月から覗く君との十年八ヶ月

犬の尾

月から覗く 君との十年八ヶ月

北に 北に 北に光る星の名を忘れたふりした二人の罪状


五線譜の白玉みたいに叫んでいる声と気づいた 月と電線


読書家というよりあなたは探検家 地層に埋れたパピルスの栞


“月”だとか夏目漱石の威を借りず訳してみなさい 言葉と貴方で


“月を止める”そう書く理由も知らぬまま兎はゆっくりうんとうなずく




寒空を感じて起きて思い出す  誰かと取り合う布団が恋しい


「せんたっき」ぐーるぐるぐる君は言う ぐーるぐるぐる僕の「せんたっき」


暖房を消してしまえと伸ばす手で かけあう布団のあたたかさを知る


空にしたパフェの器に目を瞑り あんなに寝たのにねって呟く冬


二十月 そんな暦があることを教えてくれた深夜二時のケーキ


「幸せはなるものじゃない、幸せはするものだから」「〜ingってことね」




缶コーヒーかたむく空にオリオン座 尾根にかすれた春の前奏


七日間なんて半端なサイクルを疑ってみる水曜日の夜


今日もまた終わりに向かうこの星に 仔象のじょうろが虹の橋架け


どんな証明問題にも隠れた一行“神様はいないものと仮定する・・・(0)”


「本当にそれでいいの」とくり返す倫理の先生の顎しゃくれてたな


身を焦がす愛の形は多様性 君とは生きたい 君とは死にたい




「知らぬ人を悼む言葉に痛みは無い」ぼやいた君の傷みよ、梳けろ


憐れみも哀れみもなくただ悲しい喪失のためのハマナスの歌


「白樫の木肌のような手が好きです」「どうして」「よく登っていたので…」

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月から覗く君との十年八ヶ月 犬の尾 @inucorogusa

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