首なし女子小学生

志井永子/AUskeえいゆうすけ/王ケイ

首なし女子小学生

 翔太はマリカが好きだ。「男子は好きな女子をからかう」の法則にのっとって、下校時、翔太はマリカをからかうのが日課となっていた。マリカはマリカで「ムカつく」と軽くあしらってはいたものの、心の底から翔太を嫌がっていたしできれば顔も合わせたくなかった。翔太はマリカの気持ちに気づかず、満更でもないんだろうなと思い込んでいた。担任の教師は常々「道路でふざけないように」と注意していたけれど、男子小学生が守ると思う方がどうかしている。


 その日も翔太はマリカをからかいながら下校していた。前方からガラス板を乗せた軽トラがやって来る。突然、角から原チャリが現れた。軽トラは急ブレーキ踏み、急ハンドルを切る。間一髪、衝突は回避できた。けれど翔太の目の前には首から上を失ったマリカが立っている。軽トラから滑り落ちたガラス板がマリカの首を刎ねたのだ。首を失くしたマリカはヨロヨロと歩いて前のめりに倒れた。倒れた後も手足をばたつかせ、大便と小便を垂らし、いよいよ絶命した。恐ろしくなった翔太は走って逃げた。そして冷蔵庫を開けて麦茶を一気に飲み干した。


 どこを探してもマリカの首は見つからない。ちょうどマリカが死んだ横っちょが、公園建設のための空き地になっている。警察から「首はどこに飛んだ?」と訊かれた軽トラの運転手は、草だらけの空き地を指した。マリカの両親、警察、消防、消防団が血眼になって探しても、やはり首は見つからなかった。町内の連中が不憫に思って地蔵を建てた。すると地蔵の首は消えてなくなってしまった。ふたたび地蔵を建てたが、また首は消えた。三体目の地蔵の首も消えた。マリカの呪いだ、マリカが首を探しているんだ、そんな噂が出回り始めたある日、地蔵の首を切り落としていた犯人が見つかった。軽トラの運転手の妻が嫌がらせをしていたのだ。多額の賠償金を背負うことになって逆恨みをしていたらしい。公園ができた頃にはマリカのことを思い出す者はいなくなった。


 翔太だけは違う。十八年前のことを思い出さない日はない。マリカを好きにならなければ死ななかったのではないだろうか。マリカをからかわなければ死ななかったのではないだろうか。マリカと同じ通学路でなかったら……マリカと近所でなかったら……。今晩も残業を終えた翔太は満員電車に揺られながら後悔の念に押し潰されそうになる。家に着くと条件反射、喉がビールを欲する。冷蔵庫を開けてビールを物色しながら「ただいま」と挨拶。冷蔵庫には小学生の頃から年をとっていない、マリカの首が入っている。後悔の念に押しつぶされそうになったとき、マリカは必ず笑い返してくれるのだ。


(おしまい)


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