39 ブロア砂漠における害虫駆除、その弐
ノアラークから散布している殺虫剤のおかげか、ギチギチギチと不快な音を立てていた飛蝗共の活動も次第に弱まってきていた。
鳥たちの追い込みもあり、飛蝗共は徐々に徐々に、中央のひときわ大きな飛蝗の方に集まっていく。
その、ひときわ大きな飛蝗は作戦の開始から今に至るまで不気味なほど静かだった。
ただじっと、その大きな瞳で作戦本部のあるテントの方を見つめている。
額から、暑さとは違う汗が流れてくるのを感じた。
同時に、残されたエクスプロージョンは、あのひときわ大きな飛蝗に打ち込まないといけないとも感じていた。
作戦も終盤に差し掛かったというような雰囲気がどことなく流れ、飛蝗共の周りを飛ぶ鳥達の一部が戻ってきて休憩を取りだした。
ニコラも、ふうっと一息つく。
作戦本部のあるテントの中に戻って冷えた飲み物でのどを潤し、汗を拭おうと後ろを振り返る。
……その時だった。
これまで仲間達がやられていても微動だにしなかったひときわ大きな飛蝗が、集中力の切れたニコラの視界の隅でニヤッと笑ったような気がした。
次の瞬間、その飛蝗は地面にめり込むほど脚を曲げて体を沈ませ、一キロ以上も離れたテントの奥、休憩に入ろうとするニコラに向かって、大きな口を開けて飛びかかってきた。
「ッ……ニコラ……後ろ!!!!」
集団の中心にいた、ひときわ大きな
テントの入り口に足をかけていたニコラがその声に驚いて振り返ると、飛蝗は既に目前に迫っていた。
大きく開けた口から
と、その時、視界の斜め後方からイーヨの鋭い爪が飛び出した。
襲い掛かってきた飛蝗は、イーヨの脚に弾かれるようにして横顔を掠め、テント内の地面に激突する。
横から突如、飛蝗に蹴りを食らわせたイーヨはその勢いを殺すように羽を大きく広げ、ニコラの前にふわりと降り立った。
小さく土煙が待っている。
土煙の越智竟と共に、徐々に、黒い大きな物体の形がはっきりと浮き出てくる。
地面からよろよろと起き上がった飛蝗は、人間の赤子ほどの大きさがあった。
ガチガチガチガチと牙を鳴らし、ニコラたちをさも忌々しいといったように
ふと、飛蝗の片方の瞳に、騒ぎに慌ててテントの奥から姿を現したシャリフ皇太子の姿が映った。
飛蝗の動きが一瞬止まったかと思えば、飛蝗はグワっと顔をシャリフ皇太子の方に向け、先程よりも数段
飛蝗は羽を震わせて、ギジジジジジと音を立て始める。
その音は脳裏に響くような不快な音だった。
段々と大きくなるその音に、シャリフ皇太子が堪らず眉を
「
シャリフ皇太子まで、もうあと数センチというところでニコラの魔法が間に合った。
宙に飛び出していた飛蝗が、内臓からパァンと乾いた音を立てて破裂する。
シャリフ皇太子は
パラパラと散っていく飛蝗の残骸を見て、ニコラもシャリフ皇太子から一拍遅れでヘナヘナヘナと床に座り込む。
「ああ……
全身のこわばりがほぐれ、一気に疲れが襲ってくる。
思わず上の方を向いて深呼吸していたニコラの肩に、飛蝗の
イーヨを確認したニコラは、少し微笑みながらイーヨの喉元あたりに手をやる。
流石は麗しのレディだ。イーヨ、助けてくれてありがとう。
と、ニコラは最大限の感謝を込めながら、イーヨを優しく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます