46 始祖の乙女と七つの国

「シャリフ兄さま達にも許可を得てますから、これからニコラは、皆様のお仕事が終わり、出発する時まで私と遊んで過ごしますわよ。お互いに、やりたいことや夢について色々語り合うのですわ」


 ララは期待に胸膨らむ子どものような顔をしながら、ニコラの側に詰めるようにして椅子に腰掛け直した。

 自分の飲み物を手に取って飲み、ふぅと一息入れる。


「私は先程話しましたけど、ニコラには何か夢とかないんですの?」


 ララにそう聞かれて、ドキッとした。

 痛いところを突いて来たなぁと少し苦笑いを浮かべる。


「うっ……実は、まだよく分からなくて……早く見つけたいと思ってはいるんだけど……」

 

「あら、そうだったんですの……まあ、色々できると言うのは、逆に定まらないものなのかもしれませんわね。そういうのは急かされて決めるものでもなし、ゆっくり決めれば良いんですのよ」


 優しさが身に染みる。

 ララと友達になれて良かったなと早速、しみじみと感じていた。

 

 その横で、ララは「では、何をしましょうかしらねえ」と人差し指を顎に当て、上の方を見ながら考える。

 そして、小さくあ!っと声を上げた。


「先日、子ども達にお見せした紙芝居がとても好評でしたから、また新しくお話を作ろうかと思っていましたの。せっかくですし、ニコラのお話を取り入れたいですわ。何かおすすめとかございません?」


 そう言えば、先ほど子ども達と初めて会ったときに、そのようなことを言っていたなと思い出す。

 

 そもそも、紙芝居とは? とそこからララに尋ねてみる。

「たくさんの子供に読み聞かせができる、絵本のようなものですわ」という答えに、ニコラは一つ思い浮かんだものがあった。

 

「それなら、『』という絵本を持っているんだけど、それを紙芝居にするのはどうかな? この世界の成り立ちが描かれているんだけど、勉強にもなると思う」

 

「まあ、そのような絵本、初めて聞きましたわ! 世界の成り立ちですか、それはとても良いですわね!」


 二人はそう意気投合すると、公園で遊ぶ子ども達に別れを告げて早速、地上に戻って紙芝居を作ることにした。


 

 ☸︎ ☸︎ ☸︎

 


 この世界がまだできたばかりのころ、突然、と呼ばれる少女がこの世界に現れた。


 始祖の乙女は、自分のパートナーであると、この世界にいた神々の力を得て、七つの国をおこした。


 始祖の乙女はドラゴンと共に七つの国々を巡りながら、神々から与えられていた力をにしてそれぞれの国に植え、その地で暮らす人々が幸せであるようにと願った。

 

 ついにすべての種を植え終えた始祖の乙女は、ドラゴンに人々と、種と、この世界を託し、光の粒となって消えていった。

 

 この世界にひとり残されたドラゴンは、始祖の乙女の消失に涙を流し悲しんだ。

 しかし、始祖の乙女との約束通り、人々を見守り、彼女の残した種を育て、この世界を守った。

 

 その後、発芽した種からは、たくさんの精霊たちが生まれた。

 精霊たちは、始祖の乙女とドラゴンへの恩返しとして、彼女らが愛した人々に加護と魔法を与え、隣人として見守ってきた。


 ドラゴンも、精霊たちも、今もなお人々を見守り続けている。

 そして、彼らはずっと待っている。


 始祖の乙女が再び、この世界に現れるのを――。


 

 ☸︎ ☸︎ ☸︎


 

 子ども達は紙芝居の内容に、固唾かたずを飲んで聞き入っていた。


 紙芝居が終わった後も、シーンと静まり返り、何やら逡巡しゅんじゅんしているようだった。

 小さく「昨日、こっそりおやつ食べちゃった……」という声が聞こえる。

 どうやら、『精霊達が今でも人々を見守っている』というところに、後ろめたい子が何人かいるようだった。


 そんな子ども達の様子を見て、やれやれといった表情をしたララがニコラに尋ねる。


「私あまり分からないのですけど、ここにも精霊はいるのですかしら?」

「多分、いると思うよ。そういう気配もするし……特に土の国は、人々の近くにいる生物達に精霊と似たような気配があるよ」

「まあ! なんて素敵なんですの!」


 ララはそう言って、自分の肩に止まる蝶達に目線をやった。

 優しく指で撫でながら、「あなたも精霊なのかしら?」と微笑んでいる。

 その様子につられるかのように、静まり返っていた子供たちの表情がパッと明るくなり、各々がパートナーの生物達に手を伸ばしていった。

 

 次第に雰囲気は賑やかなものになっていく。

 みんな思い思いに始祖の乙女やドラゴン、精霊たち、そして魔法について話に花を咲かせていった。


「なあなあ、ニコラ姉ちゃんは魔法って使えんのか?」


 一人の子どもが、尋ねて来た。


「うん、使えるよ。光魔法と炎魔法が少し使える」

「すげー! 俺は魔法使えないし、見たこともないや。見せて見せてー!」


 会話を聞きつけた周りの子ども達にもねだられて、光魔法を使うことにした。

 どこの子どもそうだが、ここの子ども達も例に漏れず、手足に擦り傷や切り傷が多い。

 

 魔法を使えるのか尋ねて来た男の子の膝にあった、少し大きめの傷に手をかざしてニコラは言った。


ヒール傷を癒せ


 すると、赤みを帯びていた傷はすうっと小さくなっていき、みるみる間に消えていった。


「「「すっっっげーーー!!!!」」」


 子ども達の大声が公園に響き渡った。

 周囲にいた大人達も子ども達の声に驚いて、何事かとこちらを振り向いている。


 ララも驚いたように目を見開いていたが、ハッとした表情をした後、シーー! と子ども達をたしなめていた。

 だが、初めて見た魔法に興奮冷めやらぬ子ども達には効果が薄い。


「ニコラ姉ちゃん、すげーよ! 本物の魔法使いだ!」

「魔法初めて見たー! 綺麗ー!」

「俺も! 俺も! ここ昨日怪我して痛いんだ、治して欲しい!」

 

 ララの注意も虚しく、子ども達は魔法の感想を口々に言いながら、次々とニコラの周りに集まってくる。

 その勢いに困っていると、諦めた顔のララと目が合った。

 二人は仕方ないと互いに小さくため息をつき、ニコラは子ども達の傷を片っ端から治して

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