23 炎の乙女と、隠された真実

「ああ……これは大ごとの予感がするわぁ……」


 サリーの小さなつぶやきは、ゴゴゴゴゴ、ゴーーーン!! という重厚な扉の開ききった時に生じた音にかき消された。

 

 扉の両サイドには、まさしくこの重たそうな扉を開けたのだろう。二人の全身に鎧を着た騎士が扉を守っているのが見て取れる。

 騎士たちの先、開かれた扉の奥にはさらに石畳が続き、ずっと奥の突き当りには天井が見えないほど高く大きな空間が広がっていた。


 「さあ、どうぞ奥にお進みください」

 

 恭しくお辞儀をしながらも、有無を言わさぬ威圧感を与えてくる男性に急かされる。

 アニー達には、もはや奥に進んで行く他なかった。


 重い足取りの中、ニコラはロイドと共に、いつの間にか集団の真ん中の方にいた。

 みんなの歩調に合わせ、周囲を窺いながらゆっくりと歩を進める。

 

 ふと前方を確認すると、前を歩くエディ達の隙間から突き当たりの大きな空間の前に、人が立っているのが見えた。

 奥に進むにつれ、立っている人の形があらわになってくる。

 

 その人は女性だった。

 赤色でうねりのある長髪に、女性にしては背が高くガッチリとした体をし、腕を組んだ仁王立ちの姿で一行が来る様子をつぶさに観察しているようだ。


 女性の面前に辿りつき、一行が立ち止まる。

 その女性は品定めするような不躾な視線を向けながら、おもむろに口を開いた。


「私は炎の乙女にして、炎の国・ヴォルカポネの国軍を預かる総帥、アイディーン……お前たちがあの報告書をよこした連中だな? 火急の案件につき私がわざわざ出張でばってきたわけだが……ハッ! 大臣連中が期待して連れてきたのが、こんな連中だったとはな」


 現れている態度にも、発する言葉にも、隅々にまで毒を含んでいるようだった。

 出会い頭にも関わらず、侮蔑の眼差しを向けてくるアイディーンに一向が硬直する。


「……ちょっと、それは少し言い過ぎではないですか? そもそも、そちらから呼び出しておいて、こんなところで一体どういうつもりなんでしょうか?」


 アイディーンの侮辱をはらんだ言葉にカチンときたのだろう、アニーがまだ一応丁寧ではあるものの刺々しく言葉を返す。

 しかし、アイディーンは自分に対して言葉を発したアニーに向き直り、冷ややかな視線を含ませながら答えた。


「……ここは城の裏手にあるカルデラの火口だ。お前たちが報告書で知らせてきた通り、この国はまもなく破局噴火によって壊滅的な被害を受ける。その震源地が、ということだ。お前たちはもうここから出ることは叶わない。この国の真実に触れたのだから」


「……一体、どういうこと? この国の真実って何。どうしてそれで、私達がここから出られなくなるの」


 アイディーンからの衝撃的な言葉に、全員が言葉を失う。

 やっとのことで言葉を紡いだアニーだったが、その様子すらも可笑しいとあざける様子でアイディーンは言葉を続けた。


「ああ、冥土の土産としては少し早いが、知識欲の塊たるお前たちに真実を教えてやろう」


 そうアイディーンは言うと、居並ぶノアラークの面々を一人ずつ確認しながら言葉を紡ぎだした。

 


 

 そう、やはりこの土地のはじまりは、五千年前ではなかった。

 

『始祖の乙女』も神も関係ない、およそ六千年前にただの自然現象で出来た土地。

 そして、炎の国の民が皇族に頂く一族の祖先も、当時は今の強国たる炎の国におよそ似つかわしくない弱国の王だった。

 

 五千年前に現れた始祖の乙女によって炎の恩恵がもたらされるとともに、乱立していた国々の覇権争いは一層激しくなっていった。

 しかし、弱国たる皇族の祖先は炎の恩恵に預かることを諦め、カルデラの外側のヴァルティナ山脈で隠れるようにひっそりと暮らしていた。


 それが、今から四千年前に転機が訪れた。

 二回目の破局噴火だ。

 

 国の中央を牛耳って睨みあっていた強国共が軒並み壊滅し、好機と捉えた皇族の祖先が火事場泥棒のごとく国をかっさらったのだ。

 そしてその時に、皇族の祖先は『炎の精霊王』と契約し、破局噴火が二千年の周期で繰り返されていることを知った。

 

 きたる二千年後に向けて、今に繋がる独自の乙女制度を作り上げ、歴代の乙女達の膨大な魔力を当時の英知を結集して開発した装置にため込み、二千年前の破局噴火は被害を一切出さずに収束させることに成功した。


「炎の国はまた新たな二千年の時をかけ、同じ方法で次の破局噴火に備えていた。が、前回は十分だった魔力の蓄積が、今回は足りていない。炎の国に生まれる乙女の数も、質も落ちたということなのだろう」


 言葉にする程に、次第に目線が沈んでいく。

 アイディーンはまるで、自分自身を嘲笑するかのように……それでいて、悲痛に顔を歪め今にも泣きそうな表情でそう語った。

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