14 炎の国・ヴォルカポネにて、捕まる

「ここが炎の国・ヴォルカポネの、帝都……!」


 生まれてから水の国から出たことのなかったニコラは、炎の国の帝都の城門を見上げて思わずそう声を漏らした。

 炎の国・ヴォルカポネの帝都は高くそびえたつ城壁に囲まれていて、唯一の出入り口である城門には早朝にもかかわらず多くの人が列をなしている。

 

 アニーやニコラを含めた七人は、列の最後尾に並び順番を待つ。

 列に並びながら、ニコラの額にはすでに汗がにじみ始めていた。

 

 炎の国の気候は、かつて住んでいた水の国と全く違っていた。

 

 水の国の気候は年間を通して比較的安定していて、湿度は感じるものの気温も涼しく快適だった。

 しかし、炎の国は水の国よりも暑く、空気も少し乾燥しているように感じる。

 流れた汗が服に滲み、服を持って扇げば、使い古した服特有のムワっとした匂いが鼻につく。

 

 ノアラークに乗ってからも、ニコラは村を出たときに持ってきていた服で過ごしていた。

 それらは少しくたびれた長袖の服だったが、程々に貧しかった村ではごく一般的だったために特段気にもしていなかったが、どうやらサリーの心境は穏やかではなかったらしい。

 

 船内にあった、過去に色々なところから頂いたという服を片っ端から見繕ってくれたがことごとくサイズが合わず、サリーは「炎の国でニコラの服を用意する!」と、ニコラたちと共に行動していた。

 

 なお、サリーはノアラークでの料理関係を全て担っていることもあり、本当は物資調達班だった。

 

 何食わぬ顔でここまで共に行動していたサリーが、必要物資などの最終確認のために遅れて入国する他のメンバーを置いて勝手についてきたのだと知ったのは、ほんのつい先ほどのことだ。

 サリーがいないことに気付いて混乱する残されたメンバーのことを考えると、眩暈めまいがするようだった。

 

 アニーにお小言を言われるのも当然だ。

 怒られるサリーの姿を見たりしているうちに、列はどんどん進んで行く。

 あっという間に、次が私達の順番となった。

 

 最初は遠くて良く見えなかったのだけど、城門では外から入ってくる人達の検問が行われていた。

 検閲を受ける人達と会話する衛兵達の横に、大人が抱えるほどの大きな丸い玉の装置が見える。


 どうも、その丸い玉の装置に手をかざし、問題なければ、身分証を提示して入っていくという流れになっているようだった。

 人々が丸い玉に手をかざすと、それは瞬時に緑色に染まっていく。

 

 その様子を興味深く観察していると、アニーが小声で言った。


「多分、引っかかるけど慌てないでね。大丈夫だから。」


 引っかかる? え?

 と思っているうちに、自分たちの番となって衛兵に呼ばれる。

 

 そしてその言葉の通り、アニーが手を丸い玉のようなものにかざすと、それは瞬時に黄色を示す。

 その瞬間、その場にビー! ビー! という警戒音が響き渡った。



 ⚚ ⚚ ⚚


 

 あの後、ニコラ達は警戒音に集まってきた衛兵達に取り囲まれ、別室へと案内された。

 七人が通されたのは城門に備え作られた豪華な部屋だった。

 その部屋は床に絨毯が敷かれ、布張りの椅子や立派なテーブルが置かれている。

 

 見たこともないような調度品を目にして、言葉を失い立ちすくむ。

 高そうな調度品に青褪めるニコラの横で、部屋を見たアニーが心底嫌そうな顔をして「だから私はもう家を捨てたんだって言っているのに……」と呟いているのが聞こえた。

 

 その豪華な部屋で少し待っていると、何やら書類を持った位の高そうな衛兵が、他の衛兵を二人伴って部屋に入ってきた。

 衛兵は書類の内容を改めて確認し、アニーの方に歩み寄って告げる。


 「お急ぎのところ申し訳ない。あの黄色の警戒色は、公的機関等からの重要なメッセージを預かっている方に響くものなのです。冒険者組合から宛に召喚状が出ておりまして……冒険者組合まで同行させてもらえますでしょうか?」


 衛兵の言葉を聞いて、ヘインズやエリック達が顔に手を当ててアニーと、事情を伝えた衛兵から視線を逸らした。

 アニーはこれまた不愉快そうな表情で「あの、クソジジイ……」と小さく呟いた。

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