45 ララの輝きに、魅せられて
「あ、ララ様! こんにちは!」
街の中心にある公園に行くと、そこで遊んでいた子ども達が声を上げた。
ララの登場に、遊んでいた子ども達は手を止め一斉に集まってくる。
「今日は何しにきたの? また紙芝居? あれ、俺好き!」
「紙芝居を気に入ってくれて良かったですわ。また持って来ますわね。今日は、このニコラを皆さんに紹介しに来ましたのよ」
「……ニコラ?」
ララと挨拶を交わしていた子ども達の目がこちらの方を向いた。
ニコラを見つけたその目に映るのは、少しの不安と緊張、そして、それ以上の好奇心のようだった。
「ええ、こちらはニコラと申しますのよ。ニコラはこの国ではない別の国で生まれ育っていて、少しの間、この国に滞在することになったんですの。みんな、ニコラと仲良くしてくれますかしら?」
ララがそう言うと、子ども達は目を輝かせ「いいよー!」と口々に声を上げる。
盛り上がる周囲とは対照的に、突然の状況に驚いたが、自分より年下の子ども達に囲まれて色々話をしたりするのは、最近塞いでいた気が紛れるようで少し心地よかった。
「ねえねえ、ニコラは上から来たの? 上はどうだった?」
一人の女の子がそう尋ねてきた。
「ああ、上はとても暑くて、ここ以上に眩しいよ。でも、どこまでも続く空に砂漠がよく映えて綺麗だし、オアシスや街中では色々な人や動物が行き交っていて賑やかだよ」
そう答えると、女の子は目をさらに輝かせ頬を赤く染める。
そして、「私、将来は上に出て、
「僕はね、将来、ララ様の護衛になりたいんだ! 外にいる悪い奴からララ様を守るの!」
「まあ、それは頼もしいですわ。では、好き嫌いせず色々なものを食べて、体が大きくならなくてはですね」
「俺は料理人ー! お前が嫌いなゴボウを、美味しく食べられるようにしてやるよ。ここにない色々な食材も試してみたい」
子ども達は口々に語り合い、将来について思いを馳せる。
そのどれもがキラキラと希望に溢れていた。
子ども達との会話も一通り終わり、子ども達はまたそれぞれの遊びに戻っていった。
ララに誘われ、公園の隅に置かれていたベンチに座る。
手渡された飲み物を味わいながら、遠くで子ども達が遊ぶ様子を眺めていた。
「ニコラ、あの子たちはあなたにどう見えたかしら?」
一息ついた頃、ララがそう尋ねて来た。
「うーん、とにかくとても元気だなと思ったよ。上の話にみんな興味津々で……早く上の景色を見られたら良いよね。あと、自分の将来についても、もうきちんと考えていて……すごいと思う」
やりたいことが見つからずに悩む自分と違い、将来に希望を馳せる子ども達の姿は輝いているようだった。
そのあまりの眩しさに、遠くで遊ぶ子供たちの姿を捉えて思わず目を細める。
「そう……あなたとは気が合いそうですわね」
ニコラから見た子ども達の印象に嬉しそうだ。
しかし、ララはそこまで言うと一瞬口をつぐみ、少し複雑そうな表情をして言葉を続けた。
「ただ……今のこの国では、あの子たちのほとんどは、ここから出て上の景色を見ることは叶いませんの」
ララはそう言うと、子ども達の方に視線を向ける。
子ども達はなおも無邪気に声をあげて遊んでいた。
「この国には厳格な階級制度が敷かれていて、階級ごとにできること、行ける場所、就ける仕事が決まっているんですの。彼らの家のほとんどが労働階級や奴隷階級で、仕事も生活もこの地下ですべて完結してしまうのです。ここに住む人々には上に行く許可もないため、下手をすれば一生、ここから出ることはできませんわ」
ララは真っ直ぐに子ども達の姿を見つめている。
膝の上で品よく重なった両手を少し握りしめ、少し震えているようだった。
「夢を抱くことすら許されず、望むところにも行けない。そんなの……ふざけてると思いません?」
そう言うと、ララは子供たちの楽しげな姿を眺めながら静かに言葉に耳を傾けていたニコラに向かって振り向いた。
強い意志を帯びた瞳と目が合う。
「私はこの国の、階級制度を変えたいのです。決して楽な道ではありませんが、全て覚悟の上ですの。私が生まれながらにして与えられた権力は、この国の子ども達の未来を変えるためにあるのだと心から思っているのですわ」
そう語るララの強い眼差しに、数日来悩んでいた自分の不安の答えを見たような気がした。
ああ、なんて眩しいんだろう。
私もこんな風に、自分の意志で、自分の未来を語りたい。
「と言っても、たかだか十一歳の
ララはそう言うと、舌をペロッと出し片目をウインクするようにしてニコラに向かって微笑んだ。
張り詰めていた緊張感が、一気に
「今の私にできることと言えば、せいぜい、今回の
そう言いながら、再び子ども達の方を向く。
遠い目をしながら子ども達と、彼らの将来に思いを
そして、ふとこちらに向き直り、ニコラの座る長椅子に共に腰かけてきた。
先程までとは少し違う、真剣な眼差しを向けると、おもむろにニコラの手を握って言う。
「でも今は、それよりもまず、私にはすべきことがありますの。ニコラ……私とお友達になりませんこと?」
突然の申し出に少し驚いた。
そして、そう言えば、村を出て以来、友達と呼べる人はいなかったなと振り返る。
ララの性格はニコラにとって好ましいものだった。
久しぶりの感覚に頬をくすぐられるようで、少しはにかみながら「……うん」と返事する。
すると、ララは年相応な、満面の笑顔を浮かべてこちらに微笑んだ。
それはまるで、この国を照らす太陽のように眩しかった。
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