52 いずれまた、必ず会おう
青く澄んだ空に、大通りを中心として奥まで立ち並ぶ屋台、そして、これまで見たことがないほどの熱気で溢れる人々。
土の国・ロックドロウの首都は、まさにお祭りの様相を呈していた。
人がひしめく大通りに、色鮮やかな白、赤、黄の衣が入り混じる。
「あ、ニコラ! こっちですわ」
大通りの始まり付近。たくさんの白の集団の中心にいたララが、あまりの活気に呆けていたニコラに気付いて声を上げた。
ララを先頭に、ぞろぞろとこちらへと向かって来る。
「こんなに護衛がいて、ごめんなさいね。今回は、卵の回収を手伝ってくれた地下の方々もお祭りに招待することができたのですが、その分、いつもより少し護衛の数が多くなってしまったんですの」
「ううん。ララはこの国の皇女様だし、仕方ないよ。それよりも、地下に住む人をお祭りに招待出来て良かったね」
「そうなのです! 地下に住む人々を全員とは参りませんでしたが、それでも大きな一歩なのですわ!」
ララはそう言って鼻を鳴らす。
そして、人混みに時おり混じる青の衣の方を見て、嬉しそうに目を細めていた。
「さて、時間も限られていることですし、私達もお祭りへ参りましょう」
こちらを勢いよく振り向いた、笑顔のララに手を引かれ、二人は人がごった返す祭りの中心へと繰り出した。
大通りの両側には、多種多様な屋台が軒を連ねていた。
見たこともないような異国のフルーツがたくさん並んでいる屋台や、持ち歩ける料理をその場で調理して提供している屋台など、さまざまな食欲そそる香りが、周囲に入り混じっている。
「お祭りと言えば、屋台でのお料理ですわ! その中でも、シーク・カバーブが鉄板ですわね。ニコラもおひとつどうぞ」
手渡されたのは、串焼きの肉料理だった。
香辛料が練り込まれているのか、とてもスパイシーな香りがする。
ノアラークで、サリーが学んだという同じような料理を何回か食べたことはあるものの、その土地で売られているものを口にするのは初めてだった。
ドキドキしながら、一口、
「ん~~~、辛ぁい!」
舌がピリピリと痺れる。カッと一気に顔が、そして飲み込んだ先の胃が熱くなるのを感じる。
けれど、それらは不快なものではなく、肉のうまみを引き立たせるようだった。
気が付けば、一口。さらにもう一口と、自然と食べ進めていく。
「お口に合ったようで、よかったですわ」
横でニコラの様子を伺っていたララが、ふわりと微笑んだ。そして自分も嬉しそうに食べ始める。
「次は飲み物でもいただきましょうか。それとも、フルーツもいかがかしら?」
と、祭りの中を進んでいきながら、二人は色々な屋台を巡って行った。
ララと一緒にいるのは、本当に楽しかった。
同年代の女の子、というのは勿論だが、妙に落ち着いて大人びていると言われる自分と、あまり変わらないような精神的成熟。
水の国にいた時は、他の女子達と会話を合わせるのにも少し努力が必要だったが、ララにはそんな気遣いは不要だった。
ありのままの自分を晒し、受け入れてくれて、同じ目線で同じように楽しめる。
ララと出会ってから、それがいかに幸せなことか感じない日はなかった。
……会えなくなるのは、寂しいな。
十字路の中心で、大道芸人を楽しそうに見つめるララの横顔に、ふと、そう感じた。
「……もう、明日、出発されるんですのね……」
お祭りも一通り堪能し、屋台が密集する場所から徐々に外れて人もまばらになった頃、ララがポツリと言った。
そろそろ、帰らないといけない。真上にあった太陽はいつの間にか少し傾き、空が茜色に染まり始めていた。
「……さよなら、は、言わないですわよ」
ララがそう、静かに、強く言う。
同じ気持ちだった。私だって、本当はもっともっと一緒にいたい。
けれど、それが難しいということもまた、二人は理解していた。
だから感情的に引き留めたり、相手を困らせるような我儘を言ったりはしない。
ただ……さよならという言葉だけは、どうしても言いたくなかった。
ぐっと唇を噛んで、目の前のララの瞳を真っ直ぐに見つめる。
少しの沈黙が流れる。
と、向かい合うララの手が、そっとニコラの手を包む。
「……私達は、いずれまた、必ず会うのですわ。お互いの夢を叶えて。これはそれまでの、ほんの少しのお別れに過ぎないのです」
それは自分にも、言い聞かせているような声だった。
同じくララもキュッと口元を結ぶ。その瞳は、心なしか潤んでもいるように見えた。
私達は友達であり、同志だ。
互いに小さな身に余る大きな夢を持ち、それに向かって進んでいる。
同じように頑張っている仲間がいるから頑張れる。
ララはきっと、自分の夢を叶えるだろう。
私も私の夢を叶えて、胸を張ってララと再会するんだ。
「ニコラ、それまで、どうぞお元気で。必ず、またお会いしますわよ」
「うん、ララ。ありがとう。いずれ、また」
……必ず、会おう。
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