4 突き付けられた事実と、自分と
『水の乙女』候補の証について聞かれて、ドキッとした。
アニーは先ほどまでと同じように優しい雰囲気を纏っている。
が、その声には有無を言わさぬような強さがあった。
「……はい。あの、ペンダントを持たされています」
正直にそう言って、首から下げていたペンダントをおもむろに取り出し、アニーに差し出した。
服の下に隠されていたペンダントを目にして、アニーとヘインズの表情が固まる。
「……驚いた……これ、光ってるじゃない!」
ん? どういう事だろう?
と、アニーの発言を聞いてニコラも固まる。
互いに驚いて一瞬その場が静まり返った後、アニーはぎこちなくペンダントを受け取った。
「ああ、ありがとうね。大丈夫、すぐに返すわ。ペンダントに追跡の魔法が付いていないか確認したかっただけなの。でも……これは、大丈夫そうね。あなたの住んでいたアーウェルンは確か貧しい領だというし、領主にとってもきっと、あなたという乙女候補が出たのは寝耳に水で、きちんと対策しなかったのでしょうね」
アニーはそう言って、少しペンダントを眺めた後、ニコラの元に戻す。
しかし、二人はなおもニコラの手の中にあるペンダントのチャームを凝視していた。
二人は真剣な顔をして、何やら逡巡しているようだった。
少しの沈黙の後、アニーは結論が出たのかニコラの肩に手を置いて、ゆっくりとまっすぐな目で話しかける。
「……まずは、私達を信頼してペンダントを見せてくれてありがとう。ただね、いい? 水の国では、乙女候補は確かにみんな、ある特別な水を乙女候補の証として持っていると聞いているわ。でもね、それは
アニーの言っていることがよく分からない。
普通はこんな風ではない? では、これは一体何なのだろう?
視線をアニーから手元のペンダントに移す。
手の中で光を放つそれは、青色であると断定できるような色ではなかった。
「ふう……」
沈黙を続けていたヘインズが口を開いた。
顎に手をやり、天を仰ぐような素振りを見せる。
「あそこでニコラ、君に出会えたのは本当に運が良かった。水の国の人間は、ほぼ間違いなく全員が水魔法の適性しか持たない。だから、みんな青色なんだ。でもこれは明らかに違う。こんなの、水の国の王都に持って行っていたら、それこそ君は冗談じゃなく一生王都の宮殿から出られなかった。王族達の良いようにされていた可能性すらある」
ヘインズの言葉を聞いて、ニコラは手の中のペンダントを見つめながら言葉を失って愕然としていた。
水の国の人間は、全員が水属性の適性しかなくて青色のみ?
え? 私は生まれてからずっと、水の国の人間だ。なのにどうして、これは青色じゃないの?
突き付けられた事実に、考えるほど自分のアイデンティティが揺らいでいく。
何が違うのか、どうして違うのか、考えても考えても答えが出ない。
その混乱するニコラの様子を、気まずそうにアニーとヘインズは互いに視線を交わしながら見守っていた。
そしてふと、アニーはペンダントのチャームに満たされている水が、ただ光っているだけでないことに気付く。
「……しかもこの水、薄いけれど七色をしているわね……私達はこの手のことは専門ではないから、正直、この水が七色である理由は詳しくは分からないけれど、それでもこの水の状態が水の国としては
普通ではない。
また、普通ではない。
重なる衝撃に、思考が停止しかける。
「……急に色々言ってしまって、ごめんなさい。ただ、光っているということは、おそらくニコラには
……ますます訳が分からない。
自分は間違いなく水の国で生まれ育っていて、そうであるならばこの水は青色に染まるはずらしいのに、薄い七色でしかも光っている。
そして、光っているのは光魔法の適性で……。
頭からプスプスという音が聞こえそうなニコラを心配そうにアニーが見守っている。
そして、様子を窺いながら静かに言葉を続けた。
「生まれ育った家を出たところを私達に
アニーのその言葉に、自分の許容量の限界を超えた二コラは、小さく頷くことしか出来なかった。
なおも視点が定まらずに俯くニコラを、どうしたものかと二人で目を合わせる。
すると、「あっ!」とアニーが妙案を思いついたような顔で言った。
「魔法のことは、強い適性を持った人に聞くのが一番だと思うわ。この船にはもう一人、ニコラと同じく魔法に強い適性を持っている人がいるの。ニコラと境遇も少し似ているし、何か助けになるかもしれないわ。安心して、さっきあなたに紹介すると言っていた子供のことよ」
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