13 未知への、胸の高鳴りを感じて

「いや、素晴らしい……本当に、素晴らしい……ニコラが来てくれて本当に良かった……」


 ボブからこり専門の治癒師にならないかという提案を受けてから四日たった昼食後の午後、医務室を訪れたベンは光魔法でニコラのこり治療を受けながら、しみじみと噛みしめるようにそう言った。

 提案を受けた後、ニコラは早速、こり治療の光魔法の訓練に取り組みはじめていた。


 こり治療に必要な、筋肉や骨などといった人体構造の簡単な勉強から始まり、光魔法を手から放出しつつ両手のひらほどの大きさに抑えるための魔力訓練や、こりをほぐすような治療のイメージトレーニングと実践をこの三日間、休む暇もなくひたすら行っていた。

 

 というのも、最初はボブやロイドで練習させてもらっていただけだったのが、どこからか話を聞きつけた実験体たちが我も我もと練習に参加するために押しかけてきたからだ。

 

 おかげで、最初は全身を覆うような範囲で魔法を発現してしまい、「昨夜は体が元気すぎて眠れなかった。この調子だとあと三日くらいは寝ずに活動できそうで怖い……」と言われていたニコラの治療も、適切な箇所に適切な治療を行えるくらいにみるみる上達していった。

 

 この数日分かったことだが、みんなの体は本当にバキバキだった。

 金属のように凝り固まった筋肉に、あまり凝っていないロイドや自分のものと比較して「全然違う」と驚く。

 と同時に、自分の光魔法でそれらがほぐれていく様を様子を見るのが、だんだんと楽しくなってきていた。

 

「もう、ニコラのいない生活には戻れない」と言い残して、満足げに医務室を出ていったベンを見送る。

 部屋に戻り、次の患者を迎えるために片づけをして場所を整える。

 すると、少し離れた場所で様子を見ていたボブが声をかけてきた。


「こり治療はもう完璧だね。こんなに早く習得するなんて、ニコラには光魔法への強い適性だけでなく治療のセンスもあるようだ」

 

 パチパチパチと上品に手を叩きながら、こちらに向かって近づいてくる。

 

「もう治癒師と名乗って問題ないよ。これからは無料ではなく、治療に対して対価をもらうようにするといい。治癒師としてはまだまだひよっこだから、お菓子とかお小遣いとかその程度にはなるだろうけど……何にせよ、ということが君の精神面と技術面での成長をさらに促すことになる」


 ボブはそう言いながら、「おめでとう」と微笑んで手を差し出した。

 自分の頑張りが認められたことがうれしくて、はにかみながら「ありがとうございます」とボブに返す。

 手を握り返すと、本当に一人前だと認められたようで背筋が伸びる思いだった。

 

 と、急に部屋の隅の方からジリリリリ!!! という音が鳴り響いた。

 ビクッ! と大きく肩を揺らして音の出る方向を見る。


「ああ、これは何か連絡事項がある時に鳴るものでね……初めて聞いたかな? これくらいの音じゃないと僕たちは集中していると気が付かないものだから、ビックリさせてしまったね。この音は操縦室に集合の合図だ。まあ、きっとそろそろ目的地である炎の国に着くのだろう。僕たちも準備をして操縦室に向かおうか」


 そう言われ、ニコラは喜びも程々にボブと共に操縦室へと向かった。



 ⚓︎ ⚓︎ ⚓︎



「私たちは現在、すでに炎の国の領域上空を飛行していて、明日の早朝にも炎の国の帝都に到着するわ。帝都内ではいつも通り、冒険者組合班と情報収集班、そして物資調達班の三班編成で行動するつもりよ。帝都付近での停泊日数は、情報収集班次第でもあるけど、だいたい五日程度を予定しているから……みんな計画的に行動してね」


 操縦室に全員が集まったことを確認すると、アニーは皆に向けて手短にそう告げた。

 最後に何か釘を刺されたようで、数人がパッと目を背ける姿が見える。

 そのうちの一人、サリーが「新しいお化粧品の買い物をしたかったのに」と小さく呟いているのが聞こえた。

 

 アニーは三班編成で行動すると言っていたが、自分はどこに含まれるのだろうと考える。

 と、タイミングの良いことにこちらに向かって手を振るアニーの姿が見えた。

 そちらに向かうと自分以外にもロイドがいた。

 

 ニコラはアニー達とロイドと共に冒険者組合に行き、冒険者登録をするらしい。

 そこでは自分の魔法判定と、適性の強さを視覚的に測れるという。

 

「ニコラの適性はもうほぼ光魔法だとは思うけど、その強さを測るのは今後の役に立つと思うわ。自分の立ち位置を知ることもそうだけど、能力の上限を知ることで、いざというときにどれだけ無茶ができるか指標にもなるしね」

 

 色々考えてくれてありがたい。

 明日以降の説明も程々に、明日は早いからと自分の部屋へ戻った。

 

 冒険者組合には、私たち以外にもたくさんの冒険者が訪れているのだろう。

 光魔法、ひいては魔法自体や冒険者という未知の人たちについて知ることができるいう期待に胸を躍らせながら、炎の国の帝都に到着する前夜、ニコラは眠りについた。

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