物質の問題/安堂ありく

安堂ありく

物質の問題

目覚めたらすべてのひとが私には見えない海の話をしてる


この国のありとあらゆる容れ物が集まり乾いてゆく枕辺


あしもとに知らないうちに線があり感動をありがとうと言われる


どうしてもゆるせなかったものたちがわたしをふちどっていく 逆光


ミステリーサークルめいた寝台に風渡る麦の穂が揺れるざざざ


心臓は殊に湿気を吸いやすく重くなります眠くなります


たましいは物質だから錠剤で維持されていて時々いたむ


青梅も自己憐憫も毒だけどシラップ漬けにしたらおいしい


何年も羽虫の分を差し引いた光を浴びて息をしている


ぱららったぱららった雨ふりはじめぽるぽるぽるぽ雨ふりつづく


さむいから床に落ちてるたくさんのすてきなものの抜け殻と寝る


胸郭をひらいたら森があふれでてほしい湿った夜の匂いの


かなしみのねむる無色の湖がここにはあってそこにもあって


いつのまに離れた岸のさざめきが明るく見えてかつて私も


この窓は東の空を向いている生きてることを悔やめずにいる


すぐ横をチャンスボールが通り抜け、抜けて青、空、遠い昼の月


たましいは自由ってうそ たましいはうそ でもいいよ物質を抱く


(無理なりに生きていこうね)(ね)防波堤沿いを何にも持たず歩いた


趣味じゃない手帳を使い終わるころ傷跡は傷跡にまぎれて


跳び石がここにあるってことにして踏み出す白い波のあいだに

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