54 草の国・フォレスティアと、見上げる大地
「わー、すごい! 本当に空に島が浮いてるー!」
予定通りに草の国・フォレスティアの聖域に降り立ち、ノアラークを出た先で、空を見上げたニコラは感嘆の声を上げた。
周囲を覆いつくす森に、
太陽と共に青空に浮かぶ島が眩しくて、思わず額に手をかざす。
あれが雷の国・サンドラボルト。アニーやヘインズたち、皆の故郷だ。
あの場所で今も、多くの人々が生活を営んでいるだなんて、実物を見ても信じられない気持ちだった。
そういえば、水の国で王都に向かっていた時、御者が「雷の国は俺の憧れだ」と言っていたけれど……私から見ても、確かに空飛ぶ島はロマンがある。
これは憧れずにはいられないなと、その圧巻の景色を堪能しながら思った。
そこからふと、視線を落とす。
真下にある湖の
馬車よりも、一回りほど大きな塊。
少なくとも半年以上の時間がたっているにもかかわらず、少し遠目に見ても分かるくらいにはその形を保っている。
「さて、ここで一応、今回の依頼者と落ち合うことになっているんだけど……」
と、アニーが周囲を見回していると、森の奥から何やらこちらに向かってくる音がした。
そちらの方を見ると、木々の隙間に豪華な馬車が走ってくるのが見える。
そして、徐々に馬車と、その周りを取り囲むようにして走る、護衛と思しき一団の姿があらわになってきた。
「……は? ちょっ、もしかして……」
森を抜けて、その全容を現した一団の姿を捉えて、言葉を失ったようにアニーが呟いた。
周囲にいた皆も同じように何かに気付いたようで、目を見開いて固まる。
馬車はまっすぐにこちらへとやってくると、呆ける皆の前で留まった。
一際豪華な馬車の馬を引いていた御者が、流れるように席から下りて扉を開く。
中から手を引かれて出てきたのは、輝く金髪をたなびかせた、美しい女性だった。
華奢で背の高い体格に、足元まである絹のような髪、水の国の人々と同じかそれ以上に色素の薄い肌に、初めてみる少し尖った耳……。
この世の物と思えない美しさに引き込まれ、思わず息が止まりそうになる。
すると、女性がチラリとこちらに視線を向けた。
その瞬間、金縛りから解けたように、ニコラ以外の全員が一斉に地面に膝をついて、
慌てて皆と同じように地面にしゃがみ込むと、頭上から声が落ちてきた。
「よいよい、
その威厳がありつつも穏やかな声に、おずおずと顔を上げてみる。
すると、女性はこちらに気が付き、ふっと微笑んだ。
女性はニコラの周りで少しずつ上がっていく頭を待ち、全員の顔をゆっくりと眺めていく。
その間、背後や後続の馬車から出てきた侍女や従者たちが、少し離れた場所にテーブルやイスをセッティングしているのが見えた。
「ようやく、全員顔を上げたか。皆の者、
やはりというべきか……女性はこの草の国の乙女だった。
しかも、この国を治める女王でもあるという。
では、あの馬車や一団の中に見える旗に施されている意匠が、王家の紋章というやつなのだろう。
気付いたアニーたちがまず固まり、また
「直接そなたらの人となりを見るために、わざわざ妾がここまで来たわけではあるが、それも、この聖域は我が国でも特別な場所であるがゆえ。この聖域においては、守ってもらいたい規則がいくつかある。それらをこれから説明するゆえ、心して聞くように」
ヴェルディエはそう言うと、準備を終えて後ろに控えていた侍女に目配せをした。そして、自身は整ったテーブルとイスの方に向かう。
女性はヴェルディエを頭を下げて見送り、こちらに向き直る。
「私はヴェルディエ様の侍女の、ベルカナと申します。ヴェルディエ様に代わり、私の方からこの聖域における規則について説明させていただきます」
一つ、この聖域にあるものを無闇に触らないこと。
一つ、この聖域にあるものを無断で持ち出さないこと。
一つ、この聖域の湖には決して入らないこと。
一つ、この聖域で知り得た情報を外部に漏らさないこと。
本来、ここは草の国の王族関係者以外、何人も立ち入ることが許されない場所であるという。
それが、今回の依頼に限り、特例的に許されているとのことだった。
あの死骸については聖域外のものであるため自由にしていいが、それ以外への行動は全て制限される。
「
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