席に座った。
さっきまで一階にいた瀬名さんもしっかりと準備をして着席している。凄い、皆讃えたほうがいいぞ、まじで。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
つ、疲れた。俺ほんとに体力ないから階段登るとき結構体力持ってかれるんだよな。
左から声が聞こえる。
「大丈夫?」
「――あ、うん大丈夫」俺は声が聞こえる方に顔を向けた。
―――極楽浄土。ありがとう神様。
髪は黒く、瞳はまるで月のように黄色い。童顔。締まっているところは締まっていて、膨らんでいるところはしっかりと膨らんでいる。
良い。実に良い。最高。
鏡音さんの淡いピンク色の唇が動く。
「唯人くん体育のとき大丈夫だった?すっごい痛そうだったけど」
鏡音さんが心配そうな顔で俺を見ている。かわいい。すき。
「うん、なんとか。ついついよそ見しちゃっててボール当たっちゃった」
「そうなんだ。あ、先生来た」
鏡音さんがこっちを向いて笑う。
「じゃあ授業終わったらまた話そ?」
心の中で叫びに叫びまくった。
’’愛の雄叫び’’といったところか。
好きな相手(しかも美少女)にそんなことを言われたら一溜りもない。集中して授業を受けるなんて無理に等しい。
こんな具合に俺は「鏡音えりか」に好意を抱いている。
鏡音えりかはこんな非モテ童貞にも優しくしてくれる女神のようなお人である。
これで高校二年生なのだから、きっと将来は良いお嫁さんになる。
* * *
授業が終わり、はぁ…。と、ため息を付いた。
すると鈴木の声が横から聞こえた。
「おいおい、大丈夫か?ため息なんか付いてよ。恋煩いか?」
余計な一言がムカつくんだよなこいつ、まぁ親友だからいつも許してるけど
「はぁ…」
親友の余計な一言に答えるように、またため息を付いた。
「お前みたいなイケメンに生まれていれば苦労しなかっただろうよ」
「確かに、鈴木くんみたいなイケメンに生まれてたら苦労しなさそう」
「ファッ!!?鏡音さん…!!!!」
思わず反応してしまった。
「褒めすぎやて〜!//////」
「いや褒めてねぇよ今の皮肉だわアホ」
女神が微笑む。それを見て体感10秒位固まったと思う。
この女神はまるでメデューサだ。目を見るだけで見惚れてしまい、暫く動けなくなる。
俺はその笑顔を見てこう思った。
「養いてぇ」
「おい、本音漏れてんぞ」
「やべ」
女神がまた笑う。
この後も三人で一緒に時を過ごした。
―――こうゆう楽しい毎日が続くといいなぁ。と、静かに心の中で願った。
しかし、そんなものは続かなかった。
2022年 8月26日 金曜日 20時14分
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